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Operation#1:イロカネ起動(12)

 アジア大陸連盟の襲撃から、三日が経過した。全てが終わってから、改めてその傷跡の深さに胸が痛む。

 ただ幸いにも、和仁の通っている学校は大きな被害を免れていた。お陰で住む場所を失う事もなく、こうして学生生活を送る事ができている。

 もっとも完全に被害を逃れることはできず、校舎や寮以外の場所──格納庫やグラウンドは半壊、あるいは全壊していた。和仁はホームルームまでのわずかな時間、机に頬杖を突きながら窓の外をぼんやりと眺める。見慣れた平和な景色が、今は瓦礫の山と化している。

 いや、平和など元々、ただの幻想に過ぎないのだ。ここから西に少し行けば、そこには日本の最前線がある。アジア大陸連盟の国々に占領されてしまった、九州という日本の大地が。

 戦争を行っているのはテレビの向こう側ではなく、自分のすぐ近く。本物の戦場で戦人機を駆った和仁は、本当の意味でそれが理解できたような気がした。

 そして、(くだん)紅金(イロカネ)を乗り回していた和仁はと言えば、翌日には仮駐屯地で精密検査を受けていた。紅金(イロカネ)の操縦システムは、大容量の専用ケーブルを介して機械と脳を直接繋ぐもの。

 システムと脳を繋げた事による後遺症がないか、頭の中を隅から隅まで調べられていたのである。

 すれ違った隊員達からかけられた賞賛の言葉は、今も耳に残っている。直結型アークスを付けていたがために、サイボーグと蔑まれてばかりだった和仁にとって、それがどれほどの力になった事か。

 今ならはっきり言える。郁奈の言葉を信じてよかったと。あの時の自分の決意は、間違ってはいなかったのだ、と。実際に操縦している時は、後悔ばっかりであったわけであるが。

「ん?」

 そんな風に、壊れた街の景色を見ながら和仁が先日の事を思い出していると、和仁を紅金(イロカネ)に乗せた張本人から電話がかかってきた。

「もしもし、ねーちゃんもう大丈夫なのか?」

『うん、もうへーきぃ。元々、派手に血の出る場所だっただけでぇ、大怪我してなぃ』

 それを聞いて、和仁はとりあえず安心した。あまり派手に動き回っていたせいで、機材に頭をぶつけてしまったのだそうだ。

「その、ごめん」

『ううん、気にしなぃ。かずはぁ、わたし達の紅金(イロカネ)を守ってくれただけぇ。こっちこそ、ごめん。かずの事、巻き込んじゃってぇ』

「それこそ、俺だって気にしてないって」

 紅金(イロカネ)に乗る事を選んだのは、和仁自身が決めた事。そしてその選択肢は、郁奈が差し示してくれたからこそ、選ぶ事ができたのである。むしろ和仁の方が感謝したいくらいで、謝られるような覚えはない。

「それはそうと、この三日どうして連絡してくれなかったんだよ」

紅金(イロカネ)の修理。膝の関節が破損してた以外は大きな損傷なかったから、早く済んだぁ』

「あぁ……ごめん。壊しちゃって」

 反射的に、謝罪の言葉が和仁の口から漏れた。

 よくある話だ。あの時もっと後ろに気を付けていれば、なんて思ってしまうのは。

 もっとも、損傷を受けなかったとしても、その後の戦闘に参加しただろうかと言えば、答えは『NO』だろうが。

 上から降ってきた銀色の戦人機の戦いぶりを見れば、とても手を出そうとは思わない。郁奈の話によると、試験中の輸送機(XC─6)に載せて東京から空輸してきたらしい。デタラメすぎて、嘘なんじゃないかと思えてくる。

『いいの。初めてであそこまでできる人、めったにいない。かずはよくやった方。そうそう、かずの言ってた人、見つけたよぉ』

「ほんと?」

 戦闘のあった翌日以降、何度か電話したがでなかったので、和仁はメールを送っていた。助けてくれた戦人機の搭乗者に、お礼が言いたい、という。

 個人がわからなかったとしても、せめて所属くらいは。

『ほんと、今すぐ会える』

「そう? だったら、今日の放課後にも…」

『ううん、そうじゃなくて』

「みんないるなー。それじゃ、ホームルームを始めるぞー」

 するとその時、郁奈の発言と重ねるように担任の先生が入って来た。

 先生はすぐに名簿ファイルを開き、生徒のアークスと同期させて出席を確認する。

「よし、全員居るなぁ。それじゃあまず、夏休み前の急な時期なんだが、転校生を紹介する。入ってこい」

 開けたままだった教室の扉──その向こう側を見ながら先生はちょいちょいと手招きすると、教室に絶世の美少女が入ってきた。あまりの可愛さに、クラス中がどよめき立つ。

 だか、和仁が驚いたのはそこではない。彼女の首にもまた、和仁や郁奈と同じく直結型アークスが装着されていたのだ。

 白を基調とした超薄型で、水色の雪の結晶がデザインされた、まるであの時の戦人機のようなデザインのアークスが。

 アクセサリーのようなアークスと少女の美しさも相まって、誰もが息をのむ。さらさらとした髪は見事なプラチナブロンド。青色の瞳は、どんなものでも吸い込んでしまいそうなほどに澄み渡っている。

 少女は背筋をぴっと伸ばし、先生の隣に並んだ。

雪野(ゆきの)フェリルニーナです」

 少女が名乗るのと同時に、後ろのホワイトボードにふっと名前が浮かび上がった。雪野フェリルニーナ。

 聞き覚えのある無機質な声音に、和仁は目を見開く。その目が、転校生の少女──フェリルニーナの青色の目とぱちりと合った。

 雪野フェリルニーナ、雪野、雪野二曹。それらが繋がるのに、時間はかからなかった。

「カナから聞いてる。よろしくね、カズヒト」

 フェリルニーナは和仁と目を合わせたまま、先生の制止も聞かずつかつかと歩み寄り一言投げかける。

 そして返事も待たぬまま、その後ろにある今朝方運び込まれた席に着いた。

『その子、今日からかずの学校行く事になったみたい』

 それが天城和仁と雪野フェリルニーナの、最初にして二回目の出会いであった。

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