人が居ないときはなんか恥ずかしいことばかり言う
感情で動いていた。
「どけよぉっ!」
怒声とは裏腹に日野っちの頭は、目に見えるものをよく映し、観察していた。
確かに武器を持っているが、 本人達は怪我だらけである。立っているのがやっとのように思える状態である。
例外もいるが、傷だらけの人間が武器を持っても強さを補っているとは言えない。そして、この男達は例外にはならないだろう。
どの道、押せばすぐに倒れそうな連中じゃねぇか。ナイフやスタンガンがどうした!?美癒ぴーの方がどーなってんだよ!
「はははっ!エアガンだって嘗めんなよ!めちゃいてぇぞ!」
2人に向かっていく日野っち。狙いはナイフとスタンガンを持つ男であった。
だが、この中で唯一、距離をとって攻撃できるエアガン持ちの男。片側には松葉杖だ。エアガンで日野っちに狙いを定めた。走る距離と引き鉄を引く、これの差は歴然としており、撃たれるのは必死。怯んだところにスタンガンで感電、ナイフでグサッと、行くところか。
バサアァッ
「うおっ!?」
日野っちが注意をひきつけており、ガンモ助さんは余裕シャクシャクと援護を放った。
「上着!?」
自分の上着をエアガンを持つ男に投げつけた。相手の目暗ましにもなり、追っ払うまでも掛かった。払ったときには日野っちが見えなかった。
「下だ!」
「!?」
狙いをナイフの男にしたと思ったら、エアガンの方に切り替えていた日野っち。アスファルトの上でも構わず、スライディング!滑らないが、
「どわっ!?」
松葉杖をこかし、地面に転ばせる。いきなり転ばされて、悲鳴を上げた。
「いてえぇっ」
「俺もいてぇし、美癒ぴーはもっとだよ!!」
まずは1人、戦闘不能にした。やはり、こいつ等は病人である。脆い!エアガンが使えず、ロクに体が動かないならもう日野っちが凹ったのも当然。
「やろっ!」
それを助けようとスタンガンを日野っちへ向けるものの、
「君。そのスタンガンは、護身用だ」
「!?」
「今、こちらに使いなさい」
日野っちが勝てたのも、ガンモ助さんのおかげだろう。この人は日野っちや美癒ぴーと同じ一般人であるが、妙な雰囲気と余裕に思えるところがあった。
援護に冷静な言葉。年をとっているだけじゃないってのは分かる。
「まぁ、使えたらなんだがね」
「ふざけんな、おっさん!」
振り回すように武器を操り、恐怖を伝えていく。それが無意識な使い方、知らぬ者の動き。ガンモ助さんは間合いから二歩分離れていた。
「このぉっ!チョコマカ動くな!!」
相手がいくら武器を握っても、怪我人であるのは変わりなく、怯えて背を見せるほどでもない。怒りに任せ過ぎなのだ。振り子の如く。大振りに動いては、再び体勢を整えようとし、体に負担を掛ける。そしてなにより、隙を生む。
大きく振り上げ、振り下ろしたナイフ。肩に力を入れすぎて、下半身の踏ん張りが不安定であるとよろめく。そのタイミングを完璧に見抜き、絶妙なタイミングで踏み込んだガンモ助さん。
「怒っても変わらんぞ」
トーコ様の方がスマートであるが、能力故の筋力はガンモ助さんより上回る。しかし、努力と復讐心で築いたこの筋肉は決して無駄ではない。肉体の使い方は武器を使って威張る者よりも上手である。
スタンガンの電撃、ナイフの裂傷。確かに成せば致命傷。
だが、勢いよく顔面を分厚い筋肉が作った拳でぶん殴る、スカッとする一発。
「ぶふうぅっ!?」
弾け飛んで、地面に転がっていく。
「殴る、蹴る。それだけで打撲にも、骨折にも、最悪、殺せる」
どシンプルで総合的に生き物として強くなるとは、健康かつ優れた肉体を形成することだ。生きていく自信へと繫がっていく。
自信を持つことは広い選択肢、深い錬りこみができる。
「なんでだよ!」
殴られた男は吼えた。痛烈な一撃はまた怒りを生んだ。
「ふざけんな!なんで!なんで!」
無茶苦茶なクズにも
「俺達ばっかりこうなんだよ!?」
自分が生きているのに、自分が不幸なのが許せない。
起き上がろうとするも体が動かず、地べたに顎をつけながらガンモ助さんに吼えた。
「おっさんは関係ねぇだろ!なに邪魔すんだよ!」
どの口が。
しかし、そーいうものか。
不幸に生きているって自覚する輩。なんの進歩もせず。
「日野っち。美癒ぴーのところに行きなさい」
「っ!そうだった!」
怒り過ぎて、倒れた怪我人を踏みまくっていた日野っち。その冷静な言葉を受けて、すぐに車に向かった。それを見届けながら、転がった2人の怪我人かつ犯罪者かつ、敗者へ。ガンモ助さんは告げる。
「男として、私はお前等が嫌いだ」
怒る相手に、怒りを向ける。判断能力が試される。ガンモ助さんは倒れる怪我人、2人の前で仁王立ちし、
「怒りや罰で全てが晴れると思うか!?」
長く、理不尽に
「許せない事を許さなければいけない!そんな苦しみ、生きればいくつもある!!」
自分がそれを分かっている。無茶苦茶にしてやりたい。いや、してぇ。
ガンモ助さんは怒りではないと懸命に張ったが、体は正直に1人の男の胸倉を掴んで持ち上げた。
「復讐がこうもすぐにできるだけ、……お前等は恵まれている!!」
「!?」
「ボロボロな体、心が!俺じゃないという苦しみっっ!」
天変地異などであればきっと平等なんだろうが、不幸の宝くじ一等賞みたいな、それも人の手によればだ。内心頑張って笑顔、作るのが精一杯で痛いことはねぇ。
「反省や金だろうが、お前等が死のうとも!娘の時間も、残る苦しみも、何も変わらない!!」
何もやるせねぇ、こんなこと……。ふざけんな。ふざけんな。
ふざけんな!!
