両親は結婚を喜び、兄弟姉妹は結婚にシカメ面
ピピーーー
バスケの試合が始まった。
それに視線を向けているようで、中で何をやっているかの意識はそう高くない。
日野っちは、どっかで無くした物を探すよう
「結論を言えば」
冷たいことではあるが、
「俺は、あの家族とは仲良くできねぇ。だから、これっきりにしたい。この一回だけって事で、ホントに別れたい」
薄情かもしれんが。薄情な思いに晒された。
「俺は、美癒ぴーと家族でありたいからだ」
日野っちは意は一方通行。玉砕系。
「告白なんて軽いもんじゃなくて、ホントに悪い。そんな決心になってくれないなら、俺がきっと無理だ。気持ち分のアプローチした、つもりなんだが」
「……………」
「そうすぐに決める必要もねぇ。ただ、長いこと……そうだな。この試合が終わるくらいには出して欲しい。辛いもん見てるとこだしな」
自分ができなくなった事。それを断たされた事。
それが酷く残念に思っても、これはまた別の人生のスタートでもありそうだ。もっとも、大切にしてきたものが、次第にそうでなくなることを嬉しく捉えられたら、
「わー、うまーい。今の3ポイントでしょ」
「ちょっと真剣にプレイを見ていると、複雑なんだが……」
激しい運動量、華麗なボール回しに、芸術的なシュート、洗練されたチームワーク。
練習量の多さがよく分かる。
積み重ねた物を出し続けなければいけない、プロ中のプロの世界。初めてやるのに、プロをやらなきゃいけない、コンビニ店員、運送業、……その他諸々。結果の質が違ってくるもの。
女性ってのはこーいう人達を好きになるのも、分かるものだ。かっちょいいと、男だって思う。
美癒ぴーが同じように試合を観るから、日野っちも同じように試合を観ていた。気持ちは大分違っているだろう。
「うーん、色々と日野っちのこと」
「ん」
「知れて良かったなぁ。信じられない事が色々あるけど」
「家族関係?」
「一番は私の事をこれだけ好きって、教えてくれたこと」
…………そう言われると、OK?OKなのか?
「複雑なところはあるけど、ご挨拶だけはしようよ。私もこれっきりにするつもり」
「……そう言ってくれて、ありがとう。そこまでしてくれるのなら、冥利に尽きる」
「あ、同棲するなら当然だけれど」
「分かってる」
「私の家族にも挨拶しなきゃね。日野っち」
思ったより緊張しているのが、日野っちの方。
そりゃ10年以上、面向かって話したことのない父親と出会うのだ。
初デートで親に会わせるとか、ホントになにしてるのか。それだけのこと、とも思ってくれているか。
「こーいう人の家族と出会うの、緊張するなぁ。ちゃんとした服じゃないよ」
「それは俺もなんだよ。そーいう堅苦しい服来て、ここに来れないだろ。ないわけじゃねぇけど」
「ははは、ま。そーだね。家にも行かないでって……この後、どうする?お昼だけど、どこかまた食べに行く?」
「そーだな。そーしよう。金はあるし、色々と話したいことあるし。住まいとかも」
「エロ本は片付けてね。私、あーいうの嫌いだから」
「わ、分かりました……」
どうして、やっぱり、
「家だけど、最初はアパートで。行く行くは一軒家!あるいは、デカイマンション入ってさ」
「一緒に家電や家具選びをやりたいなぁ。車も買って、一緒にドライブしたい」
「車!……仕事でするけど」
「車も買っちゃおう。だって、買い物沢山したいしー、仕事に行くのも楽だし」
「……そうだな!それくらいできなきゃな!」
