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VALENZ TAXI  作者: 孤独
試験編
14/100

試験ですよ!③

運転時の事故の大半は人災である。機械のように精密な動きができない人間達が使うのだから、納得がいったりもする。



左折、右折時の目視と徐行には意識した。

先行する車両との車間距離はやや広くとろう。特に



「!ちょっ、いきなり止めないで」

「前方はタクシーですよ。前方の車がなんなのか、どのような運転をしているか、なるべくイメージしましょう」

「はい」



タクシーやバス、運送会社の車などは、急に止まることが多い。ウィンカーの指示は運転手それぞれであり、自分の感覚と合わせてしまったら追突する事もある。


「事故は"する側"にならず、"される側"に留めましょう」

「しない事が一番なんですけどね」


前方の車が急ブレーキをかけるのにも、理由があったりする。それは自分自身だってする事だろう。車間距離を十分確保することは大切であり、万が一自分の車が追突されても、


「相手方の過失の割合が増える可能性が高いです」


とはいえ、これはあくまで乗客が乗っていない時だ。乗客は基本的に後部座席にいるため、追突するもされることも、運転手に責任がある。どちらかが飲酒運転や居眠り運転、脇見運転で事故を起こしても、乗客を傷つけることならば会社の責任にもなる。


「前のタクシー。ガンモ助さんですか?」

「ええ」



ホントに気の抜けない運転を美癒ぴーに要求してくる2人であった。

10日ほどの運転でよくここまで危機回避能力を身につけたと、アッシ社長からしたら美癒ぴーの評価は非常に高いものとなった。

運転する時間は1時間と長く、これだけ緊張のあった運転には疲労もかなり出てくる。


「そろそろゴールです」

「そうですね」

「そこを左に曲がって、ちょっと先に私の行きつけの喫茶店があると思うので、そこで駐車試験をして試験を終わりにしましょう」

「はい!」


あと少し。結果はまだ分からないが、残りの関門はおそらく一つ。

駐車場に入り、指示される駐車位置は


「そこの車の間に上手く停めて下さい」

「え?」


目を丸くして、アッシ社長の方に向く。そこに止まっている二台の車は超高級車。


「2台ともベンツじゃないですか!?2台の高級車の間に駐車するとか馬鹿なんですか!?」

「あー、そうですか」


路上を走る際、前方車両の車種にも気をつけましょう。高級車にぶつけた場合、とんでもなく高い請求が来ます。しかも、持ち主は大抵凡人とはかけ離れた連中なので、後もヤバイです。


「大丈夫です。あの2台はガンモ助さんと日野っちの車ですよ」

「!あ、そーゆう感じですか」

「ええ。ホントはネタバレしたくないんですけど」


少し緊張が和らいで、難しい駐車の試験。


「よーし」


最近は後ろの様子が見えるカーナビもあるが、運転するのは自分自身。バックミラー、空けた窓から顔を出し、注意を払いながら慎重な運転を心がける。駐車の際は時間をかけていい。タイヤの位置、角度。ゆっくりとバックしながらベンツの間に車を入れていく。



