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VALENZ TAXI  作者: 孤独
ロシア編
30/100

食事を作ってくれる人がいると、やはりありがたい

ピリリリリリ


「はい。こちらは『VALENZ TAXI』。アッシ社長と申します」


夜中に一本の電話が、『VALENZ TAXI』に掛かってきた。


「電話があったんですね。繫がるんだ」

「あの受信音は客からのモノだな」


丁度、仕事が終わって会社に帰ってきた美癒ぴーと日野っち。

ハードな夜中の業務を終え、家に帰るためにアッシ社長を待っているところであった。トーコ様はもうグッスリと布団の中で眠っている。


「ここの電話番号ってなんですか?アッシ社長の名刺にも書かれてませんでしたが……」

「会員登録してる人にだけ、使用可能な番号らしいぞ」

「会員登録!?スーパーとかスポーツジムとか、本屋みたいなサービスをやっているんですね!?」


タクシー会社によってはそーいった会員もやっているそうです。

最近ではタクシーを呼べるアプリなども登場しているそうです。便利ですが、やはりまだまだ発展途上というところであり、トラブルなどもあるそうです。とはいえ、こういう開発の一歩は躓いてこそだと思います。



「夜中の3時ですか。それはまたお早いですね」



タクシーの営業時間は地域によって異なります。都市部では24時間の営業が大半だそうです。

『VALENZ TAXI』は24時間営業ですが、夜中の2時頃にはみんな帰社してくる。早朝5時から営業を始めるので、2時から5時の間は特別な事がない限り人は出ない。




「はいはい。それはまた大変ですねぇ。承知しました。はい、それではよいお休みをー」


ガチャァッ



その内容は今の2人に朗報となるような会話であり、



「ハイヤーだな!」

「ハイヤーって?」



"ハイヤー"とは、お客様の申し込みによって営業すること。貸切乗用車である。

電話連絡などで、タクシー会社に要請できます。

役員の専属の社用車、VIPのお出迎え、お得意様のゴルフ送迎など、リッチなタクシーといった感じです。車種も通常な車と異なり、カッコイイ車種ばかりです。目的によって、ワゴン車などもあるそうです。


「目が変わりますね、日野っち」

「当然だろ!」


"ハイヤー"はお客様からの事前のご予約で行なわれている仕事のため、ドライバーの品質が問われるものです。単なる移動手段ではなく、その時とその場で、最高の快適なサービスコミュニケーションをするものとされているそうです。



「じゃあ、頼みますね。美癒ぴー」

「!?わ、私ですか!?」


経験がまだ1月も経っていない人に任せるんですか?



「おい、大丈夫かよ?」

「何事も経験です。今回の相手はそれなりの利用者なんで、顔見せということで」


心配する日野っち。顧客は大事じゃないのかな?


「どこで待ち合わせなんです?夜中の3時って相当な気が……」

「ロシアですよ」


……………は?

なんでカタカナがでるのでしょうか?日本にカタカナの地名ってありましたっけ?


「えーっと、聞き間違いましたか?なんと?」

「ですから、ロシアです」


日本どころか、海外からのご依頼ですかぁぁっ!!?




◇     ◇



会社は大変だ。通うまで超大変。通うことが大変だから、帰るのもまた大変。

帰ってきたら仕事の汗を流すバスタイム、それとトイレも忘れない。それから炊事を始めて、洗濯して、片付けや掃除も済ませて……就寝。5時間くらいの睡眠時間。



俺の自由時間はどこにあるんだ?


全然ない!


会社への移動は全部、車だ。ロシアという土地は寒いし、安全が行き通った場所でもない。日本が安全過ぎるんだよ、銃がない国なんてそこくらいだ。車が一番安全で、一番早い。それを使ってもまったく、自分の時間というモノがない。

そんな時知ったこのタクシー。ちょっと高いが、ホントにサイコーの出社を約束するタクシーをさ。ホントなら毎日お願いしたいが、そうしたらお金もなくなっちゃう。少しの贅沢として使うのさ。



ブロロロロロ



「いくらお得意様だからって、外国の地に1人で行かせるんですか」



その日、美癒ぴーもロシアの地を初めて踏み入れた。もちろん、パスポートなんてない。初めての海外だ。なのに、嬉しさよりも緊張が遥かに超えており、これから会う人も外人となればどうしろと?疑問も混乱に変わるほどの事態だ。

