合コンでのゲームは、大人味
ぐつぐつぐつぐつ…………
煮立っていく音。ガスコンロを持ってきて、闇鍋でもやりましょうというノリ。
「日野っちも、畦さんも、この時くらいは居た方が良かったかもね」
なんで断ったんだろうと思ったが、アッシ社長の脳裏に一つ。
「皆さんと食事するのは悪くないですから」
畦さんをご一緒させると、大変でしたからねぇ。よく零すわ、咽るわで
単なる障害の除去のためである。日野っちに早々連れて行かせたのは、ただ寝床を用意させるだけでなく、飲食も共にしろというものだ。
嫌な人とはこちらから極力避ける。それは人間関係を上手くやるコツの一つだ。
給与には色をつけておきますか、それともなんですか。ハーレムというのをやります?良い案件が一つだけありますが、オススメしませんよ。
さて、一日ぶりの、ゆっくりとした夕飯ですね。
「わー、鍋だー」
「闇鍋ですね~」
パチンッ
電気を落とし、5人はテーブルを囲って座る。全員、今日は闇鍋をやるということは聞いた。そして、それを決めるのは当然ながら調理当番である美癒ぴーであった。(N_MHも面白いの一言で賛成)
右側にアッシ社長、マジメちゃん、N_MH。
左側に美癒ぴー、トーコ様。
「お魚の骨は最初から抜いてますので、安心して食べられますよ。お肉も柔らかく、噛み切れるようにしてますので」
凄い良い気遣い。この闇鍋の素晴らしさはどれをとっても、確実に旨いことである。美癒ぴーとN_MHが共同して作れば、当然、旨い料理になる。
視覚を封じられて楽しく、美味しく頂ける闇鍋に
「わ~、なにを食べてるか、わくわくします~」
「こーいう文化も日本の伝統なんですか」
「単なるゲームですよ。ゲーム」
美癒ぴー。よく考えたら、自分以外は日本人じゃなかったと気付く。N_MHはアンドロイドとかの類いで、アッシ社長達は異世界人だ。闇鍋の司会進行は当然のように美癒ぴーになった。
日野っちがいないのが少し残念であるが、いない方が話を乗せやすいところもある。
「それじゃあ」
「いただきます」
こうして夕飯、闇鍋パーティー。仕掛け人の美癒ぴー。
「美味しー、お肉かな?」
「野菜もいいねぇ」
もぐもぐと、闇鍋の恐怖感が一切感じられずに頂く一同。まだ鍋の時期としては早いけれど、美味しく仕上げれば問題はない。ご飯も進む進む。
「いやいや、勿体無いですね」
暗闇の中で頂く料理を残念にも思う。実際に何を口にしているか、ハッキリと見たいものだ。まぁ、鍋の話はここまでにしましょう。
誘い込むのだ。丁度、向かい合う2VS3。
「トーコ様」
「うん」
特別に何かをやるわけだが、その特別を未だに決めていない。
ただやりたいこと、
「皆さん、このままゲームでもしませ~ん」
意地悪ながら、秘密を知る事。その切り口を作ったのはトーコ様の一言だった。
「ゲーム?」
「今日は美癒ぴーがいますし~、お互い、女同士。秘密をネタに話すゲーム」
「勝手に女にしないでください」
パクパクと鍋を頂いてく、アッシ社長達。興味なさげであったが、
「最近~、マジメも~、N_MHも~。2人で何かしてるじゃないですか~、私に内緒で~。アッシ社長も謎が多いですし~」
「肝心のトーコ様に謎が少ないんじゃ?」
「それはそれです~」
ともかく、トーコ様は自分で頑張って、遊びも兼ねての秘密の探りをした。アッシ社長は当然ながら、この暗闇の中。興味なさげ。
「私、トーコ様やマジメちゃん、アッシ社長の名前とか知りたいなぁ~」
ちょっと棒読み過ぎか、美癒ぴーも面白半分に提案。内緒であるが、ガンモ助さんの本名を知ってしまってか、軽い口調であった。
もくもくと食べるアッシ社長を他所に、マジメちゃんとN_MHは……
「お姉ちゃんに秘密にしてたわけじゃないけど……」
「でも、こーしてゲームをしながら、交換し合うのは楽しいかもです」
交流が少ないわけであり、特にマジメも気になることがあった。
「私が眠っていた間。お姉ちゃん、どこまでアッシ社長と進展したの?」
「ふぇ!?」
「それを教えて!ゲームに勝ったら!」
「え、ええぇっと~、……うん」
それ私も地味に気になっているという、美癒ぴーがいた。確かに一つ屋根の下で住んでいて、今。マジメちゃん達に警戒をしているのだ。
一方のN_MHは
「はいは~い。じゃあ、私。美癒ぴーに聞きたい秘密がある」
「え?」
美癒ぴーに興味を持っていた。好きな人とか、そんな少女らしい質問かと思ったら、
「私のこと、どう思ってる?」
なんていうか、とても人間じゃない人が人間らしい質問を要求してきた!
