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VALENZ TAXI  作者: 孤独
進退編
63/100

合コンでのゲームは、大人味

ぐつぐつぐつぐつ…………



煮立っていく音。ガスコンロを持ってきて、闇鍋でもやりましょうというノリ。


「日野っちも、畦さんも、この時くらいは居た方が良かったかもね」


なんで断ったんだろうと思ったが、アッシ社長の脳裏に一つ。


「皆さんと食事するのは悪くないですから」


畦さんをご一緒させると、大変でしたからねぇ。よく零すわ、咽るわで


単なる障害の除去のためである。日野っちに早々連れて行かせたのは、ただ寝床を用意させるだけでなく、飲食も共にしろというものだ。

嫌な人とはこちらから極力避ける。それは人間関係を上手くやるコツの一つだ。

給与には色をつけておきますか、それともなんですか。ハーレムというのをやります?良い案件が一つだけありますが、オススメしませんよ。


さて、一日ぶりの、ゆっくりとした夕飯ですね。



「わー、鍋だー」

「闇鍋ですね~」



パチンッ



電気を落とし、5人はテーブルを囲って座る。全員、今日は闇鍋をやるということは聞いた。そして、それを決めるのは当然ながら調理当番である美癒ぴーであった。(N_MHも面白いの一言で賛成)

右側にアッシ社長、マジメちゃん、N_MH。

左側に美癒ぴー、トーコ様。


「お魚の骨は最初から抜いてますので、安心して食べられますよ。お肉も柔らかく、噛み切れるようにしてますので」


凄い良い気遣い。この闇鍋の素晴らしさはどれをとっても、確実に旨いことである。美癒ぴーとN_MHが共同して作れば、当然、旨い料理になる。

視覚を封じられて楽しく、美味しく頂ける闇鍋に



「わ~、なにを食べてるか、わくわくします~」

「こーいう文化も日本の伝統なんですか」

「単なるゲームですよ。ゲーム」


美癒ぴー。よく考えたら、自分以外は日本人じゃなかったと気付く。N_MHはアンドロイドとかの類いで、アッシ社長達は異世界人だ。闇鍋の司会進行は当然のように美癒ぴーになった。

