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VALENZ TAXI  作者: 孤独
転職編
92/100

デートをすっ飛ばして


「美癒ぴー!」

「は、はい!」



仕事が終わった美癒ぴーと、休みのところから会社にやってきた日野っち。


アッシ社長はご不在で、長ソファーにて眠っているトーコ様。

お菓子作りと夕御飯の準備をしているN_MH。マジメちゃんとキュー子はオセロをしている。


事務所にこんなに人がいると伝え辛い。全員、無言なのが余計に耳を尖らせていると思うとだ。


「ちょっと、時間良いか。下で話そう」

「うん。あ、あの」

「なんだ?」

「帰ってきたばかりだから、シャワー先で良い?少し待ってて、夕飯も食べるでしょ」

「は、はい。ご馳走になります」


そんなわけで美癒ぴーは更衣室に行ってしまう。長ソファーをトーコ様が占領。他の椅子はキュー子とマジメちゃんが……。アッシ社長の席は空いているが、座るのは恐ろしいと思うので、凄く暗い顔で立ち尽くす日野っち。



「あの、日野っち」

「なんだ、マジメちゃん」

「相手は美癒ぴーです。大丈夫ですよ!デートに誘うんでしょう?」

「え!?そうなんですか?日野っちが美癒ぴーとデートできるんですか?」


できると思っているマジメちゃんと、できないと思っているキュー子。同時に言われると、不安が一掃強まる。


「止めてくれ。悪い事言われると、心臓が……」

「不吉なことを考えず、言えば大丈夫ですよ」

「ホントに?」

「止めてくれ、キュー子ちゃん。気を遣ってくれるのは嬉しいけど」



落ち込んでいる日野っちにお菓子を差し出したのは、N_MHだ。


「元気出してください」

「まだ告白……じゃない!誘ってないから!挑戦してないから!やるからさ!俺はやるよ!」

「…………そうですか」

「その間はなに!?」


からかわれている雰囲気。これだから、職場恋愛ってのは……。

離れるべきだし、回りに迷惑だ。一緒に自営業ってわけでもねぇし。夫婦のタクシーなんて想像したくねぇ。まったく、それに。デート……よりももっとな事だ。俺にとっては。


アッシ社長はどっか行っちまったらしいが、


「邪なことを……まさか」

「タクシーの中に引き込んで……」

「いえ、アッシ社長もいませんし。この夜……」

「煽るな!ちげぇから!ずっと前に約束していたことだ!別にねぇよ!あー、分かった!凄く分かった!俺、この中でとかいう枠どころじゃなく。お前等を女としては付き合えん!!相性が合わないってよく分かったよ!!」


