仕事をする喜びとか言い出す奴は社員を洗脳したいだけ
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「なんだこれ」
ダーリヤに案内(強制的な誘導)され、車を走らせていった先は一つのロシア軍基地。ダーリヤが指揮を執っている軍の一つであり、主にロシアの治安活動を目的としている部隊が所属している基地。
軍関係者の中では優しいし、甘い感じのものである。
とはいえ、軍人の全員には戦うだけの装備と鍛錬が日々積まれている。
軍まで運転した日野っちはダーリヤを降ろしたかったが、そうもいかない。日野っちが任意で運転席を離れるまでダーリヤも助手席に座っている。
「…………」
車を停めた場所は駐車場ではなく、巨大な戦闘機の倉庫といった場所。見た事がない代物ばかりが並んでおり、コレとは違った感じを出していた。無論、隣の男もだ。
「料理をお持ちしろ。お客様には丁重にな」
「はぁっ、しかし、宜しいのですか?」
「私もここでお昼を頂こう。2人分だ。なんら困る事はない」
手荒なマネをすればすぐに終わる事なのに。
ダーリヤの部下達はそんな手段をとらないダーリヤに意外性を感じた。進歩した技術には目がない人であり、内容はどうあれ、欲しい物には躊躇はしない性格であると思っていたからだ。
「ここで食べるだと?」
「日本人よ、車内での食事はしないのか?」
「いやするが。車を汚すなよ」
「気品について語るか。運転席の下に生クリームが落ちているぞ」
さっきクレープを食った時にこぼれたクリームがあり、少し恥をかいた顔で床を拭く日野っち。
こんなところまで来てしまって何ができるか。ダーリヤはまったく離れようとしない。だから、逆に返していく。
「あんた、暇なのか」
「暇?」
偶然に出会い、助けた人間を調べるという余裕。
「こーいう役割なら、あんたの代わりがいるんじゃないのか?今、尋問みたいなもんだろ」
見た目も威圧感からもダーリヤが只者ではなく、権力も握っているならば、日野っちの相手をする事はとても違和感がある。こーいう役目は下っ端というか、ダーリヤのいう部下がやるべき事。汚させるのは他人の手って奴。ここに務めるまでにいくつかの会社を経験していた日野っちが思えることだ。
「ふはははは」
「?」
ダーリヤの笑いはおよそ、下に就かされる側にいる者には分からない。
「これは私の我侭だ。それを部下が庇うことはない。部下には部下の仕事があり、生き方もあろう」
ここで会社について。
非常に当たり前の事であるが、会社の規模が大きいほど当然、人員は多いものです。
色々な部署も当然ありますし、平社員、課長、契約社員、部長、社長など役職があるわけです。
『VALENZ TAXI』といった10人も満たない会社であれば、社長というトップがいて、あとは大体平等といった感じになることもあります。
大きな企業であれば、役職と部署が複雑に存在しており、それぞれ仕事が異なっております。
よくクレーマーなどは、
『テメェんとこはどーいう仕事をしてやがんだ!?部長や社長はちゃんと部下に仕事を教えてんのか!?』
などという苦情が上がってきますが、
あいつ等とは仕事がまったく違うので、何も知らない事はお互いに良くあります。失態の尻拭いは嫌々な顔をしながらしてくれる方もいれば、まったくやらず逃げ出す人もいます。ぶっちゃけ、お客様と同レベルの認識ばかりです。部署や役職が違えば、本当に別の仕事です。この時、部長や社長という言葉を使わず、現場の責任者を出すように伝えましょう。
会社全体の仕事の責任をとるのが、部長なり社長の役目です。それほどの苦情が来れば話は別なのですが、
「ご利用ありがとうございます。こちらは」
『お前が社長か!?今すぐ来て、土下座しろ!!』
などと、機械を相手に怒鳴り散らすクレーマーもいて、機械音が不快だったという謎の人物もいました。しっかりとクレームを伝える時は連絡先を把握してからしましょう。
それと最初にお客様の連絡に出るのはコールセンターの方が出ます(大抵の規模の会社は)。いきなり、「テメェが社長か?」や「社長を出せ」、そう言われても用件を伝えてくれないと何が言いたいのか、コールセンターの方も苦笑いですので、落ち着いて用件を伝えてください。
怒りといった感情はまったく解決に繫がらず、事情も飲み込めません。
「我侭だからって理由にか」
「力に出るのはよほど手強い相手か、価値のない相手を消す時だ。軍人上がりだから、部下の事は分かっている方だぞ」
分かってるからって、色々と無茶を言いますよね?