美癒ぴーが好きだって、言えるのには話しやすいからだ。年もそこまで離れてない。聞き手にも話し手にもなれる。会話ってことは良いことあるし、悪いこともある。
だから、良い会話ができる人と一緒になりたい。
「デッカイ冷蔵庫と洗濯機は外せないね。予算は……」
「溜めた俺の貯金を切り崩す!美癒ぴーはそんな心配しなくていい!」
「いや、それは私も少し」
「俺はそんなに家事できない!家事をしてくれる美癒ぴーのためなら、冷蔵庫や洗濯機。それから働くことまで!やってやるさ!」
家事って、生活の上では本当に必要なのだ。
そーいう意味では子供の時から"整理整頓"という授業を取り組むのが、いい気がする。
「家も借りて、車も買って、その他諸々……高いよ?大丈夫?」
「じゃあ、あとで銀行に行こう!飯食べたら行こう!貯金残高見て!俺は……恥ずかしながら、金を使う暇があんまりありませんでした!」
「うわぁ~、働いているとそれキッツイよねぇ」
「だよな。いや、その………兵多と夏目さんみたいに。旅行とか……、なかったから。1人でぶらーりするにしても、タクシー会社だしよ。行く気もそんなになくて」
「…………ごめん、目が嘘ついているように見える。旅行はしたいけど」
「え?」
「貯金はしてると思うよ。でも、お金は使ってたんじゃない?ねぇ?」
「……………まぁ、多少」
「多少?」
「風俗とかで使ってました」
「ですよね~、男だもんねぇ~」
隠し事するのは大変だな。こりゃ……
「でも、あれだ!美癒ぴーと出会ってからいってない!」
「別に責めてないよ」
ちょっと変な言い方で、赤らめている美癒ぴー。
「1人は悲しいもんね。色々と」
「止めてくんない?その言い方は突き刺さるなぁー」
まったく、スポーツ観戦という熱気の声とスポーツの音が多い中で、こんなまったりとした生活の話だ。ホントに、デートしてる感じがしねぇ。ドギマギ感が明後日の方向に行ってやがる。
そこからの話は本来、もっと先でする事であったが、もう私達は決めましたって感じ。ちょっと先の、家の話をしていた。
◇ ◇
コポポポポポポ
日野っちと美癒ぴーがデートをしている間のこと。
とある喫茶店に訪れていた一人の女性。
駐車場には、タクシーが一台。アッシ社長が車内で整理整頓と掃除をしていた。
お客様を1人、ここに運んでいたところだった。
「君が来てくれたのは嬉しいことだ」
アシズムは作ったコーヒーを彼女に差し出した。オレンジ色のドレスを纏った、読書をする艶やかな女性。清潔に扱いたいがため、透明な手袋を填め、ページを捲る。
「裏切京子が来ましたわ」
「うん。君を引き入れたいからね」
「随分と説得されましたわ。たかが一つの星のこと、あなたは随分と肩入れしているようですわね」
「色々とある星だからねぇ。それは不思議でもないだろう?故郷を懐かしむのと、同じくらいにさ」
「…………ふむ」
彼女はコーヒーを一口飲んで
「とはいえ、部外者である私に協力してもらいたいとは、不快でもあるかと」
「そーいう意見も、君の場合はあるね。ラスト・ララチェールさん」
言葉で不快といっても、冷静さ際立つポーカーフェイス。動じぬ心で、アシズムに傷口を抉られても
「でも、部外者は失礼だろう。君は自分の故郷を、"自分で壊した者"。私達の気持ちが理解できないわけでもない。火事や地震を経て、消防士や医者を目指す人間がいるようにね」
ほんの一瞬。フラッシュバックというものが、故郷の惨状を脳裏に示した。通ってきた現実、人生だから、音も匂いも、確かに……。だから、なに?
