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VALENZ TAXI  作者: 孤独
患者編
54/100

交通事故の原因はなにも運転技量が足りていないだけではない

ガラーーーッ



最近、建設が終了した16階建ての巨大なビル。その全体を車椅子協会が仕切っていた。

自動ドアはすんなりと開き、車椅子協会に乗り込む実行部隊が1つ。


「な、なんでしょうか!?」


受付さんもビックリする。当然ながら、同じ人間がこう何人も同時にやってきたら、双子とかのレベルじゃないんだから。


「失礼しまーす」

「調査です」

「危害を加えることはありません」


車椅子協会の大半は障害者達だ。とはいえ、暴力に出ず。とても丁寧に調査を始める大野鳥達。その中で唯一の男性で違う人間。

鵜飼組の6人幹部(厳密には違うけど)、"用心棒"の若手の1人。就活生みたいな面構えにスーツ姿でここに出向いた出雲安輝は大野鳥の調査を妨げようとする警備員達に声を掛ける。


「邪魔なんで眠ってくれませんか?」

「いやいや、なんなんだあんた達は」

「こんなに大勢来て……」


警戒は薄かった。

出雲の実力ならば容易く、警備員という職を持つ一般人を一撃で眠らせる術を持つ。感じた時には脳天の揺れで倒れるアッパーカットが音もなく炸裂していた。

それも、2人も同時にだ。


「あ、いけねぇ。倒しちまった」

「ダメですよ、出雲さ~ん」

「おっちょこちょい、出雲く~ん」



車椅子協会の本部に鵜飼組の捜査のメスが入った。

出雲と大野鳥はここにあるデータを押収し始めていく。それは堂々とした犯罪行為にして、暴力と数が合って成立する行為。


「表では障害者を支援する企業だな」

「まだそれしか出てこないね」


裏の顔を早々明かすわけがない。事実、知らない人間の方が多い。

秘密はいつかバレるものと言われるが、そういう者ほど秘密を知らない。秘密は、秘密と決めた人物だけが口を閉じれば明かせない。



他人に興味を沸く人間がそういるものだろうか?秘密となるだけの価値を人はそれぞれ持つかな?なにもかもだが、この世は価値があって役割が成立する。



◇        ◇



「万が一見つけても、儂の部屋だけよ」


協会を建ている名義は当然ながら、鮫川隆三というものではない。世間では死んでいるわけだ。

戦う強さは確かに持っていようと、死んだことにされている人に権力だの、圧力だの、制裁だの、起こすほどの社会的な強さは完全にない。

現状の鵜飼組に求める強さは、今の鮫川にない事。期待外れにも程がある。


そのことをしっかりと理解しているのは、鵜飼と朱里咲。そして、天草だって理解している。


「あいつは優しいからな」

「天草さんのことですか?何度か私会ってますけど、良い人ですよね」



鮫川と福道はすでに車椅子協会の本部から脱出している。当然、いなくなれば怪しまれることもあるが、そう長い追跡でないことは、異常とも言える大野鳥の数で理解できた。

大野鳥の目的は情報収集を任務としている。

情報収集とは非常に重要なものであり、戦う能力よりも稀有で優遇されるべきものなのだ。


もっと、汚いことを言えば、


護る力は壊す力と同義で、人が機械と同じく働くのならもっとも不要な代物。


持つべき者が誤れば、死の罰。


「どこに向かうんです?」

「地下じゃ」


鮫川は逃亡する。老いてなお、若き頃の夢を消さず、逃避を全うする。


「大野鳥包囲網は、地上から上空が主な範囲じゃ。福道は儂の偽物を回収し、大野鳥に捕まっておれ」

「1人で大丈夫ですか?」

「二手に分かれんでどうする?」


福道からしたら、そう解釈せざるおえないが、案内すべきところに鮫川は行かない。

地下。要するにマンホールの下。

主にライフラインとなる、水道、電話線、光ファイバー、ガスなどの設備が埋設まいせつされているだけでなく、雨水対策に使われている。

マンホールは人がその中を点検、管理をするために通る穴でもある。

雨が降る日に、マンホールの上を車や自転車で走行すると滑ります。特にブレーキ時には注意しましょう。四輪車ならばそうないですが、自転車やバイクではかなりの確率で滑ります。

