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VALENZ TAXI  作者: 孤独
墓参り編
77/100

そんなもの。そんなこと。他人を批難しながら生きるのは、自分がマシじゃないと面倒だ


ドゥ~~~~ンッ


伝説的なもの。『VALENZ TAXI』がそうであるように、不思議と近くにあるものだ。

丁度そこにはあった。

低い鐘の音を鳴らし続け、待っているのは暁の陽。



ドゥ~~~~ンッ



その海には幽霊船団だけがいる。誰も帰って来ない、悲しい幽霊船団。



◇      ◇


時は夜になる。驚愕したり、虐められたり、ショックを受けたり、喜んだりと慌しい日ではあった。

総合的に得た物が多かったという日ならば、寝るまでもきっと幸せだろう。

宿泊先の施設の部屋は、一部屋で2人だ。荷物を纏めてまだ自分1人だけ、日野っちは畳みの上で胡坐を掻きながら、精神統一をする。

このまま、もっと親密になりそうな。迷いながら抱く心。


美癒ぴーも、一緒だという。

一緒の宿泊だ。


来たりするか、来るか。いや、俺から行くのが男だろ!



コンコンッ


「ど、どうぞ!」



そんな気持ちはまだ早いだろ、まだ21時だ。タクシーも、男も動いている時間からドアをノックさせた。もしかしてと、気をはやらせて立ち上がっていた。


「俺から行こうとしたんだ」


この扉を開けたらもうそれは確定だろうって、えへへへなご都合主義を期待している日野っちは馬鹿だ。独り言じゃなく、ドアの向こう側にいる人へ声を掛けていた。


「君が好きだから!」

「なんとそうか!日野っち、そんな事まで思っていたのか!」



…………おい。俺のラッキーはここまでかよ?いや、調子に乗り過ぎだって神様が言っている。

扉の向こうにはガンモ助さんだった。


「はははは、”最後”に嬉しい言葉だな!記念にキスでもするか!」

「止めろぉぉっ!!今のは聞かなかった事にしろーー!!」


冗談に聞こえないし、手をとって布団に引き込もうとするな!でも、どうやって止めればいい!?そうか、


「おりゃあぁっ!」


考える前に行動して、力一杯に抵抗して拒否した。全力ってのはこうだって、ちゃんとできた事。


「ほっ?……ふふっ、よくやったな。来た当初は小さい男だと思ったが、鍛えたんだな!」

「さすがに20以上も年離れている男に力負けしたら、恥だからな!!そりゃ少しは鍛えた!」


やべぇよ。そうだった。浮かれすぎて忘れていたが、俺。ガンモ助さんと同部屋だった。色んな意味で一日中、気を配るのが俺なのか。美癒ぴー、一緒に寝ていいかって悪い夢を見た子供のような言い訳で、君と寝たいなぁ(棒)。

そんな不安と残念な気持ちがあって、今。ガンモ助さんが言ったことを理解できなかった。

気にも留めず、


プルルルルル


「失礼。もしもし」


ガンモ助さんは着信の入った携帯を取った。


「!おぉっ、これはお久しぶりです」


どうやら親友か、なにかの電話相手。


「内々の話になりますか。少々、人を避けますな。お時間良いでしょうか?」


仕事で電話対応をしていると、ついであるが。日常的にも仕事っぽく電話をとってしまうことがある。職業病って奴だろうか?


「スマンな。日野っち、お前とは一緒に寝れないようだ」

「いや、それでいいっすよ!」

「先に寝てていいぞ」


そう言って、ガンモ助さんは荷物を部屋に置いて、外へと行ってしまった。鍵でもしておこうか、実際に鍵を閉めて休むことにした俺。鬼畜か?いや、安全面を優先した住人だ。

しかし、後から言うにはガンモ助さんは今日。帰ってこなかったと言う。

灯を消して、疲れた体と心を休ませるように布団の中で眠る。


パチンッ……



美癒ぴー、どの部屋で寝ているんだろうか。行って良いだろうか?つーか、超行きたい。彩さんの部屋でも良いけれど!

まさか、向こうから来たりしないかな?



コンコンッ



ちょっと寝てしまうと、1時間ぐらい過ぎてしまう。それは1人暮らしであんまりする事がない奴は、よく経験しちまうんじゃないか?少しだけ、少しだけ、そう思っては1時間以上も先に行ってしまう。ショックに受けるのは、そんな時間の使い方だってこと。