「……失礼でしたわね。分かりますわよ。ただ、いくら神様のあなたが、古来の人間である私を遊ぶことに不快を感じて宜しき事でしょう?ねぇ」
「君とは戦争になるから暴れないで、まったく……」
仲間意識というものでもないし、共通の意志があるわけでもない。
圧倒的に強いから来た。圧倒的に強いからやらねばならぬこと。つまりはそーいう人材が、彼女。ラスト・ララチェールである。
「あなたの部下。広嶋健吾と藤砂空はいないのね。2人の噂は聞いてますわよ」
「広嶋くんはまだ地球にいるけど、藤砂くんは戦闘狂の"閻魔大王"さんの討伐を依頼した」
「へぇ。それは随分な大物を、任される部下がいるのですね」
「……それと2人は部下ってわけではないよ。仲間とも違うかな。共通の、……友達?利害の一致?」
「別にちゃんとした言葉にしなくても宜しいわよ。アシズムの場合」
それなりにではあるが、アシズムの状況を裏切からも聞いていることもあって
「……未曾有なレベルでの戦争となるのは承知しております」
「うん」
「私にあなた……広嶋、藤砂、……あと4人か5人?それだけの」
単独で、世界や星をぶっ壊せる人間を集めていてもなお、
「足りないと?いえ、武装に制限を求めるのは愚かでありますが。それでも、戦況は変わらぬと感じるということがですね」
「数と情報、情勢は不利だからね。ミムラちゃんやのんちゃん以外にも、もちろん。ララチェールさん以外にもあと2人。協力を願っている2人がいる」
「……相手はそれほどと?ふふ……」
「君とミムラちゃん、のんちゃん、裏切ちゃんの4人は"戦争向き"の実力者。藤砂くんと灯ちゃんは"戦闘向き"。両方は私と広嶋くんかな」
「あなたは一度も戦ったことないでしょ?」
「それは言わない」
言いたいことが色々ズレたが、とりあえず。分かっているよ。
「私も君も、まだ知らない、人の力があるものだ。さっき言った、"戦争"と"戦闘"は意味が違う。"星"を持つ、あなたの"戦争"は確かに凄いが、"戦闘"においては酷く脆い」
簡単に言えば、接近戦と遠距離戦といったものか。
とにもかくにも、破壊に特化し過ぎるララチェールの能力は、戦争以外にはほぼ不向き。
強いには変わりないことであるが、アシズムが求めている者とはやや違ってはいる。
「準備は滞りなく致しますわ」
「そ」
「久しぶりに住むのも良いでしょう。本を集めたいですし。以前の仕事を引き受けましょう」
◇ ◇
バァァンッ ブロロロロロ
「あなたが動いた事は、近いんですか?」
「そのようね」
「私は静かに暮らしたいんですけど」
「遺伝子のように絶やしてはならないことよ」
アッシ社長はララチェールを乗せて発進。向かう先はララチェールがこれから再び経営を始める、とある仕事の、本社。
地球での表の顔。とってもちっぽけで、全てに知られることでもない。
街中を通り過ぎる、歩行者達と変わらないこと。
アッシ社長達と特に変わりないこと。
平凡という、ちょっと悪い言い方よりも、平穏が心の安らぎ。
それが全てというわけではないが、懸命さを仕事に出しても良いことだろう。使命も、仕事も、特別に差はないし。
キキキィッ
随分と使っていないから埃が溜まってそうなお店であった。『閉店しました』の札は、斜めに傾いている。
ララチェールはタクシーから降り、シャッターを上げた。舞った埃を煙そうな顔で払い、ドアを開けた。綺麗に掃除してから店を出払ったが、長い年月のせいで暗い印象が拭えない。
電気も切られており、日の光だけど頼りだった。
「お掃除、手伝いましょうか?」
「余計なお世話ですわ」
勝手に入って来たアッシ社長にも、嫌悪を示す。汚い店に招待してしまった恥ずかしさ的なものがあった。
