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トト

お尻から着地したのだろう。

アドラーは全身タイツの小さなおじさんがお尻をおさえ、低い唸り声でもだえ苦しんでいる姿に再び強い衝撃を受けた。

アドラーに、そのシュールな光景は刺激が強すぎた。

バルドとアドラー、ブルーノは小さなおじさんを取り囲み、小さなおじさんが窮地から復活する時を静かに待った。

小さなおじさんは1人、お尻をおさえ、ヒーヒーもだえていた。

アドラーはこの光景を一生忘れないだろう。

しばらくすると、小さなおじさんの様子も落ち着いてきたので、バルドは話しかける。

「お前さんは、小人族か?それにさっき人間を見たといったな?いつ、どこで見たんだ?」

「やいやい、何だ。いきなりたくさん質問をしやがって!まずは、“お体大丈夫ですか?”だろ?ああ、俺は大丈夫だとも!俺は、小人のグレゴリー一家のトトだ。年は32歳。一家の大黒柱よ。そんなトトがここで何しているかって?小人は夜行性なんだ。昼間は寝ていて、夜行動するのさ。なぜかって?夜のほうが敵が少ないからな。けど、ここ最近は変な化け物がうようよしているから、おちおち行動できねえ。いったい、この森で何が起きているっていうんだ。ああ、そうそう!さっきも、頭がいくつもある、ものすごい大きな化け物を見たんだ。あれは大きかった~。なんせ、身長は大木と同じくらいだったからな~。それでなんとかその化け物、うげっ!!!……」

「話が長い!!!!子供たちいつどこで見たんだ!?」

バルドは小人のトトの話の長さに我慢できずに、子猫を持つように、トトの首根っこをつかんで持ち上げた。

「それを今から話そうと思っていたと頃だったんじゃないか~。短気なんだから~。それでさっき言っていた巨大な化け物を見た少しあとぐらいに、人間の大人と100人以上の子供たちが森の中をうろうろしていたんだよ。俺はその光景を見てぎょっとしたね。子供たちは歩いてはいるけど、どこか生気がない表情だし、なんせ、人間の大人はそんな状況で楽しそうに笛吹いているんだから。笛の音は素晴らしかったが、こんな森で笛を吹くなんて自殺行為だね。そんな音立てながらこの森を歩いていたら、すぐに野生動物たちの餌食になってしまうよ」

トトという小人は腕組みし、考えるような仕草をした。

「それはこのあたりか?」

「隣の通りだ。時間は1時間くらい前かな?」

「聞いたか?やっぱりお前の親父と兄弟はこの森の中にいるってよ」

バルドは、アドラーたちの兄弟の行方の手掛かりがわかり、安堵の声を上げた。

「うん……けど大丈夫かな?」

「何を心配しているんだ?きっと会える」

バルドは元気づけるように力強く断言した。

「いや、そうじゃなくて……この小さな変なおじさんの話だと……」

「トトさんだ」

小人のトトは、すかさず訂正を入れる。

「……トトさんの話だと、頭がいくつもある巨大な怪物の近くにみんながいたってことだよね……?みんな無事なのかなって思って……」

アドラーはみんながあの化け物の餌食になってないか不安だった。

「今はそんなこと考えるのはやめろ。とにかく探し出すのが先だ。おい、トト。子供たちがいたところまで案内しろ」

バルドはアドラーに気を遣うように話を切り上げ、トトに道を尋ねる。

「命令かよ。やる気出ないな~」

トトはバルドの言い方が気に障ったのか、足元の石ころを蹴っている。

「……もし、友達でもない小人に道を案内してほしいなら、見返りになんかくれるのがスジじゃないか?」

上目づかいがちにアドラーとバルドの顔を見上げた。

この小人は、ハナからバルド達の持ち物が目的だったのだろう。

「ちっ。まあ、いい。何がほしいんだ?金か?」

バルドはうんざりしたようにトトに尋ねる。

「人間の金なんかもらったってしょうがない。人間の街には行けないしな。そうだな……。いま俺は母ちゃんと喧嘩しているんだ。仲直りするためになんかプレゼントしたい。だから母ちゃんが喜びそうなものをくれ」

「お前の母ちゃんが喜びそうなものって言ってもな……小人は何をもらったら喜ぶんだ?ドングリか?クルミか?」

バルドは小人のトトを小動物と同じように思っているらしい。

「おい、リスと同じ扱いするな。小人は、キラキラしたものが大好きなんだ。女の小人は特にな。おい、お前ら、なんか持ってないのか?ん?」

「リスのほうがまだ可愛いらしいな。キラキラしたもの……そんなシャレたもの俺は持ち合わせてないぞ」

バルドは背負っていたカバンを下ろし、カバンの中をごそごそ探した後に、残念そうにつぶやいた。

小人は残念そうにバルドのカバンから目を放し、アドラーのほうを向いた。

アドラーの首元に視線が止まる。

「おや?坊主の首にかけているそのペンダントなんかキラキラしていて、良さそうだな~」

「!!これは、ダメだ!僕の大切なものだから。」

アドラーは小人のトトの目の色が変わったのを察知して、さっと手で覆い隠す。

「……ふーん。けど、それじゃ、君の兄弟や親父に会えなくてもいいのかい?」

足元を見てくるような言い方だった。

「それは……いやだけど……」

「そのペンダントは、君の兄弟よりも大切なものなのかな~?」

トトは意地悪そうにアドラーに選択を迫る。

「おい、困っているじゃないか。大人げない」

バルドはそんなトトをたしなめた。

「いいや、“何かを得るためには何かを捨てなければならない”ってこと実践で教えてあげているんだ。小人流の社会勉強さ」

渡したくない。

このペンダントは僕の宝物で唯一自分が所有している物。

肉親と唯一つながるためのものかもしれない。

本当は手放したくはない。

けど……

「……本当にみんなのところまで連れてってくれる?」

「もちろんだ。小人は嘘つかない。絶対にな」

「……わかった。これと交換でみんなの居場所を教えて」

「やっほい!そう来なくちゃ!さあ、でくの坊どもついてこい!」

トトはそういってバルドの肩に乗っかり、指示をだし始めた。

「お前が先頭を歩くんじゃないのか?」

「人間の肩に乗っかる機会なんてめったにないからな。それにほらよく言うだろう、巨人の肩に乗る小人が、一番遠くまで見渡せるって。」

バルドは呆れながらも、指示された方へと足を進めた。


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