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VALENZ TAXI  作者: 孤独
入社編
3/100

居眠り運転、飲酒運転、ダメ、ゼッタイ!

「ふあぁぁっ」


日野っちは欠伸をした。彼にとっての長い一日がようやく終わろうとしていた。

これから美癒ぴーと共にお金を稼いで、タクシーの弁償代を払わなければいけないが、焦っては事故の元。正直、ツイてねぇだけだった。


「悪い、寝るわ」

「お、お休みなさい」


美癒ぴーは、事件から事情聴取やら後始末やら、助けてもらった事も全て、日野っちに全部やってもらえていた。言おうとした事も急展開で言えなかったこと。


「昨日も、今日も、助けていただいて、ありがとうございます。日野さん」

「?……あ、……どういたしまして」

「お礼は頑張って働きますから……。こんなことになっちゃって」


お礼を言ったつもりであったが、しょげているように思われたのか、ちょっと焦った声で


「いや、あれは俺も悪いからな。気にするなって、こっちもこっちの事情で無理矢理、運転手にさせて悪いよ。こっちがお礼も言いたいし」


釈明のように言う、日野っち。

元は、私達。全然カンケーないよね?男共が暴走したのが悪くて、払えるお金がなくて、働く事もできない状態で、態度だけは大きくて、タバコ臭くて。


「ともかく、今日はもう帰るのか?」

「おかげさまで食事も、シャワーも、睡眠もできたので。学校に行こうって思ってるんだけど」

「真面目だな。俺ならサボるけど……ふぁっ……」


また欠伸。もう、集中力が切れている。運転はできないな。

そして、"あの人"がここに戻って来ていることが分かるシグナルか。


「俺は寝ちゃうけど、トーコ様が迎えに来るよ」

「トーコ様って女性の。アッシ社長と同じ眼鏡をかけて、眠そうな顔をして、私より背が高くて……。私に食事を振舞ってくれた人だよね?仕事から戻ってくるんだ、なんだか悪いな」

「別にタクシー会社だから、自分の送り迎えは気にするなよ」

「あ、」


そうだった。気になった事があった。つい今、ありえないタイミングかもしれないけど、


「そういえば、日野っちって結構、背が低いよね。私より背が低いし。さっき、私の頭を下げさせた時、背伸びしてて可愛かった」



感謝された後



「!ぐおっ!テメッ!俺の気にしている事を思い出した感じで言うとは!」



怒るなんて、どんな日だ。


「まぁいい。今、眠いから寝る」

「人の可愛いところは弱った時にしか言えないもんね」

「なっ………まぁいい。うん。トーコ様の事だから、外で待っていた方が良い」



日野っちは赤い顔を隠しながら、仮眠室へと入っていき寝た。弱点とか思っているけど、背が同じくらいだと可愛いよ。


「さて」


日野っちに言われた通り、外で待つことにした。ここには結界とやらが張ってあって、普通には来られない場所なんだとか。

大きさはバスの車庫上並に広いのに、タクシーは5台しか置かれていない状況。山の中にこんな広い場所があって、何も置かれていない駐車場があるなんて悲しいな。同時に、どうしてここが誰も見つけられないんだろう?

よく分からないけど、アッシ社長は魔法使いでも凄い人なんだとか。

3分ほど待っていれば、そーゆうことを教えてくれた人のタクシーがのんびりとやって来た。



「美癒ぴーさ~ん」

「トーコ様!」


タクシーの窓を空けて手を振る、大きな手。のっそりと大きな顔も出してくれる。


「迎えに来ましたよ~」


薄紫の髪のミディアムヘアー、強調してアッシ社長と同じ眼鏡をつけ、秘書のような決まったスーツの両肩には残念感を生み出している、よだれカバーがつけられていた。



「あっ」


顔を出したと思ったら、その勢いのまま。身体が地面に転がっていく。天然ドジな人が、年齢的にも成長的にも大きくなるとこうなるんだという見本。



「ふみゃ~。大丈夫ですか~、美癒ぴーさ~ん」

「いや、トーコ様こそ大丈夫なんですか!?見えているんですか!」


眠りについているような、安らかな表情で心配してくれる。いや、どう見ても寝てるんじゃないかな?よだれカバーがちゃんと役目を果たして、口から溢れるよだれをスーツにつかないようにしていた。


