色々な事に神はいるけど、会社に神がいることを誰かが思うだろうか?
『LOST』は危険すぎる兵器である。
対処法は酷く分かりやすいが、実行するまでに求められるスピード、組織力がなければ攻略するのは難しいだろう。単純な強さとは違っており、生物でもない。戦いより戦争寄りの兵器であるため、真っ当に戦うことを好む天草とは相性が悪い。
「ほーっ、」
とはいえ、『LOST』の処置が迅速にできたのは、発端者が妨害を目的としており、破壊を望んでいなかった。というのも正しいだろう。
鮫川は体の半分が改造されており、『LOST』の影響を受ける。無論、使用時はネットワークの遮断と予備電力モードに切り替え、感染の回避をするが、改造した利点を大幅に失うことは否めない。
「天草達も成長したなぁ」
自分のPCを破壊し、USBメモリもしまった。PCの方はもう『LOST』のせいでグチャグチャになっているから仕方ない。
そして、もっと仕方ないこと。『LOST』が制御できず、万が一ほどの確率で引き当てる。無関係からの刺客が来る事。老齢=数多の死線を潜り抜けた猛者。それを知っている。
分かっている。嗅ぎつけたというより、導かれたというか
「ふーむっ」
姿と形は見えずとも、独特の湿り具合。地下にはないジメジメ感でもない。
「かっはぁぁっ~……」
鮫川の口から噴き出る息は、石炭が生んだ黒い煙のようなものであった。
戦闘体勢に入る瞬間。若き頃を振り返るように、息を吐くのは彼のジンクス。戦ってやるという相手へ送るサイン。
知らん奴だが、『LOST』を辿ったか、あるいはなんらかの偶然か。引き合うものだ。
「まぁ、好きにせぇよ。儂を暗殺したいなら構わんぞ」
口を開け、顎を外し、喉から現れた銃口から繰り出されるのは
ドゴオオオオォォォォォッ
熱量、範囲、絶大な火炎放射であった。地下の床や壁をも熔かす灼熱の炎。
姿を隠しても、独特な気配を瞬時に察知され、的確に攻撃をされる。その感覚は今までにないものであり、中距離からの範囲で狙ったという可能性もなくはないが。次の一手は間違いなく、
「!やはりか」
鮫川の手がメテオ・ホールの首を通過した。それは触れられない、当たらないと意味することでもあるものの。的確に位置を掴んでいるともとれ、今の攻撃が決まっていればという憶測であっても。メテオ・ホールが一撃で沈んだのにも変わりないこと。
ズズズッ
「お爺さん、只者じゃないな」
「大道芸人かい?知らん奴だが、少々面白そうな奴だ」
メテオ・ホール、姿を現して鮫川とまともに対峙する。
「ふはははは」
「?」
笑ったのは鮫川であった。都合が良かった。不意に出た笑いの意味は、メテオ・ホールには分からないだろう。少々若返った気分、
「儂に喧嘩を売る輩は歓迎だぞ」
事情故、死んだ扱いを演じるため。少々フラストレーションが溜まっている。実践の感覚を取り戻す意味でも、単なる力の解放の意味でも、先に幾度も仕掛けてくるのは鮫川の方であった。
間合いを十分にとっていたはずであるが、鮫川の踏み込みは迅い。
「!」
メテオ・ホールが驚き、後退を無意識で行なったのも仕方ない。つい先ほどの、姿を隠していたというのに、的確に急所を突いた攻撃が頭に残っていることもある。
人間のくせに。爺のくせに。動きが速い!なんだこいつ!?
その驚きも確かである。神と誇る者に驚きという、意外性。
互いに正体不明かつ、力量の測れない者同士の対決。優位に進めているのは経験で大きく勝り、自尊心をそう持ち合わせていない鮫川の方であった。
たった一つの踏み込みで、メテオ・ホールの情報をいくら収穫したことか。
「ふ」
この者。人間じゃあないな。だが、そんなのは関係ない。
儂の踏み込みへの対処の遅さ、自動回避や受け流しといった類いに自信を持つからこその怠慢、姿を消せるというステルス性能に拘りながらも、切ったところを見ると焦りがある。
十中八九、こいつの心理は能力を頼りきるタイプ。型に嵌った戦い方、あるいは自分に優位な相手と戦う際、滅法強いタイプ。
だが、このような奴は弱点を補える手段が少ない。首という急所を容易く突けたのが、その証拠!