日野っちがいないのが少し残念であるが、いない方が話を乗せやすいところもある。


「それじゃあ」

「いただきます」


こうして夕飯、闇鍋パーティー。仕掛け人の美癒ぴー。


「美味しー、お肉かな?」

「野菜もいいねぇ」


もぐもぐと、闇鍋の恐怖感が一切感じられずに頂く一同。まだ鍋の時期としては早いけれど、美味しく仕上げれば問題はない。ご飯も進む進む。


「いやいや、勿体無いですね」


暗闇の中で頂く料理を残念にも思う。実際に何を口にしているか、ハッキリと見たいものだ。まぁ、鍋の話はここまでにしましょう。

誘い込むのだ。丁度、向かい合う2VS3。


「トーコ様」

「うん」


特別に何かをやるわけだが、その特別を未だに決めていない。

ただやりたいこと、


「皆さん、このままゲームでもしませ~ん」


意地悪ながら、秘密を知る事。その切り口を作ったのはトーコ様の一言だった。


「ゲーム?」

「今日は美癒ぴーがいますし~、お互い、女同士。秘密をネタに話すゲーム」

「勝手に女にしないでください」


パクパクと鍋を頂いてく、アッシ社長達。興味なさげであったが、


「最近~、マジメも~、N_MHも~。2人で何かしてるじゃないですか~、私に内緒で~。アッシ社長も謎が多いですし~」

「肝心のトーコ様に謎が少ないんじゃ?」

「それはそれです~」


ともかく、トーコ様は自分で頑張って、遊びも兼ねての秘密の探りをした。アッシ社長は当然ながら、この暗闇の中。興味なさげ。


「私、トーコ様やマジメちゃん、アッシ社長の名前とか知りたいなぁ~」


ちょっと棒読み過ぎか、美癒ぴーも面白半分に提案。内緒であるが、ガンモ助さんの本名を知ってしまってか、軽い口調であった。

もくもくと食べるアッシ社長を他所に、マジメちゃんとN_MHは……


「お姉ちゃんに秘密にしてたわけじゃないけど……」

「でも、こーしてゲームをしながら、交換し合うのは楽しいかもです」


交流が少ないわけであり、特にマジメも気になることがあった。


「私が眠っていた間。お姉ちゃん、どこまでアッシ社長と進展したの?」

「ふぇ!?」

「それを教えて!ゲームに勝ったら!」

「え、ええぇっと~、……うん」


それ私も地味に気になっているという、美癒ぴーがいた。確かに一つ屋根の下で住んでいて、今。マジメちゃん達に警戒をしているのだ。

一方のN_MHは


「はいは~い。じゃあ、私。美癒ぴーに聞きたい秘密がある」

「え?」


美癒ぴーに興味を持っていた。好きな人とか、そんな少女らしい質問かと思ったら、


「私のこと、どう思ってる?」


なんていうか、とても人間じゃない人が人間らしい質問を要求してきた!


「ちょっとだけ、教えて欲しいなぁ。私はあなたの"人格"データを受け継いだ存在だから」

「む、難しい秘密を訊くんだね、彼氏のこととか聞いてよ」

「ノロケ話はNOでーす。そもそも、彼氏になれたのです?」

「むっ……」


こちらから聞こうと思ったら、お互いにとんでもねぇ事を喋る羽目になりそうな、トーコ様と美癒ぴー。鍋を突いていた箸が止まった。そして、今回のラスボスを務めるだけでなく、立会人として鍋を食べているアッシ社長。

話を纏めに掛かった。


「では、こうしましょう。まず、分かりやすくします」



美癒ぴーが勝った場合、

皆の名前を教えてもらう。


トーコ様が勝った場合、

マジメちゃんとN_MHが最近やっていることを教えてもらう。


マジメちゃんが勝った場合、

トーコ様とアッシ社長との関係について、教えてもらう。


N_MHが勝った場合、

美癒ぴーがN_MHについて、どう思っているか教えてもらう。



「私は参加しないんで」


なんか一番ズルいポジションに座ってるんですけど……。

しかし、私は言う。


「じゃあ、次のゲームに強制参加させますから!アッシ社長!」

「なんでですか?」

「だって、みんな秘密をばらすのに、アッシ社長だけズルイですよ」

「私の場合、NM_Hの質問以外の秘密は分かっているので、特に何も………」

「でしたら今すぐ、ゲームに混じってください!まだゲーム内容を決めてないですし」


強引ながらぷんすか気味かつ、当然の条件を突きつけてみた美癒ぴー。アッシ社長はお酒とかは飲んでいない。鍋を食べて、ごはんを食べて、それくらいで


「そんなに言うなら、まぁ、いいですか」

「!ホントですか」


正直、この会社で一番謎なのはアッシ社長である。その人がこの未だに決まっていないゲームに参戦し、勝敗に従うという意志。


「そうですね、でしたら……何を尋ねましょうか(聞く事ないですが)」

「参戦です~?」


まさか、そんな。初っ端からアッシ社長が乗っかるとは、じっくりと責めて訊いてみようと思っていたトーコ様。意外過ぎて、質問を変えたくなった。私の事をどう思ってくれているとか。でも、名前ぐらい、美癒ぴーが勝ったら分かるのだ。


