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VALENZ TAXI  作者: 孤独
犯罪編
67/100

社会の正義は、様々なもんだ


「ホッ……ホッ……」


ガンモ助さんの日常は筋トレが中心である。タクシーという単純ながらも、激務な仕事をやる上で体力は必要。その体力を削ってまで肉体に磨きをかける。

会社へやってくる手段の一つに、自転車を使っているのは足腰強化のためであった。アッシ社長よりも年上でもう50になろうという年齢の自分を、痛めるように鍛える。



ブロロロロ


「自転車の昇りはキツイですが、有効ですねぇ」

「おお、アッシ社長」

「この坂から自転車で駆け降りるのも楽しそうかと」

「まぁな。恐怖心も和らげてくれる」


丁度、昇っていく最中。アッシ社長もまた会社に戻るところであり、並走しながら話した。


「最近、顔つきが締まって来ましたね」

「………まぁな」


自転車と並走して運転するのは危険なので、慣れてない人は止めましょう。


「復讐をする相手に辿り着けそうですか?」

「無論だ。あとは使者が来るのをただ待つだけさ」


自分の昔話を語ったばかりだ。アッシ社長は、そんな過ぎ去って変わりもない事を知ってもらうより、今がどう転ぶか分からない話について議論した方が良いと思う。


「"辞職願い"は受理しました。中身も拝読しました。さすが、プロフェッショナルですね」

「そうか?」

「分からない方が多い世の中です。立派に辞めることを決めながら、しかと今の仕事を真っ当するあなたはとても素晴らしい人だ。無くすのは惜しいです」

「ふはははは、そーいう仕事ができていたと評価されるのは嬉しい事だ」


誰にだって辞めることはある。

そう悲しんではトップに立てない。非情さというか、鬼畜さというか、人情の薄さもまた経営者や人事部に必要な要素であろう。

アッシ社長の場合は、欲の薄さでカバーしている点がある。


「改めてなんだがな」

「はい?」

「アッシ社長には感謝しているよ。このような会社に勤めることができ、目的も果たせる。そんな会社など、そう人生の中にはない。ありがとう」

「…………」


その時のアッシ社長の表情がやや複雑だったのはしょうがない。かろうじて、言えたのは


「漆木さん」

「む?」

「事情は知っています。ですからこそ、あなたがやるべき事はやはり間違っている」


答えは分かっているんだろうけど、その答えにたどり着いて、答えから成功となるまでの空白。

埋めようもない。とはいえ、正解もない。


「私の気持ちです」

「そうか」

「ただ、あなたが成功したのなら私の気持ちなど、関係のないことでしょう」



ブロロロロロ



「先に行きますね」

「おーぅ」


分かっているよ。そんなのは、大分前から知っているさ。



アッシ社長が仕事から帰ってくると、美癒ぴーと日野っちが話をしていた。


「美癒ぴー、今度なんだが」


おやおや、デートのお誘いですかと。社長が帰ってきたのに2人共気付かず、そのまま話をする。

飲み会の契機を入れれば大分、まともに話しができるようになったのだろう。


「一緒に出かけないか!来て欲しいところがあってな」

「うーん」


肝心なことであるが、


「どこに行くの?」

「そ、それはだな」


まだチケットも兵多から入手していない。しかし、美癒ぴーの都合に合わせなければいけない。ディズニーランドみたいな、テーマパークじゃないのが悪いんだが、どうしてそこを選ぶかというと……。いや、ちょっと違うところもある。そもそもだ。


