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VALENZ TAXI  作者: 孤独
入社編
2/100

タクシー業界は世知辛い

伝説のタクシーと出会い、一夜が明けた。



「日野っち。一泊ができるお店が丁度良く目の前にあったのに、どうしてこちらに運んだのです?」



アッシ社長は眼鏡を上げた。その夜の出来事の後始末を終えて、部下の日野っちに色々と尋問をしていた。


「だってあそこ、危ねぇとこだぞ」

「奥手なんですか?彼女いないんでしょ?」

「ちっげぇーよ!俺はそーゆうの嫌いなんだよ!普通の恋愛して、結婚して、子供が生まれて、成長していくみてぇな家庭を求めてるんだよ!」

「子供って、恥ずかしい事しないとできませんよ?」

「別にそーいうとこを嫌ってるわけじゃねぇ!」


この伝説のタクシーを設立したアッシ社長。そのとても不健康そうな面と身体に響けと言わんばかりの怒声を、日野っちはするのであった。


「君は人間ですから、このように普通に連れて来ることに不安はないんでしょうけど」


魔法のタクシー企業だ。当然、普通ではないところもある。社長はその最たる例であろう。


「私は魔法使いです。快適な旅をお客様にするのが好きで、これを始めたんです。私の正体や技術が世間に公表されたら、私、タクシー事業どころじゃないでしょう?」

「知ってるよ。でも、しょうがないだろ!」

「私のタクシーを壊して、しょうがないで済まさないでください。普通の人間もこの結界の中に連れてくるのもですよ」


俺も普通の人間なんだけど。仕事に困ってたときに、たまたまアッシ社長のタクシーに乗ってお願いしたんだよな。


「それにお金も燃やしちゃうなんて、今月の給与をカットしますよ」

「えええぇっ!待ってくれよ!」

「全額カットにしないだけマシです!半額の120万円で我慢してください!」


タクシー業界は不況である。車の整備やらお客を獲得するまでの時間、その金額の不安定差にお客の態度の千変万化。かなり不安定な輸送業だ。

しかし、この"VALENZ TAXI"が良い稼ぎであるのは、やはり魔法のおかげだ。


「テレポートすれば通常の額の4倍以上の取引ですし、快適サービスなども充実しており、他のタクシーの費じゃない収入があるのですから」



確かに急いでいれば、通常の4倍の額でもテレポートで移動したい。飛行機よりも速いし、外国だって行けちゃう。一発、お客様を当てれば大もうけでもあった。


「支払いを拒んだら、強制的にその人の口座からお金を引き出すことができ、足り無ければそのお客様の名義で取り立て屋さんから借りれますしね」

「金の徴収は徹底されてるな」

「最高のサービスだけではできませんから」


魔法とはいえ、魔法に耐えうるだけの車でなくてはいけない。整備費はハンパじゃないのだ。一台作るのにも、億単位の額が掛かる。むしろ、億で済ませているのが凄いか。



「怒って車を大破させちゃいけませんよ。次は気をつけてください」

「分かったよ。すみませんでした。じゃあ、仮眠室に行ってくるな」



尋問は終わって、頭を下げる日野っち。事件から一睡もしていないため、仮眠室へと向かった。


「やれやれです」


アッシ社長は新しい車を造るため、細かい部品の調達の催促を始める。


「な、なんですかぁ~、眠いんですけど」

「五月蝿い。俺も同じだ」


しかし、


「おい、アッシ社長」

「おや?美癒ぴーを連れて何しに?」


なんと、日野っちが美癒ぴーを連れてここに戻ってきた。


「こいつと2人で働いてすぐに、タクシーの弁償代を用意する」

「ふぇっ?」

「は?」


日野っちの即決する動きに2人共、ポカンとした。いきなり、飛び越え過ぎた話だから、取引先への電話をかけるのを止めたアッシ社長。


「美癒ぴーがここに務めれば、お前の正体の心配もいらないだろ。俺も働き手がもう1人いると、楽に返せる」

「な、なんでそーゆうことを……?」

「美癒ぴーの言うとおり」



さっきから美癒ぴーってなんですか?



「車はありませんし、また事故を起こされたらたまりません」

「しなきゃいい」

「半日前に起こした人間が言える言葉じゃないですよ!」


その身勝手ぶりを買ってはいるし、無策でないのも好印象だ。



「俺がお前の車を借りる、予備を美癒ぴーが乗れば良い」

「日野さんもなんで自然に美癒ぴーって呼ぶんです?」

「私の車は?」

「お前は俺が壊したタクシーを直さなきゃいけないから、忙しいだろ?トーコ様と……あの、ガンモ助さんの2人なら予備なしでも大丈夫だろ?」

「君達が壊さない保障が欲しいな」


とはいえ、今の提案を反対したい気持ちよりかは賛成したい気持ちがあった。


「お金の用意は早い方がいいし、"セーフティモード"を常にONにしてもらえれば事故は起こさないでしょ?」

「おうおう、大丈夫!なぁっ!」


なんか、運転手をしていた時と違う性格。ONとOFFがしっかりとされている人なんだろう。手で頭を押さないでと、思ったけど


「あれ?」


あることに気付いた。それはまた今度聞く。

それよりも、


「私の意志は!?私、学生なんですよ!」

「夜に働けば良いだろ?」

「短い時間でも構いませんよ」


体力的な問題もあるけど、それ以前に。


「私!車の免許を持ってません!運転なんてできませんよ!」


断ることは悪いけれど、これ以上の迷惑を振り撒くわけにはいかない。その言葉は完全なる善良であったが、


「心配ありません。昨日体験したでしょ?私達が乗るのは魔法のタクシーです」

「無免許運転はいけません!」

「先ほど言いましたが、"セーフティモード"を起動させておけば、能力は制限されますが、快適かつ安心安全な自動運転ができます」

「それだりぃから、俺は切ってるけどな」

「無免許でも警察に捕まらなければグレーで済みます。こちらは魔法のタクシーですから、外からは完全な安全運転で怪しまれることはありません」


善良なる市民の皆様へ。絶対に無免許運転はしないでください。今回は魔法を持つタクシーという設定であるため、許されている事にしています。


「それに私達、タクシー会社という顔以外に、自動車の合宿所もやっていますので、2週間あれば免許取得ができますよ。それ相応の教習を行いますがね」

「え!?それホントですか!?」

「ちまちま教習所行くより早いよな。俺も後悔したんだよな、それ」

「お金はタクシーの弁償代に含んであげますから」



最初は断ろうと思ったが、実家には車があったし、これからの大学生活とか社会人生活を考えたら、車が運転できた方が良い。乗って欲しいってお父さんも言っていたし。

悪い部分と良い部分を考えてみれば、大きな声がちょっと裏返って言えた。



「わ、分かりました!引き受けます!タクシー運転手!」



タクシー運転手、美癒ぴーの誕生であった。



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