「あ」


だが、肝心なアッシ社長。何をみんなに訊くかと考えても、大抵の事は知っている。個人に的を絞るのもなんだったので……秘密ではなく、命令の類いにした。

完全にこの場のノリでやった。正直、悪気はなかった。


「皆さんが私と一緒に寝るというのはどうです?私以外、女性ですし」


…………空気が、凍った。鍋をしている事を忘れるくらいの、寒気がする命令。


「ちょっ」

「えっ」


寒いんですが……。そーいう顔をする美癒ぴーとN_MH。


「あ、アッシ社長!?」

「そ、その……今、なんと!?仕事らしからない!」


トーコ様とマジメちゃんは動揺が走った。これほど表情を晒さなくて済んで良かったと、思う4人であった。暗闇で良かった。しかし、……

どーいうゲームをして、どーいう勝ちにするか迷うじゃねぇーかという葛藤が走る一同。

取り消せと叫びたい、美癒ぴーであったが。ここで退いてはと思い留まる。

他も大体、同じ。唯一、例外挙げるとしたら


「あの」


冗談は止めてくださいよ、ぐらい言って欲しいんですけどねぇ。正直、なんでみんな。ゲームに本気を出すんです?止めさせようとしたら、逆効果でしたか。

女性というのは困ったものですねぇ。


アッシ社長が勝ったら、

みんな一緒に、寝ること。




◇       ◇




さて、日野っちがとても可哀想な状態となっているが、本題に入らなくてはならない。

鍋の火を消し、完全な暗闇となった状態。


先ほど挙げた質問事項、勝利による報酬。いかにして決めるか、どのようなゲームを行なうか。なるべく、不正がないものが良い。そして、暗闇という条件ならば唯一の真人間である美癒ぴーも戦えるであろう。

先手を切ったのは、当然ながら、美癒ぴーであった。こーやって、参戦し合うゲームになるのなら……ルール決めが重要だ。

闇鍋をやる時点で、美癒ぴーは決めていたのだ。


「ゲームは具材当てゲームにしましょう!」

「具材当て?」

「闇鍋を活かすんですね」


ゲーム種目は、具材当てゲーム。


ルール:

アタリの具材を事前に決めておき、1人ずつ順番に鍋から具材を一つとっていく。制限時間は10秒、当然ながら一回だけとる。

アタリを引いた人が勝利となり、勝利条件に沿って秘密、命令を出す。


これを2セット行なう。


「このゲームなら可哀想に1人だけ負けるといった事は少なく、複数が勝つという可能性もあります」

「妙案ですね。全員、勝てない可能性もありますし」


そこへ一旦、電気をつける。なんの具材を決めるか、順番にかき回すタイミングとか、重要なルール決めが必要だ。

結構、鍋は食べたが追加できる具材はある。白菜、しらたき、しいたけ、豆腐、白身魚、肉団子、……全員が鍋の中を見ながらのこと。


「箸でとると、分かる物はダメですよね」


手ごろな具材を探す。

鍋で身近な具材でやると、全員が勝つ可能性がある。かといって……中途半端に白身魚でやると、数の限りで誰も勝てない事もある。


「あ~!海老なんていいんじゃないです~?数が丁度良いよ~」


トーコ様が目を付けて、みんなに質問する。目にしていた者、言われて見た者。


「海老ですか、トーコ様」

「確かに今日の鍋には、小さな海老がいますね」

「私もそう思ってました」


具材となる海老は7匹ぐらいであり、大きい白菜や豆腐よりも小さめな海老。全員がそれに視線を送った。


「………………」

「………………」


提案がトーコ様であったこと、というのは意識にもあったのと。明らかにという面もあった。


「私はいいですよ?」

「アッシ社長が言うのなら、マジメも納得です」

「じゃあ、決定ですね。私も賛成」

「いいよー!」


ゲームを選び、仕切ろうとする美癒ぴーを遮るようにアッシ社長とマジメちゃんもYES。この時、美癒ぴーはゲームを作ろうという雰囲気作りに意識が集中しており、具材に対してなんら違和感を持たなかった。いや、違和感を予め出しているつもりであったから。



この海老はオカシイですね。鍋の中、目立つ色をしています。



みんな、海老を食べるけど。数の都合が良い。お姉ちゃんはなんとなく選んだと思うけど、そう選ばせているように仕向けているのでは?