ちょっと貶しているけど、そーいう気持ちを出してもらって結構幸せなこと。

彼女達からの応援。ま、すぐに決まることさって、思っているのだ。



気持ちは合うのだ。ただ、これから深くとなったら2人だけのもんじゃない。平和や幸せで作られる家庭や生活を望むなら、壊れて産んだものにしたくない。

日野っちの過去を知らない3人だし、美癒ぴーだって知らない。アッシ社長がちょっと分かるくらい。いないのが少し悔やまれる。



「下で待ってるから。もし、事務所に来たら伝えてくれ」

「更衣室で待つのは反則ですよ!」

「覗き?」

「人をそーいう風に言うな!なんで、俺とアッシ社長の扱いが違うんだ!」

「それはアッシ社長がいつも机で仕事してるからです。ブラブラできる日野っちは、怪しまれます」



事務所で伝えるのはもう止めよう。



◇      ◇



「お待たせ」

「ああ」

「話って、アレだよね。以前言っていた、"チケット"がどうたらで」

「それだ。覚えてくれて良かった」


シャワーを浴びて、私服姿の美癒ぴーと駐車場のところで話す。

辺りには何もない。事務所の明かりが点いているから、みんなはそこにいるんだろう。


日野っちはポケットに入れているチケットを取り出す前に、伝える


「唐突なんだが」

「……うん」



ドクンドクンって胸が弾むところ、聞こえてしまう。だけど、聞いて欲しいのは


「美癒が好きだ!俺は新島美癒にいじまみゆが好きだ!」


ポカーンってなりそうな、どストレートだったけど。それをゆっくりと、二乗されるドキドキ。随分待ったよって、赤らめた顔で


「わ、私も、……ひ、日野っちが」


という雰囲気。美癒ぴー、まだ。日野っちのことがあんまり分かっていないけれど、それしかないからって気持ちだった。その時。


「だから!美癒!俺の、……家族を見てくれないか!」

「……はい?」

「俺、美癒ぴーの家族には会ったことあるんだ」


それは以前、母親から聞いていた。父は日野っちの事を、興味に抱いていなかったけれど。眼中にないみたいな。


「でも、美癒ぴーは俺の家族に会ったことないだろ?」


……なんか急に美癒ぴーになったのはなぜ?


「付き合いをするなら、こうお互いのことはもっと知るべきだろ。いや……」

「そうだけど。そうだけど」


と、ともかく。確かに日野っちの家族って一体どんな?それは付き合う上では必要なことだけど、まだ先でもいいんじゃ?

だが、とんでもない爆弾。むしろ、好きよりも驚くこと。


「俺ともう同棲しないか!付き合う!好きだから!だったらもう、一つ屋根の下で暮らそう!結婚を前程とした同棲!家族を知らないとできねぇだろ?」


…………


美癒ぴー。緩急を織り交ぜられた、日野っちの言葉に色々と必要な事が飛んでしまった。だが、


「俺の家族に会えば、俺のことも分かる。俺が流れ者のままじゃ、お互い良くないだろ」

「ちょっとおっぱいフェチなのは知ってる」

「そ、それは男として普通なの!それとは違うぞ。……もし、そんなことはないと思うから、美癒ぴーに会って欲しいんだ。イヤに思ったら、俺の事なんか忘れてくれ!ただ、俺は美癒ぴーに自分を伝えたい!付き合ってくれと強制してるわけでもない!お互い、思い合っていきたいんだ!」


なんだろ。

確かに色々なことがあると思う。アッシ社長、トーコ様、ガンモ助さんなどを見て来たから分かる。人が言い辛い秘密。しかし、それを打ち明けられる人になったというのは、認めてくれるという好意かな。

知らないと確かに……名前も聞くべきじゃないかも。忘れて欲しいなんて、そーいう家族なの?



「次の休みにでも行けるか?」

「予定は入れてないよ。で、どこに?」



その場所。日野っちは"チケット"を渡して伝える。



「国立競技場だ」


その"チケット"が記していた、スポーツ名は……明らかに日野っちには無縁そうなものであった。



◇        ◇



「じゃ、行ってらっしゃ~い」

「ありがとう。トーコ様」

「見送りどうも」


お互い、休みの日。トーコ様に国立競技場まで運んでもらった日野っちと美癒ぴー。凄く大きなスポーツ会場である。

そういえば、日野っちがスポーツ観戦を趣味にしていたのを思い浮かべた美癒ぴー。あれはただの飜ではなかったのかと、この日まで驚き眺めていた。


「デートっぽくねぇよな」

「そうだね。だって、日野っちの家族に会うんだよね?顔合わせって、デートより進んでるじゃん」

「そりゃそうだ」


日野っちに連れられて向かう先。音が響いてくる大きな総合体育館。横を見れば横断幕を抱えた大人やら応援担当の人。あるいは選手のお友達など……。

日野っちからもらった"チケット"を改めて見て、今。尋ねる。


「バスケットを観に行くの?ここに日野っちの親がいるの」

「正確には親父と兄貴だ。弟には連絡取れたから、会えると思う」


日野っち、背が低いのにバスケを見るんだ。漫画であるけど、やっぱりそれはその……。厳しい言い方だけどさ。難しくない?