「罪や罰は償うものだと!理解できる者が何人いると思う!?何人が償えると思う!?」
罪を、犯す者。多くに償いはあるものか。牢獄で暮らしているだけ、見えないところにいるだけ、そしていずれは出てくるだと?反省しただと!?こっちは何も変わらねぇんだ!
「はあぁぁ」
ガンモ助さんは萎縮。失意に思える表情を出していた。
溜め息は諦めに近く、どうしてもそれを……それを……、
「俺達の前から消えろ。お前等を殺しても、何も意味がない」
「はっ………はは」
「生きてやれ、馬鹿野郎。それがお前等の罪と罰だ」
それぐらいしか、苦しんだってわかんねぇから
◇ ◇
「美癒ぴー!」
相変わらず、車から動きがない。気を失っている?それだけならまだいい!
急いで運転席のドアを叩く、壊れろ!開けろって!
「無事か!?美癒ぴー!」
これほどにも、悲しくて憤りを感じることはなかった。ある意味で生きていると、言える時だ。
思い出が浮かび上がる事より、ずっと、ずっとやりたかった事がある。後悔って奴だ。
例えば、金もらって女と付き合える、そんな仕事的なことより純粋な恋愛的な、未来の家族的な。好きだって、言っておけば良かったという強い、自虐感。その答えを無回答にされる、もどかしさ。それすら今となっては分からない!
事故に巻き込まれた時は、冷静にですよ。
なんていう奴がいるが、自分にしろ、自分の身近で好きな人がそーなったら、ひたすらに名前を呼ぶだろうが!
「美癒!!」
好きってくらいの声で伝えた気持ちだよ!
1度強く呼んで、もう1回、2回、3回。美癒って叫んだ!返事してくれよ、ふざけんなよ。まだなにも知らないぐらい、知ってもらえてないぐらい。
目に涙、溜めながら。ドンドンと叩いて。
「何も言ってねぇぐらいだよ!」
もう会えないのかって、凄く負の感情が被った。
「美癒の顔も、料理も、なにも……」
色々とゴチャゴチャしていて
「まだ体だって!そんなに見た気がしねぇ!!」
物足りなさ、運転手だからスーツを着ている君。料理してエプロンしている君。ちょっとラッキーだったけど、つい胸に圧し掛かった思い出。
悔しさが性に流れる!大人になってこーいう悔しさ。、あるんだな。
「美癒の形良くて丁度良いオッパイ、まだちゃんと揉んでねぇよ!!」
「……………」
壁ドンをドアドンしてる!もの凄い悔しさ!あるだろうか?すっごい可愛い子で、中身も良い子を、助けてさ、きっかけ作ってさ!寂しい人生を明るく照らす、女神に出会えたみたいな。『やるんだよ、お前』と神様のお告げ的なきっかけ。まだまだ人生、25年の自分だ。告白だってできたろうが!その、付き合えただろ、体的な意味でも!!
「くそーー!」
「………あの」
「美癒は凄い好みなんだ!顔もいいし、性格もいいし、家事もできるし、優しいし」
「ねぇ」
「なにより胸が好みなんだよ!柔らかくて形が良いのが好きなんだ!」
ドンドンとドアを叩き、自分の後悔を叫び続ける。
トントンっと後ろから肩を叩かれている事に気付くのに遅れた。
「……あの、日野っち」
「うおおぉぉ……?」
振り返る。聞き覚えアリアリで、凄くこう、求めていた人の顔ではあるが、恥ずかしいというか。聞いてて絶望したというか。商品が詰まったコンビニの袋と、薬局の袋を持っている美癒ぴーがいた。
その赤いようで暗い表情が日野っちに伝えているのは、自分が無事でしたとかではないし、車が半分ぐらい大破した状況でもないし、日野っちが強く心配してくれたことでもない。
バチィィンッ
汚いハエでも叩き潰すかの如く。美癒ぴーの強烈な平手打ちが日野っちに炸裂した。
「そんな目で私、見られたんですか」
心配は嬉しいけれど、その人の性を知って、複雑に感じる美癒ぴー。
「い、いや!俺は、すっごい心配してて!」
「胸なんですね」
「!」
「胸の心配ですね、コンチキショー」
プイッと日野っちを避けるように背を向ける美癒ぴー。胸は見せないとでも言いたいんだろうか。
「いやいや!ちょっ、後ろ向かないでください!っていうか、美癒ぴーの車、これ!」
「嫌です!正面、向きたくないです!車も動かないでしょ」
「あ、無事なんだよな!美癒ぴー、怪我ないんだよな!」
「コンビニと、……薬局に行っていただけです。なんか事件起こってるし、胸が好きとか、好きとか、叫ぶ……変態さんが居ましたし」
「なんでそこばっかり強調!?」
なんていうか歯がゆい、こんなオチ。
「しばらく、口も利きませんから!」
「ええーーーっ!」
「仕事は1人でするのが、タクシーですから!良いですよ!もう!」
日野っち、美癒ぴーを心配したが、自業自得でしばらく話すことすら難しくなるのであった。