「お。いい感じ、いい感じ」


隣の車にいたガンモ助さんが丁寧な駐車を褒める。

しっかりと、車止めと後輪タイヤが垂直になったらハンドルを戻して、バックをするだけ。

ちゃんと間に入れて、ギアを"D"から"P"に代え、エンジンを切って。



「できましたーー!」



1時間ほどの運転に力尽きるようにハンドルに顔をつける美癒ぴー。緊張から解放された後にやってきた至福はハンパじゃなかった。

ガンモ助さんとアッシ社長が拍手をしながら褒める。


「いやいや、よく運転しましたよ」

「よく頑張った!これなら大丈夫だよ!」


特別なミスはなく。満点に近い運転であった。最後の難関である、車と車の間の駐車を無事に成功させる。


「旋回や山道の運転は慣れて来てからで良いでしょう。必要とする事じゃないですし」

「悪天候もその時にならんとできんしな」

「は、はい……」


まだまだ学ぶべきこと体験することは多いが、今の状況なら運転手としても十分な力があるとアッシ社長やガンモ助さんは判断した。


「トーコ様」

「くぅ~……」

「見てください、美癒ぴー。トーコ様もあのように安眠していますよ」

「あははは、それは良かったかな?」


安全な運転をしていたから、運転中はずーっと眠っていたトーコ様。快適に眠れる運転ができたのもまた、良い自信になった。

少し早いが、昼食をここの喫茶店で頂くことにする一同。


「トーコ様、起きてください」

「むにゃ~、アッシ社長。あと6時間寝させてください」

「いやいや、困りますよ」


トーコ様を起こすアッシ社長。


「日野っち。ここでお昼だってよ」

「そういえば、私より早くに着いていたな」


美癒ぴーとガンモ助さんが隣のベンツの方に向かい、声を掛けるも反応がなく、覗いて見るとそこには誰もいなかった。


「あれ?」

「いないなぁ、先に店に入ったのか?セッカチ過ぎるぞ」


ガンモ助さんから逃げたかったのか、なんて心の中で察した美癒ぴーであった。しかし、意外な事にこの駐車場にやってくるベンツがあった。窓を空け、ひょっこりと顔を出したのは



「あ?早くないか、美癒ぴー」

「え!?日野っち!?ここに着いていたんじゃないの!?」

「いや、今着いたんだぞ。なんだよ、駐車の試験は無事終了か」


周りの驚きに戸惑うも、なぜか先に駐車されていたベンツを発見し少し理解した。


「勘違いしたのか。ちょっと、停めるから離れてな」

「う、うん」


さすがに慣れというものがあるんだろう。外にいる人間と喋りながら、たった一回の確認と素早いハンドリングで、誰のか知らないベンツの横に駐車する日野っちだった。随分とその差を痛感する美癒ぴーであったが、


「一体誰のだ?」

「さぁ、知りませんけど。他人の車に傷が付かなくて良かったです」

「そ、そうですね」

「お昼~パンとかで良いですよ~」

「そうだな!どのみち、無事に終わった事だ!飯だ飯!」


5人は喫茶店の中へ。



◇     ◇



入った喫茶店にはすでに色々なお客様が入店していた。


「えー、それってマジなの!川中!」

「うん。ホントだよ」

「御子柴、まだ読んでいなかったの?急展開だったよ」



女子高生達がドリンクを飲みながら、漫画談義をしていたり、


「このハンバーグ、美味しいです!広嶋さんもこのお子様ランチを食べてみた方が良いと、のんちゃんは思ってます!」

「なんで俺がお子様ランチを食わなきゃいけねぇんだ。藤砂が食え」

「裏切、……食べてやれよ」

「のん!広嶋様にスプーンを近づけるんじゃありませんわ!さぁ、広嶋様は私のにんじんを食べてください!」


一見、年の差がヤバイと感じるくらい。可愛いファンシーな服を着た小学生にセーラー服を着た中学生と一緒に食事している、自分達と同じくらいの私服男性2人。

他にも、これから出社するようなサラリーマン風の男性達や、工事現場で働いてそうなムサイ人々。カウンター席で小説(なのかな?)を読んでいる男の人と、その隣には大道芸人みたいな一番奇抜な格好をしている人が。なんていうか、色々な人がここに来ているって感じ。



「いらっしゃいませ」

「やぁ。たまには来たよ」

「あ~、アシズムさ~ん。元気でした~?」


どうやら、知り合いといった感じの挨拶をするアッシ社長とトーコ様。出迎えてくれた店主さんは、気の良い中年男性のような雰囲気。エプロンを着けている辺り、接客と調理の両方をやっているんだろうなぁ。

店の周囲になんかの、独特な雰囲気にふと思った事があって、日野っちやガンモ助さんに小声で確認する。


「そういえば、ここはどこ?」

「気付いたか。日本なのは確からしいが、地元じゃねぇ」

「5回ほど来たが、どうやら関東圏にあるお店らしいぞ」


携帯を見ると電波が完全な圏外を示していた。上手く伝えられないけど、ここの閑散とした静けさは自分達の会社の周囲と似たようなものだった。

魔法のタクシー会社以外にも、魔法の喫茶店があるのか。どんな魔法があるか知らないけど。


「ここはそんな大層なとこじゃないですよ」

「!こ、心を読んだんですか!?アッシ社長!」

「いや、なんとなくですよ」

「こちらでどうぞ」


5人席に案内され、私はトーコ様と隣同士。向かい合って日野っち。真ん中にアッシ社長、その隣にガンモ助さんが座る。メニューをとって、開いてみると軽食が中心の料理ばかり。