メテオ・ホールという異質な存在に対して、ビクつくことなく。むしろ、自己分析と他者分析が完璧と言って良いほど、恐ろしい思考力。
戦争で生きた男であるだけに、余裕も感じられる。
とにもかくにも、様々な攻撃を仕掛けて様子を計ろう。実体がないタイプであっても、視認できることは弱点があること。それを理解すればすぐに終わる相手だ。
様子見というつもりではあるが、鮫川の攻撃は獅子奮迅の猛攻であった。詰め寄る速度はメテオ・ホールの思考を8割以上、回避と防御に集中させていた。
炎に突き、蹴り、刺す、銃撃、
「くっ」
投げる、締める、電撃、毒。多彩な攻撃手段だけでなく、箇所も急所のみならず、腹部や足なども狙い、攻撃が通じるかどうかを試す。多少、能力を過信として守り勝つ者も。鮫川の身体能力と多彩な攻撃が可能なサイボーグ部分が、粉砕することであろう。
「迅っ……」
しかし、そんな多彩な攻撃よりもメテオ・ホールを苦しめているのは、鮫川の圧倒的な速度であった。もし、どれかがメテオ・ホールに通じていたらもう死んでいただろう。何十回も死んでいる。
自動での受け流しじゃ、間に合わない!自ら、受け流しをしなければ、攻撃を受ける!が、こちらが攻撃する暇を与えてくれん。なんだこの人間!?なんだこの爺!この我が手も足も出ないだと!?
姿を消しても、こいつにはそれが分かるらしい!人間化を解除するか!?しかし、あれにも弱点がある!
必死さに差がある。余裕のある、鮫川。余裕のない、メテオ・ホール。
直接触れると、煙の如く霧散するな。常に霧散していた方が攻撃を喰らわないと思うが、それをしないのは何らかのリスクがあるということか。奴自身も儂に攻撃できんことか、あるいは、攻撃した結果となって呼び戻せるのか。
できる限りの攻撃は試したが、イマイチ。手応えのない奴だ。
「……………」
鮫川のとてつもない猛攻が止んだのは疲れとも思えた。
「ふはっ」
逃げ切った。なんて爺だ。接近戦ではまったく歯が立たない。攻撃を受け流しているだけでは、確かに勝てない。だが、一度。この我と距離をとったこと。死という形で後悔させてくれる。
「ふっ」
表情を見る、攻勢の構え。こいつの能力というか仕組みを調べるには、奴の攻撃も計る必要がある。もし、奴が儂に触れることができるならそこを基点にカウンターを叩き込む。
回避を重視する姿勢からの予測でしかないが、こいつは打たれ弱い。儂の一撃で鎮められる。
鮫川の戦闘への思想は明らかにメテオ・ホールを凌駕している。いかに能力が優れていても、戦いに活かす頭脳と身体能力は明らかに鮫川の方が上であった。
精神状態でも格上。
「この神に手をあげたこと、死で教えるぞ」
「神?それは人の幻想じゃ」
メテオ・ホールの言葉が嘘でないこと。大袈裟に見積る辺り、人を知らない。
「下等生物が」
いくら強かろうが、こっちには生物の命を容易く葬れる。姿を視認できたとしても、我の攻撃を見切るのは不可能だ。その余裕、慢心。神への侮辱と受けよう。
「跪け」
「自称、神が儂に指図するんじゃーない。信仰深き者に伝えよ」
メテオ・ホールの攻撃は鮫川に気付かれず、とても静かに行なわれていた。”元素”という能力は圧倒的に優れており、回避、攻撃、修復、などなど。こと戦いに関しては能力一つで敵を完封できよう。ただし、相手にもよる。
「!」
突如、襲い掛かった。鮫川にきた眩暈。戦いに集中していると、周囲の状況を探れないこともある。しかし、これは体内から来た。一瞬だけ不安が過ぎり、そのすぐ後に。
「ふふふふ」
勝ち誇ったメテオ・ホールで確信。ポーカーフェイスができんとは愚か者と、叱りたいくらいに思う鮫川。なるほど、そうか。攻撃しても霧になって避けられたり、姿を消していたところがヒントになり、空気を操る能力も可能性に入れていた。
空気が抜かれているわけか、呼吸し辛いな。
膝をつく、鮫川。”元素”によって、周囲の酸素を奪われてしまい、呼吸困難。冷たい汗も流れる。ここが地下だから、空気が抜けるのが速い。
「くはははは!酸素がなければ生きられん人間は、大変だなぁ!」
「ぐっ!」
本当に愚か者だな。ネタ晴らしは寿命を縮めるぞ。
見下すその面。優越感は勝者よりも愚か者。
「神は生殺与奪の権を持つ!絶対の力が人間を超越して当っ」
勝ち誇ったその面に
ベギイィッッ
「へぶうぅっ」
鮫川の拳が、メテオ・ホールの受け流しすらさせない速度で入った。
「?お前、勘違いするな」
「がはっ」
顎を跳ね上げられた!?受け流しが間に合わなかった!その一瞬を狙ったのか!しかし、こいつ。なぜ、こんなに俊敏に動ける!?空気を抜いてふらついていたはず。立てないはず!
