考え過ぎなぐらい、没頭できることがあると割りと楽しい人生
闇鍋、具材当てゲーム。様々な具材が投入された鍋の中、7尾ほどの海老の内、1尾を獲った者が勝者となる。鍋の中の海老には小さい爪楊枝が刺さっており、反則の防止が成されている。
ううっ、反則を防がれ、1番手になるなんて、
美癒ぴー。ゲームを企画して、一時のリードがあったものの。マジメちゃんとアッシ社長の工作によって、完全勝利を外され、賭けを成すハメになった。
制限時間もある。どうするかという思考も何もなく、一縷の望みで鍋に箸を入れる。
お願い!海老ちゃん、私の箸に捕まって!
感覚分からず、海老っぽいものを掴んで皿へと乗せる。回答は全員が取り終えてから分かるものであり、この時点では美癒ぴーは引いたかどうかは分からない。
「とりましたね。では、私が行きますよ」
アッシ社長が鍋に箸を突っ込んでいる間に、美癒ぴーは手でとった具材を触ってみる。爪楊枝の部分があるかないかですぐに分かる。
うっ、これは違う。お肉をとったみたい。
美癒ぴー、勝者にならず!
「まー、テキトーにと」
2番手のアッシ社長。正直、このゲーム。取り壊そうと思って、メチャクチャな事を言った。それでも壊してくれないとは、困ったものである。
彼の心理状況。勝つ事よりも他をなるべく勝たせないという心理があった。(勝つ気はない)
美癒ぴーをさりげなく、1番手にできたのは良かったですよ。おそらく、勝ちに来る子。対策もあったでしょうに、残念。まず、あなたが勝てなかったのは容易に想像できます。とはいえ、どうやって2ゲーム目で美癒ぴーを勝たせないか。考えなければいけませんね。
名前を知るには早すぎます。
アッシ社長。明らかに感触が違う、白菜を堂々と獲った。アッシ社長も勝者にならず。
「マジメちゃん。いいですよ」
「は、はい!」
さて、ここからが難解な心理戦となる。アッシ社長が気付きながらも、やや薄い警戒に留めているのは大事な物の差である。
ちょっと頭がキレるというより、回転してしまうマジメちゃん。物凄い勝つ気でいた。ただし、……自分が勝つ事ではない!
アッシ社長にどうやって、海老を獲らせれば良いんでしょうか!?
姉に対しての質問より、まさにダイレクトな命令に乗っかる気持ちなのだ。おそらく、それは自分の姉もそうだと思っている。秘密という、言葉のやり取りは賭けに使うにはあまりに安っぽいもの。
マジメちゃんは理解している。
あの仕事に情熱を注ぐ、アッシ社長が。まさかのプライベートでのOK。きっと、この先にこんなアプローチのチャンス。来るものではない。
お姉ちゃんも、ぶっちゃければ。私と同じ気持ちのはず……そうでしょ、お姉ちゃん!
暗闇だから分からない。奇妙な連帯感、姉妹の繫がり。
「…………」
「早くとらないんですか、マジメちゃん!」
「海老がどこにあるかなーって、探してから獲ります」
1ゲームじゃ無理!保険の2ゲーム目が勝負!
マジメちゃん。違うと分かっていながら、肉団子を箸で突き刺して皿に置く!マジメちゃんも勝者にならず。
「じゃあ~、私が行くよ~」
アッシ社長、海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。海老を獲ってください。
緩い口調に隠された、秘められた気持ち。天然であり、シンプルな思考で突き進めるトーコ様は妹のマジメちゃんのような、獲らせるという思考には至らない。希望である。
もはや、そっちの方に行っており、自分のことはあまり考えずに一瞬で鍋の中にある具材を一つ獲った。それでおしまい。
「最後は私ですね」
N_MH。とても純粋に、勝ちに来ている。小細工、やる気なし、イカサマ、他力本願といったゲームへの集中とは違い、純粋に勝ちを求めて楽しんでいる。
「これはどうでしょう!」
N_MHも、鍋の中から具材をとった。
「それじゃあ、明かりを点けますよー」
パチンッ
総評。
美癒ぴー、お肉。
アッシ社長、白菜。
マジメちゃん、肉団子。
トーコ様、白菜。
N_MH、貝。
全員、敗者!
