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笛の音

森の中でナイチンゲールが鳴いているのを子供たちは聞いていた。

ナイチンゲールとは人の名前ではなく、鳥の名前。

別名 小夜鳴きサヨナキドリ

この辺りではよく聞く鳴き声だ。

とても美しい鳴き声を持つ鳥は、名前の通り普段は夜しか鳴かないはずだか、今日はいつもと違い、昼間に起きて鳴いているらしい。

何か近くに危険が迫っていて、逃げろとでも仲間に警告しているのだろうか?

森には様々な生き物たちが生息しているが、この森は最近、危険な生き物が生息していると近隣の村では噂になっている。

噂の危険な生き物は、夜になるとその姿を現すという。

しかし、そんな危険な森にいる子供たちはおびえた様子もない。

そういう噂があることも知らないのだ。

子供たちが近隣の村に行くこともなければ、近隣の村の者が子供たちに話しかけることもない。

そもそも、ここの子供たちは村人たちを知らない。

近隣の村人も子供たちの存在を知らない。

塀や壁はなくとも、隔離された場所だった。


針葉樹林が生い茂る薄暗い森の中、数人の子供たちが小枝を拾っている。

ただ毎日、森に入り、湯を沸かすためや、料理のために必要な小枝や薪を拾う。

周りに大人の姿はない。

普段から日があるうちは子供たちだけで行動しているため、この状況はいつもの光景だった。

森の静けさの中で、子供の話声が聞こえる。

「ねえ、知っている?ここだけの話なんだけど……実は、私たち誘拐されたの」

女の子の声がする。

発言したのは、アンネ。

辺りを見渡し、正面にいる男の子の耳元で囁くように声を発した。

まるで、森の木々にも聞かれたくないようだ。

しきりに周囲に目を配って、話し声を聞かれることを警戒している。

金色の髪に青い目。

もうすぐ11歳になる少女だ。

強い意志を表しているような大きく、力強い青い目と、さらさらとした金髪が特徴的で、大人になれば、かなり美人になると思わせるような顔立ちの女の子である。

正面にいた男の子はハッとしたように体の動きを止める。

男の子の名はアドラー。

アドラーは青色の目を持つ男の子だ。

からだの線は細く、身長だけがひょろひょろと高い。

たくましいという印象は感じさせない。

こんなアドラーでも、一応、この家の“長男”である。

今日でちょうど13歳になる。

“兄弟”の中では、優しいお兄ちゃんのような存在だ。

アドラーは、アドラーは薪を拾う手をピタリと止め、アンネの顔をまじまじと見つめる。、

一瞬、アドラーとアンネの間には静寂がうまれた。

その静寂をうめるように、森の木々の擦れる音や小鳥たちのさえずる音がその場に流れる。

アドラーは、アンネがどういう意図で、そのようなことを話し始めたのかと考え、アンネの瞳の中を見つめる。

「アンネ。……どうしてそう思うんだい?」

アドラーが衝撃的な発言をしたアンネに問いただした。

「私聞いちゃったの。“あの子らは私の子じゃない”ってパパが誰かに話しているところを……」

アンネも声をひそめ、真剣なまなざしでアドラーに打ち明ける。

アドラーは少し考え込んだようにうつむいた。

「本当に……パパが言ったかい?そんなこと言うなんて信じられないな~」

アンネはせっかく秘密を教えてあげたのに自分の話が疑われ、不愉快そうに頬っぺたを膨らました。

しまった……。

アドラーは咄嗟に身を構える。

アンネの様子を見たアドラーは心の中で、面倒な予兆を感じ取ったからだ。

アンネが頬っぺたを膨らませるときはたいてい、これから始まる主張を黙って聞かなければならない。

途中で口をはさみ、反論しようものなら、話を聞く時間はさらに3倍ほど長くなってしまう。

アドラーは姿勢を正し、聞く体制を構えた。

案の定、アンネは意地でもアドラーに納得させようと早口で一気にまくしたてた。

「本当よ。パパが“バキバキの森”の前で変な男の人と話しているところを聞いちゃったの。それに考えてもみて、130人も子供がいるなんて、おかしいわ。普通じゃない。世界中のどこにそんな家庭があるっていうの?それにママの顔だって誰も知らないじゃない。じゃ、いったい私たちは誰から生まれてきたの?顔も似てないし。それに私、前からずっとパパのこと、どこか苦手だったの」