メテオ・ホールの思考は鮫川から浴びた拳についてのこと、空気を抜かれて呼吸ができないにも関わらず、行動する鮫川のこと。
それがいかに無駄なこと。今、やるべきこと。
バギイイィッ
「ぐっ!」
鮫川の、腹部への追撃を避けることであった。痛みが全身に駆け巡るものは、本当に鮫川が呼吸困難であったら同じレベルの苦しみ。避けろ、逃げろ、そーいった信号を脳から体へ伝えるも、分離が上手くいかない。空気になっていかない。
逃げたいという意志を圧し折る。気の滅入る、
飛び蹴りを顔面にかます鮫川。壁に激突し、崩れて蹲るメテオ・ホール。
戦うという意志を折られる。見事な3連撃であった。
一瞬の隙を突いての、大逆転劇。いや、終始リードしており、一部も隙を見せなかった鮫川だからこその勝ち方。
「儂、人間なんぞ止めておるわい。炎を吐く、人間がおるか」
空気を抜かれながらも平然と行動しているのは、呼吸で動く人間的の活動から、電力を中心とした人工的な活動に切り替えたことにより、呼吸いらずに活動ができるのだ。
改造人間になったのは、単なる延命や強さを求めるだけではない。生存環境への適応力を高めた。結果として、役立って奇襲に至るまでの成果となった。
「ごほぉぉっ、がっ」
この我が……3度も!殴られ、蹴られるだと。
「神様は随分と打たれ弱いのぅ」
見下し、完全に勝った。それはここからではもう覆しようがないこと。鮫川の必然は正しい。誤算など、一切無く!完勝という名の完勝。
「当然かぁ、ご都合しか知らんからなぁ」
油断と見るには、少々目が曇っている。鮫川がなぜ挑発するか、自分に襲い掛かる相手を殺さずに話しかけるか。力の差を見せつけるためか?いや、
「ぶふっ」
痛みが治まるまで、そこまでだ。
呆然としているのなら構わないさ。それが命取り、我を侮るとは許さん。殺す。
「どうした?座ってちゃ、戦えんだろう?」
「ふははは。戦う?」
戦う?それは、
「お前等、人間共のじゃれ合いだろうが!!」
メテオ・ホールはこの発言と共に、体の外側を一気に拡散。自らの体内で生み出した、科学的な融合。”元素”を体内に宿すからこそ、破壊力は自分もろとも吹っ飛ばすレベル。
地下に逃げ場などなく、この至近距離では自分と同じほどの衝撃を喰らう。自爆技。一度使うと、また自分の体を取り戻すのにかなりの時間を費やすが、破壊力のみを求めれば、メテオ・ホールの手持ち技の中では最強ではあった。
「……………」
鮫川はじーっと、それを見ているだけ。
特別な恐怖も抱かぬ、屈強な精神が肉体に表れていた。おそらく、メテオ・ホールと似たことを考えていただろう。
ドゴオオオオォォォォッ
地下が崩落するほどの大爆発。地上にも影響するほどのこと。
これがまた、厄介ごとを生んだのは言うまでもなく。
◇ ◇
ドンドンッ
「……………」
「ねぇねぇ。動けないよー。どうする?」
いや、動けないって言うかな。
「どうすれば助かるかな」
そんなことを思っていたのか。
俺達は今、生き埋め状態にされている。おそらくだが、メテオ・ホールがやられたんだろう。安全だと思ったのに、魔法が解けて瓦礫に押し潰された。
「ねー。トイレはどうすればいい?」
「そんなことしてる場合じゃないだろう!」
メテオ・ホールの自爆によって、地下に閉じ込められてしまった。日野っちと畦の2人であった。
助けはいつ来るのだろうか?