「あー、誰も勝てなかったー!」
「そうですね」
「ううっ、残念」
「う~ん、取れないものなんだねぇ~」
「固いからこれだと思ったのに、まさか、海老より少なかった貝をとるなんて」
この結果に全員は思考を網羅した。
良いのか悪いのか、分からないけど。ともかく!全員、海老をとれなかった。単純な確率だけでもまだ同じ。私にも、トーコ様にも、アッシ社長にまで勝利がある展開!!
誰か海老を獲ると思いましたが、獲れませんでしたか。これが次のゲームまで続いて欲しいんですが、どうもそんな感じしませんね。マジメちゃんが味方だと思ったんですが、何故、箸で突き刺して肉団子を獲っているんですかね?目もマジなんですけど
良かったー。誰も海老を獲っていない!7尾ある!でも、アッシ社長。白菜ってさすがに箸で分かるんじゃないんですか?もしかして、勝つ気がないんです!?
む~ぅ、誰も海老を獲れないなんて~。アッシ社長だけでも良いですのに~。
意外と獲れないものなんだー。アッシ社長が獲らないなら良いけど。
全員、考える。
ゲームだけでなく、立場を考えた。重要となっているのは、美癒ぴーとアッシ社長と言って良いだろう。
もしかして、トーコ様とマジメちゃんは私に勝って欲しいと思っているんですかね?勘弁してくださいよ、美癒ぴーとN_MHは気持ちが顔に出ていると思うんですけど。
私はとりあえず、勝ちませんよ。美癒ぴーにも勝たせませんけど。
察しの良い、アッシ社長。そして、察しの良い、美癒ぴー。
アッシ社長が白菜を獲っている。そういえば、獲るときもあんまり時間をかけなかった。ということは勝つ気がない!?……私としてはアッシ社長には勝って欲しくない。けど、マジメちゃんやトーコ様は勝たせようとしているんじゃ……?
その2人に対抗するマジメちゃん。姉が頼りないので、作戦を堂々と実行する。
「あの、緊張しちゃって。席を外してもいいです?」
照れた顔を作って、全員に訊く。止める者はいない。
作戦が立たないなら、時間を作ることに切り替える。この鍋から離れるという行為はある意味の賭けではあったが、上等な潰れ役と言えよう。
「あ~、じゃ~、私も~」
マジメちゃんに続くように、姉のトーコ様も席を外す。
意図は分からない。とはいえ、自分の妹がこうして何かを企んでいることは、姉だから分かった。
しかし、それよりも全員に衝撃が走る。物凄い一手が、N_MHから繰り出された。
「それにしても、鍋美味しー」
!!
明かりが点いたこと。マジメちゃんが一時の休憩を宣言したこと。ついうっかりという天然な行動にしては、とても有効打。止められなかったアッシ社長。どうすれば良かったか、分からなかった美癒ぴーとマジメちゃん。意味が分かっていないトーコ様。
「ちょ!N_MH!」
「固いこと言わない。アッシ社長」
「あ、えっと……」
自分の取り皿に、鍋にあった海老を除いたいくつかの具材を入れた!
一瞬過ぎること、全員が想定していなかった伏兵の行動に驚きが先行したまま。
「誰も引けなかったんですから、ゲームとしてどうなんです?」
「私、ゲーム感覚じゃないんですけど……」
「このゲーム。誰も勝てなかったら、つまらない余興で終わるじゃないですか。別に全部はとってませんよ」
いや、そうですけど!
まさか、こんな伏兵にいっぱい食わされるとは。美癒ぴーの"人格"データが埋め込まれているだけあって、彼女は手強いですね!マジメちゃんと美癒ぴーに警戒心をやり過ぎた!
自分が勝つ事もN_MHの咄嗟の機転で生まれた。しかし、それよりも応援という意味で、美癒ぴーにウィンクして気持ちを伝えた。
『頑張って勝って!美癒ぴー!私も勝つつもりだけど』
勝てという気持ち。N_MHが言ったように、誰かが勝たなくてはこの具材当てゲームの意味がなくなる。誰かを負かすのではなく。自分が勝つ事!それは社会においても大切な気の持ち様!
鍋を頂いていたから流れた汗じゃない。これは激しく闘志が湧いてくる、熱い熱い、戦いを冷やそうとするも焼け石に水となる、そんな汗だ。
海老がよく見える様になった。確率だけでも跳ね上がった。
頑張って、海老を獲る。良い方法が浮かばないけど!