それを分かっていないとも言えるのだ。
分かっているという上司には気をつけよう。あれ、知ったかぶりとか虚勢だから。平社員の気持ちなんてこれっぽちも理解しないから。
「心配せずとも、私の部下達はデキる。そうならずして、どう国や社会が回るというのだ?」
社長や部下などなど、誰かがいなければ仕事ができないといった環境がある会社は色々と問題があろう。その問題を抱える『VALENZ TAXI』に務める日野っちには、今の言葉を複雑に受け止めてしまった。
「ダーリヤ様。料理をお持ちいたしました」
ワゴンテーブルで料理を運んできたメイドさん。なんだか良い匂いが車内まで伝わってくる。
ダーリヤは窓を開けて料理をトレイと一緒に受け取り、
「ロシア料理だ。日本では珍しいだろう?」
「あ、ありがたいけどな」
日野っちにも配るのだった。物珍しい目をするも、それで釣られるほどじゃない。と、思っている。
「毒など入っていない。そーいう警戒は無用だ」
警戒するのは当然だが、ダーリヤはあっさりとスプーンで自分の分を一口して、アピールもしてみた。二口目で、日野っちは目を瞑りながら、メイドさんが作ってくれた料理に手をつけた。
ロシア料理なんてこれが初めて試食するわけだが、コンビニの弁当より……
「舌に合わねぇ」
「そうか、残念だ。庶民に合うよう、あまり贅沢な料理にしなかったつもりだが」
「日本人には日本の味が合うんだ」
毒や薬は一切ない。当然だ。
日野っちは料理とダーリヤにソッポを向きながら、脱出の機を伺っていた。今のところまだ、ダーリヤの逆鱗に触れるようなマネをしていないのが、生存できている理由なのだろうか?
気にするにはまだ早すぎるか。
◇ ◇
どこにいるかは分かっている。しかし、ロシア軍の中枢で何が起こるか予想できない。日野っちの無事まではチェックできないため、飛び込んで行くのは自分達の自殺となんら変わらない。
「アフターケアも考える必要もありますから」
「基地なんて初めて見た。凄い厳重そうです」
あの中に日野っちがいるんだ……。
安全な距離で様子を探るアッシ社長、美癒ぴー、トーコ様の3人。いくら魔法のタクシーが2台あっても、その差は歴然としている。
中にいる武装をしている軍人達を見れば、ビビるなってのは無理だ。車内でもナイフを突きつけられた経験のある美癒ぴーも、それ以上の緊張を抱けた。
「どーするの?」
そして、その緊張とは別に。雰囲気がまったく変わったトーコ様の姿。以前にも見た事がある雰囲気のトーコ様が今日はいた。
「囮を使います」
「囮?」
日野っちの奪還も大事であるが、アッシ社長の大事として自分の会社の正体がバレない事も重要な事であった。
わずかでも可能性があっても、後に尾を引けば捕まってしまう事も容易に想定できる。故に最初の侵入と先制攻撃をすることは許されなかった。こんな敵地をなんら計算や警戒をせずに、突撃をかませるのは人間じゃない物の行いでなければいけない。
ゴーーーーーーーッ
本人からしたら、
「遊びに来たよー」
真剣な事ではなく、悪戯をしに来たという雰囲気での突撃。囮という役割にしては、まったくその役割を理解しちゃいない。陽動作戦としてなら多少良いんだろうが、
「ロ、ロケットがこちらに飛んで来るぞ!誰か上に乗っている!!」
「あの少年は……人間じゃねぇ!!」
あまりにも派手過ぎて、迎撃システムに引っ掛かり撃ち落されたのは当然。しかし、放たれたミサイルを浴びても少年も、乗るロケットも撃ち落せない強固たる物。軍基地の中心に、ものの見事に突っ込んでみせた。
同時にロケットの爆発は周囲の生物及び建物に強烈な打撃を与える。乗り込んでいた1人を除いて
「僕と遊ぼうよ、ダーリヤ!君のお家まで僕は来たんだぞー!」
元気一杯の声に緊張はなく、それは紛れもなく、人の声と同じ変わらずもの。
歩きながら炎上している施設の壁を透かして見渡しながら、目当ての標的を捜していた。
「気をつけろ!こいつは人間じゃない!!」
「最警戒!最厳重迎撃を発令!!」
ロケットの衝突から免れた軍人達は、それぞれ機関銃を手にして構えた。
「奴がラブ・スプリング!アメリカの守護神!人類の英知の結晶!!」
「ダーリヤ様と同格の、科学兵器!」
「使用科学は、”電離計算体”、奴自身が能力!」
