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VALENZ TAXI  作者: 孤独
同業者編
28/100

女はわがままな生物であるが、我慢が足りないと諭す男達が、マゾに見えてしょうがないと心配する女達。

「エチケットが必要です!」



翌日、仕事が始まる前に美癒ぴーは、アッシ社長に堂々と意見するのであった。

それほどに感じた事であり、重要な事。字面ではその表現が伝え辛く、個人差もあって困るものだ。



「車内の臭いをちゃんと処理しましょう!」

「……なるほどー」



アッシ社長は美癒ぴーの真剣な顔を、裸眼で見ながら眼鏡を拭いていた。書類に目を通し続けて、疲れ目であった。社員からの要望を聞くにその態度は如何なものか。


「タクシーに限らず、車ってのは臭いますからねぇ」

「分かっているならもっと真剣に取り組むべきです!」


会社を運営している身。

社員からの要望が会社に来ることは当然のこと。


「予算不足なり、人手不足なり、色々あるんですけれどね」


会社にも会社の事情がある。

こちらも色々とやっているのだが、女性の感性からしたら甘いようだ。


「ちょっと前から思ってましたけど、汚いと思います!整備はされても、整理がされていません!」

「車両の整備はしっかりしてれば、業務ができますからね」


車両点検は車が動作するかどうかのもの。確かに外装の汚れを落とすが、


「シートにお酒やタバコの臭いが残っています!車内がちょっと蒸して、汗臭いです!車酔いの原因にもなります!」


女性がこーいった仕事を嫌うに、やはり男性よりも敏感で、臭いを嫌うことだろう。

泥臭い、汗臭い、とにかく臭い、汚いといったものは受け付けがたい。男だって嫌なんだが、慣れるという我慢に行き着くのが大半だろうし、時間と共に気付かないこともある。


「消臭剤はもっと良い物を使ったり、大目に注ぎ込んだ方が良いですよ!」

「なるほど」


眼鏡を拭き終えて、掛けるアッシ社長。とりあえず、その手の意見は……



「トーコ様!やっぱり、私が言った通りじゃないですか!」

「ふみゃ~?」


実は美癒ぴーが来る以前にその手の議題を挙げた事がある。無論、挙げたのはトーコ様ではなく、アッシ社長の方であった。



「女性であるならばこの手のケアはする物ですと、言ったことがありますよね?」

「え~~」


丁度、長ソファでお昼寝をしていたトーコ様に注意する感じで伝えていた。

経緯を説明すると、


「私も美癒ぴーと同じく、車内はより綺麗に扱うつもりでした。しかし……」

「面倒くさいから良いじゃ~ん、帰ってきてからで~。タクシーの利用者の大半は、汗臭くて、酒臭くて、タバコ臭いんだから~。私はちゃんと帰ってきて消臭するよ~」

「な、なるほど。そーいう事ですか」


察してしまう美癒ぴー。

よーするに、”常に”綺麗に扱うのが面倒だから。それに加勢するように……


「俺もそんなに気にしないぞ。つーか、今が気になっている」

「私もだ。今はそっちより、こっちに気がある」


事務所で走り回る日野っちとガンモ助さん。冷静に声を出しながら、凄まじい攻防が繰り広げられていた。騒がしいのやら、元気なのやら……

車のマナー以前の話であるため、社長という立場ではなく、まさかの新人という立場で


「みーんな!話を聞きなさい!これは重要な事ですよ!」


美癒ぴーがキレて、みんなを大人しく座らせての会議が始まるのであった。


注意点として、新人さんには会社に訴えるという力は極めて弱いです。それは大抵、クビ覚悟の行為です。ある程度、会社で評価を積み重ねてから意見を言いましょう。辞めたい時はやるべき事ですが。


◇     ◇



「車内の臭いの改善ですか」


先ほど述べたとおり、タクシーのご利用の大半が夜。仕事帰り、飲み会の帰りなどで、臭いを纏ってのご乗車となる。それが1日の業務で何人も相手にすれば、ビッチリと臭いがシートなり、床のマットなりにこびりつくだろう。


書記にして、社長にして、司会を務めるアッシ社長。


「皆さん、この議題についての意見をお願いします」

「はいは~い。私~、お客様が乗った時に~、ファブリ~ズやリセッシュ~とかの、消臭剤を撒いてあげるのど~です~」

「初っ端から軽い虐めですね。止めてくださいよ、絶対」



ほとんどの臭いの原因は乗客にある。特に男性客と酔っ払い客。

タクシー運転手なわけだから、酒を飲んでいる人も少ない。そして、珍しい事に喫煙者も0。こちら側の臭いというのは少ない。


「全車両に置き型タイプの消臭剤をつけるとか」

「置いてても、すぐに終わっちゃいますよ!っていうか、それでなんとかなるとでも?」

「美癒ぴーが過剰というか、女性らしいというか」


男共にとっては十分に消臭をしていると思っているようだが、美癒ぴー的には



「なんていうか!分かります!車内の臭いって!あなた方、慣れ過ぎちゃって鼻が壊死しているんじゃないんですか!?」



自宅に自家用車があり、4人家族。父、母、長女、次女という女だらけの家庭故に、権限的には女性が強く、臭いや汚れには敏感である。

いくら父とはいえ、臭いを発すれば敵に変わる。



「あのさー、父さん。私達と一緒に服を洗濯しないでよ!」

「え!?それは父さんの下着限定の話じゃなかった?」

「全部に決まってるでしょ!私、美癒、母さんで交代しながら洗濯をしてるの。だから父さんは1人で自分の衣類を洗濯してよ!あと、干す時!絶対に私達の衣類に近づけないでよ!!」