「じゃあ、ちょっとね」
「私達は外れるね~」
一方でマジメちゃんとトーコ様。2人で一緒に廊下もとい、トイレへと行く。
女性の井戸端会議、その中心場所の一つだ。
「マジメ、何か良い方法はないの?」
「お姉ちゃんも同じ気持ちなんだね」
着くやいなや。トーコ様は直球だし、マジメちゃんも同じく直球だった。
「アッシ社長はたぶん、勝つ気がない。真剣じゃないと思うの」
「そんな~……」
「でも、大丈夫!お姉ちゃんが味方なら、一つだけ!アッシ社長を勝たせる作戦があるの!……といっても、私も上手く行くか分からないけど」
「え?そんなすごい作戦があるの!?」
「お姉ちゃんがいなきゃ、絶対できないこと!」
マジメちゃんの作戦。トーコ様が味方になっていなければ絶対にできないものであった。対策もされるかもしれない。でも、……
「まったく、女性達は忙しいですね」
「なんですか!アッシ社長!」
「いえ。まぁ、個人でやってください。私は次も外します。ただし、美癒ぴーには勝って欲しくないので妨害はしますよ」
「そ、そうですか!?でも、私。やってみますから!」
「日野っちにその気持ちを向けてくださいよね。私とかにではなく」
「一番気にしてること、言わないでください!」
く~~っと、本来向けるべき、問いかけを言われることに表情を赤らめさせる美癒ぴー。それをどーいう心境で見ているか読めないN_MH。
アッシ社長。マジメちゃんが一体どんな手を打ってくるのか、ちょっと期待をしつつ。絶対に勝たないため、絶対に美癒ぴーを勝たせないため、頭を使った。今から具材を追加したり、あるいはいっそ。鍋を引っくり返してゲームを無効にするとか。
さて、どうやって美癒ぴーを勝たせないか。シンプルにやるんでしたら、アレですかねぇ。
偶然ではあったが、アッシ社長が思いついていた作戦はマジメちゃんと同じであった。目的は違えど、美癒ぴーを勝たせないため。アッシ社長を勝たせるため。とるべき最良な作戦は奇しくも同じであったのだ。
「お待たせー」
「遅くなってごめ~ん」
トーコ様とマジメちゃんが戻ってきた。戦略会議は終わった模様。鍋の中にある具材は少なくなっており、海老はちゃんと見えている。これから電気を消して、順番で混ぜ合うわけだ。
その前に発言したのはマジメちゃん。
「さっきお姉ちゃんと話したんだけど」
隠すこともなく、宣言したのは意外なこと。
「多数決で決めて欲しいの」
決定方法を明確にすることで、反対意見を確実に押し殺すのが狙い。5人いる中、3票を獲得することにあたり、一切の小細工を明かさずに堂々と手法を開かせるのは、話し合いを円滑に進める一つの手段であろう。
「次、鍋の中から順番にそれぞれ獲っていくのではなく。みんなで一斉に、鍋に箸を突っ込んで獲るという方式にしませんか?」
とても大事なことの一つ。その一段階目。
「お祭みたいな感じですね」
「5人も同時にですか?」
「ええ。楽しそうじゃないですか。それで"自分のお皿に、鍋の中にあった海老が置かれていたら"勝ちというルールでやりませんか?」
その意図を読むには、美癒ぴーとN_MHも読み切れないだろう。
重要なのは二段階目。さりげなく、発言した二段階目の一文であった。
「………………」
「………………」
「………………」
3人は考える。
マジメちゃんには何かの勝算があって、このルール変更を出した。それはすぐに分かったこと。
では、何をしてくるか?トーコ様の協力があるのでは?
「いいんじゃないですか?ただし、10秒以上はなしですよ?10秒経ったら、電気をつけますからね。そこで手を止めてくださいよ?」
悪くない話であったのは、アッシ社長も同じであった。
美癒ぴーを一番、妨害する方法として。同時に箸を鍋に入れることであるからだ。
「………!私も良いですよ!」
そして、美癒ぴーもだった。マジメちゃんの意見に賛成した。何かしらの手を編み出したというか、抜け道というか。
「面白そう!私、楽しみです。電気を消すのと、点けるのは私がやりますねー」
N_MH。この2ゲーム目が、美癒ぴー VS アッシ社長 VS トーコ様 + マジメちゃんというの三つ巴形式であることをすぐに理解し、離れながらゲーム終了のボタンを押す役割をさらりと発言。それを否定する者がいなかったのは、N_MHが適任であることを4人が理解していたこと。
「じゃあ、やりましょう」
パチンッ
電気は消される。
先ほどと同じように順番で鍋の中をかき混ぜていく。N_MHが終わり次第、具材当てゲームの最終戦が始まる。
マジメちゃんには秘策があった。姉である、トーコ様の協力が不可欠である。
この闇鍋でわずかな海老を確実に獲る方法が必要。N_MHのまさかの行動には驚いたけど、それよりも確実な方法を持つのは、お姉ちゃんしかいない。
できるかどうか分からないけれど、お姉ちゃんはやってくれる!
