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VALENZ TAXI  作者: 孤独
犯罪編
69/100

2つの展開を上手く動かすのは難しい

男達は怨んでいた。ボロボロな体、行くあてもない状況。資金が尽き、病院から追い出された。

事故や病気に罹ってからでは保険会社もやってこない。

やられた傷の方が大きく、とてもじゃないが社会復帰など叶わない状態。自分がこれからどうしていくのか、健常者からの落第は計り知れないショックである。



それが人生の恐ろしさ。その一瞬だけで全く違う人生を歩む。


加害者も被害者も、どっちも同じ。



「絶対に、絶対に、あのタクシー会社。許さねぇ……」

「……なぁ。思ったんだが」

「あ?」

「大学に行った方が早くね?待ち構えた方が良いだろ?」



標的の1人が確実に通るところは知っている。

いくらタクシーを大野鳥ネットワークで追跡できても、その車に確実に乗ることはできないし。トーコ様やアッシ社長達の例のように、普通に返り討ちにされる。


「そんなストーカーみたいな行為!今更できるか!!」

「そうか」


人生なんてクソだ。


もう人生なんか終わり、もう終わりだから、もっともっと下に行く。やりたい事をやるという意味では正解なのだろうな。

しかし、彼等には金もなければ時間も無かった。反省の色より復讐の心が強い。


「メチャクチャにしてやる。俺をこんな目に遭わせたんだから、それ以上にメチャクチャにしてやる。そうだろ!?」

「お、おぅ」


片方はやや反省の色。まぁ、こんなのと付き合ったせいでか。目当てのタクシーを見つけるもどれもこれも空振りで返り討ちという始末だ。復讐の心が折れかけていた。

こんな行動はいつになったら報われるのか。


「しかし、先ほどといい。標的とは一度も会わない。どれだけの規模のタクシー会社なのか」

「ま、まぁ。芋づる式だ。なんとしても、捕えてやれば辿り着けるさ」

「そうだな」



彼等が捜している『VALENZ TAXI』の従業員は2人。

大野鳥ネットワークから取り寄せた写真が2枚。美癒ぴーと、日野っちの2人であった。

そんな彼等の横を通り過ぎようとする1台のタクシー。



ブロロロロロ



「!見ろ!まただ!なんて奇跡だ!」

「!『VALENZ TAXI』!よし、今度こそだ!」

「手を挙げて、呼ぶぞ!」


タクシーを呼ぶように手を挙げ、道路の方に体を投げ出す。乗せてくれと必死のアピールであったが、そのタクシーを運転している者はタクシー運転手ではない。


「あ、そういえばこれタクシーだ」


乗せないといけないと思う運転手。しかし、表示は『回送』であり、これでは手を挙げても止まってくれるタクシーは稀である。止まってくれて、ちゃんと乗せてくれるのだとしたら、相当良い運転手と出会えた事だろう。

