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小さきもの

二つ頭のトロールの追跡から逃れ、しばらくたったころ。

2人の息が整い、気持ちの整理がついくとバルドがおもむろに口を開く。

「しかし、頭が3つの奴の出会わないだけでも、まだよかったな」

「頭が3つの奴もいるんですか!?」

「ああ、頭が3つあるトロールはさっきの奴よりずっと大きくて、傲慢で凶暴なんだ。きっと、どの頭がつかまえた獲物を食べるのかいつも喧嘩してイライラしているせいだろう」

アドラーの頭にフッと疑問がよぎった。

「……どうして、この森にトロールなんか出てきたのでしょう?」

「うん?どういう意味だ?」

バルドはアドラーの質問の意図を問う。

「いえ、おじさんの話だと、トロールはここから海を渡った土地にいるんですよね?」

「ああ、トロールは北欧に住む怪物だ」

「なのに、この土地にいるのは、なんでかな?と思って」

「そういわれてみればそうだな……。うーむ。あの広い海を泳いで渡ったなんて考えにくいし……まさかあの知能が低いトロールが船を作って海を航海したとも考えられない」

2人はトロールが何故この森に出現したのか頭をひねるが、適当な答えは出てこなかった。

「まあ、なんにせよ。そんなこと必死に考えても答えは出ないんだ。とりあえず少しだけ休ませてくれ」

2人は先ほどの疲れをいやすために、再びランプに火をつけ休憩することにした。

アドラーはランプの灯をじっと静かに見つめる。

火の明かりがこれほどありがたいと感じたのは初めてだった。

アドラーは明かりをボーっとみているとき、アンネのことを思い出した。

「あ、そうだ!バルドおじさんに聞きたいことがあるんだ。アンネの記憶の中の街についてなんだけど……」

アドラーはアンネが言っていた街並みを説明した。

「オレンジ色の屋根と大きな教会……その場所は多分、ここから600キロくらい西に行った街だな。以前は、魔法使いがたくさんいる街だったはずだ。昔は美しい街でな……。俺の家に絵が飾ってあった気がするが……

「……以前は?」

「ああ、魔女狩りといって魔法使いや呪術使いの者を捕まえて、殺そうとする民衆がいるんだ」

「どうして、そんなことに……」

「多くの国で疫病が流行っていたんだ。それらの厄災は魔法使い、魔女のせいだと誰かが言い出したのが始まりだ。恐怖によって正確な判断力を失った民衆たちがそれを信じ、ヨーロッパ全土にその動きが広がったのさ。だから、最近では、薬草を扱い人々の生活を助けていた魔法使いや魔女でさえも、世間から身を隠すような生活をしていると聞く」


「そうなんだ。アンネはそこから来たのかな……」

もしその町から来たとしたら……アンネは魔法使い?

そんなはずない。

アドラーはいつものアンナの姿を思い出し、思わず苦笑した。

それにしても……。

「みんなが何処へ行ったか、手掛かり見つからないね……」

みんなの安否が気にかかるが、森に入って以来、いまだに手掛かりが見つからない。

アドラーは目をつぶり、頭を下げうなだれた。

「しかし、これだけ探してもいないってことは、お前さんの親父と兄弟はここにはいないのかもしれないな」

バルドは1人で考えるようにつぶやく。

アドラーは顔を下げ、耳だけバルドの方に傾けている。

「森の入り口に車輪の跡があったぐらいで、いざ森に入ってみると、通った痕跡すらないとなるとな……」

バルドは残念そうにつぶやく。

アドラーは長い旅になりそうな予感がしていた。

アドラーとバルドはぼんやりランプの火を眺めている。

今までの状況を整理し、これからどうすべきか悩んでいたのだ。

「探している人間はこの森にいたよ」

何処からか、声がする。

「そうかい。ここにいたのか……ん!!!誰だお前は!!?」

バルドの顔が困惑の表情を浮かべている。

誰の声だろう?

妙に甲高い声だった気がするが……。

もちろんアドラーではない。

アドラーは周囲を見渡すも、人影を見つけることはできなかった。

「どこみている。ここだ。ここ!」

目の前の大きな木から、声が聞こえる。

木がしゃべったのか?

アドラーは声のした方をじっと見つめてみる。

「小僧、もう少し上を見ろ。ここだ!」

暗闇の中、なにやらリスくらいの大きさの物体が木の枝の上で動いている。

「バルドおじさん!あれ見て」

アドラーは木の枝の上を指さして声を上げた。

バルドはランプを掲げた。

ランプの光がその正体を照らし出す。

見えたのは、全身タイツのように足から頭まで覆った服を着た20センチくらいの小さな人だった。

頭にはオレンジ色のとんがり帽子をかぶっている。

ビール腹で中年の顔と全身タイツ、それでいて身長が20センチくらいしかないものだから、全体のバランスが妙に気味が悪い。

その姿はアドラーにとっては刺激が強すぎた。

「おじさん、あそこに変な服を着た、変な生き物が、変な……」

「変とはなんだ!!?失礼な!これは俺たちにとって最高にスタイリッシュな格好なのだぞ!正装なんだぞ!」

変な小さなおじさんはプライドを傷付けられたらしく、木の枝の上で飛び跳ねて怒っている。

すると興奮しすぎたのか、飛び跳ねていた変な小さなおじさんは木の枝から足を踏み外し、地面へと落ちてしまった。

「あう~」

何やらうめき声が聞こえる。

アドラーとバルドは顔を見合わせ、この奇妙な生き物をどうするか無言でやり取りをする。

放置するか、一応話を聞いてみるか。

少しの間、目配せをしたのち、話を聞くことにした2人は、変な小さなおじさんの安否を確認しようと、落ちた場所に駆け寄る。

変な小さなおじさんは木の根元でお尻をおさえ、もだえ苦しんでいた。


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