ちなみになんでマンホールの蓋が丸いかというと、直径の長さがどこでも同じであり、落ちる心配がないという理由だからだそうです。四角では対角線が長く、向きによって落ちてしまいます。



「ほっ」

「じゃあ、閉めちゃいますよ」

「ええぞ」


鮫川は地下へと降りる。地下のルートも熟知している。

大野鳥が下がるまで地下でやり過ごすわけだが、自分の元部下というだけに簡単には下がらない事を期待してもいる。

おそらく、ルートとしては可能性に入れて捜索するか、強力な人材を投入しているか。

同時に鵜飼組の大野鳥が仕掛けたように、鮫川も攻撃を仕掛ける。自らいることを悟らせるほど愚かではないし、福道の同行を断ったのも"切り札の一つ"を見せるわけにいかないからだ。



「地下は、人間で言えば血管じゃて」



鮫川自身は使いたがらない。

誤れば自らの命を削りかねない悪魔プログラムであり、故意の破壊よりも恐るべき現実を呼び起こす。どんな力も技術も、使うその手が決めるものだと分かる。


「はてさて、どう動く。天草、大野鳥」


儂はそう簡単に生きてはおらんぞ。



ビーーーーーッ



鮫川は自分の腹から、ノートパソコンを取り出した。それはシャツの裏側に隠れた物ではなく、体内から体外で放出したというものだ。天草や大野鳥を従っていた人物だけに、人間とは思えぬ機能を備える老人。

若い頃はダーリヤのように筋骨隆々な肉体を磨き、戦地で戦い続けた武闘派でもあり、頭脳を駆使して裏社会や戦争に影響を与えた1人の男。そんな人物が今や老人。しかし、老兵にならず。



口から吐き出す、USBメモリ。



いまや鮫川は、改造人間サイボーグとなって自身の若き時代の強さを取り戻す選択をとっていた。肉体が半分、機械が半分。自らの体を戦いに使う、自ら求めることのため、身を真に削った男。その男が死を偽装したら、本当に最後までいく。

生命力だけでなく、単純なしぶとさ、泥臭さ、抗いに関しては、自画自賛かつ味方も敵も認める鬱陶しさがある。事実に、死んだと世間で思われているのに鮫川自身は生き延びている。