「まだ、"場所"が決まってない。まず、美癒ぴーの都合なんだ」

「は?」

「俺も色々あるんだよ。日にちが合うだけでいい!俺も合わせるし!」

「日にちだけで良いの?」


そういう事なら学校を合わせつつ、仕事がない日。


「あ!ちょっと先の夏休みでもいい!"チケット"は兵多に頑張ってもらうとして!ここらへん、休みじゃんか美癒ぴー!」

「そこは大学の仲間と旅行なんだよねぇ」


ついこないだ、闇鍋の話を書いてしまうと季節感がブレブレになってしまう。

いちお、まだ夏頃である。

話し方が若干下手だが、楽しませたいというつもりあるんだろう。好みは人ぞれぞれで、日野っちが好んでいる事をしに行くのだ。


「ともかく、分かったよ」

「ホントか」

「いつか空けておくから、しっかりと準備してよね」


待ち望んでいるような、一生来なくても良いようなデートの断り方みたいな。どっちにもとれる美癒ぴーの言葉に、気を引き締めたのは前者だと願いたい。


「分かった!じゃあ、美癒ぴーが旅行から帰ってきたら聞く!その時までには"チケット"も手に入れるからな!」


まったく、日野っちにはどんな考えがあるんだろうか。

美癒ぴーとは別視点で感じている、アッシ社長は日野っちに尋ねる。


「今日の日野っちは休みでしょう」

「休みだからって、来ちゃいけない訳でもないだろう!それより、アレはどうなってるんだ!」

「………ですね」


怒りながら指さすその先で、眠っているのは畦総一郎であった。4日という期限が切れても、まだメテオ・ホールが迎えに来ておらず、ここでお世話になっているのであった。

トーコ様の指定席である長ソファーで堂々と眠れるこいつは、やっぱり凄い。


「トーコ様がお留守で良かったです」

「そうですね」

「俺はあいつと部屋が同じになったせいで、不眠症になったぞ」


自由奔放という概念じゃあない。


「くーっ……くーっ……」

「夜全然寝ないのに、昼間グッスリ寝ている奴を見ると腹立つ」

「でしょうね」


仕事には時間帯が当然ある。朝からの業務、昼からの業務、夜からの業務。それとは別にフリーランスでやる仕事もある。

畦総一郎の職業は、童話作家。時間に沿って製作する人もいれば、自由気ままにやる人もいる。畦はどう考えても後者である。


「メテオ・ホールさんが来るまで待ちましょう。それ以外、こちらも対処できません」

「会社内にニートがいると腹が立つな」

「まぁ、従業員じゃないだけ良いじゃないですか。無能と手を組むのは中々精神に来ますよ」



そんなこんなで。『VALENZ TAXI』の、平常運転は始まっていく。

はずだった……。


「かーっ……かーっ」


この畦総一郎。そろそろ、家や会社に顔を出さないとマズイと思ってはいた。堂々と寝ているけれど。



◇      ◇



1人目。と、書くより2人目が近いだろう。

ガンモ助さんは福道から電話をもらった時のため、出会うことはなかった。むしろ、出会わなくて良かったと思う。


「ど~ぞ~」


トーコ様は駅前で男性のお客様を2名、乗車させた。体に包帯を巻いていて、1人は松葉杖状態。病人がタクシーを利用するのはそう珍しい事ではない。

そして、何より。客を気にする運転手でもないのだ。


「×××まで」

「了解しました~」



目的地へとお客様を運ぶ。それがタクシーのお仕事。泥酔客、性格の悪い人、機嫌が悪い人。運転手に悪態をつける行為になんの意味があるか分からんが、

『VALENZ TAXI』という会社の体質は、企業として発展する事よりもお客様を第一に考えている気もする。故に客を選ぶ。

まぁ、アッシ社長から言わせれば、客が自分で客を選んでいると回答が来るだろう。



チャキィッ


「?」


後部座席から運転手に刃物を突きつけられ、


「有り金全部、置いてけ」

「車から降りろ」


犯罪行為にひた走る。その時まで、客として認識して欲しいか。そして、運転手として認識されるべきか。だからここからはどちらにも頷ける、言い訳合戦。

普通じゃないタクシー会社に普通な攻めで来た、復讐者達。だからこれからの理不尽は、復讐が成せなかった罰になる。


「わ~~」


眠る細目でナイフを見たトーコ様。その後、後部座席の2人に向かってその眼を開いた。


「お前等が出ろ」


トーコ様は比較的優しい。どんなお客様であっても、冷静かつ和やかに相手をし、泥酔客だってキッチリと眠らせて目的地まで運んでくれる(金は高くなるけど)。

ただし、よっぽどのクズ野郎を乗せたと判断した場合は、運転手の顔は出さない。今の奴とか、睡眠を妨害し暴言ばかりを吐くお客様とか(後者の客にはテレポートで対応ですが、ごねると容赦しない)。


刃物がトーコ様の服に触れているということは、トーコ様も相手に触れられるという事。知らなかったんだという、気持ちも分かる。だが、それには限度ってもんがある。

仕事にしろ、やるべき復讐にしろ。しっかりと調べて、慎重と大胆な行動が成功に導く。ただやるだけなら機械で済ませること



ベギイィッ



「え」


そこからの攻防というより、横暴な。まさに暴力の塊は2人のお客様を処刑に至らせる。

トーコ様はナイフを持つ男の手を握った。改めてその時に男達は知ったが、



この運転手!メチャクチャデカイ!!

可愛いくて緩い顔した眼鏡女性なのに、身長高っ!見上げるくらいだ!



座っていると分からないものだ。しかし、愚かにも今気付くのかよって突っ込んでしまう。トーコ様はナイフを持つ男を遠慮せず、手首を捻らせてナイフを床へと落としていく。

運転席の背もたれを魔法で消滅させ、ナイフが床に落ちる一閃で決める3連打は瞬く間に1人の男を粉砕。



「ひっ」



悲鳴を上げようとした男であったが、どんなことを発すれば良いのか、分からないまま。トーコ様の暴力によってズタボロにされるのであった。



ドーーーンッ



2人の男がタクシーから外へと投げ出されると、そこはゴミ捨て場だった。らしいといえば、らしい場所への置き去り。そして、



「ガソリンが無駄になっちゃいました~」


トーコ様は二人の男を無視して、また駅前に戻っていくのであった。


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