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VALENZ TAXI  作者: 孤独
入社編
8/100

世界中が便利にな~れ

ポチッ



「ご利用ありがとうございます」


さすがに魔法のタクシーが、安心安全を最優先するだけの魔法しか持たないわけではない。



「どちらまで?」


今日のガンモ助さんは、たった一人でアッシ社長やトーコ様、日野っち、美癒ぴーの、稼ぎをするのであった。


「私だ!アメリカのホワイトハウスまで頼む!」

「……承知しました」


タクシーは受け身の営業である。駅前や空港前といった、お客様が利用したいところに足を運ぶのが多い。しかし、タクシーの数が圧倒的に多く、お客様の目的地も自宅や仕事場までと、走行距離が長いわけではない。競争率も高く、一度の収益も高いことが見込めない。

そのため、『VALENZ TAXI』の”本当の仕事場”は駅前や空港前ではない。



ポチッ



伝説のタクシー企業ではあるが、知る人は知るタクシー企業でもある。今、ガンモ助さんが乗せたお客様はお忍び来日していた要人であり、その送迎をしている。

アッシ社長は、自らの事を秘密にしておきたい反面、このような黒いことも仕事として引き受けている。夢や憧れだけでは養えないためだ。

トーコ様も、日野っちも、この手の仕事を引き受けている。



タクシーのワープ機能を駆動させ、日本からアメリカまでワープするタクシー。



「ありがとう、ミスター、ガンモ助さん」

「どういたしまして」


"あだ名"で呼び合ってるのも、お客様に分からないようにする個人情報の保護のためである。相手にするお客様はただの口うるさい存在では済まない事もある。

ちなみに、このタクシーの中では違う言語同士でも理解し合える機能が備えられている。



「しかし、まだ仕事があるのだよ。良いかな?」

「お金さえ頂ければ、今は構いませんよ」



トランクを空けると、その中は黒い液体がボコボコと茹っているような状態であった。ブラックホールのような暗黒感。そこへ投入されていくのは、様々な兵器の数々。タクシー以上のサイズの物が不思議な力で縮小されていき、トランクの中へ沈んでいく。



「これを中東まで運んで欲しい」

「輸送代はキッチリ払ってもらいますよ」



兵器の製造を行なうのも莫大な資金が掛かるように、輸送を行なうことにも資金が掛かる。

時間と秘匿性も考慮すれば、『VALENZ TAXI』を利用したいのは当然の考え。

ワープ、物質が持つ体積の変異、それをなせるタクシーの構造の方が兵器以上に気になるものだ。時にはこのタクシーを奪い取ろうとする輩もいるが、しっかりとした安全性は運転手にも適応され、しかと護ってくれる。

また、そのような事態となれば、『VALENZ TAXI』もその客への営業をストップさせる。




◇    ◇



「ガンモ助さん。危ない依頼をさせてしまい、申し訳ないです」

「はははっ、気にするな!なんでもかんでも、アッシ社長が引き受けなくても良かろう!それに、ホワイトハウスを見れるなんて光栄なことだ」



こーいった秘密の輸送は莫大な収入が入るものの、早々依頼は来ない。そして、なによりも危険性が高いため、この手の依頼はアッシ社長自らが引き受けることが多い。

ガンモ助さんは3度、日野っちとトーコ様は1度だけしか経験したことがない。



「私はタクシーの事など何も知らないから、誘いなど軽くあしらえる」

「まーた、詮索してきてるんですか。そこは」



今回の兵器輸送の依頼も、本当の目的はこちらのタクシーの調査でしょうに。金が必要な以上、こちらも情報を出さなければなりませんか。



コンコンッ


「?」

「?誰だ?」



皮肉なものであるが、アッシ社長がいた魔法使いの世界は滅んでしまった理由に、あまりにも優れた技術が確立されてしまったからであった。



ギィィッ……



「失礼するよ。アッシ社長」

「お邪魔しますわ」

「!!あなた方は……」



転送魔法、変型魔法、結界魔法など。これらの"実用化"を成し遂げたアッシ社長は、自らの世界でも魔法運送の会社として多大な成功を収めていた。お客様のための進歩した技術に、お客様は感謝の言葉を口にするも、国や軍隊などはその技術提供を望んだ。