予想以上に辛辣な言葉に、アドラーは眉間をしかめ、それからため息をついてやれやれといった表情をした。

アンネの“妄想癖”にはいつも付き合わされているのだろう。

「兄弟が多いのは僕たちが孤児だったからじゃないか。パパが“私の子じゃない”って言っていたことには少しショックだったけど、それは事実だからしょうがないよ」

反論しまいと、心に誓ったはずなのに、つい口をはさんでしまう。

「それじゃ、アドラーはどこのだれか分からない人に紹介されるときに、“この子らは私の子じゃない”って言われても平気だってわけ?」

「それは、まあ、いい気はしないけど……」

アドラーは、アンネが“どこのだれか分からない人と話していた”という言葉を考えていた。

パパは無口で、“兄弟”以外の誰かと話しているところをほとんど見たことがない。

それに唯一、兄弟の中で村へ行ったことがあるアンネが知らない人となると、近隣の村の人間ではないだろう。

こう見えて、アンネの記憶力は案外バカにできないのことをアドラーは知っていた。

それにこの周辺には、ほとんどといっていいほど住民はいない。

住んでいるのは変わり者だけだ。

もしかしたら、旅商人だろうか?

「けど、それだけでは、パパを嫌いになったりはしないよ。僕は頼りになるパパは好きだけどな。特にパパが演奏する笛の音色は天国に登りそうなくらい幸せな気分になるんだ」

アドラーは笛の音色を頭の中で再生するかのようにうっとりとした表情をした。

“パパ”は週に一度アドラーたちの前で笛の演奏をしてくれる。

パパがいつも肌身はなさず持ち歩いている、細かな装飾が施された笛。

パパが、その笛を吹くときは、素晴らしい音色が流れる。

パパの指は滑るように移動し、それと共に様々な音色が奏でられる。

一本の笛から奏でられているとは思えないほどの多様な音色が飛び出す。

ゾクゾクするかと思えば、ワクワク、ドキドキするような、感情を突き動かす音楽だ。

心を包み込んだあと、空へと舞い上がる。

笛から出た音の粒が体に入り、魂と共に外へ飛び出し、空に浮きそうな感覚に陥る。

音の一粒一粒がきらめき、周囲の景色をキラキラと照らし出す。

笛の音を聞いているときは、まるで音が目で見えるかのような錯覚を覚えるほどだ。

何回も繰り返し、聞いているせいで、容易に頭の中で再生することができた。

アドラーは思わず、メロディーを鼻歌で歌う。

すると、近くにいた子供たちも鼻歌を聞きつけ集まってきた。

アドラーと一緒に鼻歌を歌いだす。

他の子たちも同様、メロディーを聞いた途端、勝手に体が踊りだすように愉快な気持ちになるのだ。

まるで、“パブロフの犬”だ。

アンネだけは、その様子を白けた顔で眺めている。

「ええ、確かにあの笛の音色は意識が飛んじゃうくらい素晴らしいものね。“魔法のように”中毒性のある音楽だもの」

アンネの言う通り、パパが吹く音楽には中毒性がある。

音楽を聴いている間は、どれだけお腹がすいていようと、食欲も感じなくなるほどだ。

パパの笛の音を聞き続けたら、もしかしたら、餓死するまで夢中になってしまうかもしれないとアドラーは思っていた。

自分達が脳内で再生しているときでさえも、今、このような不思議な幸福感になるのだ。

きっとそうなのだろう。

アドラーたちが、ひと通りメロディーを歌い終わると、アンネはぶっきらぼうに言う。

「ホント、みんなご執心ね!」

「そうさ。眠れない夜なんかパパの笛を聞いたら、すぐ寝ちゃうんだ」

前歯の乳歯が抜け落ちたばかりの近寄ってきた男の子が、大きな声で主張した。

その子の手には自作の木製の笛が握られている。

パパに笛に憧れ、自ら木を削り作ったのだろう。

とてもいい出来とは言えないが、この子は時間をかけて作り、大切にしているものだ。