でも、ちゃんと行く美癒ぴーは偉い。普通なら逃亡を選択する。


ハイヤーとしての仕事も、海外での運転、海外という場所。全てにおいて初めてな美癒ぴーの精神状態はやはり危険。



「俺が変わった方が良かっただろう」



美癒ぴーには気付かれないほど、遠くで走っている一台の車。日野っちがお忍びで美癒ぴーの後ろをついていった。そんな行動も、



『彼なら言わなくても、ついていくでしょう』


アッシ社長は見抜いて、何も言いつけせずに日野っちをほったらかした。その予想はしっかりと当たっていた。日野っちにはいくつもの借りがある。その少しでも返していきたいところだろう。


ここで世界の交通と日本の交通の違いについて。

国によって様々ですが、日本と異なるところは多々あります。

特に根本的な違いとして、

アメリカ、ロシア、ドイツ、ハワイ、カナダなどの車は左ハンドル・右側通行となっております。

日本と同じ、右ハンドル・左側通行の国は、イギリス、オーストラリア、中国などなど。

国によって、道路の構成そのものが違っています。

ちなみに美癒ぴーも日野っちも、左ハンドルに切り替わってしまう。"変型交代"は車内の状況も帰ることができるのである。


また、道路は国によって舗装されていないところが当然とあり、渋滞が多い国だってあります。

高速道路が存在していない国もあります。

日本の感覚で見ると、非常に不思議な交通網と見てしまうこともあるでしょう。



ブロロロロロ



『この先、左方向。左方向。左折いたします』

「あ、そうですか」


ちなみに"セーフティモード"の操作で走行中の美癒ぴー。彼女がやる操作はアクセルのさじ加減ぐらいである。

"セーフティモード"は道路状況、道路事情に合わせて最適かつ安心な運転を心がける機能であり、ありかじめ仕事内容も決められていれば仕事通りの運転しかせず、運転手が行なうことは接客のみとなる。美癒ぴーでも安心できる仕事となっている。


「だからって、ロシアの様子を見てる気分はないですよ」


何があるか分からない。慣れない左ハンドルに右側通行という状況だし。

そんな緊張なり、不安なりを思いながら、案内されて辿り着いたのはとあるマンションの前。


『こちらになります』

「ここまでの移動距離も、お客様に請求することになるんですね」


お客様を呼び出す時は電話となっている。自宅の前に辿り着いての連絡。

そんな時だ。



ブウウゥッ


「うわぁっ!?電話!?……じゃなくて、無線?」


タクシー会社は無線でのやりとりもあります。これにより、配車などの業務をこなせるようです。


『美癒ぴー。こちら日野っち』

「日野っち!どうしたの?」

『今、お前の後ろにいる。バイクの奴だ』


そんなこと言われるとちょっと怖い。振り返ってバイクを捜すと、確かにあって手を振っていた。ヘルメットで日野っちかどうか分からないけど。


「ど、どうしてここまで?」

『お前が心配だからに決まってるだろ!』


カッコイイ事を言ったつもりだが、下手な見方すると俺がストーカーじゃね?


「だったら代わってよ。魔法は使えたけど、"セーフティモード"や"変型交代"しか使ってないし!別のを見たかったし」

『あ、そうだな。悪いな。ホント』


よかった。たぶん、思われてないだろうな。きっと。


『いや、アッシ社長はあんまり教える事しねぇだろうから。客に電話するんだろ?そのままやると、向こうも何を言っているのか分からないから、"千会話せんかいわ"のモードにしろ。"交信空間"を切ってな』



"交信空間"とは、車内での言語による問題を解決する魔法である。(主要30カ国語に対応)お互いの言葉を通訳して、脳内に届けるもの。ガンモ助さんがアメリカからの依頼をこなした際に使っていた魔法はコレ。車内だけしか適用されないが、これがあれば大抵の外国人と会話ができる。


「知ってますよ。大丈夫です!っていうか、教えてくれましたよ?」

『そ、そうか。とりあえず、なんかあったら俺に連絡しろ!終わるまでついて行ってやる』

「!……ありがとうございます。心配しすぎですけど、……切りますね」


ピィッ



"千会話せんかいわ"とは、多くの日常会話を本人に代わり、決められた会話をしてくれる魔法である。美癒ぴーが今持っている無線機が、代わりにお客様に連絡をしてくれる。

電話対応向けの能力で、会話できる範囲に限り(1000通りの会話が限界)があり、柔軟な対応ができない。また、機会音という条件もあり、聞く人には不快に感じたりもする。


