自分もそうだが、ちょっとはマシな努力をしろと思う
報告する事はあるんだろうが、なんでもかんでも報告するのは鬱陶しい。
「ルンルンルン」
トーコ様は面倒だった。
無事に仕事を終えたという意味では彼女が正しいし、手遅れになったら遅いだろういというのはあるが、彼女にはそーいうことはなかった。
だって、普通に悪者を撃退したから。
いかんせん、強すぎる輩が多く登場したとはいえ、一般人が武器を持った程度ではトーコ様を脅すのはまずできない。
相手が何を思ってこのような行動をとったのか、考えもしないし、やってきたところで返り討ちにする。魔法というタクシーに、自分という異能者が組み合わさればその行動は正常とも言える。
「ぐごごご」
「な、な、なんだったんだ?今の女……」
ゴミ捨て場から這い上がり、それでもなお。『VALENZ TAXI』を追いかけようとする男達。一体、何者なのだろうか。
そして、一体なんの努力をしているんだ。こいつ等は……。
◇ ◇
「完成しました」
思ったよりも早い製造となったのは、マジメちゃんの復帰もあるだろう。
日野っちと美癒ぴーが壊してしまったタクシーが、ようやく完成したのであった。
「やりましたね!アッシ社長!」
「マジメちゃんの協力もあってですよ」
外観は完璧に以前のタクシーと同じであった。
「買い物でも行きましょうか、マジメちゃん」
「宜しいんですか!?ぜひ!」
「このタクシーの試運転も兼ねたいですから」
今日のみんなの勤務。
日野っち、休み。
美癒ぴー、現在、仕事中。
トーコ様、現在、仕事中。
ガンモ助さん、仕事がそろそろ終わる。
N_MH、留守番かつ新しい洋服の製作。
という状態である。なんか、美癒ぴーが働き過ぎであるが、あんまり睡眠時間が長くないためそうなっているだけである。時刻は夕方から夜になろうとしている頃合だ。
アッシ社長とマジメちゃんの2人がお買い物に出かける。
会社内はやや隙が生まれていたが、実際。外敵対策はバッチリであり、厳重といえば厳重なのだ。
だが、会社というのは外より内から来る問題が大きく、容易く起きる。
「んにゃ……」
畦総一郎。起床。大分、朝から時間が経っており、凄い暇であり、何をしようか考えるわけだが。この男。どうして、自分がこの『VALENZ TAXI』で過ごすこととなっているのか、分からない。誰もあんたの暴走を止める場所がないからである。しかし、自覚がない。
「家に帰ろうかな」
いや、お前。車を運転できても、家までの道のりを分かってないだろ。
「タクシー会社だし、一台ぐらい借りても良いよねー。あとで返せばいいしー」
厳重に車の鍵の保管はしているつもりであるが、特に関係者からの悪意ある行動に対しては極めて弱い。フリーパスとなんら変わりなく、重要な代物に手が届く。畦もここに来て4日は経っており、住人感覚である。鍵の位置などは畦も知っていたりした。
ガガガガガガッ
伊達眼鏡をかけて、N_MHは洋服作りを仮眠室で行なっていた。ミシンを使って丁寧に作り上げており、畦に対する警戒心はまったくなかった。
ダンッ
ブロロロロロ
自分の車はロクに動かせなかったくせに。まさか、普通に車を運転しようとするとは。そっからどうする気だ、こいつ。
「家帰ってー、服部さんに謝罪しないと」
畦は暗くなってくる時間帯など忘れて、出発するのであった。
◇ ◇
「総一郎がいない。だと………」
その頃。畦がさすがにマズイと思っていたのが、遅すぎるぐらいであった。彼の自宅と彼が通うべき会社では大問題が起きていた。
編集者が自宅に乗り込み、畦総一郎を探していた。期日が迫っている。
「バカたれは作品を出さなきゃ、能ねぇだろうが!!探し出せ!!クソ親が!!クソ家族が!」
当然にしちゃあ、キレ過ぎである。
創作関係の職務につく者。期日をしっかりと守って欲しい。しかし、家族側も
「ふざけんじゃねぇ、テメェ等!極潰し共!あれを利用してんのはテメェ等だろうが!!」
「そーだ!テメェが引き取ってるんだろうが!」
「あんな兄貴、こっちから願い下げだ!」
「一々、自宅に乗り込んでくんじゃねぇ!!」
こんな感じで迷惑しているのであった。
これについては理由があった。
「俺達の面子を考えろや!!」
まず、畦総一郎という男がどうやって社会で生きているか。彼の職業は童話作家であり、それは純真たるものであり、営業という類いはまるでない。そして、分かっての通り、あんな奴に友達がいるわけがない。家族とですら仲の悪い状態である。