「ちょっとだけ、教えて欲しいなぁ。私はあなたの"人格"データを受け継いだ存在だから」
「む、難しい秘密を訊くんだね、彼氏のこととか聞いてよ」
「ノロケ話はNOでーす。そもそも、彼氏になれたのです?」
「むっ……」
こちらから聞こうと思ったら、お互いにとんでもねぇ事を喋る羽目になりそうな、トーコ様と美癒ぴー。鍋を突いていた箸が止まった。そして、今回のラスボスを務めるだけでなく、立会人として鍋を食べているアッシ社長。
話を纏めに掛かった。
「では、こうしましょう。まず、分かりやすくします」
美癒ぴーが勝った場合、
皆の名前を教えてもらう。
トーコ様が勝った場合、
マジメちゃんとN_MHが最近やっていることを教えてもらう。
マジメちゃんが勝った場合、
トーコ様とアッシ社長との関係について、教えてもらう。
N_MHが勝った場合、
美癒ぴーがN_MHについて、どう思っているか教えてもらう。
「私は参加しないんで」
なんか一番ズルいポジションに座ってるんですけど……。
しかし、私は言う。
「じゃあ、次のゲームに強制参加させますから!アッシ社長!」
「なんでですか?」
「だって、みんな秘密をばらすのに、アッシ社長だけズルイですよ」
「私の場合、NM_Hの質問以外の秘密は分かっているので、特に何も………」
「でしたら今すぐ、ゲームに混じってください!まだゲーム内容を決めてないですし」
強引ながらぷんすか気味かつ、当然の条件を突きつけてみた美癒ぴー。アッシ社長はお酒とかは飲んでいない。鍋を食べて、ごはんを食べて、それくらいで
「そんなに言うなら、まぁ、いいですか」
「!ホントですか」
正直、この会社で一番謎なのはアッシ社長である。その人がこの未だに決まっていないゲームに参戦し、勝敗に従うという意志。
「そうですね、でしたら……何を尋ねましょうか(聞く事ないですが)」
「参戦です~?」
まさか、そんな。初っ端からアッシ社長が乗っかるとは、じっくりと責めて訊いてみようと思っていたトーコ様。意外過ぎて、質問を変えたくなった。私の事をどう思ってくれているとか。でも、名前ぐらい、美癒ぴーが勝ったら分かるのだ。
「あ」
だが、肝心なアッシ社長。何をみんなに訊くかと考えても、大抵の事は知っている。個人に的を絞るのもなんだったので……秘密ではなく、命令の類いにした。
完全にこの場のノリでやった。正直、悪気はなかった。
「皆さんが私と一緒に寝るというのはどうです?私以外、女性ですし」
…………空気が、凍った。鍋をしている事を忘れるくらいの、寒気がする命令。
「ちょっ」
「えっ」
寒いんですが……。そーいう顔をする美癒ぴーとN_MH。
「あ、アッシ社長!?」
「そ、その……今、なんと!?仕事らしからない!」
トーコ様とマジメちゃんは動揺が走った。これほど表情を晒さなくて済んで良かったと、思う4人であった。暗闇で良かった。しかし、……
どーいうゲームをして、どーいう勝ちにするか迷うじゃねぇーかという葛藤が走る一同。
取り消せと叫びたい、美癒ぴーであったが。ここで退いてはと思い留まる。
他も大体、同じ。唯一、例外挙げるとしたら
