表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VALENZ TAXI  作者: 孤独
患者編
58/100

現実をいつも潰すのは理不尽だと思う。だが、あんただけ理不尽な目に遭っているわけじゃーない。

アメリカやロシアや、ここ日本でも同じこと。理不尽の連続である。魔法の世界であってもそう。



「あーっ、ようやく。解放されたー!」



大野鳥に事情聴取される福道。頃合を見て、再び合流。

『LOST』の影響もあって、大野鳥の事情聴取もそう長くないし、濃いものでもなかった。元々、隙を見ての調査であり、その結果がこれほど大事態だ。復旧作業に力が入り、正体不明の敵を探すのも務め。

そこへやってきたのは




ドゴオオオォォォッ




メテオ・ホールの起こした、地下での大爆発であった。

周辺のライフラインの全滅。テロ活動共思える、破壊具合であったこと。ニュースだけでなく、情報網もそちらの方へ印象が行きやすかった。



「テロ行為と断言するのが良さそうだ」



鵜飼組の天草、鵜飼もそのように事故処理を行なう予定であった。


「沙耶が暴れ過ぎだ。発電所を壊すのもやり方を考えろ」

「隠蔽工作も兼ねてな」


発電所を襲撃するという悪態を、架空のテロリストの仕業にする。とはいえ、彼女の働きがなければもっと甚大な被害で、誰にも矛先を向けられない怒りが出る。それこそ理不尽な災害だ。

発生していた時間は、48分38秒。その間に起こった出来事は、日本全国に及ぶ停電、中部地方全域の異常障害、列車の脱線が5件、車による交通事故、208件。死者48名、重傷者137名。


日本全国に『LOST』が入れば、滅亡するのも納得する事故の数々。



「た、助かったー……なんで、俺はこんな目に遭うんだ」

「ねー!ねー!日野っちってクレーン車を動かせるのー!?」

「そんな質問答える余力ねぇよ。つーか、お前。車内で漏らすな、大人だろうがー」


警察、大野鳥、周辺の住民達、政府はこの災害を乗り越えようと、協力し合ったのは当然のこと。



「…………ふん」


結果、思う以上にやり過ごせたと成果を得る。この事件を起こした老人、鮫川隆三は


「やや期待外れだ。儂の体に傷をつけれんようじゃ、生温い」


平然と生きていた。やや土煙と煤のせいで、汚れてはいるが。その肉体は大爆発を直撃されても傷一つ、血も出さず、生きている。地下から自力で這い上がり、周辺の人達に気付かれる前に群衆に隠れて、完全にやり過ごす。

メテオ・ホールに対して、余裕を見せていたのは間違いないことだ。


自分に過信することは決して悪い事ではない。むしろ、その過信すら持たぬ者が多い世の中。


とはいえ、たった一つの磨くこと、そして、成功に導くことというのは難しい。良い例ではないが、鮫川のように非常にシンプルを研ぎ澄ませ、多彩な芸を持つほうが視野と思考が広がり、成功と呼べるものはいくつも手にするだろう。

ま、鮫川は成功に興味もない。この歳だ。やれることは、見守ることを重点に置いている。



「今の爆発でよく平然としてますね」

「福道。儂はしぶといだけじゃなく、強いからじゃ」

「別の用事もあるんですから、迎えに来ましたよ」

「ああ」


鵜飼組の組織力なら、ロシアやアメリカとも対抗できる戦力。

自分が育てあげた組織だけに、十分な結果を望む鮫川。それとは別の、盆栽を嗜む趣味というか、彼の意志は部下に引き継がれているように、クズは嫌いであるのだ。


まぁ、少し先となれば分かること。


「悪用されんことだな、大野鳥よ」


◇        ◇



理不尽なことだ。

それは異次元のような戦闘のみならず、分かりやすい方で言えば、人の小ささを思い知る災害の方が理不尽らしい。だが、人というのは自身の無力さを痛感すれば、それをそう認識するという。

金を積んでも飛ぶ程度、力を持っても弱いこと、努力をしても叶わない、優れた才を持ってもそれを越す才に出会うという絶望も。

人間らしい理不尽は誰にもつきものだ。



「……………」



その人間らしい理不尽の中に含まれる事であるが、許せぬこと。

自分が。どう、……できようか。



「ガンモ助さん。いいんですか?」

「あ、あぁ」


飲み物を飲んでから、そう言いながら。食事を共にしてからだった。美癒ぴーが話しかけてくれたが、あまりそれに応えなかった。

いずれはと思っていた事で、直球に言うと。


「私、君が少し苦手なんだ」

「それは日野っちと相対的に見てですか?」

「そのような解釈ではないんだがな……。まぁ、私と日野っちが悪いか」


面と向かって、嫌いじゃないとか、苦手とか言われるのは。中々、心に来るものだ。しかし、その理由はなんだろうか?美癒ぴーは一瞬、思い返すも……なにかしたわけでもない。というか、私が来てから嫌っているとか、避けているような節を思う。


