仕事をする意味は生きるためで、じゃーなんで生きるかはお前が決めろって話になる
治らない事はある。車と違い、人は変えるという事ができない事にある。
でも、続けて生きていく。それが命の責任。
いずれ、死ぬものだから。壊れるものだから。
漆木は立ち向かう事を決意し、タクシーを借りて、復讐するべき相手がいる場所。アメリカへと行く。ただの旅行では、決してつけない。辿り着けないところに相手がいるからだ。
「お待ちしておりました」
「ふん」
出迎えてくれたのは、この前会った2人。ギーニと光一だ。
「はっはっはっ、私の方こそ申し訳ない」
「許可、護衛の方は整っております。中の事は、私共は関与致しません」
「イカレた野郎だ。買って出てやるよ。父親代表って事でな」
かなり危険なところにいる相手。そこに入る許可をギーニから、そこまでの護衛を光一が担当する。
娘のためにと、復讐するべき相手とはそこに捕まっている。
2人を乗せて車は進み、話も進んだ。
「捕まっている野郎を殺しに行くなんて、正気じゃねぇ」
「そうか?また出てくる可能性もあっては危険だ(建前だが)」
「そーいうところが良い。執念ってのは重要で、熱いもんがある」
「男の会話などどーでも良いです」
話を切って、ギーニは漆木に内部への入所許可証と、相手の詳細な情報を手渡した。
漆木と光一が行く先はアメリカでも、鉄壁と称される監獄。その中の囚人に会いに行くのだ。
「元軍人、ウォーニー・マッカソン。アメリカ陸軍に入るも、素行不良が目立ち、様々な部隊を異動。日本にも度々、軍人として訪れていたそうね」
ギーニの詳細は、やはり漆木が手にしているものよりも明確で、正しいものであった。
「自由奔放に動く彼を、軍は追放。かつ投獄という形で身動きを止めた。おそらく、二度と出ないでしょう。今の彼がどのようになっているか、分かる限りでは変わらずと聞きます」
無期限謹慎処分。早い話がほぼ終身刑といったところだ。そんな人間を殺しに行く。
「面倒くせぇぞ、ギーニ」
「むっ」
「ともかく、もうその監獄まで見えてきている。俺とこいつで入ってそれで終いだ。面倒なのはどうでも良いだろ」
光一が外から見る監獄の厳重ぶりを見て、イカレたところだとは分かっている。そして、そこに乗り込む気でいるコイツもイカレている。
一世一代の、勝負にしちゃあ派手過ぎるものだ。
「ん?」
「どうしたの、光一」
「……いや、気のせいだろ」
「…………うむ」
車は進んでいく。その少し後ろで追いかける車が一台。目に見えなかったことで、気のせいと漆木と光一は判断した。そういう5分程度の判断。
「この距離がベストでしょう。見守るだけですよ(気付かれたっぽいですが)」
後ろの車に乗っていたのは、アッシ社長と。
「見守るって!助けるんじゃないのか!?」
日野っち。その2人。"幽霊車"で後ろをついてきたのであった。
「手助けなどする必要はないです。もう止まらない」
「いや!アッシ社長は納得したのか!?」
「納得ですか。してませんよ。しかし、人生は人のものです。見守るしか許しませんよ」
止められたらこんな日まで待ちません。そして、ここまでが私の案内。
「言いましたけど、日野っちはみんなの代表。見守るだけです」
◇ ◇
話は少し戻る。
福道達との旅行から終わって、日野っちはのんちゃんに直してもらった後、運転こそしたが魔法類は使わずに会社まで戻ってきた。
「ふーむっ、これはなんとも興味深い」
「直ってると言っていたが、少女に言われても信憑性ねぇだろ」
「でしょうね。しかし、私が見ると素晴らしいの一言ですね」
「凄い。連結部分まで、しっかりと再現されている」
アッシ社長やマジメちゃんからすれば、のんちゃんの修復技術はとんでもないものであったそうだ。
未知の領域というより、到達などできない差を感じた。時代の差を感じる。
整備と点検をする2人が揃って言うのだ。
「大丈夫でしょう。完璧に戻っていますよ」
「はい!」
マジかよ、という表情を出して納得した日野っち。
「それではお茶でもしますか」
小休止に入る一同は、いつも集まる事務所に足を運んだ。美癒ぴーは夏休みの続きで、ガンモ助さんは仕事中。トーコ様は仮眠室で爆睡中。N_MHはお菓子作りに励んでいる。
勤務中となっている日野っちがここにいるくらいが、今日の変わった事であった。
「着替えてきますね」