この場で曲者と言えよう、アッシ社長とマジメちゃんは、海老がこの具材当てゲームの具材になると始まる前から勘付いた。ぶっちゃければ、美癒ぴーとN_MHが作った料理なのだ。細工がもっともしやすいのはこの2人であり、N_MHの勝利報酬を考えると、彼女には一切の罠を仕掛けたかというと、NOというのが普通。加えて、美癒ぴーはここに泊まりに来たのだ。仕掛ける公算は高い。


無論、仕掛けている。


「じゃあ、鍋の中を順番にかき混ぜましょう」

「電気も消さないとね」


あと、ほんの一押しでとりあえず。美癒ぴーの勝ちは決まっていた。


「ちょっと待ってください」


マジメちゃんが止めた。アッシ社長も、一言を発しようとするも。マジメちゃんに任せた。


「この海老。食べた人、何人います?私は2匹ほど食べましたけど」


その質問にどんな意図があるか、読み切れないが時間稼ぎやプレッシャーの意味もある。マジメちゃんは後者だ。


「うーん、2,3匹?」

「小さいから結構いましたけどね、私はそれなりに」

「闇鍋をしてたのに分かるわけないんじゃ。でも、食感が違うから分かるかな?」


どれだけ食べたかなんて、覚えている人なんていないだろう。だが、マジメちゃんはクギを刺す。


「まぁいいですわ。ただ、この鍋の中の海老。誰も食べませんわよね?」

「それ醍醐味が減るような……」

「ゲーム上です!今、見えている海老をとった人が、本当に勝者としたいのです!」

「なるほど」


上手ですね、マジメちゃん。

おそらくですが、美癒ぴーはこの海老を隠し持っている可能性が高い。闇鍋に乗じて、自分の皿に海老を置き、あたかも獲ったかのように仕向ける。マジメちゃんの質問を受け、それに反抗姿勢を少なくしながらも表情が固い。提案した者がこのような不公平な変化を曝け出すのは、少々残念です。

名前を明かしたくない私としては乗っかりましょうか。



「では、こうしましょう」


アッシ社長はつまようじをいくつか取り出し、それを半分折ってから海老に突き刺した。


「このくらいの大きさなら邪魔にもなりません。つまようじが外れた海老は無効で」

「さすが、アッシ社長!」

「これならアタリハズレが分かりやすいです!」


さて、問題となる美癒ぴーの反則疑惑であったが。


「…………」


ヤバイ。勘付かれた!魔法を抜きにしても、この2人を出し抜こうなんて無理だった!


読みは正しく。ご丁寧に美癒ぴーのポケットの中には、海老が入っている小さなビニールがあるのだった。ゲームが始まればすぐに海老を皿に投入して、勝利確定。

海老が具材にならなければ、意味はなかった必勝法。故に気付かれないとも思ったが、


ううっ、なんてことに。ルールも上手く隠しながらやったのに、最後のあと。電気を消したところになれば勝ったのに。とりあえずの1勝が……。



パチンッ



電気は落ちる。具材は決まった。残りの過程は3つ。


「鍋を順番にかき混ぜましょうか、美癒ぴーからどうぞ」

「あ、はい……」


コンロの火だけが明かりとなり、皆が鍋の中身をかき混ぜる役目。美癒ぴー、アッシ社長、マジメちゃん、トーコ様、N_MH。この5人の順番で混ぜながらのこと。


「誰から鍋の中にある具材をとります?」

「揉めるのはタルイので、鍋をかき混ぜた人からでどうでしょう?」

「もう明かりを切っちゃってますし、ジャンケンもできませんしね」


始まる具材当てゲーム。話の中でルールが定まって、1回目の順番はかき混ぜた者からの順。


「美癒ぴー、アッシ社長、私、トーコ様、N_MH……の順ですか」


暗闇故、運否天賦の遊戯。しかし、そこには必ず、心にある気持ちが込められる。

5人の心理戦かつギャンブルが始まった。



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