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VALENZ TAXI  作者: 孤独
連休編
46/100

夏休みを頂きました。ええ、土曜と日曜の2連休です。

「おっす、久しぶりになります」


そんな声を出したのは、2週間以上、仕事を休んでいたガンモ助さんであった。


「これはお土産です。みんなでどうぞ」

「どこかに出かけてたんですか~」

「まぁ嗜みほどにね」


お願いした休みもあったが、大半は美癒ぴーが加入した際の修正の影響である。非番の位置をずらした結果、最大14連休という社会人にとっては夢のような休みの時間となった。

旅行に出向いた際には、やはりお土産を会社に持っていった方がいいでしょう。なるべく、食べやすい物が好まれますし、自分が好きな物や誰かが好きな物は選ばない方が良いです。最悪なのは土産を買って来たとき、珍味過ぎて誰も食わず、腐って処分するというオチです。こいつの味覚はオカシイだろうと、言われることも……


「無難にクッキーですよ。チョコは暑さで溶けるんでね」


味はともかく、一口や二口で頂けるお土産は高評価です。数も多いと渡せる人が増えます。


「それはともかく、トーコ様。顔、どうしたんです」

「え?あ~……ちょっと怪我しちゃって~。大丈夫です~、私も今日から復帰です~!」


時を同じく、トーコ様も勇薙に負わされた怪我から復帰するのである。



「日野っちはどうしたんだ?」

「今日は休みで~す。あと、美癒ぴーも~」

「2人一緒かー。それはデートかもしれんな」

「まさか~。そんなわけないでしょ~」


ガツガツともらった土産を頬張るトーコ様。感情が出ているなぁと、変わらない事にホッとしている。


「美癒ぴーも、アッシ社長も元気だったか」

「ま~、大変でしたけれどね~」


現在、アッシ社長はタクシーの営業に出ている。これから順次に2人共、業務に出向く。


「久々に一日中かー」

「頑張りますか~、私もです~」



連休明けから仕事に対して心地よく向かえられることは、良い職場にいる事だと思います。ハードに感じる仕事だとは思いますが、頑張りましょう。


「あ~、そういえば~」

「どうした?」

「明日は美癒ぴーと日野っちが出勤なんですが~、お迎え頼まれてたんです~」

「そっか、私のように自転車では2人は来ないものな。よっし、私が日野っちのところに行こう。2週間ぶりの彼は、成長しているかな」

「じゃ~私~、美癒ぴーを迎えにいきまーす!」



こうして、トーコ様もガンモ助さんも、タクシー業務に行くのであった。


今日の勤務は、アッシ社長、トーコ様、ガンモ助さんの3人。1日中を任されたのが、トーコ様とガンモ助さん。アッシ社長が早朝から正午まで。




ブロロロロロロ



「ったく、なんべん俺をコキ扱ってんだ」

「いいじゃない。別に私達、休みじゃん」

「休みだからだぞ!ツーリングがてら、こんなところに来てたまるか!」

「でも、旅先に行くのは、人と会う楽しみもあるでしょ?」



そこに向かう者が2人……と1体。互いに大型バイクを操って向かう。


「兵多は楽しみに寛容じゃないわ」

「そりゃ後ろにこんなもん積んでれば思うっつーの」


山口兵多と夏目の2人である。彼等は今泉ゲーム会社からここに荷物を運びに来たのであった。その荷物は当然ながら、あの人形であり、美癒ぴーの"人格"データも大切に持っている。アッシ社長に届けに来たわけだ。



「ガンモ助さんのお菓子は良いですねぇ」

「……………」



13:00頃の事だ。アッシ社長も昼食をとり、自分の能力のマスコットであるアプリちゃんも具現化して待機していた。そのアプリちゃんの手に持っている、"指輪"が美癒ぴーの能力を"実用化"した代物である。この"指輪"をはめ込めば、自然に美癒ぴーと同レベルの家事スキルを発揮することができる。

注意点として、"実用化"した際の能力であるため、成長機能は身につけた本人に問われる。



ピンポーン


「来ましたか。時間ピッタリですよ」


「休み中に仕事させんなー!」


怒りの声を挙げてアッシ社長を呼ぶ兵多であった。荷物を渡すだけでなく、そのまま事務所にまで上がる兵多と夏目。丁度良いお客様であることもアッシ社長は考えていた。


「おい、あの女を奴隷として寄越せ。約束だってしているぞ」

「ダメです。そーいう趣味はいけませんよ」

「お前のやっている事も奴隷みたいなもんだろ!」

「奴隷じゃないです。家政婦を雇うだけです。箱、開けますから置いてください」


ラブ・スプリングと松代宗司の造った人形、宮野健太と安西弥生が生み出した人格データ、私の"実用化"と合わされば、人間を生み出したようなもの。

少々、私も気がおかしくなってしまいましたかね?



