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VALENZ TAXI  作者: 孤独
家族編
82/100

色々無駄に遠回りをして、目的に辿り着くと悪くないって感情が達成感なんだろう。

タクシーをぶっ壊した。ヤバイ。とにかく、ヤバイ。


震える手でアッシ社長に連絡しなければ……。


「あのぅ」

「なんだよ!こんな一世一代の時だぞ!」


日野っちと美癒ぴーは別に迫った危機に立ち向かうところ。灯達は走って墓参りに行ってしまい、訴える相手を見失う状況。壊されたと言って、アッシ社長は納得するだろうか?まーた、金を稼ぐことになるか。

そんな時、オドオドした声で。灯とミムラから修理を任されたが、船を運んだのんちゃんであった。不思議な少女なんだろうが、こんな子に何ができるのかと怒りに思っている日野っち。


「落ち着いて、日野っち」

「落ち着けないぞ!というか、美癒ぴー!いいのか!?」

「あー、大学のサークルのこと?」


そういえば、美癒ぴーは大学の旅行仲間と共にここを訪れているわけだが……


「気にしないで大丈夫だから」


みんなからヤッてこいとか、煽られるわ。姉から後押しされたとかで、戻れないんだよね。今の日野っちの前では言えないなぁ。

とはいえ、一緒にいれて良かったと思う。凄い身体能力の持ち主達だったけど、全員私と同じ女性だから手を出してないかと気が気でなかったし……。


「でー。のんちゃん、どうしたの?」

「あ、のんちゃんですね!この壊れた部分を直せって、灯さんに言われて」


子供に無茶ぶりだな。

そう思っていた、日野っちと美癒ぴーであったが。


「少し離れてください!どこから飛んで来るか分からないですが、頑張ります!」

「大丈夫なのか?もう壊れているから、安心して壊してもいいが……」



半信半疑も当然であるが、こののんちゃんを舐めちゃいけない。

右手でタクシーを触り、


「"独占"」


のんちゃんの"独占"は、大雑把な物も細かき物も対象にする事ができる。海上にあった船ですら、引っ張ってきたその力。


「このタクシーの隅々まで、"独占"します!」


壊れた対象物や、自分を含んだ生物の欠損に至るまで。

のんちゃんは"独占"によって、空気よりも小さく吹っ飛んだ物質ですら回収させ、元の位置にくっつける事ができる。

ただ物を引き寄せる能力だけと思われるが、その実。用途の可能性は極めて広い。


「?何も変化ないぞ」

「うん……」

「と、と、遠いからですよ!待ってください!10分ちょっと!異空間に物質があったら、連れて来るの大変なんです!」


元々の細胞や物質が死んでいる場合では意味をなさないが、灯から聞くと破壊であるという。破壊であるならば、のんちゃんの"独占"で完全修復が可能。



ヒューーーーーッ




天より、欠落していた部品の数々が組み合わさりながら、やってくる。



「な、な、」

「なんですか、あれーー!?」


空からの落し物にしちゃ、奇怪で機械過ぎる代物。壊されたタクシーの部品がやってくるとかいう、修復にしちゃあ、奇想天外な仕様。


部品はそのまま、のんちゃんが分からずとも、上手い具合に填め込まれて修復完了。


「できました!のんちゃん!できました!直りましたよ、タクシー!」

「修復風景がプラモデルの組み立てっぽかったぞ」

「だ、大丈夫なの?車の修理って簡単な感じじゃ済まない気が、魔法のタクシーだし……」

「のんちゃんだって魔法使いです!修理とかは分かりませんけど、"独占"による修復は完了です!」



車の修理について、

日野っちが述べている通り、プラモデルとかとはまったく違います。

今回のような破損の場合、完全な修復は難しいでしょう。買い換える事もあります。

ともかく、部品の故障の場合。国産車などでは中古部品や新品も探しやすいため、修理費用も安く、掛かる時間も短いそうですが、珍しい外国車では部品の調達の段階でかなりの時間がかかり、修理費も高くなるそうです。(無論、壊れた部品によって値段も時間も異なります)


主に修理という関係なら、傷や凹みなどの修理が大半と思います。

カー用品店には、軽度な傷なら目立たなくさせる商品も売っているそうなので、試してみるのもいいでしょう。

軽いものでしたら放置する方もいるでしょうが、広範囲に傷や凹みがあると危険な上に、凹みならサビなどもできたり、余計に高額修理になったりすることもあります。(ちなみにですが、会社で高額修理となる車は大抵、直してくれません!だから壊すなという脅し付きです!)


また、エンジンなども当然壊れるものです。エンジンやエアコンなどは、部品交換というより、丸ごと交換といった事が多いようです。当然、高いです。時間もかかります。


「ちょっと点検させてもらうぞ。メッチャ恐ぇっ」


運転手が気をつけるのは何も、運転中だけではいけません。車の点検は怠らないようにしましょう。


修理というより点検の枠に入りますが(会社的の立ち位置では)、ライトの交換やタイヤ交換などは道具も揃えやすく、できないことはないです。

スペアタイヤがあるように、それを交換できる道具も車の中に入れておきましょう。

ライトが切れて、無灯火による運転は整備不良扱いで、反則通告制度に基づいた行政処分を課せられますので注意しましょう。点数もつけられます。


「私、車の整備の経験少ないんだけど。日野っちは経験あり?」

「普通、そんなに壊さないからな。アッシ社長とマジメちゃんが整備担当だし。俺もそこまでは……ライトやタイヤ交換、オイル交換とかは分かるが」


車は人と違い、経年劣化します。乗っていないからと言っても、劣化はします。


「点検、整備をしてても壊れるもんだし。車検に通ればまず大丈夫だが」


車検とは、人間的に分かりやすく言うと、車の健康診断です。

新車は3年に1度、それ以降は2年に1度、車検を受けることが義務づけられています。車検をしていない車で走行していると、罰則がありますので注意しましょう。

車検を受けるためには、自動車の点検と整備。それと自賠責保険に加入する必要があります。もちろん、お金も必要です。

前者については車検を行なう事と同時に、点検と整備をやることもできますが、知識のある方なら自分でも可能です。

後者の自賠責保険は、車をご使用する上では必ず加入するよう法律で定められています。ですが、あくまで最低限の保障のための保険であり、これとは別に任意保険と呼ばれる保険会社独自が商品としている保険サービスもあります。こちらはまず車検の際、必ずあることでしょう。



