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湖の小屋

気づけばもう夜が明け、日が差し始めてきた。

虫が鳴き、小鳥がさえずり、生き物たちの目覚めの朝がやってきた。

昨夜から一睡もしておらず、トロールに襲われ疲れ切っているアドラーとバルドには休憩する場所が必要だった。

何処かで眠りたい。そう思った時だった。

「見ろ、湖だ」

バルドは疲れ切った表情をしたアドラーに向かって励ますように声をかけた。

アドラーは顔を上げ、目の前の光景を見た。

眼下にはこの世のものとは思えないほど、きれいな光景が広がっていた。

早朝の澄んだ空気の中で、朝日に照らされた緑色に輝く山々。

青く綺麗に澄んだ湖。

朝日に照らされ、湖面はキラキラと輝いている。

湖の周りは色とりどりの花畑がひろがっている。

まるで油絵を塗り広げたような鮮やかな色彩が彩っている。

そこには平穏と安らぎがあった。

こんなに美しい景色を見たのは初めてだった。

「おれ、森に住んで長いけど、こんな湖があるなんて初めて知った。ここは極楽か?とんでもないところに来てしまった。家族も連れて来よう!」

トトは秘密基地を見つけた少年のように、はしゃいでいた。

トトは自分も来るのが初めての場所に僕たちを連れてきたのだろうか?

バルドはツッコミたくなったが、今はこの美しく、穏やかな光景を静かに見ていることにした。

「この世とは思えないな……世界中を旅したがこんな美しい景色を見たのは初めてだ」

様々な景色を見てきたバルドも感動しているようだ。

アドラーも疲れを忘れ、景色にぼんやり眺めていた。

すると、湖の手前にある花畑に、小屋のようなものがあることに気が付いた。

「バルドおじさん、あれ……」

アドラーは景色に見とれているバルドの服の裾を引っ張って、小屋のある方を指さした。

「小屋だな……休めるかもしれん。行ってみよう!」

黄色や白色の花が広がる花畑の中を一向は歩く。

花畑の中央の小屋に向かうにつれ、花のいい香りが漂い、湖からは爽やかな空気が運ばれてくる。

人の気配はなく、小屋の中からも物音は聞こえてこない。

小屋の前に立ったバルドは耳を澄ませている。

「ずいぶん静かだな。誰もいないみたいだな」

「ずいぶんきれいにしてあるじゃないか。この小屋に引っ越してきてもいいかな?」

小屋の外観はきれいに保たれ、汚れはほとんどない。

トトは穴場物件を見つけた気分で、興奮している。

おそらく、ここに家族で移住しようと考えているらしい。

「とりあえず、ノックしてみよう……おや、ブルーノ。どうしたんだ?」

いつもバルドの少し後ろにいるブルーノが、バルドのずっと後方、小屋からずいぶん離れた場所に座っている。

「ヒュー。ブルーノ!おいで!」

バルドが口笛を吹いて、ブルーノを呼んでみてもブルーノはこちらへむかってくる気配がない。

「ウンコしているんじゃないのか?」

トトは言う。

「そんな体勢じゃない」

バルドはあっさり否定する。

「どうしたんだろ?この小屋に入るのが嫌なのかな?」

アドラーはブルーノの様子に少し心配になる。

頭がいい犬だから、もしかしたら何か感じ取っているのかもしれない。

「ブルーノ……まあ、いい。今はみんな休憩が必要なんだ。このまま外にいるわけにもいかない。あの子は賢い子だ。しばらくしたら来るさ」

バルドは小屋の入り口の前に立ち、ドアをノックした。

「誰かいるか~?」

すると扉は一行を招き入れるように静かに開いた。

やはり誰か住んでいるのだろうか。

「あの、すいませ……あれ?」

小屋の住民に挨拶をしようと、バルドとアドラーは口を開こうとしたが、扉の向こうに人影がない。一体、どうやって扉は開いたのだろうか?

一人でに扉が開いたとでもいうのだろうか。

「何だか気味が悪いですね……」

アドラーがつぶやく。

「ああ、招かれているんだろうが、好意なのか……それとも罠なのか……慎重に入ってみよう。アドラーはここで待って居ろ」

「ちょい待ち!俺も残る!」

バルドの肩に乗っているトトはバルドに訴える。

しかし、バルドはトト主張をあっさり無視して室内に入っていく。

「降ろせ―」

トトはバルドの肩でキーキーとさわぐ。

「おい、静かにしろ」

「降ろしてくれたら、いくらでも黙ってやるよ」

トトは言い返す。

「こういう怪しい場所では、お前がいなきゃダメなんだ。お前の目の良さが必要だ。お前は俺の背後を見ていてくれ」

トトをおだてながら、バルドは指示した。

「……そんなに頼りにしてくれているなら、仕方ない。後ろはばっちり任せとけ!」

トトは急に張り切りだした。

案外、単純な性格のようだ。


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