しかし、どんな運転手よりも酷い。


「寄せなきゃ」


そうやって、歩道側になんの合図もなく寄り


「乗せてくれー」

「乗せてくれー」


2人の怪我人を



ドガアアァァッ



同時に撥ね飛ばすのであった。

その日に2度も、車に撥ね飛ばされている歩行者。いきなり飛び出して来る歩行者もいようが、今のは明らかに突っ込み過ぎ。

ドーンっと、歩道にまで乗り上げて大パニックになりながら一般道に戻る。



「あわわわわ」


立派な轢き逃げをする運転手、畦総一郎……。

とんでもない奴を運転手にしてしまった。しかし、彼が引き起こす人間災害はまだまだ序章であった。

ゆっくりとであるが、畦の危険過ぎる能力が発動し始めていく。


そして、


「くそがーー!さっきからなんなんだ!?」

「なんで近づきながら遠ざかっていく!」


若い男達はこんな惨状の人生に怒り狂い、自分という原因を他人に押し付けてさらなる行為に導くのであった。

酒か、薬か、それとも両方か。


「酒が飲みてぇ、こんなにムカついたのは生まれて初めてだ」

「忘れてぇ。なにもかも」


そんな人生もあろうが、ここから先の地獄は忘れることができない。


「クソ運転手が!どんな運転してやがる!!」

「酔っ払ってんのか、この野郎!?」


畦さんが運転したら、高齢者運転や飲酒運転の方がマシなんじゃないかと、思えるほどの行為が平常なのだ。


「ぐっ。おろろろろぉぉぉ」

「ええぇぇっりりりぃぃ」


2人の瞳が暗く、薄くなっていき、自然体となって防いでいた身体の仕組みが壊されつつあった。




◇       ◇




プルルルルル


休日に会社から連絡が緊張が走る。なにかやらかしたのかと、疑ってしまう。


「日野っちでーす」

『日野っちか!?今、お前!どこにいる!?』


アッシ社長からと思ったら、なぜかガンモ助さんが……。会社の電話を使うなんて珍しい。


「どこって……その前に俺は休みなんだが。普通に家で勉強中だ」

『そうなのか!?ホントにか!?』

「休みだって」


面倒なぁ感じにもなる。しかし、次のガンモ助さんの声にとんでもない緊張が走った。


『お前のタクシーが会社から無くなっているんだ!』

「!?はぁい!?」


休日に連絡というの急用である。その前になにかの忘れ物、案件の確認。はたまた出勤日の変更などなど。会社からの連絡などロクでもないし、トラブルオンリー。



「ちょっ!俺、鍵は抜きましたよ!」

『分かっているよ。しかし、ないんだよ!お前のタクシー!だが、お前がないのならより事態は重い!』

「え?」

『畦くんもいないんだ。分かるかい?おそらく、彼が君のタクシーを運転している!』



畦のように人の車を勝手に乗るのは、犯罪ではないですが非常に迷惑がられます。他人の車で事故を起こすと車の持ち主にも、責任が問われるからです。


「アッシ社長はどーしてんだ!?あの人、会社内にいたんじゃねぇのか!?」

『マジメちゃんと出かけているらしい!私も勤務は終わっているが、すぐに畦くんを捜す!トラブルが起きているかもしれん!』


時すでに遅く、何件もの轢き逃げなり、信号無視、反対車線への侵入などをやっている始末。


『美癒ぴーの車に乗せてもらって、探しに行け!私もすぐに追いかける。アッシ社長とトーコ様にはN_MHに連絡をお願いしている!』

「わ、分かったっす!待ってるだけじゃ、何もできん!」



電話を切って、すぐに美癒ぴーに連絡。もう夜の時間帯、客を乗せててもおかしくない。

何度か電話してみるも、きっとお客を乗せているから出ないんだろう。

休み中に仕事のことを考えるともどかしい気分。なんとかせねばと、なんともできんという葛藤。事態に入れるのは30分、いや、1時間後かもしれない。



「日野っちー」

「うおっ!?」


その声は突然、外から聞こえた。


「電話したー?」

「テレポートして来るな!ビビッたけど、助かった!」


現在の状況を美癒ぴーに伝えながら、畦の捜索に向かう日野っち。


「"終着点エンドポイント"で俺の車を割り出して、すぐに追いかけよう」

「すでにやらかしてそうで、検索が怖いですね」

「そんなもんさ。仕事の失敗事、後悔事に首ツッコミってのは」


もしこれで畦が車を破壊していたらどうなるんだろうか?責任何割だろう?あの顔を見ただけでムカついてくる。


「いた!そんなに遠くねぇ!」

「追いついたとして、どうやって止めればいい?赤信号で止まってくれるかな?」

「そーいう不安も分かるが、近づかなきゃ何もできないだろ」

「……分かったよ、でも、私が運転するからね」


畦の車を止めるのは以前やっている。そういえば、美癒ぴーが初めてタクシー運転手になる日で彼女が魔法を使った日でもある。懐かしい気分であった。まぁ、1年もまだ経ってないけど?

使った時はメチャクチャビビッていた美癒ぴーであったが、いまや"幽霊車"で壁だろうが、歩行者だろうが、車だろうが、余裕で突きっていく。

アクセルも全快で自分の運転を見ているようであった。


「?どしたの?」

「いや、懐かしいなーって」


これはこれで良いのかと思う。休日に好きな子とドライブなんてこと。

真剣に付き合えるならドライブ行きてぇな。兵多と夏目も確か、共通する趣味があるらしいし。



ブロロロロロロ


「見つけた!」

「!……?なんかおかしいぞ」


そうこう飛ばしている内に畦の車を発見する日野っちと美癒ぴー。しかし、畦の恐ろしさというか人間の愚かさというか。

そもそもが危険な人物であり、彼の持っている能力も極めて危険だということを思い出す出来事が起こっていた。

街全体という範囲ではなく、畦に関わった人間に罹る不気味な異常。



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