この子のように兄弟の中には、自分で笛を作成する者が多くいた。

パパは子供たちに自分の笛は絶対に触らせてくれないため、見よう見まねで作ったのである。

もちろん、自作した笛から出てくる音は、めちゃくちゃである。

「今日も演奏してくれないかな~」

兄弟たちは、口々にパパの笛の音を称賛している。

同じ意見の者がいてアドラーは満足そうだ。

「だろ?今夜、パパに笛の音楽を奏でてくれるように頼もうよ!」

アドラーは周りの兄弟に提案した。

「うん。そうしよう。アドラー。パパに頼んでね」

年下の兄弟も顔を明るくし、アドラーの意見に賛成する。

「僕が言っておくから、みんなは早く家の手伝いを終わらせるんだよ」

「うん。いっぱい頑張ったらパパも笛吹いてくれるよね!」

年下の“兄弟”達はアドラーの言葉を信じ、やる気を出した。

各々の持ち場へと散り、また単調な作業に戻る。

メロディーを口ずさみながら……。

おそらく、今夜の夜、パパが演奏してくれている情景を考えているのだろう。

弟たちの動きが軽快になり、アドラーが先ほど鼻歌で歌ったメロディーを調子外れに歌う。

素直に共感できないアンネは1人取り残されたような面持ちになる。

自分以外の兄弟が、皆パパのことをほめたたえる。

アンネにとって、それは面白くない。

眉間にしわを寄せ、ほっぺたを膨らませた。

これからどう反論しようと考えているようでもある。

「あの笛の音が素晴らしいのは賛成するわ。まあ最近は聞いてないけどね。でもあのパパが笛を吹くこと以外、私たちに何かしてくれたかしら?普通のパパだったら、一緒に遊びに行ってくれるはずよ」

アンネは少しも譲らない。

言葉に棘があり、口調がイライラしているようだった。

この年頃の女の子特有の反抗期なのだろうか?

あくまでも自分の意見を押し通そうとするアンネに辟易しながらも、アドラーは少し考える。

アドラー自身、薄々思っていた不満をアンネが指摘したからだ。

“パパ”は朝早く家を出ていき、夜遅く帰ってくる。

まるで、子供たちと極力、接触を控えるような生活だと感じていた。

家事や兄弟のことは年長であるアドラーが指令している。

自分が兄弟たちの面倒の一切を見る。

それがパパから与えられた任務だとかんがえている。

「う~ん。確かにそうだね。けど、子供が130人もいたら手が回らないんじゃないかな?」

アドラーはとりあえず、妥当な理由を挙げてみた。

「生活費を稼ぐので精いっぱいなんだよ」

「私はそうは見えないわ。パパが一生懸命働いているところは見たことないもの。村に出歩いてお金を稼いできているようにも見えない。食べ物はパパが笛を吹いて森から生け捕りにした野生動物の肉と私たちが集めた野草ばかりだし。それに……私はパパの愛情を感じたことはないわ。いつもどこかよそよそしいというかなんというか……」

アンネはあくまでも父親は悪者で、自分たちは被害者ということを言いたいらしい。

アンネは普段から悲観的に物事を判断する子だと、アドラーは感じていた。

「まあ、でも、僕たちは一応、ひもじい思いもなく不自由なく暮らしているし、兄弟がたくさんいる楽しい家族じゃないか」

アドラーは努めて前向きに考えようとした。

「まあ、あなたはなんて楽観的なの。私たちは子供130人で暮らしているけど、たまにメンバーが少し変わるのよ」

アンネはアドラーの肩に手をかけ、アドラーの体を揺さぶりながら指摘した。

思わぬ指摘にアドラーは頭が痛んだ。

アドラーの頭の中にフッとよぎるものがあったからだ。

しばらくの間、忘れていた記憶がよみがえる。

いなくなった兄弟たちの記憶の断片がよみがえる

「そういえば……以前一緒に暮らしていたアレクっていう奴がいたな。いつの間にかいなくなっていたけど……」

何故、自分はこんなことを忘れていたんだろう?