「それはだな。君に仕事を辞めて欲しいと、親の気持ちと思って欲しい」


娘に会わせる前に、説明したのは勘違いを避けて欲しいからだ。

偏屈であるのは希望を感じられないからだ。握り締めた拳は、怒気と殺意を含められた。美癒ぴーが達人とかだったら、その気持ちを感じ取っていただろう。あいにくだが、美癒ぴーはそれを感知できない。



「娘の入院について、先に言う」


ちょっと言葉の筋が纏まらないのは、ガンモ助さんに思うところがあるからだ。美癒ぴーはそれを怒らず、知っているから黙っているのだ。


「生まれ付きでもないし、病気というわけでもない」


理不尽な事だった。それは誰にでも降りかかる災害ではない。


「地震や悪天候に巻き込まれた、わけでもない」


だからこそ、許せず。怒りをぶちまけたいのだ。本当ならすぐに……。

だからってのも、ある。


「娘は、事件に巻き込まれて、入院を続けている」


犯罪による精神的な疾患である。



◇       ◇



本名は漆木土宗うるしきつちむね


「ガンモ助さんのフルネームを、始めに知るとは思いませんでした」


教えてくれないと思っていた。


「病院には娘の名前も書いてあるし。娘は私がタクシー会社に務めている事を知っているが、ガンモ助さんという呼び名を知らない。漆木さんと、この時は呼んでくれ」


確かに、娘に会わせるには相応の準備が必要である。


「本名知られて大丈夫です?」

「私を知る事はそういう事だ。伝える事も同義だ」


その意見も納得。


「アッシ社長は知っているよ」

「まぁ、社長ですからね」


っていうかアッシ社長。ホントにあなたの付ける"あだ名"って、まったく関係ないですね。漆木土宗から、ガンモ助さんになるなんて、どーいう理屈なんだろうか!?

日野っちも、まったく名前に関係ないと言っていたし。ホントになんて苗字で名前なんだろう!


「"あだ名"の由来かい」

「あ、心の声を読んでしまいましたね」

「私もアッシ社長のタクシーに乗っていたんだ」

「日野っちと同じですか?」

「そうだな(私、そーいうこと知らないけど)。あれは寒い冬だった。おでん屋に向かった時に決められた"あだ名"であった」


凄いギャグっぽい、付けられ方!

なるほど、その続きはガンモでも頼んだから決められたというわけか。


しかし、その美癒ぴーの想像はあとで。とんでもない形で裏切られる事となる。その事実を知るのはまだちょっと先である。


そんなこんなで病室の前。割と普通の病室に漆木さんの娘はいた。


「名前は知与ちよちゃんですか」

「私のと、妻の由海よしみをとってね。妻は男っぽい自分の名前がちょっと嫌がっていたから、無難にね。でも、良い名前だと思うのにねぇ」


女性に"よしみ"はどうかと。男にも付けられそうな名前は、美癒ぴーもあんまり好まない。子供ができたら……その。って、何を想像している私!


「知与ー。パパが来たぞー!」


その言葉と共に病室に入る漆木さん。美癒ぴーも……って思ったら、ある事に気付く!



って!ガンモ助さんに自分の名前を教えてない!!娘さんの前で、私の事はどう呼ぶつもりですか!?美癒ぴーって呼ぶの!?会社でそー呼ぶってなんか、慣れ慣れしくて、不倫っぽく思われません!?ねぇ!呼ばれ続けて思ったけど、



「パパ……」

「どうだ、調子のほうは?」

「うん。って、隣の人は?」


やばい、話を降られた。ここは


「わ、私。漆木さんの後輩でして……」


上手い!名前を隠し、後輩と言い。上手く娘さんに自分の存在を伝えた。……が。


「彼女は美癒ちゃんだ。私の仕事場に最近きた人だよ」

「あ、そうなんだ。パパがお世話になってます」


普通に言ったーーー!美癒ちゃんって、もっと馴れ馴れしいし。そーいう呼び方は日野っちに言ってもらいたかったーーー!っていうか、私の名前を普通に知ってるんですか!?それとも偶然ですか!?どうして、漆木さんが私の名前を知っているの!?全然避けてたのに……!どうして……。



