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VALENZ TAXI  作者: 孤独
入社編
4/100

運転はちゃんと学ぼう

家に帰ったら、そりゃ怒られる。なぜ、連絡も入れずに帰りが翌日の朝と来たら心配される。


「ちょっと、色々あって。タクシー会社で仕事することになっちゃった」


色々不思議な事は語れないから、昨日帰って来れなかった理由は説明してきた。仕事に至るまでの経緯は無理だけど、運転免許も取得できるからで、タクシー会社で働く事にはある程度納得してくれた。


「じゃ、学校に行って来るね」


勤務がどうなるのか分からないけど、夜だったら良いかな。

細かいことはまた学校が終わってから、考える時間もそこにあるし……



「美癒ぴー、こっちで~す」

「ひぃっ!トーコ様!?」


家の前まで送ってもらったのになんだけど、正直帰って欲しかったと思った。

運転遅すぎで、本人、寝てるみたいだから怖いし。


「大学まで送るので~す。というか~、お金の支払いがま~だで~す」

「あ、ごめんなさい」


メーターが動いてなかったから、誤魔化せると思ってた。

かなり遅いのにお金をそれ以上にとるのが、タクシーの悪いところだ。ちゃっちゃと向かってくれよ、そう思っていたけど


「支払い額は、私のタクシーに乗るだけでいいで~す」

「へ?」


ん~、電車で行こうって思ったけど。タダで乗せてくれるのなら良いかな?

そうやって、また凄く遅いトーコ様のタクシーに乗り込んだ。すると、発進と同時に、意外かつ止めて欲しい言葉が


「先ほど~、アッシ社長から連絡がありまして~」

「はい」

「美癒ぴー、明日から初めて運転練習をするので~、私が運転の講師をしてくれ~て。私。ぐぅ、すか、教えるからね~」



えええぇぇっ!?



心の声が表情に出るほど、凄く驚いてビックリして、嫌になった。


「立派な講師をやりま~す~よ~」


教えてもらってないけれど、もうパーフェクトコンプリートの反面教師なんですけど!居眠り運転してる人が私の運転講師をやるの~!?


「ちょっ、良いですか!」

「なんで~す?」

「日野っちじゃダメなんですか!?」


トーコ様への圧倒的な不信感が生まれた消去法の声。さすがに本人の前で嫌ですなんて、言えないけど。でも、嫌です。と、抵抗する姿勢は大事。

そんな言葉をした後、トーコ様は自分に何かがあるなんて一切思わず、よだれをたらしながら、会社内の状況を語る。


「アッシ社長は新型タクシーの手配に忙しく~、ガンモ助さんは日野っちに教えた時~、それはもう凄い不満と不人気の教え方をしたので~、日野っちから~、ガンモ助さんは教育係を降ろされたんです~」


これはまた、美癒ぴーの質問を聞いていないような、返し方であったが、


「日野っちはというと~、アッシ社長曰く、彼の休日は暇じゃないんで~す」

「それは私やトーコ様、アッシ社長などの人類に言えることです!みんな暇じゃないですよ!」

「ま~、知りませんけど~。教えられて~暇そうなのは~、私だけみたいで~す」



後部座席へ振り返って、幸せそうな寝顔で言われても、



「前を見てくださーーい!赤でーーす!」

「大丈夫だから~、逝こ~」



赤信号を無視し、交差点を直進していく。これ知ってる。なんか、色々と知っている。右からクラクションを鳴らしてやって来る、大型トラックが交差点内に普通に進行してくる。



「いやああぁぁぁっ!!」



次の目覚めは死後の世界かな、それとも異世界かな?



◇     ◇



「トーコ様で大丈夫ですかね」


自分で決めておいて、なんですが。


「でも、同じ女性ですからね。ガンモ助さんは教え方があれですし、私がタクシーの発注にてんてこ舞いでなければ私がやっているんですけど」



今後の日程や仕事の案件を纏めているアッシ社長。


「日野っちには、美癒ぴーがものになるまで、トーコ様と私の給料分まで働いてもらわないといけませんからね」



日野っちは責任をちゃんと感じるタイプですし、借りはちゃんと返すので、稼ぎに行ってもらわないと困ります。

トーコ様に教育係が務まるか、不安ですが。基礎的なところは十分にできてますから、大丈夫ですかね。たぶん、きっと、おそらく、まぁ、やれるんじゃない、なんとなく。それと、