「トランクの荷物出しはしますね」
「それは運転手の仕事でしょう。して、ドレスから着替えるので」
トランクの中に蠢く"収納液"から、次々にララチェールの荷物を取り出していく。それは一台のトラックにでも詰め込んでいたくらいの量。
「ほとんど創作の本じゃないですか」
「読書が趣味ですわ」
「まともな創作がないのに?」
「人の恥ずかしさを眺めるのが趣味なの」
「嫌な人ですね」
アッシ社長は墨汁のような容器を差し出す。中に詰まった液体が、"収納液"の能力である。
この能力はすぐに必要でない物を収めるのには丁度良い。アッシ社長の"実用化"のおかげで、手軽に読書が楽しめる。
「そうそう。この指輪を貸しますよ」
「なにかしら、これ?」
「ウチの従業員の1人を"実用化"したもので、かなりお掃除や料理、洗濯が捗りますよ」
「ふーん……面白そうね。填めるだけでいいのね?」
さらに美癒ぴーの家事スキルを身につける指輪までプレゼント。
能力があまりにも戦争特化のララチェールに反して、生活支援に特化するアッシ社長の能力。
「ストレス解消。安眠を約束する枕も貸します(トーコ様の能力の一つです)」
「随分と支援してくれるのね」
「それはあなたを怒らせたら一大事ですから」
「そんなにキレやすいかしら?……いえ、私が戦ったら危ないという事ね。委細承知」
「可愛くないですね」
嫌味というか、皮肉というか。
戦えないものがやれる事の精一杯だろう。先ほど言っていた武力云々は、本当に生きる上で必要なこと。強き者に従うは悪でもない。弱者が美徳されるなど、許されてはいけないと思う。
戦争を促す者達に賛成という形でもあるかもしれない。人は、強く、発展、貢献を続けなければいけない。
もっとも、アッシ社長の考えは貢献に重点がある。貢献してこそ、得た生活を楽しむ。
人には人の生き方があり、レベルの違い、住んでいる場所の違い。あって当たり前で生き抜こうという姿勢のまま、人生を終えようって。そんな価値が良い。それでいい。
不満を持ち続け、不満をぶちまけて生きるより、楽しんで、楽しみを広げる生き方が良い。それに理解が少なくても、0でも構わないことだろう。
だから、それはララチェールには遠いこと……。
またいつ死ぬか。また、いつ仲間と思える人を殺すか。壊すか。
恨まないで、悲しまないでと。
「あいにく持ち合わせてないわよ。戦争になったら、ヤルわ」
「星を操作、生成する能力を容易く使われたら、日本どころか地球が壊れます。人嫌いなあなたが、働いてキレたところを想像したら、眠れませんよ」
「失礼ね。ホント……まぁいいですわ」
ララチェールのこのお店。
もうすぐに、日野っちと美癒ぴーが訪れることとなる。まだちょっと先のこと。
必要とされるべき仕事はいくつもある。むしろない仕事を探すのが大変だろう。
◇ ◇
「ナイスゲーム」
バスケの試合は終わった。
「兄貴、良い試合だったね!」
「勝った勝った!」
喜ぶまだ子供の男女。弟と妹。しかし、賞賛の声には
「まだ一勝。まだ終わりじゃない」
意識高く、一つの勝利に喜びはしゃがない。流した汗をタオルで拭き、応援席の声援にも応える男。この人が日野っちの兄貴であり、弟と妹も、日野っちの一族である。
圧倒した勝ちではなく、僅差のゲームを拾った好ゲーム。
好ゲームで勝ちを得るには、タフな精神力と積み重ねた練習が決める。熱く、冷静に、厳しい場面で自分を出すこと。
スポーツならではの一面だろう。
父と共にバスケの道を走り、今。その通過点に近いところまで来ていた。
「行く行くはNBA」
日本を飛び出し、世界へ行く。アスリートならその限界に向かうのが、夢であり、目標でもあろう。
「……そういえば、来ると言っていたんだろう?」