ここで彼のその一面が出て来ないのはやや残念であるが、……。



彼の強さの一つ。もっとも単純なこと。優れていることを世間に伝えることはある。



その一つが彼が吐き出したUSBメモリの中にある。実際の話、鮫川は手に入れただけで意味合いは異なるも、使い手の1人として相応しい。

今、これから鮫川が使うとあるソフト。タイトルは『LOST』。

科学兵器の一つに注目され、鮫川も恐れ、研究所をすぐさま壊滅、製造不能、解析不能にしながら、その兵器を鵜飼組で独占と管理をしていた。

後に、当時の部下であった山寺光一との抗争になるきっかけを生み、彼との死闘の末、死んだ扱いになった鮫川。

つまりは、単純に分かりやすく。

危険な事をするぞと、……戦いという言葉より、危険。


危険という意味は戦いとは縁のない、日常より潜んだもの。




◇       ◇


「うぷっ……」



気分悪っ……



「いやぁ、あれだけお酒飲むと響きますね」

「伊賀。寝ないのか?」

「まさか、お休みなんてまだ早いですよ」


丁度その頃、伊賀吉峰は王來星と共に中国で活動をしていた。

伊賀もまた鮫川の元部下であり、天草や大野鳥などとの繫がりもある人物であった。要するに伊賀も、元鵜飼組のメンバー。組の参謀(実質、ナンバー3)を務めていた。

光一と鮫川の内戦に乗じて、中国に帰還。彼の場合、スパイという形もあった。


「死にませんよ。私だって、鮫川元組長ぐらいのしぶとさに自信あるんです。優秀なボディガードもいますしね」

「別に死ぬぐらいには思ってねぇさ」


王は車を運転する。


「吐かれるとウザイ」

「それはありえませんよ、あのクソ鳥と一緒にしないでください」


扉を開けた時、すでに3人が乗っていた。伊賀が、王に内緒で彼等を乗せていた。


「ばきゅーん」

「……陳。運転席に座るな」


座敷童子のような和風のお人形サイズ。女子に見えるが、残念ながら男である。王と同い年で伊賀の警護を務める、陳九千ちんきゅうせん。役割は身を挺して護る王とは違い、特別な能力で敵を索敵し、回避するものだ。


「迂闊だねぇぇ。あんた等、死んでたよ?」

「キャムさんも脅かしですか?」


運転席には陳。後部座席には2人。

キャム・パテルマンと呼ばれる、熱帯に住む東洋人らしい褐色の肌を持ちながら、日を嫌うローブをまとう女性の姿が1人。本物の銃を確かに、伊賀に向けているのだが


「お止めなさい。キャムさんも死んでますよ?」

「!」

「………い、……伊賀様、……命令ぃ……」


キャムの後頭部を優しく掴みながら、死んだ瞳となりながらも美しさに欠けはない。王族のようなど派手な衣類から、この奴隷のような仕打ちはハンパじゃない屈辱だろう。それすらもう分からないが。車内では唯一の西洋人。意識は昏倒しながらも伊賀の指令が脳内に届けばすぐに実行する。揺ぎ無い忠義というより、機械のように洗脳された人。


「キャムさんを離していいですよ、センランさん」

「あ、……はい」


伊賀の言葉が届くだけで、快楽を感じて、指令をこなすとより強い快感を知る。

センランと呼ばれる可哀想な操り人形となった美女。


「センランさんが本気を出したら、あなた方。死にますから」

「二度とこいつとは戦いたくねぇよ。姉も相当だったからな」


その恐ろしさを知る王。同時に、そいつを完全に意のままに、操る伊賀はより恐ろしい。上回っているということ。ま、上回ったのが正解か。




ブロロロロロ



さすがに車内に5人もいたら狭い。大人が5人だったらそりゃそうだ。


「で、やったの?」


キャムが開口一番に、守秘義務を守らず伊賀に尋ねる。

『LOST』と呼ばれるソフトの改良型、その試験の結果だ。


「声が大きいですよ。そんなに気になります?」

「そりゃあーねぇ。あんな代物、実在してるとしたら、えげつねぇ代物よ。そりゃあ、光一が翻すし、お前も平然と鮫川を裏切る」

「私の方は予定でしたけど?」


実践で扱うにはまだ早い。むしろ、実践になる事もない。

特徴として、戦争だけでなく平和の中でもその危険性はライフラインと比べられるもの。


「国家規模の滅亡に追いやれる、一つの手段だろうな。『LOST』は現在における災害だ」


王も、その不気味な能力に、ハンドルを強く握り締めるほどだった。


「安心してくださいよ。宮野健太と酉麗子が絡んだ以上、成功は間違いないですよ。例え、製造者が死んでも解析可能の安西弥生の協力もいただけましたし」



◇        ◇



『LOST』を起動する条件は、至極簡単。ソフトの入った記憶媒体をネットワークへの経由が可能な電子媒体に挿入すること。


今なら誰にだってできること。とても簡単な制約であり、ソフトのコピーもまた容易であることが非常に低コストで、リスク0に等しいことから。鮫川が早急に滅ぼしたのも理解できる凶悪性である。