でも、スポーツ一家って事かな?トーコ様や灯さんとかを見た後だと、怖さも凄さも半減しちゃうなぁ。


会場に入っていく2人。周りからはカップルっぽく見られているんだろうか。だけど、日野っちの表情がやっぱり険しい。会いたくないって顔。そーいう家庭もあるんだって思い、初めてそんな家庭と交流するのかと、美癒ぴーも緊張してくる。


プロのバスケットリーグ。今は試合が始まる前に、盛り上げをするチアの方々や売り子の人達が仕事をしている時だった。

美癒ぴーはこーいうところに来た経験はあんまりない。スポーツはそこまで興味なかったため、ちょっといろんなところに視線をやっていた。一方で日野っちは自分の家族……父親と兄貴がそこにいたのを見て、嫌な顔になった。直接、今日会えるわけねぇって思う。


ぶっちゃけ、話だけして。美癒ぴーの気持ちを知りたいだけ。それで嫌いになってもいい、好きでいてくれるのならハッピーエンドさ。


「……2人は来てないか。まだ」

「え?」

「いいや、試合が始まってからじゃ、迷惑だから率直に言うわ」


隣に座る日野っちは、少し震えた手を伸ばして、指さした。



「あっちのチームの鬼軍曹みたいな黒ネクタイスーツの髭監督と、一番背が高いゼッケン4番を着けた男がいるだろ」

「……うん。いるね」

「あれが俺の父親と兄貴だ」



……え?


「ごめん」


一瞬、言われて日野っちを見た。座高でも私が勝ってしまう。かなり日野っちは背が低いのだ。日野っち自身が意識してるほど、背は低い。可愛いのに……。だが、



「あの怖そうな髭監督さんと、ゼッケン4番の背の高くて、カッコイイ体型した人が、日野っちのお兄さん?」

「色々気持ちは分かるが、……そうだ」


監督さんも結構大きい。180cm代。それでお兄さんと呼ばれる人は2mくらいありそう。外国人選手と並んだ大きさがある……だけど、


「兄弟!?え!?」

「事実なんだよ。気持ちは分かる。俺だってそうだった。トーコ様とマジメちゃんって感じに思ってくれよ」


傷つけた事を言ってしまうが、マジで信じられないという体格の差がある。しかし、父の方はともかく。兄と呼ばれる人の顔。どことなく、日野っちと似ている。試合が始まるからか、凄く集中した顔に熱意も含んだあの顔。

重なったのは、美癒ぴーを助けたときの日野っちの表情と似ていた気がする。


日野っちは自分の事を伝えた。



「俺の家族は、今から15年前ぐらいまでは、父、母、兄、俺の4人家族だった。父はあの見てくれ通り、バリバリのスポーツマン。母もスポーツに携わっていた。両親は共に背も体格にも恵まれていた」


スポーツ一家らしい事かもしれないが、幼少の頃から体を鍛える生活だった。父がバスケット選手の影響で、兄と俺も小学前にバスケットをやらされた。その時は全然、イヤに思っていなかった。むしろ、好きなぐらいだ。縦横無尽にボール動かして、ディフェンス抜いてシュートを決めまくった時はサイコーに楽しかった。



「だが、俺の限界はそこまでだった」

「もしかして」

「うん。背も体格も、兄とは違い過ぎて勝負にならなかった。次第に優劣がハッキリして、兄だけじゃなく、他の奴にも俺は負けるようになった。必死にドリブル磨いて、パスも工夫して、シュート練習もした。だけど、」