ありだって寛容になれない、俺の生活でさ。



コンコンッ


さっきからノックがする。時計に目をやると3:00だ。早番をやると、別に大した事は無かった。眠気をさっさと吹っ飛ばす、緊張感もついちゃうのは嫌な習慣だ。

そして、……


「起きろーーーー!!」


3度目の正直はないと、無理にドアを破壊して入ってくる者。


「え?」

「あんた!遅刻よ!」


山本灯が強引に乗り込んで来て、俺を攫ったのであった。一体なんなんだと、俺は慣れてしまったのが恐い……。



◇     ◇



「おはよう」

「おはようにしちゃ早すぎる気が、」


連れて来られたのは、まだ暗い海だ。集まっていたのは日野っちを入れて12人。そこに美癒ぴーの姿があったのが意外。


「日野っちが来るって言うから、心配で」

「??俺、何も聞いてないぞ。何をするんだ?」


ここにいるメンバーも、何かオカシイ。乗せてきた人数の半分以下。であるが、オーラの違う連中ばかりだ。



「言ってないだけですわ」


福道春香。


「パピィも運転できるけど、なんかあったら困るからね」


山本灯。


「船舶免許を取得している者を要請した」


パピィ・ポピンズ。


「また沖まで行くんだ」


山寺沙耶。


「今度はハンティングどころじゃないから、楽しみ!」


鯉川友紀。


「水着は着てた方がいいですよ。濡れたり、泳ぐかもって」


輪島彩。


「灯様とご一緒で嬉しいですわ」


阿波野小諸。


「怪我したら私が治療してあげるから!」


吉祥愛希。


「姫子やミムラとかは乗りたかったみたいだけど」


清金純。


「船のスペースも、向こうの様子も分からないからね。少数ではないけど、精鋭ね」


村木望月。


これからなんか戦争をしに行くみたいな。雰囲気の10人。それを目の前にする日野っちと美癒ぴーは、嬉しかった感じ。

一緒にいて良かったと、ホっとする。その前に。


「俺は何も聞いてねぇよ!!」

「は?どーいう事よ、福道」

「言ったら逃げちゃうから、今言うの。これから沖に言って。噂の幽霊船とやらを壊しに行くの!」


大事な事を今言うのは、お客様としてはとってもタブーであり、会社の運営でも禁句である。報連相が大事とはこーいう時だ。


「ガンモ助さんからあなたが船を動かせると聞きました。してくれませんか?魔法のタクシー会社さん」


タクシーは道路走ってるんだけど?水上バスとかあるけどさ、陸が本場の人間を海に運んでどうするんだよ。

とはいえ、今の福道の頼み方は本当にお客として



「割高となりますが?」

「構わないよね、灯」

「ええっ」


この中の、まとめ役。灯が好戦的な笑みと共に口にしたのは


「ぶっ壊したい奴は、まず。戦わないといけないから」


まったくもってその通り。まず、進まない。


「じゃあ、美癒ぴー。手伝ってくれ」

「うん!」


日野っちは溜め息をつきながら、厳重にロックしたバスに2人で乗った。"変型交代"を使って、バスからタクシーにチェンジ。


「こうして運転するのって、よくあるね」

「2人きりでいたいよ」

「あは。そーいう機会はちゃんと来るよ」


運転席に日野っち、助手席には美癒ぴー。あるとは聞いていたが、美癒ぴーが実際に扱うのはこれが初めてだった。

タクシーは海へと突っ走ってから、”変型交代”で船へと早変わりした。普通の船を使わない方が、マシが通用しない世界に飛び込むには良い。


「おーーっ、良い足場になるわね」

「僕達が暴れても大丈夫そう」

「いや、壊す前程かよ!!その幽霊船が見つかったら、そっちで暴れてくれ!」

「また壊したら社長に怒られます!」


マジでやりそうだ。

日野っちにはその幻影がよく浮かんでしまった。


”変型交代”によって、運転席の位置もデザインも変わる。ちょっと離れてしまったけれど、一緒にいるから良いかね。

船内はそこまで充実していない。大型船、中型船、小型ボートとあるが、速度と安定さを重視して中型船を選んだ日野っち。運転は日野っちであるが、内臓されている魔法を扱うのは美癒ぴーの役目である。


「ドキドキしますね。私、力になれるでしょうか?」

「大丈夫よ。彩!あんたは強いし!」


船は進みながら、灯から受けている依頼を皆は確認する。運び屋として、『VALENZ TAXI』戦闘員として、灯が信頼する仲間達。


「もちろん、私は敵船に行くわよ!」

「でしょうね」


しかし、灯の身勝手を理解し。全体の指揮を持ったのは、やはり福道春香であった。波に揺れながら船の上で作戦会議。


「敵を撃破しても、帰って来れなければ意味ないです。船の店番を彼等に任せるのは得策ではないので、敵船に乗り込めない私と治療する吉祥、船を動かせるパピィは残ります」

「えーっ!好戦的な医師の需要は!?」

「そんなのないぞ。妥当なところだな」


店番に。

日野っち、美癒ぴー、福道、パピィ、吉祥。


「残りはチームを組んで乗り込みましょう。3つに分けるのが良いかしら」

「くじ引きか?」

「……パワーバランスを考えて、灯、沙耶、鯉川は分かれてよ」


そこから話し合いの末。


灯、阿波野チーム。


「私は勝手に行くからついてきてよ!」

「もちろんでございます、灯様」


沙耶、彩チーム。


「お前が死んだら、ミムラが悲しむからな。守ってやるよ」

「足手纏いになったらごめんなさい」


鯉川、村木、清金チーム。


「同学年メンバーでいいね」

「できればパピィと鯉川が入れ替わって、大手門メンバーでやりたいんですけど」

「私が除け者ーー!?」

「仕方ないだろ、清金。私は船番するさ」



以上の4チームで、この海域にいるとされる幽霊船に乗り込む事になった。まったく、なんつー事を言わないで進めた。

しかし、アッシ社長が分からなかったのも仕方がない。ホントにお客様が言っていないからだ。そんなことは社会的に認めたくないけど、当たり前だった。

船は進み。目的地の分からない沖を進む。



「どこまで行けばいいんだー?」

「道なりにこのままで良いはずなんだけど」


暇なので船内にまで持ってきたお菓子やら、食材を調理し始める美癒ぴー。ただ進むだけだったら何もする事なく、清掃とかしかない。


「どうぞ」

「おーっ!ありがと!」


夜食なのか、朝食なのか。3:55は微妙な時間だ。まだ日は昇らない時間だろうし、ちょっと眠い気分でもある。


「着いたら起こして」

「沙耶ちゃんが寝るのー!?海に落としちゃうよー」

「ふざけんな、鯉川」


戦地に着くまで。そんな目的地もある。


「……あ」

「どうしたの?日野っち」

「いや、大した事じゃなかったが」


ふと気になった事があった。まぁ、ここでは関係ないだろうし。なかったことだ。


「ガンモ助さんのバスが見当たらなかったなーって」



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