美癒ぴーは、"千会話"を起動させ、カーナビに映る指定の会話を選択する。


「"お客様呼び出し"を選択と」


単なるモーニングコールである。


ピルルルルル



「はい?」


お客様は眠たそうな声で応える。そんな時に機械の声がやってくると腹が立つ。理想とするお目覚めじゃないのだ。ここだけ。

しかし、仕方のないこと。家に入るわけにも行かず、ここだけはお客様の意思が必要である。


『おはようございます。こちら『VALENZ TAXI』です。今日はお客様の送迎に参りました』


モーニングコールは予定された時刻から10分間行なわれる。家か、携帯に鳴るため、しっかりと電源をONにしなくてはならない。かと思いきや、



「電波電力?なんだかよく分からないけど、たとえ停電でも繫がるようにこちらの魔法で制御しているそうです。魔法じゃなくて、科学だよね?こーゆうの」


朝の送迎で、お客様がドタキャンした事はない。また、連絡が行き通ってない事によりクレームもない。しっかりと連絡が届くことは、社会では極めて重要とされる。成功も失敗も、まずは無回答よりかは対処ができる。遅かれ早かれ分かるものだから。



『大変申し訳ございませんが、お支度の方をお願い致します』

「ふあぁっ、はぁいよ」



ガチャァッ


「長々電話をしていると、余計な事ばっか言ってくるんだよな。忘れ物はないかとか」


機械音は不快であるが、眠気をやや紛らわせる効果があった。

単なるシャツにジャージという、それはもうTHE寝巻きという格好のまま、運動靴を履いてドアを開ける。忘れちゃいけないのは、会社に提出する必要書類の入ったカバンだ。こいつだけは簡単に取り戻すことができない。


「あ、降りてきた。顔写真が同じ。やっぱり外国の人なのかー」


お客様は生粋のロシア人である。改めて、自分が接客する人が日本人じゃないことを実感する美癒ぴー。"千会話"や"交信空間"を使っていると、言葉の壁をまったく感じないから見えていないとお互い理解もできそうな気もしてしまう。


美癒ぴーは車を降りて、"千会話"をまた起動させる。


「"送迎の挨拶"」


機械音とはいえ、これがないと送迎をする事ができない。

お客様が来たことで"千会話"が喋りだす。


『『VALENZ TAXI』のご利用ありがとうございます。今日の運転手は美癒ぴーがお勤めします。お客様に快適なサービスのご提供をお約束します』


それはロシア語でやっぱり分からない美癒ぴー。お客様も小声ながら、きっと美癒ぴーに挨拶をしたのだろう。返すように挨拶したのだが、


「きょ、今日はよろしくお願いします」

「~~~」


日本語じゃそりゃ通じないよね。言葉の壁って、こーいうところで痛感する。


タクシー運転手はお客様を選ぶことが難しい。外国人を乗せないというわけにもいきません。基本的な英会話ができる運転手さんもいたり、紙などに挨拶や目的地を尋ねる言葉を記録しているとか。発音が良くないと通じないので、ただ英文を記録してもダメですからね。

できれば、日本語ができると嬉しいです。行き先だけでも良いので。


美癒ぴーは事態を、というか、先に進めるべく。慌てる感じで運転席へと入った。


「~~~?」


何を言っているか分からなかったが、うっかりタクシーと勘違い。今日はハイヤーとして来ているのだ。気付いて運転席から出て、後部座席の扉を急いで開ける美癒ぴー。



「も、も、申し訳ございません」

「~~~~~~!」



な、何を言っているか分からない!!これ"交信空間"を使ったら絶対に怒られてると理解してしまった、ショックするパターン!


お客様が車内に入り、恐る恐る"交信空間"を起動する美癒ぴー。言葉が通じない状態でいくら謝ってもしょうがない。しかし、


「そういえば車内じゃないと言葉は通じ合えなかったな」

「は、はい」

「いやー、実に可愛い子が運転手として来てくれたんだね。それも初めて見るタイプ」


失礼な接待を気にするような、小さい器量の持ち主ではない。

外人といっても温厚な方であったようだ。お客様ってホントに色々である。


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