増産することが容易く、誰にでも扱える性能。にも関わらず、危害は国家滅亡級。


一般人が核兵器を持つ事と同義な武力。……否、ちょっと違うか。

しかし、合っているとも言えるか。



ブチッ



「見せてもらおうか、『LOST』」



大野鳥包囲網を掻き乱すため、起動させた『LOST』。

鮫川が生きているという事を消すのには非常に適した能力であり、量産が可能ということもあって、誰が行なったか正確な足跡が映りえない。

ネットワークに侵入すれば、そこからは独壇場かつ光速に各地に拡散、効果の範囲は絶大かつ迅速。



「ふははははは!」

「やりましたなぁ!」


これは伊賀が仕掛けた方の『LOST』である。改良型の攻撃方法は時限式であり、追跡はより困難となっており、今までの無差別ではなく、正確に狙い済ませて攻撃が可能になった。

目標となる小国の軍基地に『LOST』は侵入し、その能力を発揮する。


「中国の軍事技術のコピー。核兵器開発、その最先端」

「愚かにも提供するとは、裏を牛耳る伊賀とやらはとんだ臆病者のようだな」


違う。むしろ、残忍な奴。

実験動物であることを教えずに扱う様。社会や世界の仕組みを包み隠さず、教える。敗者のあり方を伝える極悪人。

『LOST』の試験体としては恰好のカモ、ちょっとその国の住民には可哀想であるが、生れ落ちたところもまた、才能というものだ。伊賀は言う事だろう。

残念でした……。



「ん?なんだ?」

「どうした?」



速度、範囲、執着、……そして、効能。

『LOST』は兵器として恐るべき性能が今、明かされる。


ビビビビィッ


「なんだぁっ!?」

「あ、あちこちで警報や警告音が!」

「ふざけんな!なにもしてねぇぞ、HACKされたってのか!?」


違う。それよりも機能はザツ。ザツだからこそ、えげつなく、無能であり、恐るべきこと。

支配とは違う。支配とは悪にも思えるが、悪という光の正義。幸福を浮かべる一つの証と手段。一方で、本当のマジの、真実たる悪とは。



無能であること!!育たないこと!!自覚しないこと!!自分にすら貢献できぬこと!!



人であるならば、人と見なせぬ存在そのものが悪。価値観を通さず、決まるべきこと。

それは悪にすら値しない、が、悪しかない言葉の限界における説明。残念ながら……。


「おい!どうなっている!?」

「この異変はなんだ!?異常はなんだ!?」


『LOST』は真実たる悪の恐ろしさを現実に引き起こす、人災に近い。

その能力の正体は、誤作動及び異常に集中している。


現代社会において、電子媒体がない場所はありえない。誰だって携帯やスマホを持ち、パソコンを持ち、車や列車は走り、飛行機やヘリコプターも飛ぶ。

『LOST』は電気で制御される代物に取り付き、誤作動を引き起こす。電子レンジはスイッチを入れずとも勝手に起動、冷蔵庫の温度も急激に変化し、食材を痛めつける。

それだけに留まらず、防災用のスプリンクラーや会社の守秘義務となっている情報すらも拡散、上空に飛ぶ飛行機ですら制御不能となって、通信も断たれて墜落へと追い込まれる。固いセキュリティソフトも、現状『LOST』を止める手立てはなく、誤作動となってこれらの通過を許す。

悪夢を現実に引き起こす。発達した人類だからこそ、有効となっている兵器であろう。


よーするに、





ドガアアアァァァァッッ




軍事施設に向けて、『LOST』を起動すると、軍事兵器が誤作動によって暴走、自爆を引き起こす。この『LOST』の優秀過ぎる兵器としての機能は、相手に戦争を仕掛けたという記録が一切残らず、相手側の人災となって記されることが国際的に決めることができる。

科学兵器の誤作動によって、自爆するなど滑稽にして、ありがたきこと。


人類の終焉がある意味、これだということも、なくはない。



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