「あの」
冗談は止めてくださいよ、ぐらい言って欲しいんですけどねぇ。正直、なんでみんな。ゲームに本気を出すんです?止めさせようとしたら、逆効果でしたか。
女性というのは困ったものですねぇ。
アッシ社長が勝ったら、
みんな一緒に、寝ること。
◇ ◇
さて、日野っちがとても可哀想な状態となっているが、本題に入らなくてはならない。
鍋の火を消し、完全な暗闇となった状態。
先ほど挙げた質問事項、勝利による報酬。いかにして決めるか、どのようなゲームを行なうか。なるべく、不正がないものが良い。そして、暗闇という条件ならば唯一の真人間である美癒ぴーも戦えるであろう。
先手を切ったのは、当然ながら、美癒ぴーであった。こーやって、参戦し合うゲームになるのなら……ルール決めが重要だ。
闇鍋をやる時点で、美癒ぴーは決めていたのだ。
「ゲームは具材当てゲームにしましょう!」
「具材当て?」
「闇鍋を活かすんですね」
ゲーム種目は、具材当てゲーム。
ルール:
アタリの具材を事前に決めておき、1人ずつ順番に鍋から具材を一つとっていく。制限時間は10秒、当然ながら一回だけとる。
アタリを引いた人が勝利となり、勝利条件に沿って秘密、命令を出す。
これを2セット行なう。
「このゲームなら可哀想に1人だけ負けるといった事は少なく、複数が勝つという可能性もあります」
「妙案ですね。全員、勝てない可能性もありますし」
そこへ一旦、電気をつける。なんの具材を決めるか、順番にかき回すタイミングとか、重要なルール決めが必要だ。
結構、鍋は食べたが追加できる具材はある。白菜、しらたき、しいたけ、豆腐、白身魚、肉団子、……全員が鍋の中を見ながらのこと。
「箸でとると、分かる物はダメですよね」
手ごろな具材を探す。
鍋で身近な具材でやると、全員が勝つ可能性がある。かといって……中途半端に白身魚でやると、数の限りで誰も勝てない事もある。
「あ~!海老なんていいんじゃないです~?数が丁度良いよ~」
トーコ様が目を付けて、みんなに質問する。目にしていた者、言われて見た者。
「海老ですか、トーコ様」
「確かに今日の鍋には、小さな海老がいますね」
「私もそう思ってました」
具材となる海老は7匹ぐらいであり、大きい白菜や豆腐よりも小さめな海老。全員がそれに視線を送った。
「………………」
「………………」
提案がトーコ様であったこと、というのは意識にもあったのと。明らかにという面もあった。
「私はいいですよ?」
「アッシ社長が言うのなら、マジメも納得です」
「じゃあ、決定ですね。私も賛成」
「いいよー!」
ゲームを選び、仕切ろうとする美癒ぴーを遮るようにアッシ社長とマジメちゃんもYES。この時、美癒ぴーはゲームを作ろうという雰囲気作りに意識が集中しており、具材に対してなんら違和感を持たなかった。いや、違和感を予め出しているつもりであったから。
この海老はオカシイですね。鍋の中、目立つ色をしています。
みんな、海老を食べるけど。数の都合が良い。お姉ちゃんはなんとなく選んだと思うけど、そう選ばせているように仕向けているのでは?