「ご注文が決まりましたら、お呼びください」

「うん」


まだ正式には働いていないけれど、その間近に来ると感じる事として。改めて、働いていくことは大変な事。一度はあーゆう料理人なり、ウェイトレスなりやってみたいとは思ったけど、やりたくはないなぁって本音もある。


「お待たせしましたー」



そう言いながら、この店の可愛い?ツインテールのウェイトレスさんがこちらに料理を出しに来たのだが、


「私達、まだ何も頼んでませんよ?」

「え?ハンバーグ定食じゃありませんでしたか?」


うっかりしているのに、きょとんしているウェイトレス。それにちょっと怒るようにおじさん達が声をかける。


「おーい!頼んだのはこっちだよ!」

「え!?ああっ、ごめんなさい!すぐお持ちしまーす!」


頭を下げて、本当に頼んだ人達に料理を運んでいく。料理をする人以外にウェイトレスが2人いるらしい。もう1人は金髪で細目な人で、なんか不満気な表情をしながら食器を片付けたり、テーブルを拭いてたりしている。


「…………」


ミスで自信を失って、しょんぼりしているウェイトレス。


「む~、安受けしなきゃ良かったです、アカリン先輩」

「あたしだってそうよ。ミムラ。そもそも、あんたがミスをしすぎ」


メニューに目をやって選ぼうとしている時、日野っちがメニューの方に視線がいっていない事に気付き、


「日野っち。あーゆうの好み?」

「え?」

「なんか、ツインテールの子に視線が行ってるけど」

「あー。まぁ、歳が近そうだなってくらい」


美癒ぴーの言葉に日野っちもメニューに意識を向ける。


「ま、ウェイトレスとか、奉仕してくれそうな子が好きかな」

「日野っちって、コンビニ弁当ばかりだし、お掃除も下手だもんね。そーゆう人をもらうべきだよね。自分のためにも」

「う、……ま、そーいう事だな」


そんな話をしている時、またしてもこちらに近づいてくる足音が。呼びかける声は



「久しぶりだな」

「!あれ……」


アッシ社長に向かって掛けられていた。その人は人という格好であっても、こんな喫茶店にはゲストとしているような、大道芸人。あるいはピエロみたいな人であった。まさか、こんな人と知り合いだったんですか、アッシ社長。



「メテオ・ホールさんですか。あなたの人型の姿は随分と久しぶりに見ましたから、誰だか分かりませんでしたよ」

「お前も地球に来ていたのか。我が放浪していた時は世話になったな。今、何をしているんだ?」


なんか一気に日常という状態から外れたような会話をおっぱじめた。その会話にやや驚いたり、唖然としたりする美癒ぴー、日野っち、ガンモ助さん。その3人に説明をしてくれるのは意外なことにトーコ様。


「私とアッシ社長は地球生まれじゃないですよ~。メテオ・ホールさんとは~、一時的に交流してたんです~」

「へ~……って、トーコ様も魔法使いとか宇宙人とかそーいった方だったんですか!?」

「一日中寝てるしな」

「ふふふ、アッシ社長達と出会ったら、オカシイなんてありえないとは思っていたがね」


かなりの動揺が走り、ちょっと大きな声を出してしまった。それに気付いて美癒ぴーはすぐに小声になって、トーコ様に尋ねる。


「あの、今。アッシ社長やトーコ様の秘密。普通にバラして、店内に聞こえてしまった気がするんですけど……ごめんなさい」

「そ~んなことですか~。大丈夫ですよ~、この喫茶店を経営している人も~、ご利用する人もちょっと普通じゃない人達ですから~」


にこやかにその秘密が漏れても平気だと語るトーコ様であった。

この不思議な喫茶店でどんな事が起こるのか?



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