孤立無援に等しい。だが、それを埋めているのは彼が築いた努力の創作群。
会社は彼の創作を買い、それを売り込む。しかし、タダ売るのではなく。
「俺はイケメンの童話作家、服部凜蔵だぞ!!」
ちゃんと営業理念のある影武者を立てての、販売である。よーするに畦総一郎は優秀な童話作家であり、超無欲なゴーストライターなのである。
実際のところ、世間では畦総一郎という童話作家より、服部凜蔵という童話作家が世間を賑わせている。
「うるせぇ!無能作家!」
「テメェは総一郎のおこぼれで売れてるだけだろ!!」
「一度も作品を作った事ねぇお前等が悪いだろ!!」
「人の作品で金儲けするなんて、恥を知れ!!」
会社にいないと困る人材というのは、いるものだ。プレッシャーもある事だろうし、批難もある。創作となれば当然、起こり得る。
畦が無欲かつ、器もないのは確かだ。しかし、いなければ困るほどの実力も確かにあるのだ。
『……これでは畦が戻ってくると大変な目に合うな』
メテオ・ホールは姿を隠しながら、このやり取りを眺めていた。こんな修羅場で畦総一郎が自宅に戻ってくると、おそらく。こいつ等が全滅する。どうやって、畦を安全に自宅に呼び戻すか。
それを考えているところであった。しかし、彼が今、何をしているのかはまったく考えていなかった。まだメテオ・ホールも、生みの親である畦総一郎の行動パターンを読みきれなかった。
◇ ◇
ブロロロロロ
アッシ社長とマジメちゃん。
タクシーに乗っているわけだが、珍しいことにマジメちゃんが運転席。アッシ社長が助手席であった。マジメちゃんも運転手ができる。久々であるが、かなりスムーズな運転。体が覚えているといったところか。
「こうしてドライブできると、マジメは嬉しいです」
「トーコ様より目立とうとしてますね」
運転をマジメちゃんに任せ、カーナビを弄りながら搭載されている魔法システムのチェックをしているアッシ社長。
タクシーが完成したとしても、試運転を経て、実践投入まで2週間ほどかかる。タクシーとしてのランプは『回送』を示していた。しかしながら、それでも乗りたいというお客様もいる。『回送』行きの電車やバスだとしたら見過ごしてしまうが、タクシーの中には極稀に、乗せてくれる良い運転手がいる。(場所次第だが)
「!ま、まただ!『VALENZ TAXI』を見つけた!」
「こ、ここであったが100年目」
数時間前、トーコ様にぶっ飛ばされた2人組の怪我をした男達が、アッシ社長とマジメちゃんの乗る車を発見。
しかも、
「ナンバープレートも"あの時"と同じ!きっとあいつだ!」
「2人組で乗ってるしな!」
目が悪いんだろうが、全然標的が違います。そして、アッシ社長もマジメちゃんも。その2人の男と面識はない。
普通の一般道を走るマジメちゃん達。歩道から車道に飛び出て、タクシーであるのだから。手を挙げて、止めようとした二人組の男。
「止まれーー!」
「乗せろーー!」
「え?」
マジメちゃんはタクシー運転手として、運転している気がまったくなかった。自家用車を運転している状態ならば、こんな急な飛び出しに
ドガーーーーンッ
対応ができるわけない。もし、1人だったら2人を撥ね飛ばしていただろう。ハンドルがまったく切れず、ブレーキすらなかった。
しかし、彼等にはぶつからなかった。それはアッシ社長達にとって幸い。
「メテオ・ホールさんの機能はちゃんと使えるみたいですね。歩行者を通過できました」
「アッシ社長。実践にしては、歩行者が後続のトラックに撥ねられてるんですけど、穏便な試験方法はなかったんですか?」
「え?私、そんな気もないですし、そんな細工もないですよ。つい、歩行者が飛び出したから使ったんですが」
振り返るアッシ社長。2人の怪我人歩行者がトラックに撥ねられて、グッタリとしている。あれはタクシーで撥ね飛ばしてあげた方が良かったのだろうか。
しかし、意外な事に起き上がった。
「お。お。覚えてろ!『VALENZ TAXI』!!」
「俺達をこんな目に遭わせやがって!」
撥ね飛ばされている2人はすぐに道路から去った。トラックの運転手はイカり気味で歩行者を注意したが、時すでに遅く。しかし、このトラック運転手には軽い処分で済んだのは後のことであった。
「はて、何者でしょうか?」
トラックに撥ねられて元気な人間なんているんですかね?ギャグ要素ですかね?
アッシ社長も多少の興味で終わってしまい、それよりもこのタクシーの機能チェックに神経を使いたかった。