結局、体格で優っていて、ドリブルできて、パスもできて、シュートもできて……おまけにリーダーシップもある兄貴に勝てなかった。

いや、兄貴どころか。他の奴にも中学生頃から勝てなくなった。


「それがバスケっていうか、スポーツの世界さ。誰だってできる事とは違う」

「厳しい世界だね」

「まぁ、な。それでも今、戦っている兄貴がすげーと思う。兄貴の事は尊敬してるんだ」


羨ましいが多いけど


「美癒ぴーも不思議に思ってるだろ。あんなデカイ奴が俺の兄貴だなんて」

「それはそうだよ。ビックリするよ!信じられないし」

「……実は、暗い話なんだがな。信じられないと思ったのは、父親もそうだった。だから、父親は調べたんだよ」

「え?」

「俺のDNAというか、血液というか。俺も兄貴も母親似の顔で分かり辛かったんだがな。俺は調べると、父親の血を引いていない事が分かった」



真相、母親が不倫した男の子供が俺だった。ってわけ



「母親は子供が好きだったから、最初は良かったんだろうけど。父のように自分で育てたい子が欲しかったんだ。それが俺……だけど、やり方が不味かったし、長い間秘密にしていたせいでバレたら大喧嘩。離婚、しまいに母親に。俺が"女だったら良かった"と言って、どっかに行った。ガキの頃は、俺を甘やかしてくれたんだけどな」



自分で育てたいものがある。それは家族の心理としてあることだろう。でも、日野っちはその負の要素が大きく詰まったわけなんだね。



「父親は俺のことを邪魔者だの、出来損ないなど、散々言ってきた。兄が成功していく中で弟が使えなかったらな。それと重ねてまた別の人と再婚。弟と妹を作って、6人家族……と思わせておいて、中学卒業の年になったら、父親は俺を追い出した」

「こ、高校行ってないの!?」

「いや、奨学金制度での入学。バイトしながらの学校生活だったよ。無論、馬鹿のままだったけど」


なんていうか、思っていた以上に日野っちの昔が重いんですけど……。私の家族がとっても恵まれているって節に思った。


「父親が俺を追い出したのは、今の弟と妹のためだな。こんな出来損ないが家族にいたら、目の上のタンコブだ」

「いやでも……それって……」

「気にするな。確かに家には追い出されて以来、行っていなかったが。今でも弟と妹に交流があるんだ。兄貴からのツテだけど、兄妹4人で食事もしたし。お年玉もあげてたしよ」


お兄さん、超良い人!日野っちもだけど、凄いぐう聖!

家族がバラバラになっているのに、兄弟仲はそんなに悪くないんだ。私にもお姉ちゃんいるから良いことの方が多いと思っているけど。


「兄妹だけど、血縁では義理だ。友達みたいな扱いだよ」



◇      ◇



「ただいま~、戻ったよ~」

「トーコ様」

「お姉ちゃん!」


その頃、トーコ様は会社に戻ってきた。日野っちと美癒ぴーをお客様として扱っての仕事。ハイヤーをやり終えたこと。


「じゃ~、もう一眠りするね~。アッシ社長いないし~。来たら起こして~」

「お姉ちゃん、美癒ぴーと日野っちのデートはどうだった?」

「上手くいってました?」

「え~?」


トーコ様は自分専用の携帯枕を抱え、さぁ寝ようという時に、その事実を聞いて……


「あの2人デートだったの!?」

「いや、お姉ちゃん……」

「バレバレだったじゃないですか……」

「疎いです。人として……疎い」


そんな感じがまったく分かっていなかったトーコ様に、ちょっと呆れてしまうマジメちゃん達であった。コント的なことをしていたら、空からやってくるものがあった。



ゴゴゴゴゴゴゴ


「ん?」

「眩しい……」



強烈に光る何かがやってくる。この会社に目掛けて……



「あの、結界を壊したりはしないでくださいね」

「そんな脆弱な結界など使っているからですわ」


アッシ社長とタクシー。そして、後部座席にいるオレンジ色のドレスで、本を読みふけている美女の姿。しかし、そんなものより。特筆すべきというか……その。


「あなたがまた、地球にやってくると聞いた時は驚きましたよ」

「またそれ?山口や蓮山も言うかしらね」


なんかと一緒に、急速に落ちて、やってくる。



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