紹介どうも、それでは宜しくって感じの、明るい笑顔を振り撒いて。カチンッと来たみたいな笑み、八つ当たりは冷静にロシア語で伝え、迎撃してきた軍人達に能力を向けた。
「いつからダーリヤが僕に並んだの?調子に乗んな」
その能力は最先端と謳いながら、原点からの製造をしていく物。神様が宇宙を創造したように、物凄く小さいなところから、物質を生み出し、物体に成し遂げ、複数生まれて世界となる。本来ならば神様が放置しここに至るまで掛かる時間と同義に、代償の高さは桁外れであり、人間では到達できない領域を、ラブ・スプリングは瞬間かつ再現可能とする。
「ま、殺しは僕の趣味じゃない」
つまり、
ラブ・スプリングの能力、”電離計算体”は生み出す、造り出すという能力を究極的にした力であり、細胞、電子、原子、元素、素粒子といった極小のところから、物質を形成していく事ができる力。強力な記憶装置、数式処理、画像処理などを備える頭脳によって、イメージを明確に数値化で表し、ミスなく最速最短で物体を作り出す。
グニャニャ
軍人達が持っている銃から草が生えてくるように鉄塊は、一瞬で軍人に襲い掛かって包まれる。かつて、ギーニの銃の引き鉄を無力化した力と同じだった。
「うおぉっ!?」
「なんだぁ!?」
「服から勝手に紐が作られて、動けねぇ!」
着ている服、人間の細胞すら簡易的に製造に改造を加えて、軍人達を地面に貼り付けさせて行動不能にさせるラブ・スプリング。
「どこにいるかは、今、見えた」
アッシ社長の部下も一緒にいるね。タクシーに乗っている。ダーリヤを車から出さないとみんな、なんにもできないね。
向かってくる軍人など、まったく意に介さずにあしらうラブ・スプリングの強さは、雑魚に勝ち目がない事を決めていた。目を向けられる事もなく、自らの装備に苦しめられ身動きがとれなくなる。人間ではこの怪物を止めることなど不能。
ダーリヤと日野っちに向かって、真っ直ぐに行く。
「に、逃げろ!」
「総員退避!」
「あ、ありゃあ、俺達じゃ手に負えない化け物だ!!」
そして、その距離は徐々に縮まれば、ダーリヤの部下達もラブ・スプリングから逃げ始める。敵わない存在であり危機の状況。守る役目を放棄せざるおえないのも仕方ない、この怪物。
ガララララ
戦闘機の倉庫のシャッターを、ご丁寧に鍵を使って開かせる。扉の鍵は家のような鉄の鍵ではなく、電子の錠。パスワードや専用のキーがなければ開かない扉であるはずなのに。いらっしゃいませと、ゆっくりと上がるシャッター。倉庫の中の先にある車。
「僕はねぇ~、電子タイプのキーも造り出せるんだよ。平和的な侵入だよね」
得意気な顔をして、今回の目的において最重要人物と出会うラブ・スプリング。随分と久しい。
「な、なんだ。あのガキ」
身長は俺の方が高そうだけど、少年くらいな面だ。ここ、ロシア軍基地だぞ。さっきからの爆発は……こいつの仕業?アッシ社長の関係者か?
「やはりか、君を監視していれば奴を呼べるとは思った」
「?」
「ラブ・スプリングが、この車に関わっていると踏んでいた。直感は中々鋭いな」
テクテクとこちらに向かって歩いてくるラブ・スプリング。そして、ダーリヤはこれまで居座り続けた事を即座に止め、車内から出た。これで日野っちの監視の目はなくなったが、様子が明らかにおかしい双方。歩み寄る。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
それほどの揺れと音が出ている。なんなんだこの2人。車を発進させるチャンスなのに、この雰囲気はメチャクチャ危険だ。
「久しいねぇ、最近調子どう?」
「人類の進歩。その警鐘は貴様から鳴る」
バリィィンッ
大人と子供の身長差があるが、互いの睨み合いはどっちも引かず。見下ろし、見上げる。
ビリビリと伝わる見えない衝撃はこの倉庫にあった戦闘機などのガラスを打ち破り始めた。日野っちも、この車から降りたら死ぬ不吉を察した。
「人類の敵め。生物は成長をし、互いが高め合う存在であるにも関わらず、お前は生物でなく、人を支配する邪悪だ。ここでそれを終わらせてやる」
「ちょっとちょっと。君みたいな危険思想こそ、社会にとっては敵じゃない?僕が人を支配するのは効率的に、平和的にやっているからさ。君のは争いばかりで見てられないよ」
お互いに見かけはそう、国を統べるには思えない。邪悪と無邪気の組み合わせ。