「人のためにと思うのならば、国に技術提供をしてもらいたい」



現れた2人の内の1人の男。否、背は日野っちと同じくらいの少年が、アッシ社長が昔に聞いた言葉と同じことを訊いた。



「お断りです、ラブ・スプリングさん」

「んもぅ」

「貴様ぁっ!ラブ・スプリング様を侮辱するのか!!」


もう1人の短気な女性が懐から拳銃を取り出し、アッシ社長に向けて構えるが



「ダメだよ、ギーニ」

「!」



すぐにラブ・スプリングが銃の無力化を計った。



メギイィッ



奇妙なことに、銃が変型し始めて銃口が閉じ、引鉄も曲がり始めて引けないように変わった。銃に触ったとかもなく、無力化された。


「乱暴な事はダメだよ」

「も、申し訳ありませんでした」



2人共、顔だけ見ればとても偉そうだったり、怖そうだったりの印象はまったく感じない。しかしながら、この2人が今日の依頼主であり、『VALENZ TAXI』の資金援助や資源提供を行なっているアメリカの裏のトップである。



「僕は平和を護る"物"だから、争い事は好きじゃない。でも、そんな願いがあっても平和って護れるもんじゃない。そこに掲げている交通安全と同じでさ。自分が守っても、人が守ってくれなきゃ意味がない」



あくまで力の行使はしないと、ラブ・スプリングは言う。


「一緒にしないで頂きたい」

「あれ?」

「ラブ・スプリング。私よりも"人間"から外れているあなたが、人間に首を突っ込むのはおかしくありませんか?」



せっかく、自分から収めた仲間の拳銃。なんのためか?

真っ当な感情があればブチギレるものであったが、涼しげに流す。



「酷いなぁ。"科学"や"機械"は大人しく、人間に従ってろって?君達のタクシーの半分、僕が考案して造っているのに?あんまりだよ~」

「造れるのでしたら、私に頼らず、造ってください。関わらないでくださいよ」

「金とか資源とかは要求するのに?酷いなぁ、それで客商売してるんだ」

「当然です。社会が理不尽なことを知らないのですか、そこのロボットは?」



緊張感漂う、舌戦。ラブ・スプリングを補佐するギーニも、従業員という関係とはいえ、その絆は簡単に片付かない、ガンモ助さん。

決着は、


「分かったよ。今まで通りやろう。君に依頼するのは輸送と送迎だけ。アメリカの研究者としての地位は、もう金輪際、頼みに来ないよ」

「物覚えが良くなりましたね」

「君の言うとおり、僕が君の魔法を"科学"として造ればいいだけだもんね。データもいくつか取らせてもらったし」


マジでしそうだな。とはいえ、いずれ人類の誰かしらが到達するもの。新技術も時代の波に逆らえず、いずれは基盤となってしまう。

それと、どのみち


「基本はできているようですね。ここへ瞬間移動して来たようですし」

「ん?そうでなきゃ、あなたの引き抜きを諦めたりするわけないじゃん」

「ラブ・スプリング様」


今の状況を見て、ギーニがラブ・スプリングの耳元で囁く。


『あの男を殺しに来たのではないのですか?あの男が中国やロシア、日本などに技術提供を行なう可能性がありますよ』


それは優れた物がどこかへ行かぬよう、最良の手法であったが、


「だからダメだって、ギーニ」

「しかし」

「僕は平和を願っている物だ。確かに危険な存在が味方とも敵とも言えぬ状況であっても、自分の力で押し潰すような臆病者でも、卑怯者でもない。例え、未来の悪人でも今を幸せにしているなら今は見過ごすさ」


新技術に飢えていながら、いずれ来るだろう戦いへの優位を求めながらも。

根本は誰であろうと人を守ることに忠実な物。


「分かりました」

「うん、じゃあ。帰ろう」


話し合いが終わり、彼等の用が無くなったかと思ったらだ。


「待ちたまえ」


意外にも、声を掛けたのはガンモ助さんであった。人間である彼だが、彼にもアッシ社長のように理由がある。



「話しを聞けば、あなた方はアメリカの権威があるのか?この2人で間違いはないんだろう、アッシ社長」

「まぁ、そうですけど、困りますね」


事情がどうも、分かっていないラブ・スプリング側。一方で分かっているアッシ社長


「?僕の権威で何をするって?」

「ちょっと話せば長いのと、色々とご迷惑が掛かっちゃうのですが」



ガンモ助さんにはここで働いている理由があった。念のため、確認する。


「ガンモ助さん、本気なんですね?」


それを止める理由はないが、快く協力する気もそんなになかったアッシ社長であった。ラブ・スプリングが協力できないと、述べてくれたら企業としては助かるのだが、



「迷いなんてない」


覚悟は固い。



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