「うん。会場には来ていたみたいだけど」
「まだ見てないね」
兄も、日野っちがここにやってくることを弟達から聞いていた。なんのことだろうと、思っていたところであり、
「伝えたい事はこちらもあったんだ」
自分がもうすぐ、外国でプレイすること。当分は会わないだろうと、今もそう会っていないけれど、特別な別れを告げようと思っていたとこ
「なんの話だ?」
「あ、親父………」
「な、な、なんでもない!」
「うんうん!お父さん関係ない!」
「?なんだ一体……」
そして、日野っちの父親。スポーツ鬼軍曹みたいな親父さん。その人は日野っちがここに来ていることを知らない。当然であるが、……元妻の不倫相手の子が日野っちなのだ。抱く感情は怒りばかりだろう。出来損ない。
しかし、血は繋がってなくても、育てられた父親であるのには違いない。
まだワイワイと会場が、好ゲームの余韻に浸っていた。
選手控え室の廊下のところに、家族の前にその2人が現れた。
「孝紀、小春」
日野っちは、弟と妹の名前を呼ぶことに抵抗はなかったが……
「戒兄ぃ、……親父……」
さすがに、苦のある2人には声が詰まっていた。緊張っつーより、嫌な思い出の対象。
そんな日野っちに『頑張って』と、エールして手を繋いであげる。
「!おっ……」
日野っちの兄。戒は、気付いたし
「来たー!」
「久しぶりー!…って……」
弟の孝紀、妹の小春。血が繫がってなくても、元家族の2人も気付く。
「!……!?お、お前は……」
「会いたくねぇのは同じだ」
親父も動揺を見せながら、怒りのような表情を見た。
破門を言った男、破門された男。それを見守っていた者達。知らない者……。
「あんた達に会いに来たのは、これが最後だからだ!」
日野っちの気持ち。今まで、別れていながら家族という形式にしちまったもん。
「俺はここにいる、新島」
付き合う人。将来を共にする人、それを伝えて終わろうとするその瞬間。
「美癒とお付き合いする!……だから、」
別れた弟を心配していた兄でもあり、その弟や妹だって心配していた。その心配は杞憂と示すように手を繋いだ、彼女。美癒ぴーを紹介してしまう日野っち。
「もう会わないし、気にもかけんな!」
突っぱねる。惜しいこともあるけれど、俺は元気ですよって言っておいた。大事な人と出会えたことも伝えた。混乱もあるだろう。急に、義理の息子の彼女を紹介されて何を言えばって、感じ。だが、
「なんだとーー!?」
「え?」
「え?」
「え?」
日野っちの紹介が、あまりに突飛だったこと。
親父が怒りと膠着の狭間で止まっていたこと。
美癒ぴーだって、言葉を使って伝えるより、緊張した顔が出ていれば何も言わんのは当然。
しかし、全員の体がビクンッと驚き揺れる声を挙げたのは
「お、お、お前に彼女ができただと!?」
なんと、日野っちの兄。戒であった……。
試合中ではクールな顔して、熱いバスケをしていた彼が、一つの人間関係を見せられてすぐさま動揺。確かに隣にいるのは女性だ。かなり可愛い子。タイプである。
「……………」
全員、一瞬。沈黙……。
「あ、兄貴?」
「……ちょっといいか。隣の可愛い人は?どーいう人なんだい」
戒兄ぃ、動揺した声を反省してから、再度確認する。全員、その人の声に驚いていた。美癒ぴーはちょっと、恐縮しながら
「あの。そのですね……私が、彼女です。新島美癒と申します。お兄様」
動揺した空気に便乗する形で、これからのことを日野っちは軽く説明する。
「そうなんだ。まだ付き合ってそんなに長くないけど、一緒に住もうって事で……。もう、そっちと関わらないし、関わらないでくれ。嫌いなのはお互い様だろ」
それはつまり、その可愛い人と同棲ということか。この幸せもんが!?