マジメちゃんは、整備で汚れた作業服を着替えに行き。
「失礼」
アッシ社長もしばし、寄り道をするのであった。日野っちが始めに事務所に戻ったら、
「ごめんなさーい!ケーキを運ぶの手伝ってください!」
「はいはい」
N_MHに雑用をお願いされる。自作ケーキをそれぞれの指定席に運んでいく日野っち。自分の席、マジメちゃんの席、N_MHの席。そして、アッシ社長の席。
普段ならまず行かない場所。アッシ社長が座っている姿くらいしか、見た事ない場所で
「ん?」
日野っちは見つけてしまう。ケーキを置いて、その空いた手で漢字が大きく書かれた封筒をとった。
「辞職願い?」
その名に目がいってしまったのは、彼にとっては偶然や、悪い気持ちではないのだろう。
もうすぐ、決まりそうなこと。そのちょっと先でやられたという感じで、少し硬直した。
「あ」
ハンカチを手にとって、事務所に戻ってきたアッシ社長。日野っちが手に取った"辞職願い"を見てしまう。
N_MHは特に気にしないから、おそらく知らなかっただろうが。日野っちはそういかなかった。困った顔を見せずに、アッシ社長は事情を説明しようと思った。とりあえず、ケーキを食べながら
「いただきます」
マジメちゃんとN_MHは挨拶をしてから、ケーキを口に入れた。日野っち達と比べれば、ガンモ助さんの事をよく知らない。日野っちもそう変わらないと思っている。しかし、
「ガンモ助さんか、その字」
「ええ」
「……、俺が来る前からガンモ助さんはいた。興味はねぇ」
わけじゃねぇけど、
「急に辞めるなんて、なんだ?あの人だと物騒な気がするぜ」
なんだかんだで、日野っちから見ても生真面目な方であり。日ごろの謎の鍛錬。この間あった、一緒に喧嘩した時も随分と危ないところも覚えている。
ロクでもないことか、と願いたい気持ちだ。
自分は職を転々としているからか。意味のない転職と、意味有り気な転職の区別ができてしまう。
「個人情報は秘密にしたいんですが」
「辞める人間に個人情報もクソもねぇだろ」
仕事を辞める人。次頑張ってくださいと、エールを送る人もいれば、何辞めてんだチクショーめと、言われる事もあると思います。人がいなくなってすぐに補充が来るわけないので、後者の意見もご理解してください。
特に中堅クラスの人間がいなくなるというのは、大事です。
「一理ありますね」
ケーキを食べ、コーヒーを飲んで……。
「まぁ、気にしないでください」
「いや、言えよ!」
余計に日野っちを刺激したアッシ社長。それを返すように
「責任はあるもんですよ」
「!」
「美癒ぴーにも言いましたし、あなたにも言いましたね?」
『必ずしも知る事とは勇気ではないのです』
「脅しか」
「ですよ」
よく知らないN_MHとマジメちゃんは、呆然と聞きながら食べるしかなかった。辞めると聞いたが、本人はいない状況。聞いたら固まるのは当然だろう。
コーヒーをいつの間にか飲み干していて、驚いちゃうマジメちゃん。
「いいよ、聞いてやるよ」
「それは本人が望まないと思うんですが……」
美癒ぴーとトーコ様がいないのは幸いですね。
日野っちも大きく言ってこられません。
「辞めて、ガンモ助さんに良い事あんのか?就職先を決めてから辞めるタイプに見えるぞ」
「転職する方はそうでありたいものですね~」
「どこに行くかくらいは訊いてるんだろ?アッシ社長の立場なら止めるだろ」
「止めましたが、従業員にも人権はあります。私の会社なんで本人の自由です」
内々の事なんで、あまり口外するなと会社に言われますが。大事はすぐにバレます。
というか、人がいなくなるよって言われたらビビリますよ。それほどの人材なんですよってわけです。
「行き先は知りませんよ。本人、語ってないので」
「そんなわけあるか」
人の秘密を、他人から訊く。ちょっと悪い気もするのは、
「……分かりましたが、日野っちだけにしますよ。私は口を割りませんよ?」
と言いながら、話してしまうのはアッシ社長の口が軽いわけでも、自分にある変化でもない。そう言い切れる結末を分かっているから。
マジメちゃんがちょっと気にしている目を向けていたが、まぁ、聞かないだろう。むしろ、N_MHの方が平然とした振る舞いでいるから、企みも感じてしまう。日野っちみたいなタイプではない2人ですし
「明日、休みでしょう。私、仕事です。迎えに行きますよ」
