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VALENZ TAXI  作者: 孤独
入社編
1/100

幻のタクシー企業、『VALENZ TAXI』

これは中部地方に存在するとされる伝説である。


「幻のタクシーがこの辺りを走ってるんだってさ」

「なんでも魔法のタクシーとかで、あっという間に目的地へつけたり」

「至福の安眠が約束されるタクシーとか」

「どんな物でも詰め込めんで運んでくれんだって」

「私が聞いた話によれば……」



知る者少なく、疑う者多く、利用者などいない。それが当たり前というのが伝説というもの。

魔法を持つ、タクシー企業。


「なんて言ったっけ?」

「ヴァ、VALENTINE?」

「違う違う。VALENZだ。2月14日じゃねぇよ、『VALENZ TAXI』って奴」

「そんなタクシーなんてあるのかな」


多くの伝説は、噂から始まる。真意を知るのはそこにいる人々だけで構わぬこと。



◇    ◇



駅前。


美癒みゆちゃーん、俺達と一緒に行こうよ」

「ねぇいいだろ、2次会よ2次会」


大学の合コンに誘われて行ったはいいけど、好みの人いないし、自分ばっかり意識する男ばかりで、終始相槌とか、聞き手になっていた。そしたら、2人の男性から声を掛けられて、今からまた飲もうだなんて。お酒そんなに強くないし、どっちも好みじゃないんだけど。


「構わないですけど、明日も学校だから(という建前で断りたい)」

「美癒ちゃんは真面目だね。ショートカットに、白いワンピース、赤の髪飾り……まるで、いちごケーキみたいに可愛い!」

「遅くなんてならないから!まだ9時だよ!少しやるだけ、ね?ね?良い店知ってるんだ!」


お酒臭~い。タバコ臭~い。

むむって、表情を作ってみるもあんまり聞いてくれない、見てくれない。


「わ、分かりました」


しょうがないから


「俺達が金出すから!」

「おごるから心配しないで!タクシーさん!」


奢られることで、我慢して付き合おう。社会人になったらこんな飲みの席、理不尽でもやらなきゃいけないって、先輩とか言っていた。



「毎度、何名様ですか?」

「3人!3人!後部座席だけでいいよ!」

「美癒ちゃんは間でも構わない?」

「べ、別にいいですよ(ホントは嫌だけど)」


ここからちょっと遠いって言ってた。どんな店なんだろうか、そんな期待もちょっとはしてみた。


「"LOW・P(ロゥ・ピー)"ってバーなんだけど、運転手さん分かる?」

「聞いた事ありますね。"今から"行くんですか?」

「そーそー、今から3人で行くの!運転手さん、分かってるぅ!」

「2つ先の街なんで、20分くらい良いですか?」

「全然OK!それくらいで着くなら速いよ!」


タクシーは発進する。運転手さんも知っているみたいだけど、私には聞いた記憶がない。


「有名な店なんです?」

「そら有名だよ!上手い貝料理が一杯だよ!」

「一度食べたら、病み付き間違いなしだ」


男達はもう、嬉しそうに今から行く店について語り始めた。

期待値をちょっとだけ振って、話を聞きながら乗車したタクシーに不思議な雰囲気を感じた。いつも利用するわけじゃないけど、見かけないタイプのタクシー。


『VALENZ』


ここは外国?そう思うような、英単語が付けられたタクシーの会社名。そして、スーツ姿が決まる自分と同じくらいな若い運転手の顔写真。その下に書かれていた名前は



『日野っち』


まるでニックネーム。ふざけているなぁ……。



最近は取り付けされているのが当たり前な、カーナビにも何かの違和感がある。言われた行き先を完全に現しているのならともかく、お店の概要もネットの広告のように出てきている。


『女性の連れ込みは大歓迎』

『お客様の個人情報はお守りします』

『部屋、道具の貸し出しも自由』


オススメと、両隣の男達は言い合っているが、カーナビに映す不吉な紹介は


「え?」


女性にはとてもオススメできる内容ではない。言っている事と、映っている事、どちらが正しいのだろうか?

たまたま、中央にいたからカーナビが映すものがハッキリと見えていた。まだ、男達は気付いていない。バックミラーに映った自分の不安がる顔に気付いたのか、運転手は気にかけてくれた。



「女性の、お客さん。ここ知らないのかい?」

「い、行った事ないんですけど」


貝料理が美味しいとか、言われているけど。そんな紹介は一切ない。百聞は一見にしかずか。

運転手は単刀直入にこの店がどんなところか伝える。


「女性連れ込んで○○○する店です。巷じゃ有名なとこですよ」

「ええぇっ!?」

「なっ!」


伏字入れてくれたけど、すぐに怖くなって叫んで。


「なにバラしてんだこのチビ!」

「黙って案内するのが、社会ど底辺の人間の務めだろうが!!」


嘘でしょ。なんて、期待値はすぐに両隣の男達の怒りによって0になった。そんなお店に連れ込もうだなんて。騙されかけているのが悪いけど、そんなの嫌だ。こんな男達は好みじゃないし。


「も、もう良いです!降ろして!止まって!」


しかし、中央の席に座っていた。どちらかが降りてくれないとまず降りられない。止まってと叫んでも、運転手は進む。さらに気持ちを込めて、叫ぼうとしたら左の男に口を抑え込まれた。