その点においての秘策というのは、アッシ社長が推察できたか否か。付き合いは長い方だ。漠然とではあるが、マジメちゃんとトーコ様が協力し合っているというところを見るにこのゲーム、最大の障害は突破すると推察していた。
無論、そちらを撃破しつつ。最大の壁となる美癒ぴーの妨害も忘れない。
「全員、混ぜましたね」
「はい。構えちゃって良いですよね?」
「そうそう。しなきゃね」
美癒ぴーも秘策を準備している。そこへN_MHがスタートのコールをした
「では、スタート!!」
シュバアアアァッ
闇鍋をしているにしては、その音はあまりにも激しいものであった。一番に動き出したのは美癒ぴーとアッシ社長であった。
美癒ぴーと丁度向かい合って座っていたアッシ社長は、いち早く、美癒ぴーの箸を自分の箸で掴んだのだ!なんという卑怯で狡猾な作戦。とはいえ、自分が勝たず、相手を負かすという方法においてはこれは最良な選択。
「うっ」
「すみませんね、美癒ぴー」
わずかな確率にしたことよりも、確率そのものを失くすことがゲームにおいて重要なのである。アッシ社長と美癒ぴーが向かい合って座っていたからこそ、できたやりとりであった。
5人の配置は、
右側にアッシ社長、マジメちゃん、N_MH。
左側に美癒ぴー、トーコ様。
である。
端に座っての攻防は一瞬で決着した。しかし、中央からの攻撃は容赦なく、アッシ社長へと向けられる。この暗闇の中、色が明らかに違うとはいえ、見えにくい海老を正確に獲るには目の慣れが必要であり、それに見合う反射神経なども要求される。
1,2,3……静かに、たったの一回で獲得するための沈黙。
暗闇という視界は煙幕や光の屈折とは異なり、目を慣らせる時間はそう擁さず、間違いはそう起きない。分かっていることと、下準備の条件が整う者。この中でただ1人いた。
「むぅ~~~」
トーコ様であった。彼女は常に寝ていると言って良い存在だ。目を瞑って、暗闇に慣れることはそう違和感ある行為ではないし、運動能力もこの中でピカイチなのだ。
「!!」
トーコ様、開眼する!暗闇の中、鍋の具材が見える。アッシ社長の姿が見える。美癒ぴーが見える。マジメが見える。箸を一気に鍋の中へ、海老に向かって突き進む!
風や気持ちが周囲に伝わり、電流が来たようにアッシ社長も動いた。美癒ぴーの箸を止めていたことを止めた。だが、これは無駄。
到底、アッシ社長の非力さではトーコ様を止めることはできないからだ。
なるほど、マジメちゃんがトーコ様を頼ったのはこの最難関を突破するためですか。
ある程度の予測が立てば、その対処法を編み出すロスはそうない。アッシ社長に焦りはなかった。十分にまで、勝たない手段があった。4,5の、とても短い時間で成せること。
バヂイィッ
トーコ様の大きい体。美癒ぴーの方まで、左手が流れてつき、体を乗り出してまでアッシ社長のお皿に海老を入れようとする根性。それを無慈悲に防いだのはアッシ社長の手に握られた。
「これは」
鍋の蓋!!アッシ社長。さりげなく、鍋の蓋を持っていたんですか!