「なんだかんだで、私とトーコ様で始めた事業ですから大丈夫でしょう」



新人さんが少し可哀想だと思いながら、内務作業に励むアッシ社長の前に。

最後の従業員がここにやってきた。というか、タクシーが戻ってきたという言い方になるが。

閑静な山の中にあるから、車の音はよく届く。


「ガンモ助さんのお戻りですか」


いちお、窓を空けて確認する。トーコ様の運転は基本的に"セーフティモード"を使っているから、帰って来られないのはなんとなく分かっていたのだが、


「ガンモ助さーーん。お疲れ様でーす!」

「!おーっ、これはアッシ社長!新聞見たぞー!日野っちが事故を起こしたみたいだな!」


運転席のドアを開け、出てきたのはスーツ姿とはいえ、ムキムキとした筋肉がスーツをムチムチさせるほどの筋骨隆々のおじさんであった。

アッシ社長は悲しみを背負った人がする姿だと、思っている。



「タクシーは大破しましたが、免許取り消しは免れました。そしたら、代わりに新しい人が入ってきたんです」

「ほぉっ、そうか!では、詳しく話を聞かせてもらおう」


新人さんの加入を知るや否や、トーコ様とは違った楽しみな笑顔。


「ふふふ、一体。どんな子がこのタクシー会社に入ったのやら」


車の施錠とタイヤの状況など、しっかりと点検と整備を済ませてから会社内に入っていく。アッシ社長はやることが多いながら、2人分のお茶とお菓子を用意した。


「いや、すまん!お茶とお菓子を用意してもらって。ところで2人分ということは、もう新入りさんはいないのかね?」

「まだ大学生です。トーコ様に、その人の送迎と講師を頼みました。今頃、授業をしているでしょ」

「なるほど、大学生か。それは日野っちも喜ぶんじゃないか?年が近いじゃないか」


ズズッとお茶を飲み、菓子を一口頂いて、


「若い子が2人か。ふふふ、楽しみじゃないか。切磋琢磨していくことは企業の成長になる」

「そーいう気はないんですがね。相談というか、今後。戦力の増強としてもそうですし、収入の関係もあって少し、ガンモ助さんの非番の方をズラせてもらえないですかね?」

「消すことは認められんが。アッシ社長が動けぬとあれば、この私が代わりとなって稼ぎに行きましょう」



社長である自分に休みなんてのはないが、今月はガンモ助に仕事を多めにしてもらって、来月には美癒ぴーを1人で出さないとまずいなぁ。


「しかし、若き男が2人か。いよいよ、また世代が進んだな」


そういえば、そこのところを言っていなかったアッシ社長。


「今度入った方、可愛い女子大生ですよ」

「ほぅ……!?なんと!女子大生だと!!本当なのか!?」


並のおっさんがそんなことを聞いてしまったら興奮するだろう。それだけ若い女性が会社にやってくるだけ、男は興奮する。職場に活気が起こる。若さと女性を兼ね備えているのは本当に素晴らしい。

しかし、このガンモ助さんは


「違うのかぁっ!?男だと、男だと、今の今まで男と思っていたぞ!!」

「いえ、女子大生です」

「な、なんということ!いや、信じたくはない!若い男だと、これからという生気盛んな男がやってくるのかと!」


そりゃ日野っちも嫌いになるほど、ホモなのである。ゲイなのである。


「うおぉぉっ!分からない事があれば、手取り足取り。私が教えてあげたのに!筋肉について、語らえる若き男かと思っていたのに、なんたることだ!」

「いやぁ、それをしたから日野っち。怒ったんじゃないですか」

「先輩と後輩だぞ!上下関係以上の物が生まれるのだぞ!恋愛に負けんものがな!」

「生まれちゃダメです」


新入社員が女性だと知り、悲しみながらお茶を一気飲みするガンモ助さん。飲んだ分だけ、なぜか涙を流している。どこらへんに悲しい要素があったんだろうか?


「うううっ、そうか。しかし、それは喜ぶべきことだ。トーコ様もお見苦しかったことであろう。新しい女性が来たら、嬉しいだろうな」

「そうでしょうね。ちょっと張り切るトーコ様を見たのは久しぶりでしたよ」

「私も、今に生きよう」

「無理しないでくださいよ。あぁ、名前は美癒ぴーと言うので。今度会ったら顔を覚えてくださいね」

「美癒ぴー。なるほど、分かった。ちゃんと覚える」



泣きながら、バリバリとおせんべいを頬張り。

もう一つの気がかりをアッシ社長に尋ねたのだった。


「ところで、日野っちはどうした?タクシーは止まっていたが」

「家に帰りましたよ。トーコ様のタクシーに乗ってもらって、帰らせました」

「そうか、怪我などしてなかったか?私は心配していたんだ」

「元気ですよ。美癒ぴーを連れてきて、私に雇うよう凄むくらいにね」


アッシ社長も上手いことガンモ助さんをコントロールする。


「"また"触れちゃいますけど、お見舞いの時間では?」

「!おっと、そうだな!いや、すまん!アッシ社長のお茶とお菓子が旨くてな。次の勤務表ができたらコピーをくれ!」

「ええ」


仮眠室はあるが、使うのはアッシ社長とトーコ様の2人ぐらいである。2人には家がなく、ここに住んでいる状況だ。

大事な魔法のタクシーを使って、家に帰るわけにもいかないため、ガンモ助さんや日野っちは自転車で山を降りて帰るか、アッシ社長かトーコ様のタクシーに乗せてもらうしか帰宅手段がなかった。



「それでは帰る!日野っちと美癒ぴーに無理はさせるなよ!」

「ええっ、さようならー!」



変な人だが、十分な稼ぎをしてくれる主力だ。山を降りるガンモ助さんが見えてからやってきた人。


「ありがとな、アッシ社長……」

「おや、もっと寝ていても良いんですよ」

「大丈夫だ。4時間寝ればな。美癒ぴーに運転を教えなきゃいけねぇし」

「その点は大丈夫ですよ。トーコ様にお願いしましたから」

「えっ!?」


ガンモ助さんからの脅威から逃げ切った日野っちではあったが、トーコ様が美癒ぴーを教えると知ると、ここにいないからこそ言えること



「ゼッタイに止めた方が良いって。運転する反面教師だぞ」

「まぁー、しょうがないです。気持ち分かりますよ。でも、トーコ様に私と日野っち、美癒ぴーの稼ぎがとれるかというと、無理だと思うので。美癒ぴーには悪いですけど」



のんびりとした人だから、無理はさせないと思うんだけどね。



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