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階段

「おい、バルド!まさかお前、その坊主、殺してないだろうな?」

「う、うるせえ!今はこの湖から引き上げるのが先だ」

バルドの声は怒鳴りながらも震えていた。

バルドは大急ぎで、浮かび上がったアドラーを引っ張り、岸に向かう。

岸ではトトが飛び跳ね、声をかける。

「おい、大丈夫か!?ニンフたちはどこかに行ってしまったみたいだぞ」

トトの言葉は興奮状態のバルドの耳には届いていない。

バルドはアドラーの首に手を当て、脈を確認する。

トクン。トクン。

脈拍を感じる。

心臓はよわよわしいながらも、ちゃんと動いている

「ふ~~~~。よかった」

バルドは全身の気が抜けたかのように地面に寝そべった。

「おい、安心するのはまだ早い。脈はまだあるが、この坊主、息してない。肺に水が入っているはずだ。早く抜かないと、ほんとに死んじまう」

その言葉を聞いて、横になっていたバルドはものすごい勢いで身を起こし、アドラーに人工呼吸を施した。

「戻ってこい。アドラー!」

すると、数回繰り返すとアドラーは水をはきだし、息を吹き返した。

「ゴホッ。ゴホッ。」

2人はアドラーが復活して喜びの声を上げた。

「やったな!バルド!きっとお前の口が臭過ぎてびっくりして起き上ったんだろうな」

「うるせえ。アドラー。よかった。ほんとによかった」

バルドはもう泣き出しそうだ。

バルドはアドラーを抱きしめた。

「あれ?ここは?……くさっ!」

アドラーは目を覚ました。

「……くさいのは気にするな。きっと湖の藻のせいだ。ここはさっき見ていた湖だ。お前はニンフという水の精の誘惑に引き寄せられて、湖の中にどんどん進んでいったんだ」

アドラーは記憶をたどる。

「そっか……綺麗な歌声が聞こえたからつい……その先は覚えていない」

「へへ。坊主。俺に感謝しろよ。今、お前がここにいるのは俺のおかげなんだからな。あとな、お前の不安定な気持ちをニンフに付け込まれたみたいだから、気を付けろよ」

トトは偉そうにふんぞり返っている。

「アドラーが危険な状態にあることを教えてくれたブルーノにも感謝しろよ」

「そっか。ブルーノ、ありがとう。」

アドラーはびしょびしょの手で、ブルーノの身体をなでる。

またブルーノに借りが一つできた。

いつか恩を返さなければならない。そう心に誓った。

「バルドおじさんもありがとう。ほんとに僕は助けられっぱなしだ……」

「気にするな。俺はただ好奇心で一緒について行っているだけだ」

バルドは照れ臭そうだった。

「さて、ここにいても寒いし一度、あの小屋にもどってみよう」

秋の過ごしやすい気候とはいえ、濡れたまま長時間、外にいるのはつらい。

一同は小屋にひきかえした。

「さっきの小屋に何かありました?」

アドラーが小屋に向かう途中、バルドとトトに質問する。

「一見何もないように見える床から、俺が隠し階段を見つけたのさ」

トトは自慢げに言った。

アドラーは胡散臭さを感じながら、バルドを見る。

懐疑的なアドラーの顔を察してか、バルドは説明を加える。

「ああ、まだ詳しく調べていないが、地下深くまで続く螺旋階段があった」

トトが言っていることは本当のようだ。

「降りようかどうか話しているときに、お前さんが消えて、遠くの方でブルーノが吠えていて、駆けつけてみたらお前が湖の中にどんどん入っていったわけさ」

「そうだったんだ……」

アドラーは自分が意識を失った直後の展開を理解した。

「おや、ブルーノどうしたんだ?」

バルドは振り返り、左右に動くブルーノを見る。

まるで、そこに見えない壁があるみたいに線をなぞり、どうにか進もうとするもその一線が越えられないように右往左往している。

確か、先程もこのあたりで動きを止めていたはずだ。

「なにか、ブルーノがここから来られない理由があるみたいですね」

「見たところ、何も小細工はなさそうだけどな」

トトは地面を調べ、バルドに言う。

魔法の力ではないというわけか。

「あの小屋に何か仕掛けがあるのかもしれないな。ブルーノ、ここで待っているんだ」

バルドカバンをからブルーノの食糧を取り出し、ブルーノの動ける場所に置いて、ブルーノに待つように指示した。

その間、濡れた体で寒さに震えるアドラーは体を温めたくて、一足先に小屋に入ろうと家の中にかけ入る。

一歩踏み入れようとした瞬間、心臓が凍りついた。

踏み出した先の床がないのだ。

必死に体を戻そうと咄嗟に踏ん張り、手はなにかつかむ物がないかを当てもなく探し、空を切る。

しかし、すでに一歩踏み出したアドラーの体の重心は前に傾いていた。

足の直地点を失ったアドラーの身体は前方へバランスを崩す。

凍え、冷え固まった体では体勢を立て直すのは難しかった。

目の前には地下深く続く螺旋階段。

僕の身体は地下の底まで転げ落ちるのだろうか。

恐ろしい想像が脳裏をよぎる。

階段から転げ落ちそうになる寸前、アドラーの腕をがっちりつかまれた感覚があった。

「おっと、言うのを忘れていた。らせん階段のスタートは玄関じゃないんだ」

間一髪のところで、バルドが腕をつかんでくれていた。

ものすごく遅い助言だ。

「まったく、お前はほんとに世話が焼けるな」

バルドの肩に乗ったトトは呆れながらも笑っていた。

「ごめん……もっと部屋の奥の方に螺旋階段があるのかと思っていたんだ」

「まあ、無理もない。さっきアドラーが見たときは普通の床だったわけだし。トトが変なボタン押したら、丸ごと床がなくなって部屋の床全部が螺旋階段になっちまった」

「俺が悪いみたいに言うんじゃねえ」

トトは反論した。

「おれたちは、ただ単に休憩できる場所を探していただけなんだぞ?なのに、お前が変なボタン押すから、床がなくなっちまったじゃねえか。俺は眠いんだ」

「寝た途端に床がなくなるより、いいじゃねえか」

大人同士の口げんかを中断するようにアドラーはそっと言った。

「……とにかく、降りてみようか」


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