底
巨大ならせん階段の一段目は玄関の向かいにある。
あそこに本当の入り口があるようだ。
アドラーたちは建物を回り込み、隠し扉を探す。
案の定、パッと見ではわからないほどの扉の取っ手が見つかった。
カモフラージュされた本物の扉を開け、階段をおりていく。
階段はものすごく深く、降りれど降りれど、終わりが見えない。
「まだかよ~もう疲れたよ~」
巨大な螺旋階段の内装は切り出した石で隙間なく覆われ、ちょっとした衝撃では崩れないような堅牢な作りだった。
ランプの光に照らされた巨大な螺旋階段をおりる一行から文句が聞こえてくる。
「もう何十分間、階段おり続けているんだよ~」
文句を並べているのはトトだ。
階段を一段降りるごとに口から文句が出る。
「お前は俺の肩に乗っているだけじゃないか」
「肩に乗ることがどれだけ大変かわかっているのか?上下左右に揺れるし、バルドは臭いし、最悪だよ」
「なら、自分で歩くんだな」
そういって、バルドはトトを摘み上げ、階段に降ろした。
「やだ~歩きたくない~」
トトはキーキーとバルドに抗議している。
「うるさいやつだな……おや?」
バルドはトトを階段におろすために体を折り曲げた際に、下の方に何か発見した。
バルドは足早に無言で階段をおりていく。
「どうやら、ここまでらしい」
一足先に螺旋階段の一番下についたバルドは上にいるアドラーたちに告げた。
バルドに続いてアドラーが地面についた。
上を見上げると、入ってきた入り口の明かりは豆電球ほどしか見えない。
トトはまだ必死に階段を下りている。
人間用の階段を体が小さいトトが降りるのは大変そうだ。
「何もないですね……」
「家の中の仕掛けといい、これだけ巨大な螺旋階段を作ったんなら、ここにも何か仕掛けがあるんじゃないか?」
バルドとアドラーはランプで隅々を照らしてみる。
「うわああ!びっくりした!」
急にアドラーはおおきな声を出した。
「うわあ。いきなり大きな声を出すんじゃない!どうしたんだ?」
「あそこ……」
アドラーが指さす方向には、棺あった。
「こんなところに……誰の棺だ?」
バルドはそうつぶやくとツカツカと歩み寄り、棺に手をかける。
「え……開けるの?」
アドラーは顔が引きつっている。
「この地下がどういうところか何かわかるかもしれないだろ?」
「そうかもしれないけど……」
こんな暗いところで棺を開けるのは、怖い。
アドラーは離れて見守ることにした。
バルドは棺の中をゆっくり開ける。
すると中には白骨化した遺体が入っている。
「アドラー、大丈夫だ。ちょっと来いよ」
アドラーは恐る恐る、屍に近づいてみる。
「なんで、この人、死んじゃったんでしょうね……」
「骨は傷だらけだな。殺されたのか?」
バルトは持っていた斧で屍をつつく。
すると屍の服からコトリと音を立てて何かが落ちた。
「ブローチか……何かの紋章だな」
バルドは落ちたブローチを拾い上げ観察した。
黒色のブローチはどこかの紋章を表していた。
カラスみたいな形だ。
裏にはなにやら文字が書いてあったが、バルドには読めなった。
「僕にも見せて」
アドラーはそのブローチをバルドから受け取り、しげしげと見つめた。
「この紋章、何か見覚えがあるんだけどな……」
アドラーは何故かその紋章に懐かしさを感じた。
「本当か?刻まれている言葉は一昔前の言葉みたいだが……それに今この辺りの国にそんな紋章の国はない」
アドラーはブローチの裏を見てみる。
「……これ、僕持っていていいかな?」
「ああ、いいけど……なんに使うつもりだ?」
「……何か大事なもののような気がするんだ」
アドラーはブローチを大事そうにポケットにおさめた。
すると暗闇の中から甲高い声がした。
「おい、おまえらランプを持ったまま、先に行くなんてあんまりじゃないか!真っ暗な階段を降りる怖さといったら、もう……。俺は案内役なんだぜ。案内役より先に行ってどうするんだ!」
ようやくトトは到着した。
腹を立てているようだ。
「お前は暗闇の中でも目が効くだろ。それに案内役のくせにほとんど案内してないじゃないか」
バルドは呆れたように言った。
「この地下の階段に見つけたじゃないか!」
「俺たちは、アドラーの父親と兄弟を見つけているんだ!ここには死体が一体あるだけで、何にも見つからなかったじゃねぇか」
「死体だと……おや……」
トトは棺の中の死体の古びた服の裾をつかんで眺める。
「この服は昔のこの国の王族の服じゃないか。この遺体は王家の人間か?」
トトは興味深そうに遺体を眺める。
「王家の人間だと?」
「ああ。ある城の紋章だ。今は廃城となっているがな」
トトは顎をさすりながら記憶をたどっていた。
「そんな王族が何故こんなところで死んでいるんだ?」
「俺が知るわけないだろ。俺に聞くなよ。けっ。お宝は持ってないのか……」
トトはつまらなさそうに呟いた。
「まあ、この死体が何者で何が原因で死んだかは、この際どうでもいい。俺は眠い。少し横にならせてくれ」
バルドはつかれきった体を休めようと、荷物を降ろし、横になる。
「おいおい、こんな湿っぽくて死体があるところで寝るのかよ。どんな神経しているんだ?」
トトは抗議の声を上げる。
「また上まで階段上がる気力も体力もないんだ。ここで休むのがいやなら1人で上に行くことだな」
バルドはぶっきらぼうに言い放った。
「うッ。……坊主は上に行くよな?」
トトはおそるおそるアドラーに聞く。
1人で上に行くのはいやなのだ。
「僕もちょっと疲れたからここで寝るね……」
アドラーも申し訳なさそうにトトの誘いを断る。
「マジか……勘弁してくれよ~。俺は閉所恐怖症なんだよ~」
世界が終わるかのような絶望的な声をだした。
「ランプかしてやるから、1人で上に行って来いよ」
バルドは寝転びながら、30センチくらいのランプをトトに差し出す。
トトと並べてみると、トトよりも大きい。
「ふざけんな。自分より大きなランプなんて持てるわけないだろ」
バルドに抗議した。
「うるさいな。ランプはこれしかないんだ。ダメなら、あきらめて少し静かにしてろ」
バルドは面倒くさそうに答える。
「もういい。真っ暗でも自力で行くからな。小人の目は特殊なんだ。1人だって平気さ。お前らなんか嫌いだ~」
トトは叫びながら階段をゆっくり上っていった。