罠
再び部屋の探索にうつる。
室内は想像していたよりも広い。
その反面、家財道具は絨毯しかなく、がらんとしていて、まるで生活感を感じない。
空っぽの部屋だ。
本当に誰か住んでいるのだろうか?
バルドは斧をしっかりと握りしめ、ゆっくり奥へと入っていく。
「誰もいないみたいだな……」
「おい、この床見てみろよ」
トトは床の一部を指さした。
バルドはトトに示された場所を詳しく見てみるが、絨毯の下に、いたって普通の木の床があるだけだった。
「???……何にもないじゃないか?」
「はあ?こんなにわかりやすくなっているのに?絨毯を少しめくってみてくれ」
バルドは言われて通り、絨毯の端をめくった。
しかし、そこにあるのもいたって普通の木の板の床だった。
「いったい、何の話だ?ただの木の床じゃないか?」
「……お前ら人間じゃ分からない仕掛けなのか。いいか。見えないだろうけど、この床、俺にはこの部分がぼんやり光って見えるんだ」
「……お前こそ大丈夫か?」
バルドはトトが変な薬を使っているのではないかと心配になった。
「小人は嘘つかないんだぞ。いいから、俺を肩から降ろせ。今から証明してやる」
バルドはトトを肩から降ろす。
トトはある床の上に立つと、エイッと床に拳を振り落とす。
すると、カチッっと音が鳴る。
トトは何かのボタンでも押したようだ。
すると小屋全体からゴ―という機械音が鳴り響き始めた。
「すごいだろ?」
トトはバルドに向かってドヤ顔で言った。
「小人はみんな目がいいのか?……ん?」
すると、トトがいた足元の床が裂け始めた。
裂け目は部屋の端まで広がっている。
部屋全体の床が動いているのだ。
裂け目から真っ黒な闇が広がっている。
そこにあるはずの地面が見えない。
どうやら相当深い地下空間が広がっているみたいだ。
「やばい、床が無くなっちまう。いったん家の外に出よう」
そう言うと、トトはバルドの服にしがみつく。
「自分で走れっての!」
バルドはアドラーが待つ玄関へと急いで向かう。
床はみるみるうちに無くなっていく。
トトがボタンを押したあの場所にいたら、2人とも地下の奈落に真っ逆さまだったに違いない。
バルドは玄関のドアに手をかける
しかし、何故かぴくりとも扉が開かない。
床はみるみる無くなっていく。
このままでは、奈落に落っこちてしまう。
「くそッ。罠だったのか」
バルドは持っている斧を乱暴に振り回し、扉を破壊し始めた。
強力な一振りで扉はみるみる木片になっていく。
しかし、床の面積も残りわずかだ。
「バルド、早く!」
「うるさい!わかっている!」
バルドは渾身の力をこめ、斧を振り下ろす。
足元が残り数十センチのところで、扉になんとか外にでれるほどの穴をあけ、玄関の外へと転がり込む。
間一髪で間に合った。
玄関の先で2人は寝転び、互いの無事を喜んだ。
「いったいなんなんだ?この仕掛けは?」
落ち着いたところで、部屋の中を振り返るとそこには、ぽっかりと大きな穴が開いている。
よほど深い穴なのだろう。
窓から差し込む光が、穴の中を照らしているのだが、穴の底が見えない。
バルドにはその穴が魔界の入り口のように不気味に思えた。
降りることができるらしく、長いらせん階段が地下深くまで続いている。
階段の一歩目は、玄関の反対に位置している窓から始まっていた。
注意深く観察してみると、どうやら、反対側の窓に仕掛けがあり、扉のように、外へ出入りができるようだ。
「うわ~。これまた深い地下だな。あのまま床のボタンの場所にいたら俺もただでは済まなかったな」
「無事に外へ逃げられたのは、俺のおかげだろ?」
今度はバルドがトトに向かってドヤ顔をした。
「ヘイヘイ。ありがとうございました~。フン!」
トトは棒読みでお礼を言ったあと、あることに気がついた。
「あれ、あの小僧がいないぞ?」