ギイィィッ




アッシ社長がカッターで箱を開けると、その中身は



「おーーっ!服もメイドじゃねぇか、猫耳!」

「さすが、松代宗司といったところでしょうか。可愛い方ですね」

「お、女の子を運んでたの!?私、知らなかったし!」


肉体はラブ・スプリングが、顔からその他に至る造形を松代宗司が製作。服やアクセサリーまで作り出していた。

可愛い数値化なんてできないが、両目を瞑って、祈るように眠ったその姿は天使。


「服やアクセサリーまで色々とご用意してくれたんですか、なんだか悪いですねぇ」

「ナース服にスーツに、学生服、私服。人形+衣類までってすげーな、おい」


宮野と安西の人格データはすぐに出来たものの、松代がわりとゴネて製作に熱中。期限は間に合わせたものの、本来ならもうちょっと早く届けることができた。クリエイターという奴は自己満足できないのが、とても歯がゆいのだ。


「さて、やってみましょうか」


生物の禁忌。

人間という種族の限度。


これができた時、人は人を超えた生物を作ってしまう事になる。人がいなくなる事にも成りかねない。それを望む者もいる中で、私はどちらかというと興味なき者。それこそ、平和なんですが。



人形の頭を開けて、人格データを挿入するアッシ社長。それを見守る兵多と夏目。

この後、まさか2日間に及んでとんでもない事態となるとは、ここの関係者達は思ってもみなかった。




◇      ◇



「……………」


その頃、日野っちは自宅で考えながらスポーツ中継を見ていた。目はしっかりと画面に向かいながら、頭の中は別のことに意識がいっていた。


『ほら!彼氏が言うんだから!あなたも、言うでしょ!名前!』


酉が言った後。振り返っていたからよく覚えている。

見えたのは、美癒ぴーの困った顔だった。言いたそうだったのか、それとも知らないからだったか。


「……名前か」


1人暮らしをしていれば、名前を呼んでくれる人なんていない。家族と別れているのならなおさらだ。そうなると仕事ぐらいだろうかな、呼ばれるのは。基本は苗字だろうな。社内で被ってたら名前に切り替わるか。


「そーいや」


美癒ぴーの、下の名前は美癒だったな。これは間違いないけど、苗字はなんだろうな?

俺と同じはねぇだろうな。



『日野っち』



そう呼ばれる事に慣れちまったな。でも、美癒ぴーは呼んでくれなかったな。

俺はあの時、"美癒ぴーが好きだから"って言って、良かったのか?


なぁ。


名前を知ってるのに、なんでそれを言わなかった?指摘されたり怒ったりしてようやく言うなんて、間違ってやがるなぁ。

知るべきだよな、俺はもっと彼女のことを知るべき、彼女に伝えるべきなんだよな。



課題が色々と見つかった。将来のことも含め、これからまだまだ続くのが人生。



どこにもない答えを探すのではなく、自分の道を通る。自分がするべきことに向かう意志を貫く事。簡単に見えて難しいことだ。負けること叶わないこと。でも、俺はまだそこにいない。

嫌なことばかりでも、幸せに好きなこともあるさぁ。彼女がいるから、いる内という戦いの中。



そんな時だった。



ピンポーン



「………誰だ?」



出る気しねぇな。いいや、居留守しよ。



ピンポーン



二度もインターホン。AMAZONとかはしてないぞ。何かの勧誘ってところか。

こーいうのは出ると面倒なんだよな。出てきたら離す気ないし、もう一度来る気だ。



「あ、あのー……」



その声は小さくて、呼ぶにもどうかと思っていた。ドアの向こう側。


「…………困っちゃうよ」


一日ちょっと考えて、出した声は直球であった。連絡先を聞いてたけど、こうして、直に行って見たかった。家も覚えていて、ここだって分かったから。けど、出てきてはくれなかった。

そうだよね。面倒だもんね。


きっとね。



「また日野っちのこと、知れたら来るから」



そこにいたのは美癒ぴーであった。プライバシーとか、アッシ社長の監視とかもある。こーいうのはお互いが休みの時が良いと思った。



バァァンッ



魔法のタクシーに頼らず、父親の車を運転して日野っちの家まで来た美癒ぴーであった。その事にまったく気付かず、まったく言わない。

意外と心は近いようで遠い。まだまだ、2人の進展は続くのであった。



「どーしよっか」



大学で勉強してようかな?あ、でも。今日はガンモ助さんが復帰の日だったよね。トーコ様も。

ちょっと寄ってみようかな。2人共、仕事かもしれないけれど、夕方にはきっと戻ってくるだろうし、夕飯の準備でもしてあげようかな?


美癒ぴーは知らない。アッシ社長だけが美癒ぴーの人形と、山口兵多、夏目が来ているということに。車でゆっくりと進んで、指定されたルートを通って、会社へとやってきた。

大学よりこっちを選ぶとは楽しんでいるって事なんだろう。普通はありえない。



「あれ?どこかで見た事あるバイクが停まってる。どこだっけ……」



会社に停まっていた車は、アッシ社長のタクシー。現在、製造中のタクシー、美癒ぴーのタクシー。計3台と、兵多と夏目の大型バイクが2台。ガンモ助さんがここまで来るために使った自転車が1台。そして、美癒ぴーが持ってきた父の自家用車、1台。



「あっ!これ、……あの人のか。兵多くんのバイクだ。ということは、隣が夏目さんのバイク?」



逃げた方がいいような気がする。変態だもんね。



その予感は別の意味で正解であった。しかし、それは美癒ぴーの意見とは違うもの。すでに会社内には異常が起こっていた。


現在、15:30。



「あ、アッシ社長ー。元気ですかー、夏目さーん。兵多くんはいませんよねー」


事務所の方に顔を出す美癒ぴー。そこには


「あれ?」


誰もいなかった。お茶や菓子が3人分出ていたようだが、誰かが荒らしたように散乱となっていた。アッシ社長の机も同じくだ。


「アッシ社長?」


隠れているのかと思い、ちょっと捜索してみると本当にいない事に気付く。


「!!え」


人間という種族は、誰もいなかった……



「きゃああああああああああああああああああ」



美癒ぴーの大絶叫と、その後の出来事は人間が関わっていなかった。


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