「では、出発しましょうね~」


そう言って、トーコ様は後部座席のドアを開けて乗り込んだ。


「違います!寝惚けているんですか!?」



日野っちやアッシ社長の方が、安心できそうな気がした。こんな心配するタクシーを乗るのは初めて。



◇      ◇



ブロロロロロ



「アッシ社長がど~して"あだ名"で呼びたいか言うとですね~」



『前を見て』という声を出しても、まったく聞かず、近所のおばさんのように自分の思っている事を喋る一方通行。

諦めてこの会社の事を聞いてよう。落ち着いて聞ける気がしないけど。


「個人情報の保護のためなんで~す」

「あの、眠いなら寝た方がいいんじゃ」


無理無理、落ち着いて聞けない!座って眠って運転をしているにしか見えない、車が感じる震動に合わせて体が抵抗することなくトーコ様が動いている。事故が起きていないのに、シートベルトの大切さが分かる運転だった。

今日、死んじゃう恐怖を感じる。


「アッシ社長が自らみんなに命名してまして~、私がトーコ様で、日野っち~、ガンモ助さ~ん、美癒ぴーですね~」

「あ、あのそれって。もしかして、トーコ様って、全然苗字とかに関係ないんですか?」

「そ~なんですよ~。私も~、アッシ社長の苗字知らないし~、日野っちのも知らないで~す」



話しに都合が良い声はちゃんと拾うんだ。


「そうだったんだ。そういえば、日野っちを"日野さん"って呼んだ時、反応が薄かったような」

「じゃあ~、日野は関係ないんですね~」


でも、それって個人情報を保護する以前にどうなんだろう?一緒に仕事をする人達が周りのことを知らないなんて。でも、タクシーは1人で仕事をするものかな。


「アッシ社長が魔法使いなんで~、私も~、日野っちも~、ガンモ助さんも~、癖のある人しかいませんからね~」

「私って特別な事ができるわけじゃないんですけど」

「すでにこのタクシー会社に入っちゃった時点で~、特別なんで~す」


そう言われると納得しちゃうな。

日野っちも、タクシーが特別仕様であって、本人はなんか普通そう。見た感じは背が低いくらいだし?

あ、それと


「日野っちも、アッシ社長も言ってましたけど。これも魔法のタクシーなんですよね?」


それを信じてしまう。トーコ様の居眠り運転の危なっかしさ。


「そですよ~。アッシ社長凄いんで~す。例えば」


そう言って、トーコ様はおもむろに助手席に倒れこんだ。ハンドルも完全に離すもんだから、心臓が飛び出たと思った。


「現代科学ではまだ完成されていな~い、完全な自動運転機能がありま~す。このおかげで眠りながらの運転が可能で~す」

「止めてーー!怖い怖い!ブレーキとハンドルは準備していてください!」


魔法のタクシーと言われているが、魔法の生き物といった方がしっくり来る。ぶつかることを嫌い、危険と判断したら即座に回避する方法をとるだけでなく、危険防止のため、安全運転をキッチリと守る。歩行者優先、速度超過厳禁、標識遵守の徹底、無理な追い越しもしない。

ゆとりあるドライブをお客に提供する。



ブーーーーーッ



「早く進めー!」

「おせぇぞ、このタクシー!」



しかし、交通ルールを極めてしまえば、当然ながら性格の違う他の運転手達にとっては、この安心安全な運転を忌み嫌う。


「"セーフティモード"の最高速度は40キロで~す、道路状況や歩行者の状況によってさらなる安全運転を心がけま~す」

「お、遅いんですけど」

「旅はゆっくり楽しむもので~す」

「私の、いつもの街並みなんですけど」


凄く便利で安全な機能を持つが、普通には活かせない技術であった。

家に着いたのは大学が始まる時間であった。遠いのもあったけれど、



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