アンネはそらみろと言わんばかりの優越感たっぷりの笑顔でアドラーを見つめる。

「もしかしたら……どこか異国に売り飛ばされてしまっているかもしれないわ」

その意地悪そうに笑った顔は、どこか不気味に思えた。

「なんだって!?」

アドラーはアンネの衝撃的な発言に激しく動揺した。

それと同時に胸の中にもやもやとした思い感情が湧きあがる。

ただでさえ薄暗い森が一層、暗くなった気がした。

アドラーは頭を抱え、困惑する。

「なんてこった。本当なら大変なことだ!」

アドラーはパニックになり、大きな声が出てしまう。

「静かに。パパに聞かれると大変な目に合うわ」

アンネはアドラーをたしなめて、周囲に人影がないかうかがう。

先ほどまで近くにいた歯が抜けた兄弟は、はなれたところにいる。

先程のアンネとアドラーの話は聞かれてないようだ。

「どうしたの?アドラー」

アンネがほっとしたのもつかの間、1人の小さな男の子がアンネのすぐ背後に立って、アドラーのことを気にかけている。

この子の名前は、ルドルフ。

年は6つか7つほど。

幼い顔からは、鼻水を垂らしている。

いつの間にか傍にいたルドルフに、アンネは飛び上がらんばかりに驚いている。

「うわあ!!いつからいたのよ!!」

アンネはあまりにも驚いたせいなのか、語彙に怒りが滲んでいる。

「さっき~。アドラーがね。なんかね。変だったからね。気になったの~」

ルドルフは舌足らずな口調で、アンネに話した。

「……さっきの話……聞いてた?」

「え、何のこと?」

小さな男の子はぽかんとした面持ちで、アンネの顔を見ている。

アンネは少し気を緩め、警戒を解いた。

おそらく、聞こえたとしていても、この子には話していた意味さえ理解できないと判断したのだろう。

「……いいえ、何でもないわ」

「アドラー、大丈夫?」

「ああ……大丈夫だから、薪拾っておいで」

アドラーはルドルフの顔も見ずに、引き続き薪を拾うように指示した。

今のアドラーに弟たちに構う余裕はなかった。

「うん」

ルドルフはまたどこかへ行ってしまった。

「あーあもうびっくりしちゃった。ところで、話を戻すわね。アドラー、もしかして、さっきまでいなくなっていた兄弟のこと忘れていたの?」

アンネはアドラーの体を揺さぶる。

アンネの問いに、アドラーはハッとなった。

アレクやいなくなった兄弟の記憶が芋づる式によみがえる。

アレクはアドラーの1つ上の年齢で、仲良かった兄弟の一人だ。

一緒に野山を駆け回り、喧嘩し、笑いあった仲だ。

アドラーは、何故自分自身がそんな大事なことを忘れているのか、不思議な気分だった。

まるで、アンネに体を揺さぶられるたびに、記憶の棚から記憶が落っこちてきているかのようだ。

「分からない。今じっくり考えたら、昔のことをほとんど覚えてないや」

アドラーは少しの間、呆然となったが、

「……それで君はどうするつもりなんだい」

少し落ち着きを取り戻したアドラーはアンネに聞いた。

「私はほんとうの親の元へ帰ろうかと思うの」

「本当の親?そんなものいるのかい?」

アドラーは眉間にしわを寄せて怪訝な表情でアンネを見つめる。

またいつもの虚言癖だろうか?

アドラーは胸元に輝くペンダントを無意識に指でもてあそぶ。

「ええ、きっと私たちの帰りを心待ちにしているわ」

アドラーの怪訝な表情を意に介さず、アンネは目を輝かせ断言した。

きっと遠くの街で両親は自分の帰りを心待ちにしているにちがいないと確信に満ちた表情だ。

「アンネはどこの街で生まれたのか覚えているのかい?」

“僕はどこで生まれたんだろう?”