これにトーコ様の箸は弾かれ、海老は宙へと舞った。この防御が決めてとなったと、アッシ社長は確信した。その勝利の隙に動いたのがアッシ社長の横に座るマジメちゃんだった。
「ごめんなさい!」
「え?」
ドーンッと、横から急にアッシ社長を押し出したのだ。正面への意識が強かっただけに、横から来た痛烈な奇襲に対応はまったくできなかった。それ反則じゃないんですかね?という気持ちが強い。
こんなところが姉妹らしい。タイプは違えど、一直線だ。
盾を除去しただけでなく、防ぐ存在も追い出した。宙に舞った海老を再び掴み、トーコ様はアッシ社長の皿へ一気に海老を捻じ込んだ。
そして、1秒が過ぎ、
「電気を付けますよ」
明かりはついて、ゲーム終了。その結果は当然、歪曲した発言がとんだ。
「やった!アッシ社長が勝った!」
「ちゃんと海老が獲れてた~!」
確かにトーコ様は爪楊枝が刺さった海老を手に入れ、激しい攻防を姉妹で力を合わせ、アッシ社長の席にあった皿に入れたのだ。
「……やれやれ、私の勝ちですか。なんていうか、執念ですね」
倒れたアッシ社長も起き上がり、それを確認した時。とり皿の中身の違和感に気付いた。
喜ぶマジメちゃんとトーコ様を黙らせるように、
「残念ですけど、勝ったのは私です。トーコ様、マジメちゃん」
美癒ぴーが勝利宣言をした。
「え?」
「え~?」
「これは……」
アッシ社長には分かっていた。これは私の勝ちではなかった。揉め事になるだろう、しかし、事実がある。美癒ぴーの手にはアッシ社長の皿があり、一方でテーブルに置かれている皿は……
「海老が入っている皿は、私の皿です!」
「ちょ!?」
「ええぇぇ~~!?」
「ですね、私の皿は美癒ぴーが今、手に持ってます」
ここでルールの再確認をしよう。
マジメちゃんは、"自分のお皿に、鍋の中にあった海老が置かれていたら"、勝ち。というルールに変えたのだ。これはトーコ様の力があって成せる、本当の力技である。
「いやいやいや!」
「それズルイよ~」
「なんていうか、2人が言うんですか?私が言うのも、なんですけど」
「私の勝ちですから!トーコ様!マジメちゃん!」
偶然にも、美癒ぴーとアッシ社長の席が近かった事がこの裏技を成せた。これを認めさせるには相応な言葉が必要であるが、美癒ぴーに焦りはなく、淡々としていた。
「マジメちゃんは確かに言いました、”自分のお皿に海老が置かれていたら”と」
「ううっ」
「2人が揃ってこのような手段を展開している以上、これもまた認めるべきことです!」
「う~っ、美癒ぴーの鬼~」
そもそも、アッシ社長が海老を獲ったのではなく、トーコ様が獲って無理矢理入れようとしていたのだ。通らないとなれば全てが無効なのは事実。
「ま、参りました~」
「同じくです」
トーコ様、マジメちゃん。敗北。
「仕方ないです。美癒ぴーの執念に免じましょう」
アッシ社長も敗北した。
「や、やった!私の勝ちーー!」
美癒ぴー。この場、唯一の人間にして、3人を出し抜いて勝利……なのだが、
「しかし、その後は知りませんよ。あっちを見てください」
「え?」
「勝ったのは、美癒ぴーだけじゃなくて。私もなんだよ!」
そう。もう1人、海老を鍋の中から獲った者がいた。
「じゃーん!私も、海老をゲットしました!」
「ええーーーっ!?」
「N_MHまで!?」
「どうやって、あの暗闇の中で獲ったの!?」
なんと、N_MHまで海老を獲っていたのだ。不正なく、ちゃんと爪楊枝が刺さっている海老だ。ほぼ性能的には美癒ぴーと変わらないはずなのに、どうして海老が皿に入っている。
誰も見てはいない。驚きが先行しており、その種明かしができたのは冷静だったアッシ社長だけであった。
「さーさー。美癒ぴーも、私の質問に答えてね」
「ううっ、まさか。そんなことが……ま、いいのかな?」
「なんで獲れてるの~!?」
「そんな簡単に獲れるのなら、マジメもやったのに!」
「………」
この中にいるみんなが、卑怯なプレイをしましたね。
N_MHはおそらく、電気を点けてから海老を獲った。私とトーコ様達が言い合いになって、鍋からの注意を外した瞬間に海老を獲った。これ以外、ありえない。美癒ぴーが勝ったことでその隙は大きくて、誰もその事に気付けなかった。
見事ですよ。勝ち誇ったその時、その人は負けていると、言ったところですか。
アッシ社長の推察は、100%だった。しかし、証拠がない。大胆な犯行ながら誰にも気付けなかった不正行為。美癒ぴーの”人格”データを受け継いでいるだけに、大胆で発想が柔軟である。
「仕方ないですね」
この中でただ、敗北者を挙げるなら。アッシ社長、ただ1人であろう。