「お前の顔を見るとだな」
自分の長男の、突然の声に驚いていて一歩出遅れた形で、親父は怒ろうとした。ムカついたのだ。しかし、それを阻止したのは。偶然なのだが……
「お前に彼女ができるのかよ!?俺、バスケ一筋だったんだぞ!傍に親父ありきだ!!」
「え?」
会話が噛み合わないというか、進まない……。またしても、兄の声に皆が止まる。日野っちはなにかこう、知っている感じに諌める。
「お、お、落ち着け。戒兄ぃ」
「落ち着いているぞ!落ち着いているが!弟に彼女ができたと聞いても、ど、ど、動揺してない兄だよ!」
そりゃ傍に、厳しい親父が四六時中ついていたら、女が寄って来ないもんな。
高校生ぐらいになってそれを俺に愚痴っていたよな。自由なのは不便だけど、不自由過ぎるのも辛いよな。バランスが人生だ。
そんな気持ちを察するよりもだ。
「俺は、戒兄ぃ達からすれば、不幸もんかもしれねぇ!」
だから、心配をかけられる。だが、
「でも、人には人の価値がある!兄より先に彼女ができて悪いけど!」
「余計なこと言うな!」
「悪ぃ。まー、その……」
引き返さない未来だって、幸せだって、迷わずに吼えてやる。
「美癒の笑顔と幸せが!今の俺の笑顔と幸せだーー!これから楽しく生きてやるからな!!」
「!」
家族に吼えた瞬間。日野っちは、恥ずかしいくらい赤い顔して、私の手を引っ張って走っていく。?私のこと?……たぶん、日野っちと同じだったと思う。
「えーーー!?行っちゃったよ!」
「言い逃げーー!?」
兄の行動に驚き、ポカンとしている間に。逃避行みたいな感じで行ってしまう2人。弟と妹は驚きばかり残ることだろう。これが義理の兄の行動なのだから。
「……ふん。一般人には一般人の人間が必要なんだろう」
なんとも正しいお言葉を吐く親父であるが。
唯一、実の弟である兄は、プルプルと拳を震わせて思っていた事を吐く。
「友達できても、……男ばっかだし……彼女欲しいし、彼女欲しいし」
「……戒よ」
「相応しい人って、親父が決めるじゃねぇか。この前もできかけたのに……」
「お前は日本バスケ会の顔になる男だ!パートナーはしっかりと選ぶべきでな」
「いや!そうじゃねぇ!そう拘ってると、結婚できねぇだろ!?」
「したいのか?そんなに」
「したくない男がどこにいる!?そんな男は、男じゃねぇよ!女も、女じゃねぇよ!!そもそも、親が言うな!」
血の繫がりか。兄弟似ていて、女性の好みは奇しくも同じであった。かなりストライクであった。それを実の弟に獲られるという、そんな光景に思えてしょうがなかった。
バスケ一筋。練習を積み重ねても、得られなかった女性との出会い。プロ選手になったからって、絶対結婚できるわけではない。ただ
「結婚が全てのゴールか?」
「それは違う!違うが、重要な人生のイベントだろうが!!一日、一緒にいる女性ってのは、家族並だろうが!家族と会うってことだ!」
ガクンと、両膝を床につける兄。
「バスケは好きさ!でも、苦しいこともある!その苦しさに、手を差し伸べる……彼女が欲しい!」
「父じゃダメか」
「それは高校生で終わらせてくれ!!」
どれくらい、日野っちと年齢が離れているか。
それは彼の落ち込み具合を察すれば、残りチャンスはそう多くない年齢ということだろう。
「兄貴。渡米の話しないで、行っちゃったよ」
「そんなことより忘れ物をしていた。新しい奥さんを見つけるという、男の仕事を……」
「渡米先で見つけるのはどうだ!?外国の女性は随分と体躯が良いからな、良い子供ができる」
父親がそーいう基準だから、子供に好かれないんだよねぇ……。