「生き残るのは成長し続けた者達だけで良い。人間と名乗る無能や害悪など、我々の選別によって消える。だから、そもそも、人間ではないお前は消えろ」
「君がそんな審査員なんかしたら、君しか生き残らないよね?友達いなくて大丈夫?ぼっちだよね?寂しくないよう、部下の人形造っておこうか?」
学校や会社、国というものは、根本は人間の集合体である。国や出身、親はしょうがないにしても、行きたい学校(特に高校や大学)、就きたい仕事というものは各々持つ。夢という、安定という、希望という、現実とも言う。選ぶ権利に選ぼうという意志を持てば、生きている感じだ。
なぁなぁと生きていれば、いい加減で、挑戦をする事もないだろう。
しかし、挑戦が逆に生きる苦しみを知る。体験した者、諦めた者、敗北した者、勝ちながらもその苦しみの渦中に残る者。
「……人の話、分からないのか?」
「君の話が分からないって言ってるんだよ?」
志して働く事、やりたい事。それは力に変わる。意志があれば動き出すこと、そのセンスの扱いには誰しも回答は出ないが。
「人間はな!!お前のような機械や薬を扱う上で、成長していかねばならんのだ!!今の人類の安心と安全が、生物の遺伝子を崩しているのが分からないのか!」
誰かや何かが助ければ、大丈夫。誰しもみんなは同じなんだからって。
そうあり続けないのであれば、ダーリヤの出番となるわけじゃない。成長をしていく人間が減っていき、残っていくのは堕落した、あるいは安全を貫く姿勢。
一度の成功や安定した約束を得たことで、人は……ダーリヤ風に言うなら、馬鹿になる。そういったことだ。
そーいった影響下、ここに辿り着けばいいと思う人が多い。それは会社であり、大学であり、別のことでもそうであろう。しかし、そこで求めているのは君が来る事、ただ働く事ではなく、そこで戦い成功や勝ちを得る事にある。戦わない人間を求めていたわけじゃない。ましてや、戦う事を考えずに求めていたとしたら……万死に値しよう。
「最近、科学の発展で機械化が進んでいるからねぇ」
人の働きはそれぞれ異なるものの、機械の働きはすこぶるいい。調整こそあれ、電気が通れば真面目で便利で、優秀だ。
スマホより劣る人間なんぞ人口の9割以上いるだろう。スマホを使いこなせない人が特に多い。作者もまったく使えません。こうした便利な存在に対し、人間というのは悪意と無能という評判が高まってきている。
未来を見れば、人は、多くある利便性を使いこなせずに終わってしまう。そんな気がする。
「だから、人類の発展を願うわけか。うーん、ちょっと伝わったよ」
人の個体がそうであれば、集合体となる会社に置き換えればどうなるか。
まずは能力と向上心の欠けた人は安定を求めて、昇格や地位を求めないだろう。仕事に対しての気持ちなど落ち、安心だけを求める選択で安定する地位に留まるだけ。欲を欠いた者に成功はない。しかしながら、大きな失敗もまた縁のないことだろう。
安定こそが成功だ。それは正しき、一瞬の事。国や会社はそれを認めるわけにはいかない。良い結果を求めるのだ。失敗を許さない理不尽さも、求めつつ。
「分かったか?」
1人の力ではどうしようもないことで、成功を消されたばかりの人材が集まる会社や世界に発展を望めない。誰かが助けてくれるといった、弱い感情ばかりではどんな資金を持っていようと、どんな技術があろうと、やがて転覆する。
経済、発展、その中心である人間が落ちぶれていく姿を許すことがダーリヤにはできない。
頷くラブ・スプリングは言う。
「そりゃ君の考えはダメだと分かった」
「ならば、お前は何を伝える?」
「どんな人も平和や安心になれる権利かな」
加減の、知らぬ者同士が。
「僕はそーいう社会を作っていきたい。ダーリヤは違うのかい?」
「馬鹿が。人間が高め合わなければなせぬ所業。夢物語を利用するのが、クズ共だ」
「そっか。でも、僕は君と対立するつもりだからね」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
2人の討論と睨み合いの最中、揺れるこの震動はもはや2人だけの事ではなかった。
真上から狙ったというより、範囲に収まってしまったからだ。揺れ=パワー&サイズ。
「!」
ドガアアアァァァッ
日野っちにとっては一瞬のこと。突如、この倉庫全体を上から襲った、とてつもなく巨大な人の足は容易に倉庫全体をペシャンコにしたのであった。