車検をやるところはディーラーやガソリンスタンドなどでできます。ディーラーとは車の販売店などの事です。カッコイイ言い方ですね。


「……大丈夫、っぽいな」

「のんちゃんの魔法ですから!安心ですよ!」

「ありがとう(子供の大丈夫ってのが、怖いんだけど)」


車検の注意点として、現時点で車の状態に異常はないという診断結果が多く、次の車検まで万全な状態かは分かっていません。くれぐれも怠らないように……。


「ですから、のんちゃんもみんなのところに合流したいです……」

「お、おう」

「ごめんね、のんちゃん」


遅れてのんちゃんも、灯達のいるところへ向かうのであった。



◇       ◇



もうすぐ、本当に、もうすぐ。

終わろうとしている。



あの時の振り返る、漆木土宗は倦怠感に襲われた。目の前に来た通過点をやっとこさ潜って、小休止を求めること。

復讐を抱く男も、ただ。復讐だけで生きているわけではない。彼にも生活があり、人であるからだ。


「知与」


その写真にシワが付いていた。いつからだったか、もう忘れたし、回数も覚えていない。


コンコンッ


「行かれますか?」

「!、ビックリさせるな」


会社に戻って来た漆木に声を掛けたのは、アッシ社長。この魔法のタクシーを製造した1人として、使用者がどのように使ったのかという記録を把握する術も持っている。


「あぁ、無断で使って済まない」

「大丈夫でしょう。漆木さんは、辞めるその時までプロのままですよ」


多少のミス、多少の我侭を許すのも度量である。

もう数日とないんだろう。特別に何も告げていないアッシ社長。よっこらせと、助手席に乗り込んだアッシ社長は缶ビールを漆木に手渡した。


「いけますか?」

「社長の酒は断れんだろ?」


缶ビールを開けて、乾杯もせずにすぐに飲んだ漆木。一方で開けたくせに、飲まないアッシ社長。ちょっとしてやられた。残念に思うから、酒の勢いだなんだで、済ませたくない。素面のままで本音を告げる。アッシ社長と漆木が出会った頃の話だ。


「漆木さんが困っていた頃ですね。私と出会ったのは」

「……昔話か」

「別れる時が来ると、振り返ることが多いでしょう。日野っちにもその時が来たら、振り返ると思いますよ。私」


アッシ社長が止めようと思っていたら、漆木を入社させなかった事だったろう。


「約束は護れたでしょう」


漆木がこの会社にいた理由。それはここが魔法のタクシーを所有しており、


「復讐したい相手の元へ、私はあなたを送ります。そう約束しました」

「感謝するよ」

「一時の気持ちで」


アッシ社長は少し酒を飲み込んでから


「人の心は動いてくれませんね。でも、動かぬ事もまた良き心です。善良に、です」



仕事を終えてからという、遅く残念な父。娘が事件に巻き込まれてから大分経って、病院に来た。あの時のショックは大きかった。娘は大丈夫と思っていた、あの時の自分が許せなかった。

許せないという気持ちを自分で受け止めるしかない。

それが、最善……んなわけねぇだろ!!

そーいう怒りや受け止めで、娘が戻れるわけじゃない。どうしたって戻れるわけじゃない、のに……。


「アッシ社長と出会わなかったら、俺はどうしていたか。たぶん、家族を捨てたかもと思う」

「それは分かりませんよ」


しかし、そんな最悪な事はないとアッシ社長は思っている。受け止めるという行為に、人は時間を擁するだけのこと。改善のない事はいくらでもある。向き合っていけることが正しい人間という幻想であり、通常かと、アッシ社長は思想している。

そう、時間が経てば意味もないと……思えればと思っていても、漆木の意思は強かった。


「そーだ。おでんでも食いに行くか?奢ろう」

「季節外れなんですけど」

「捜せばあるだろう。無性に懐かしい品を食いたいんだ」


懐かしい。そーいう解釈はきっと、この人にとっては幸せなんだろう。



『人を殺す機会をくれ!!俺は一生、奴を許せない!!』



魔法のタクシーである事を示した後、入ったおでん屋で私に涙と怒りを合わせて、頼んできた漆木さんの姿を振り返ってしまう。

動揺や不安をふっ飛ばし、怒りに満ち溢れた声だったのを覚えている。人生には、たった一日だけでその全てが変わってしまう日はあるものだ。価値観の全てが壊れ、常識ってもんが崩れ、成長とは違う変化を作る。

それが生命体、一つ一つ。中に詰められたDNA並みの奥で、働く本能なんだろう。


これまでを見れば、真面目な人であるのは事実。捻じ曲がっても、真面目という根本は変わらない。


悪という意味で。捻じ曲がってしまっている事を、正しいものだと訴えること。



「おお、やっているところもある。居酒屋でいいか?」

「構いませんよ」


私の罪は、この人を誘ってしまったこと。人生を悪く変えてしまったこと。できて、この程度のことですか。



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