この場で曲者と言えよう、アッシ社長とマジメちゃんは、海老がこの具材当てゲームの具材になると始まる前から勘付いた。ぶっちゃければ、美癒ぴーとN_MHが作った料理なのだ。細工がもっともしやすいのはこの2人であり、N_MHの勝利報酬を考えると、彼女には一切の罠を仕掛けたかというと、NOというのが普通。加えて、美癒ぴーはここに泊まりに来たのだ。仕掛ける公算は高い。
無論、仕掛けている。
「じゃあ、鍋の中を順番にかき混ぜましょう」
「電気も消さないとね」
あと、ほんの一押しでとりあえず。美癒ぴーの勝ちは決まっていた。
「ちょっと待ってください」
マジメちゃんが止めた。アッシ社長も、一言を発しようとするも。マジメちゃんに任せた。
「この海老。食べた人、何人います?私は2匹ほど食べましたけど」
その質問にどんな意図があるか、読み切れないが時間稼ぎやプレッシャーの意味もある。マジメちゃんは後者だ。
「うーん、2,3匹?」
「小さいから結構いましたけどね、私はそれなりに」
「闇鍋をしてたのに分かるわけないんじゃ。でも、食感が違うから分かるかな?」
どれだけ食べたかなんて、覚えている人なんていないだろう。だが、マジメちゃんはクギを刺す。
「まぁいいですわ。ただ、この鍋の中の海老。誰も食べませんわよね?」
「それ醍醐味が減るような……」
「ゲーム上です!今、見えている海老をとった人が、本当に勝者としたいのです!」
「なるほど」
上手ですね、マジメちゃん。
おそらくですが、美癒ぴーはこの海老を隠し持っている可能性が高い。闇鍋に乗じて、自分の皿に海老を置き、あたかも獲ったかのように仕向ける。マジメちゃんの質問を受け、それに反抗姿勢を少なくしながらも表情が固い。提案した者がこのような不公平な変化を曝け出すのは、少々残念です。
名前を明かしたくない私としては乗っかりましょうか。
「では、こうしましょう」
アッシ社長はつまようじをいくつか取り出し、それを半分折ってから海老に突き刺した。
「このくらいの大きさなら邪魔にもなりません。つまようじが外れた海老は無効で」
「さすが、アッシ社長!」
「これならアタリハズレが分かりやすいです!」
さて、問題となる美癒ぴーの反則疑惑であったが。
「…………」
ヤバイ。勘付かれた!魔法を抜きにしても、この2人を出し抜こうなんて無理だった!
読みは正しく。ご丁寧に美癒ぴーのポケットの中には、海老が入っている小さなビニールがあるのだった。ゲームが始まればすぐに海老を皿に投入して、勝利確定。
海老が具材にならなければ、意味はなかった必勝法。故に気付かれないとも思ったが、
ううっ、なんてことに。ルールも上手く隠しながらやったのに、最後のあと。電気を消したところになれば勝ったのに。とりあえずの1勝が……。
パチンッ
電気は落ちる。具材は決まった。残りの過程は3つ。
「鍋を順番にかき混ぜましょうか、美癒ぴーからどうぞ」
「あ、はい……」
コンロの火だけが明かりとなり、皆が鍋の中身をかき混ぜる役目。美癒ぴー、アッシ社長、マジメちゃん、トーコ様、N_MH。この5人の順番で混ぜながらのこと。
「誰から鍋の中にある具材をとります?」
「揉めるのはタルイので、鍋をかき混ぜた人からでどうでしょう?」
「もう明かりを切っちゃってますし、ジャンケンもできませんしね」
始まる具材当てゲーム。話の中でルールが定まって、1回目の順番はかき混ぜた者からの順。
「美癒ぴー、アッシ社長、私、トーコ様、N_MH……の順ですか」
暗闇故、運否天賦の遊戯。しかし、そこには必ず、心にある気持ちが込められる。
5人の心理戦かつギャンブルが始まった。