「か、家族なのに虐めみたいな決まりだ……」


今日その日、月2くらいで帰ってくる美癒ぴーの姉、美法みのりが家に戻ってきており、家族の洗濯について話していたところであった。


「加齢臭がついたら嫌だから!おっさんの臭いはお断り!」

「お父さん、そんなに加齢臭してるかな!?こー見えて、会社内じゃ綺麗好きなんだけど!母さん達の影響で!」

「綺麗にするのは当たり前の事なの!」


家事は母も娘も、一流なんだけど。ちょっと厳しくて、潔癖なのが残念だな。

付き合う男は大変だな。




「加齢臭のおっさんの臭いばかりして、女性にとっては気分悪いです!汚い男が後ろから迫って来るかのような、キッツイ臭いがするんですよ!!後々になって!」


丁度、洗濯物について長女から説教を受けた父は、まだ次女の方がまともだと思っていた。しかし、美癒ぴーがここで言ったことは多くの男を唖然とさせるような物であった。


「酷いですね。お客様の前でキレないでくださいよ」

「っ……なんか悪かったな」

「というと、美癒ぴー。もしかして、この会社内の臭いを我慢してたのか?」



この罵倒。特に男3人は、グッサリと矢を刺されたかのように気落ちしていた。

さらに熱演する美癒ぴー。


「やっと仕事が終わった!お客様が満足して降りました!なのに、あの汚くて酷く臭う男の汗とか脂、タバコ、酒、などなどの臭いが後部座席に残っているんですよ!嫌な気配を運転席からでも感じるんです!」



仕事に対して真面目なんだけど。なんていうか、適正を誤って見てしまったと反省するアッシ社長。美癒ぴーは絶対にタクシー運転手に向かない。運転手はできても、タクシーは向いていない!

家事万能の代償なのか、かなりの潔癖症だ。


「と、とにかくだ!ほら!」


日野っちが怒る美癒ぴーを落ち着かせようと思って、声を掛けるも


「あー、そのだなー」


自分の臭いってどう思われているんだろうか。その心配をして、言葉が出ないようだった。


「人それぞれとはいえ、美癒ぴーの基準に合わせるというのは良い事かもしれませんね」

「!そーそー!そーゆうのを言いたかったぜ、アッシ社長!」


美癒ぴーが来るまでの基準は個人個人でやっていた。

ともあれ、車内の臭いや汚れというのは会社に戻ってきた時に、点検と整備の間に行なわれている。

内容としては、消臭剤の拭きかけや置き型タイプの消臭剤の残量の確認、交換といったところだ。

運転に支障が出るほどの臭いはさすがにヤバイため、誰だってしている。暑い時期は特にしている。


「既存の消臭剤では、染み付いた臭いをとるのにも限度があります。別の商品に乗り換えて捜すのはどうです?案外、良い掘り出し物が見つかるかも」

「でも、時間掛かるし、見つけられるか分かんねぇぞ。俺は消臭する回数を増やせばなんとかなる気がするぞ」

「それはただの小細工じゃないか?無駄にもなるし。シートの交換をコマメにするのはどうだろう?シートの予備などが少ないのもなぁ」

「良いですね、ガンモ助さん!そーいうのが一番効果があります!座席シートも洗濯するタイミングによって、みんなで交換です!」

「私達の資金を考えてくださいよ。私達のタクシーは特別なんで、ただのシート交換じゃ済まないんです」



あーだこーだと話し合う内に、とある意見が出た。


「質問で~す」

「トーコ様」


一番、興味がなさそうな。すでに眠りたい表情で意外性のある意見。きっかけとなったのは、山口夫妻とのゲームであろう。


「清掃員を雇うのはどうです~?毎日、綺麗にしてもらいましょ~」


現在の会社の状況。

勤務形態はみんなバラバラであり、統率制がないように思えるが、わりとバランスが良い。時間に目を瞑れば。みんなの勤務時間は大まかにこんな感じであった。



美癒ぴー。

夜、深夜。(昼は学校)


日野っち。

夕、夜、深夜


ガンモ助さん。

朝、昼、夕、夜。(日によって、夕方から勤務をしている場合がある)



トーコ様。

夜、深夜、朝、昼


アッシ社長。

車の製造で働けない。



「みんながこうして集まるのは夕方だけですし~、朝からお昼まで清掃してる人がいたらいいですよ~」

「そりゃもう1人、ここの事務とか清掃を週3ぐらいでやれる人がいたら楽だけど」

「人もそんなに雇えないだろう」

「車内や会社を清潔に扱える人っています?私基準で見ると、厳しくしちゃうと思います」

「そっか~。ごめ~ん」



トーコ様の意見。悪くはないが、予算もないし、美癒ぴーを納得させるような綺麗好きがいるのだろうかという不安。しかし、それがヒントになって



「そっか!その手があったか」


アッシ社長の閃きが結構オカシイものであった。


「どうしたんです?」

「まぁ、そうですね。この件にしろ、私も常々忙しくて猫の手でも借りたいところでした」

「私がいますよ~、アッシ社長~」

「トーコ様は寝てるでしょ。私がどれだけ、タクシーを製造するために睡眠時間を削っていると思うんですか?」

「えへへへ~」


厄介なところにも協力を願う事になりますが、ここで逃すわけにもいきませんか。


「私に任せてください。その間、美癒ぴー。なんとか我慢をしてください」

「!えーっ!うみむやで終わるんですか!?重要ですよ!」

「消臭をちゃんとしてれば慣れますよ。清掃関連で1人、キッチリとこなせる人に心当たりがありますので」

「顔が広いな、アッシ社長」

「そいつを雇おうってわけか?」


いや、雇うというやり方じゃないんだよなぁ……



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