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VALENZ TAXI  作者: 孤独
入社編
6/100

運転の心構え

仕事をする上で大切な事。それを今からアッシ社長は美癒ぴーに教えていく。


「はぁぁ~~……」


アルコールチェッカーという機械を初めて使った美癒ぴー。息を吹きかけるだけで、体内にあるアルコール分を検知できるものだ。



ピピッ……



「平熱だね」


次に美癒ぴーの体温を測る。


「薬の服用は?」

「ないです」

「至って健康なわけだね」

「はい!」


アッシ社長自ら、乗務者の健康に関する尋問。眠くなるような薬や強い副作用を持つ薬を服用していた場合は報告し、乗務時間の短縮や乗務ができる判断をこの段階で決めておく事。


「免許証を提出して」

「今の美癒ぴーは持っていませんから~、私が出しますよ~」



念のため、車内にコピーをとっているものの。大切に携帯するよう伝えている。ここでは、これがない場合はその日の乗務を禁じている。美癒ぴーはまだ持っていないため、同伴者であるトーコ様が代理で務める。



「まず、どんな仕事もご自分の体調管理がなければダメです。美癒ぴーの場合はお昼は学生、夜はこちらのタクシー業務と、体力的にも厳しいものです」

「あ、改めて言われると大変」

「色々、こちらも手は考えておりますが、それはまた後ほどにします」



運転手の健康管理や身の周りの道具の準備などが無事に終了すれば、もっとも重要となる道具である


「外に出て、駐車場に行きましょう」

「いよいよ、乗るんですね」


初めて車を運転することになると思っていた美癒ぴーであったが、着くやいなや



「洗車!」



タクシーを洗い、



「タイヤの空気圧と磨り減りのチェック!バッテリーのチェック!燃料のチェック!エンジンオイルの確認!ワイパーの確認!」



車を運転するのではなく、徹底した検査。



「ブレーキの確認、ランプの確認、クラクションの確認、などなど」


それはもう長く、長く。車を触って40分が経ったというのに、一向に運転する気がない点検作業の連続であった。


「あの、ここまでするんですか?」


お父さんが車を運転するが、点検しているところはあまり見かけない。してても、空気圧のチェックとか、燃料の確認とかで……


「私達がやるのは仕事です。プロフェッショナルです。酷いことを述べますが、人を運ぶという事に関しては、素人だろうと安全を徹底したプロフェッショナルでなければいけません」

「でも、ここまではさすがに」

「今は不慣れもありますからね。毎日繰り返してやれば、点検が終わる時間も早くなります。少々我慢してください」



アッシ社長自ら、熱く語りたいこと。



「仕事を行なう事よりも前に、仕事をするための覚悟と準備はキッチリして頂きたい」



漠然と何かをする事は、見えることだけしか分からないものだ。事前に何が必要で、何が起きるのか、何をしていく事をより明確にすれば、仕事の本質は見えてくる。事前の準備や対策こそが目的に達する、遠回りで安全な方法だ。

リミットはあるだろうが、果たす事よりも大切な事がある。



「私自ら、こうして"でしゃばらせて"もらう意味は分かりますよね」

「!そうですね」


アッシ社長が基礎の基礎のような、仕事の姿勢を伝えるに当たって



「くぅ~、かぁ~」



どう考えても、トーコ様がこの最重要部分を伝えることが不可能にあるからだ。早く教えたいのに、アッシ社長がでしゃばるから、ちょっと不満気な顔して、自分のタクシーの後部座席で寝ているトーコ様。

しかし、そんな彼女でもしっかりと洗車や点検作業を覚え、美癒ぴーよりも断然早く終わらせて待っているのだ。仕事の準備などはちゃんとできるのだ。



「トーコ様は甘くて優しいです。楽しいことしか教えられません。私が、楽しくないところを教えますから。トーコ様のこと、嫌いにならないでください」



長い準備と点検作業を終え、自分の役目はここまでだと区切りをつけ、アッシ社長はトーコ様を起こしに行く。


「終わりましたよ、トーコ様」

「ふみゃ~」

「しっかり起きてください。はりきり過ぎてるから、今の時間で眠くなってるんですよ」

「寝てませぬ~、両目を閉じてるだけで~す」


いや、眠くなっていない時間なんてあるの!?


