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ビアンカ

トトの声が聞こえなくなるころ、アドラーは1人昨夜からの出来事を振り返った。

人生でこんなに恐怖と不安を感じ、家族のことを思い、人に助られた経験は今までなかった。

明日には父親たちを見つけたい。そう思ったところで一気に深い眠りについた。


アドラーは夢を見ていた。

自分が幼い時の夢。

これはお城の建物だろうか。

とても大きくどっしりとした印象ながらも優雅さを兼ね備えた綺麗なお城だ。

お城の旗が風でなびいている。

その紋章にはつい最近、どこかで見覚えがあった。

そんなわけない。自分は住んでいたいえのまわりしか知らないのだから。

今は何かのお祭りの時期なのだろうか?壁のところどころに飾りつけがしてある。

城下町では大勢の人が道にあふれ賑わいを見せる。

街は活気にあふれ、人々は、様々な楽器を演奏しながら踊り、笑いあっている。

とても幸せそうで満ち足りた表情だ。

食べ物や小物、外国の商品などの様々な露店が軒をつらね、そこでは人々が品物を手に取り、店主と世間話をしている。

大道芸する者もいた。

いくつもの玉を自在に操るもの。火を噴く男。心奪われるような笛の音を奏でる男。

老若男女問わず皆幸せそうだった。

これが自分の故郷なのかもしれない。アドラーは眠りながら何となくそう感じた。


「アドラー!」

バルドの声がした。

先程の夢の内容が気になり、まだ眠り続けたいと思ったが、バルドの声には少し焦りと驚きが混じっている。

寝ぼけ眼の目をこすりながらバルドの方を見てみると、バルドは無言で指をさし、目の前を見るように指示している。

指の示す方に目を向けると、そこにはランプを手に持ち、黒いローブをまとった老婆が立っていた。

何を考えているか分からない表情でこちらをじっと見ている。

見ているだけで、動こうともせず、話かけようともしてこない。

その様子は不気味さを感じたが、ランプの火に照らされた老婆の風貌はよく見てみると意外とこぎれいな格好で優しい顔をしていた。

白髪が綺麗にまとめられ、爪も伸びていない。

身にまとっているローブも滑らかな生地で織られており、高貴な身分の格好だった。

バルドもアドラーも突然の老婆の出現におどろき、どう対応したものか迷いあぐねていた。「あの~。もしかしてここの住民か?勝手に入ったりして申し訳なかった。雨風しのげる場所を探していて、ここを見つけ、使わせてもらっていた」

バルドはとりあえず、この小屋に勝手に入ったことをわびた。

すると老婆が口を開いた。

「お前さんの探し人は……ずっと先にいるよ」

年のわりには聞き取りやすい発音で優しい口調だった。

「探し人?なんでそれを?」

アドラーは驚き尋ねる。

「それくらいわかるさ……私は魔女だからね……」

老婆は落ち着いた声で、2人自分の正体を告げた。

「ま、魔女だって!?」

アドラーは驚き、悲鳴のような叫びをあげた。

すぐ立ち上がり、バルドの後ろに隠れる。逃げ出す体勢をとる。

このころの魔女といえば、災害を起こし、疫病をはやらせ、子供を食べてしまう、人のかたちをした怪物のように語られていたからだ。

「そう怖がらなくてもいい。別にお前さんたちをとって食べようなんて思ってないよ。私は世間で言われているような恐ろしい魔女じゃないさ……ところで、この地下の封印を解いたのはお前たちか?」

「封印?」

「ああ、人間にはとけない仕組みにしておいたのだが、私の腕も落ちてしまったもんだ……」

どうやら、隠し階段の仕掛けはこの魔女がしかけておいたもののようだ。

「ここの封印を解いたのは小人のトトっていうやつだ。今は上に行ってしまったがね……」

「そうかい。そうかい。小人かい。それならいいんだ。」

魔女は安心したようにケラケラ笑った。

「うちの飼い犬のブルーノがこの家に入ってこられないのも、あんたの仕業か?」

「ああ、あれはあんたの犬かい。犬が入って来られないように、犬が嫌う匂いがする薬を小屋の周りに撒いておいた。私は人間に飼いならされている犬は嫌いなんだ。それと、悪いがあんたの犬は少しの間、眠ってもらったよ」

「なんだって!?ブルーノに何した!?」

「安心しな。何も傷つけちゃいないさ……それもこれも、わが身を守るためなんだ。悪く思わないでおくれ」

魔女の言葉を聞き、バルドには思い当たるものがあった。

「……最近の流行っているという、魔女狩りを恐れているのか?」

その途端、魔女の表情が曇る。

「……ああ、私の家族は1人を残して、殺されちまったよ。惨い死に方だった。私たちはなんも悪いことしていない。むしろ、致死的な疫病であるペストに対する対処法を広めて看病したっていうのに、恩をあだで返されるなんてね……そこにいる遺体は私の夫だよ」

そこの棺に入っている傷だらけの骨は、魔女狩りの際に拷問された跡のようだ。

「それは……気の毒だったな……」

バルドは苦々しい表情で、魔女に同情した。

「こんな暗い話は、今は無しにしよう。……申し遅れたね。私は魔女のビアンカっていうんだ」

「お婆さ……ビアンカさん!」

お婆さんと呼んだ瞬間、ビアンカは顔をしかめる。

それを見て取ったアドラーは瞬時に呼び方を変える。

「僕の探し人は……パパたちはどこにいたの!?」

「あいつが行くのはいつも、針山の谷底さ……」

「?……お婆さんは僕のパパと知り合いなの?」

「坊や、私はおばあさんと呼ばれるのが嫌いなんだ。この姿じゃ仕方ないがね……」

そういうと、ビアンカは杖を一振りした。

なんと、ビアンカの姿は若くグラマーで妖艶なきれいな女性に変身した。

あまりの変化に、男2人はドギマギした。

ビアンカが若い美しい姿になったせいで、逆に話づらい。

「さて、これでお婆さんじゃなくなっただろう。どこまで話していたかな?ああ、あいつは私たちの一族さ」

「え……」

アドラーはあまりの衝撃にしばらく呆然とした。

魔女の一族。

あの優しい父親が魔女の一族なんて……

「パパは魔女なの?」

「男だから魔導士というべきかな。一緒に生活したこともある。あれはもう100年くらい前の話かな……」

「……100年前だって?」

アドラーは100歳の人間は見たことない。

そもそも、人間はそんなに長生きできるものだろうか?

「私たち一族は細胞の成長をゆっくりする秘薬の作り方を知っているのよ。いわゆる不老不死の薬だね。エリクサーという秘薬さ。それを使っているから、普通の人間より数倍長生きできるんだよ」

父親は魔女の仲間で、年齢は100歳超えている。

アドラーはあまりに話の内容が衝撃的で、頭の中が整理できない。

「いったい、パパは何者なの?僕はパパのことは何も知らないんだ。おしえて!」

「奴はうちらの一族でも変わり者でね。笛の音で人や動物を操ることにたけていたね。

ペストの原因である国中の野ネズミの処理を請け負っていたのもあいつだったね。そうそう。一昔前にうちの村の近くで子供が130人笛吹の男と共にいなくなったおとぎ話あっただろ?あれはやつの仕業だと私は睨んでいる」

そこで今まで黙ってやり取りを聞いていたバルドが急に声をあげた。

「それって、まさかハーメルンの村か!?」

「おや、あんたはその話を聞いたことあるんだね。まあ、実際はお話と少し違うんだけどね……」

「130人の子供……それってもしかして……」

アドラーがハッとし、口を開いた。


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