「おい、運転手!目的地は変わらねぇ!」


さらに右の男は、ナイフを取り出した。


「少しでもおかしいことしたら、テメェも巻き込んでやる。さっさと行け!10分でだ!着いたら金とこの車、置いて外に出ろよ!」

「んーっ、んっ!(助けて!)」


後部座席でのやりとり。本当に、本当に。奇跡が起きて欲しいと、願った。

運転手は


「困りますよ。お客様、しっかりと目的地を合意させてください」


こんな状況に物怖じせず、淡々と進んでいく。普通に言われている店に向かっているのですけど。


「うるせぇ、社会のど底辺!このナイフで刺してやろうか!?」

「黙って言う事を聞け!そのまま進めばいいんだよ!」

「こんなにも矛盾する事聞いたのは久しぶりだ。直面すると笑えねぇ」


バックミラーに怖くて泣き出す顔を見過ごすことができないし、男の声を聞くのは客で十分だ。とはいえ、反撃は優しく口から始まった。


「犯罪者になったら二度と社会に貢献できない、不安定なところに落ちるぞ」

「黙れ!死にたいのか!?殺すときは殺せるぞ!俺は!」

「お前は見ないふりをすりゃいいんだ!」


まったく、聞こうとしないな。そういえば、アッシ社長が言ってたな。タクシーを使った乱暴な客引きが増えているって。タクシー業界においては金になるとはいえ、周囲に迷惑で評判も落ちるからどっこいどっこいなんだが。警察も来る始末なわけで、抑制しろとかなんとか。しゃあねぇ。



「見過ごせねぇよ。俺だって死ぬかもしれねぇ上に、さらには大切なお客様まで巻き込むのは、一つの企業として恥ずべき失態だからな」

「!……んんっ」


その言葉に凄く惹かれてしまった美癒。自分が馬鹿だからこうなったのに、警察でもない、特殊部隊の人でもない。卑怯にも刃物を持つ相手に背を向けた、タクシー運転手が凄んだのだ。お礼をしたい。



「ごちゃごちゃうるせぇ!殺してやる!」


そう言って、男のナイフは運転手の首元に近づいていく。見てられない。

近い。怖い。


「さっき言ったよな?」

「あ?」

「"殺すときは殺せる"って、お前はできないようだが、俺はする。一般的なお客様の要望を答えるのが、仕事というものだ」



キイイィィッ



タクシーは止まった。男のナイフは運転手から離れた。そして、


「ここがお客様の目的地です」

「んんんーーー!!(さっき惹かれた感情が馬鹿みたい!)」


男達2人が望んだ目的地、"LOW・P"という、イケナイお店の駐車場に辿り着いた。知ってから見た美癒にとっては、魔女のお店というより奴隷達が入るような、不気味過ぎる雰囲気であった。


「ははは、やるじゃねぇか」

「見直したぜ。金は置いてけ」


無事に目的地に着いたわけだが、違和感がある。


「あれ?でも、5分も経ってなくね?」

「確かに!いつも通りの道じゃなかった。急に辿り着いたみたいな?」


そう、あまりに速すぎる目的地の到着であった。運転手はハンドルの横につけられた、いくつもの小さなスイッチを押し、怒りを込めた紹介を始める。


「失礼、紹介が遅れてしまいました。このタクシーは、『VALENZ TAXI』です。魔法のタクシー会社であります」

「あ?」

「ヴァ、ヴァレンズタクシー?」

「!」


聞いた事があるかないかはどうでも良い。男達はまったく知らなかったが、美癒には聞き覚えのある伝説に出てくる、名前だと思い出した。


「目的地には着きました。降りる事を願ったのは、女性の方一名と、私もお客様に従って、このタクシーをお譲りしましょう」


魔法のタクシー。すぐに目的地に着くとか、それはなんか信じるしかないみたいな状況で。


「わっ!?」

「なんだぁ!?」


美癒は一瞬の内に男達から離れて、助手席へと移動していた。


「お先に出てください」


運転手は美癒を外へ押し出し、扉も自然と開いて彼女を外へ運ぶ。そして、再び閉まっていく。


「ええっ!?何々!?」


ビックリな事態で戸惑いながら、タクシーから離れる。

運転手は車のキーを抜き、悠々と外へと降りた。魔法の出来事で戸惑う男達はこのタクシーから降りようとしていたが、


「あ、あ、あかねぇ!」

「なんだこのタクシー!」

「鍵は貸せませんが、車は貸しますよ」


運転席のドアを閉じ、完全なる密室ができた。暴れる男達だが、念願の車をゲットしたのだ。お客様の要望にはちゃんと応えている。そして、



「離れていてください」

「は、はい」


言われるがまま、タクシーから離れる。運転手も早歩きであった。


「おい!出せこの野郎!」

「許さねぇ!絶対殺してやる!」


男達の叫び声は届かないし、叶う事もない。お客様ではなくなったからだ。


「脅しはできてこそだ」




ドガアアァァァーーーーンッ




タクシーは大爆発を起こした。

中にいる男達の身体を一瞬で焼き尽くし、怒りの感情はすぐに痛みで冷やされた。


「あわわわ……」



助かったが、


とんでもない伝説のタクシー会社と出会った美癒は文字通り、腰が抜けた。立てない。すぐに消防車や警察などが現場に駆けつけてくる。男達の命だけは助かったが、脅しよりも手痛い仕打ちによって、社会的な事も犯罪的な事もできなくなった。

運転手は、


「いけねぇ!金まで燃やしちまった!アッシ社長に怒られる!」


挿絵(By みてみん)

2017年6月25日


表紙を追加しました。


入社編は日野っちと美癒ぴーです。美癒ぴーが可愛くなくて、怒られましたが。


最終章で2人はリベンジしたいところです。


次回の試験編の表紙は、アッシ社長とトーコ様です。




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