起こされたトーコ様は後部座席から出てきて、両腕を伸ばしてから、ふらつく足取りながら美癒ぴーのところへ来たのだが、


「じゃあ~、今から私が美癒ぴーの講師になるからね~」

「は、はい!」

「それじゃあ、やろうか~」



なんと、美癒ぴーの車のカーナビを弄り始めるトーコ様。カーナビの使い方は確かにまだ教わっていない、教えるなら何か説明が欲しいと思う美癒ぴーなのだが、カーナビから流れてくる音は



『朝のラジオ体操ーー!』


子供頃、誰しもやったラジオ体操であった。しかし、


「え?なぜ?」

「お付き合いしてください、美癒ぴー。私は業務に戻りますから」

「声出していこ~」


そう言って、アッシ社長はトボトボと社内へ戻っていく。後のことは全部任せますといった背中が凄く見える。一方でトーコ様はラジオ体操に合わせて、体操を行なう。

いつも眠っている状態で、少し猫背気味なトーコ様が背筋をピンッとして、体操をしている風景は凄く違和感があった。ちゃんとした姿勢になると改めて、トーコ様の大きさが良く分かった。プロポーションが凄くいいとちょっと嫉妬する。


音楽とトーコ様に合わせて美癒ぴーもラジオ体操に励む、久々にやった。


「1~、2~、3~、4~」

「5!6!7!8!」


間延びするトーコ様の掛け声はとても遅く、美癒ぴーが後半を早口にして声を出す。

やりながらのこと、途中でトーコ様が話しかける。アッシ社長のように大事なことを伝えたいというわけだ。


「仕事をする健全な身体作りとして~、量と質が適度な食事~、大きな声を出すこと~、日光を浴びること~。適度な運動~、そして、過度な睡眠~……!あ~、間違えた~。適度な睡眠だよ~」


アッシ社長と似たように、根本から伝えていくトーコ様であった。それほど、大事ということだ。久々にやるラジオ体操であったが、こんなに有意義な体操は初めてかもと思う美癒ぴー。


「いつもやってるんですか?」

「運転する前はいつもするよ~。車の運転って~、身体を痛めちゃうし~、不健康な事なんだよね~」



ラジオ体操の後半に来てさらに分かった事だが、トーコ様って綺麗な運動をしている。真面目にやるところはやるんだ。



「ずっと座って集中してなきゃ務まらないことだし~、眠っちゃダメだからね~」

「トーコ様が一番危ないです!目を開けて前を見て欲しいですよ!」

「あははは~、美癒ぴーが来てちょっと嬉しすぎちゃったからなんだよね~、仕事はちゃんとしてるよ~。しっかり教えるよ~」


そうなの!?ホントにそうなの!?


『ラジオ体操第二~』


「じゃあ~、第二体操も張り切っていこ~」

「えっ!?続くんですか!?」


なんか恥ずかしいポーズもあるラジオ体操第二まで、することとなる美癒ぴーであった。

入念な準備体操を終えて、1時間以上はすでに経過していた。ここまでするとは、やるまでホントに思わなかった。

緊張と、疲れも、乗ってきたところでようやくメインの、



「じゃあ~、座学は面倒だから~、運転しよ~」

「そ、そうですね。ようやく」


車の運転へと話しは続く。




◇     ◇



「やっぱり、楽しそうですね。トーコ様」



運転の指導を行なっているトーコ様の様子を、会社内の窓から顔を出して、ちょくちょく確認するアッシ社長であった。いきなり、道路に出すよりも自由な走行ができるここで運転の基礎を徹底させる考えだ。

駐車やクランク道路の走行とか、まず運転できないと不可能だ。


魔法のタクシーを扱っているわけですけど、基本とする運転技術がなければ、タクシーなんてできませんし、驕らないようにしっかりとした指導ができそうですね。



少し安心したアッシ社長であったが、


「しかし、目を離すのは怖いな」


やっぱり不安に駆り立てられ、仕事に集中できないでいた。張り切っているトーコ様はあまり見た事がないからだ。

運転する技量は満たしているとしても、精神状態によっては危険も生まれてくるからだ。



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