そんな心の葛藤。すぐに分かった事だが、



そっか。美癒ぴーだから、ちょっと変えれば全然違和感ないもんねぇ。ガンモ助さんだけ、"あだ名"が複雑なだけだし。

考えるのを止めたらすぐに納得できた。


「初めまして、美癒と申します。が、……漆木さんにもいつもお世話になっております」

「そうですか。パパ、ちょっと男性が好きだから。不安なところあったんだけど」


そんな情報を娘に与えていたんか。


「でも、嬉しいなぁ。パパが私に人を紹介するの、初めてだから」

「え?」



ここで自分のことで頭がいっぱいだったから、漆木知与の姿を始めてちゃんと見た美癒ぴー。

ちょっと驚いてしまった。娘さんが入院していると聞いて、イメージをしたのは中学生~小学生ぐらいだと思った。実際、ガンモ助さん……じゃなくて、漆木さんは結構なお年に見えるけど、40前半くらい。それくらいが相場かと思っていたけれど、

背もたれに寄りかかっていても、結構、高い。高校生ぐらいの人で、名札の横にある年齢はなんと、24歳。自分よりも年上であったのだ。病院食が健康だからか、顔色も、ふとんに隠れた体型にもなんら、違和感が見えない。点滴も特になし。ガンとかの病気?でも、6年も治療を続けているのも変だよね?



「美癒ちゃんは知与の年下でね、今日は私から無理を言って来てもらったんだ」

「それは、とても、申し訳ないです」

「いいのいいの!私も、漆木さんにお世話に……」

「そうです?いいです?えへへへ」


知与の表情は、美癒ぴーを嫌悪するものでもなく。普通に関心を得るぐらい。


「えへへへ」

「ははは」



笑顔を向ければ、笑顔で返す。お互いに好印象な関係。どこか、モジモジしている表情。そして気付けることだったが、なぜだか。知与は美癒ぴーのことばかり見ている。その視線に気付いている美癒ぴー、父親もそれに気付いてどこか嬉しそう。


なんか、なんだろう。違和感。


「スーツ姿ってかっこいいです」

「え!?そう、正面で言われると嬉しいなぁ」

「私も着たいなぁ。その、別の綺麗ってものが見えるから」


馴れ馴れしいのは父親の血筋だろうか?漆木さんから日野っちに対して、積極果敢なアプローチを見ている美癒ぴーはそんな予感をした。もしかして、娘さんってレズとか百合とか?

しかし、ちょっと。下手くそな、


「お出かけしたいな」


友達になってください。そーいう感じ。


雰囲気は感じ取り、美癒ぴーは手にとって。


「うん!退院したら行こう!」


元気を出させる言葉を送った。まだ、まったく知与のことを知らなかったけれど。励ます言葉はどんな誰かを知る前に送りつけてこそ、価値がある。


「えへへへ。ありがとう、頑張りたいなぁ。買い物をしたいなぁ」


その言葉、その体温。とても失礼ながら病状が分からない。喋る感じ、ちょっとオドオドした雰囲気を混ぜながらも、新しい期待と話す楽しさが心から聴こえてくる。まだ互いに知らないし、職場の人の娘さんのことだ。慎重に話したいところであるのに。

キラキラしているのに、その奥がとても黒く濁っていた。


なにが伝えたいのか?


この人はなにかが壊れているという、美癒ぴーの勘であった。



「えへへへへ」


歳の割に子供らしい笑い方。初対面でまだ名にも知らないというのに、安心だっていう、そんな表情ばかりを自分に向けるのだ。不自然。

そんなとき、目にしたのは


「あ、その本は何?」

「ん?」

「枕の裏にある」

「あー!これねぇ」


知与は隠す気も無く、平然と見せ付けて答える。興味を持ってくれて嬉しいという顔で


「ラジコン雑誌」

「え。ラジコン?」

「うん。乗り物好きでぇ、操縦したいんだけど。やっぱりパパみたくできないから」


そういえば、漆木さん。色んな免許を持っていたっけ。トーコ様が言っていた気がする。


「ラジコンはいいよぉ。私、こうだし、……女の子として、ちょっとだけど。免許、持つにはダメだし」


いや、もっとダメな奴がついこないだ再登場したんだけど。


「ラジコンかー。あまり詳しくないけど、病室でできるの?」

「中庭でできるよ。車関係のだけど、一時退院した時はパパとママと一緒におでかけするの。ついこないだも行ったのー」

「あ」


あの休みは娘さんのお世話をしてたのか。でも、また入院って


少々、謎の多いガンモ助さんであるが、その娘さんにもまたなんらかの謎がある。アッシ社長やトーコ様、マジメちゃんのような不可思議さとは違う、ラブ・スプリングやダーリヤなどの神懸り的な事とも違う。

どこか、自分と日野っちと、似ている領域からのことだった。現実らしい事もまた、不可思議で理不尽なのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