アドラーはアンネに質問すると同時に自身にも問いかけた。

「何となく遠い記憶の中の情景が頭に浮かぶの。あそこは……私の故郷に違いないわ」

夕日に照らされた街並み。

家々はオレンジ色の光に照らされ、オレンジ色の屋根はいっそう美しい鮮やかに照らされている。

大きな教会で、人々は楽器を奏で、踊り、笑いあっている、愉快なお祭りだ。

しかし、アンネはこれ以上の街の情景や情報を思い出すことが出来ない。

もしかしたら幼いころに通りすがりの街並みの記憶かもしれないし、夢の可能性だって否定できなかった。

「……あてはないってことか」

アドラーはポツリとつぶやいた。

アドラー自身、思い出そうとするも、故郷らしい情景は一切出てこない。

それどころか、いつからこの集団の中で暮らしているのかさえ思い出せない。

どういうことだ?

アドラーは、なぜ自分が一定期間より昔の記憶が消失しているのか疑問に思う。

それに消失していることになぜ気付かなかったのだろう?

アドラーは無意識に胸元のペンダントをもてあそんだ。

手掛かりになりそうなものは、首にかけている鍵のかたちをしたこのペンダント。

純銀で作られており、持つ部分は赤色の石がはめ込まれている。

記憶がある限り、ずっと身につけていた大事なものだ。

もしかしたら自分の両親がくれたものかもしれないと、ひそかにアドラーは信じていた。

物思いにふけっているアドラーをよそにアンネ話を続ける。

「両親だって私の顔を見たら、きっと思い出すわ」

アンネは断言した。

赤ん坊のころに生き分かれた子供の姿などわかるものだろうか?とアドラーは考えてしまう。

「その前に……アンネは両親の顔なんて覚えてないだろ?」

アドラーは自分の故郷の情景が全くないことに落胆し、ついアンネに向かって意地悪を言ってしまった。

「もう、アドラーのいじわる。でも見たら絶対わかるんだから!」

涙目になったアンネを見てアドラーは慌てる。

アンネに泣かれたら、後々面倒だ。

「悪かったよ。けど、そんなに情報が少ないのにどうやって故郷にかえるつもりだい?お金だってないだろ?」

「うん、そこなんだ……。西に行けばいいのか、東に行けばいいのかさえわからないし」

具体的な話になるとアンネは弱気になった。

「ねえ、アドラーも私と一緒にこの家から出て行かない?」

「え?」

アンネの唐突な申し出にアドラーは困惑する。

「このまま、ここにいたら、何されるかわからないわ。私、アドラーとならうまくやっていける気がするの」

「そんなこと言われてもな……」

先ほどの話で、少しだけパパに対しての不信感がよぎったことは否めない。

だが、それだけでこの家や兄弟たちの暮らしを捨てる気になれない。

「悪いけど、アンネ。僕は兄弟たちを見捨てる気にはなれないよ」

「……そう。分かったわ」

「アンネがこんな話をしたことは、誰にも言わない。もし協力できることがあれば言って」

“どうせ、いつものアンネの思い付きだ”

協力するといったものの、実行に移すわけないと、アドラーは思っていた。

「それじゃ、情報収集手伝って」

「情報収集?」

「私の生まれた場所が何処で、そこまでどういったらいいか。それにこの辺りの情報があれば、なおいいわ」

「……いきなり難しいお願いだね」

普段とは様子が違うアンネに驚きながらも、アドラーは、あることを思い出した。

「そうだ。村はずれに住んでいるバルドおじさんに話を聞くといいよ。あのおじさん、世界中を旅したって言っていたし」

アドラーは村はずれにひっそりと1人で暮らしているバルドおじさんのことを思い出した。

アンネはバルドおじさんを思い浮かべ、苦虫をかみつぶしたように顔をしかめた。

「あのおじさん、クマみたいに体が大きいし、無口だから気味悪いんだよね。一緒に行ってくれない?」

「仕方ないな。分かった。薪拾いが終わったらいこう」

アドラーは頼られると断れない性分なのだ。

それに、アドラー自身、バルドおじさんの話を聞いてみたい気もした。

「ありがとう。アドラー大好き」

アンネはアドラー腕に飛びついた。


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