安全策をとって、日野っちには教えましょうか。どのみち、後々響く予感がします。それに最後まで、見守ることは個人的にしたいものでした。
コトッ
N_MHがようやく、無理だと判断して料理本を読み始めた。そーして頂けると嬉しいと、アッシ社長は内心良く思っていた。
◇ ◇
復讐したいという気持ち。怨むという気持ち。人は、それで終わり、それで忘れていく。
一日、溜まるストレスの量が多いと、壊れる。
「どうぞ。お気をつけて」
「おう」
「……………」
看守達が着る服に着替えた、漆木と光一。これから監獄内を自由に動ける許可証を持って、侵入。ラブ・スプリングの権限を使って、手に入れた代物だ。
「すまない。あなたとはまだ少ししか会っていないのにここまで協力してもらって」
「気にすんな。俺はあんたほど、真っ当な父親をしてねぇ」
この山寺光一。山寺沙耶の父親であり、そーいう背景もあってこの護衛役を了承した。
「監獄ってのは閉じ込めているとこじゃねぇ。限られた自由が残る厄介なとこだ」
犯罪者とて人間。どんな犯罪をしてきたとしても、人らしい環境を最低限に与えやがる。牢獄に閉じ込められている時間はそこまで長くないし、学校みたいな環境になっていたりする。
「なんだぁ?」
「JAPじゃね?」
極悪で犯罪者という組み合わせの人間の巣窟だ。看守という偉い立場を持っていても、数では圧倒的に劣り、集団で行動する犯罪者達を止めるのは無理。罵倒や暴力を浴びせられるのも、日常。
新人イジメも当たり前、それは看守として潜入した二人も例外ではない。ちょっと日本人からしたら、大きな2人であるが、(光一の方が漆木より小さい)。2人を8人で囲む投獄者達。
「お前さん達、ここがどこか分かってる?」
「何をしに来たんだい?」
「JAPはなんでこんなところにー?」
無論、彼等は英語で話している。アメリカに住んで結構経つ光一であるが、
「日本語で喋れ。クズ野郎共」
英会話はこんな時、社会で役立つ……。って、こんな状況は普通ねぇよ!
タクシー運転手はお客様を選ぶことができません。外国人だって乗せる事もあるため、運転手の中には中国語、英語などで喋れる人もいるそうです。グローバル社会です。
「Talk in Japanese.Waste」
光一の言葉を翻訳し、伝える漆木。
当然ながら怒りを湧き立てる挑発だった。気の早いのはお互い様。
「テメェ等な」
気の早さではここの罪人達よりも、光一の方が早かった。彼等は言葉を使ったから、光一は罪人の1人の手を右手で掴んだ。漆木はこれから起こることを、平静として受け止めていた。翻訳する始末だ。
「俺達が来た理由?」
「Are we the reasons that came?」
「皆殺しだ」
「Wholeasle murder」
"超人"の握力から繰り出される攻撃は、想定を上回るものであった。部分的な破壊なら娘でもできただろう。薬物をやってそうな面構えも多いここの犯罪者達に向けて
「実験台になってもらうぞ」
光一の右手は力と技術が合わさって、まるでブラックホールのように掴んだ相手をその中へ飲み込んでいく。
「がっ!?ふっ……」
「実践向きじゃねぇが」
光一の右手が相手を飲み込んでいく、食い殺しながら進んで、相手の体に近づいていき、
「や、やべ、で」
侵食。崩壊。鎖骨部分を通って、首に手をかけたそこからは一瞬だ。
パッと。光一が地面に手を翳し、ヒビを無数に入れ、その隙間に赤色と肌色の液体を染み込ませていた。その事を冷静に見ていられないのなら、光一が人を1人。何事もなく、消し去ったように思えた。
「な、なんだテメェ!?」
「どこにやった!?」
イカれた戦闘力を目の当たりした連中と、冷静な一般人。心強くて、気兼ねする事なんてねぇって、伝えてくれる強さ。
「俺が暴れてる最中に捜すんだな。邪魔もいれねぇ。全ては俺がやったことになる」
その言葉と同時に繰り出した。マシンガンの如き、貫手のラッシュは人体というものを容易く突き破って、囲まれたことを相手に対して、絶望に変える結果となって突きつける。
「恩に着る、光一さん」
これから自分がやる事より、惨く、辛い役。光一は後ろめたさ0でやってくれた。漆木は相手がいる牢獄部屋へ向かい、光一は囚人達の注意を惹きつける。
「不幸を呪うくらいなら、戦うんだなぁ。生きるってそんなもんだ」
それは半分程度なのかもしれない。
光一の面は、この中では誰よりも凶悪だから。




