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真面目な雰囲気の宿敵は笑い(2)

「ねえ。なんかあたしのこと忘れてない?」

「……ああ、そうだ。おじさんはこいつについても知ってるみたいだけど、何なんだコイツ?」

 マジで忘れてんじゃねえよと喚く祟り神を指差し尋ねる。

「それも含めて話を続けよう。こちらとしては蓮麻君の膨大な妖気がいつ目覚めるかは常に目を張ってね。そして今日はいつも以上に警戒するべき日だったんだ」

「え?なんで?」

「今年は蓮麻君の厄年だからね。厄年の誕生日、かなり妖気が不安定になるんだけど、まあ蓮麻君だし家を監視しておけば大丈夫かと高をくくっていたんだが……そんな微妙な顔で睨まないでくれよ……それがまさか祟り神と接触するとは思わなかった。いや、もう今日はイレギュラーの連続さ。まったく、余裕を感じていた2時間前の自分を殴り飛ばしたいよ」

 本当に憤っているのが雰囲気で伝わってくる。こんなに感情をあらわにしている清正を見るのは久しぶりだった。

「一番の失態は蓮麻君の妖気が拡散するのを防げなかったことだ」

「……どういうことだ?」

「妖気の暴発の勢いが強すぎて、町中にばらまかれてしまったんだよ。それを取り込んだ妖魔の妖気量は限界値を超えて成長していき、ついには制御が効かなくなり暴走していく……あの大蛇が良い例だ」

「なッ、てことは、いま町にはあんな化け物がうじゃうじゃいるってことか!?」

「いや。あの大蛇は元々川の主で強大な妖魔だったからあそこまでのサイズになったけど……狂暴化した妖魔が出てくる可能性はある。潜伏期間があるみたいで現れる時期は予測できないけどね」

 ここで話を切った清正は、祟り神に視線を走らせる。

「それを踏まえるとその祟り神に会ったっていうのは、こちらにとって不幸中の幸いと言えるね。名を持たないくせに相当な妖気の持ち主みたいだし、それでいて貪欲に妖気を吸収していく。厄介な妖魔だが、今回は救われたよ。蓮麻君がその祟り神に憑かれなかったら、妖気が抑えられずにもっと広範囲な拡散になっていただろうし」

 ほう、と祟り神を見ると、若干機嫌が良くなっていた。

 空になったグラスで、リズムを刻みながら俺の頭を叩いてくる。この野郎。

「おい、なんだその目は?聞いたろう、あたしはアンタの恩人なんだよ。分かったらおかわりもらって来い能無し」

 天狗になってるその鼻頭に裏拳を叩きこみたかったが、事実命を救われている。そのくらい我慢してやるか。

 店員を呼びオレンジジュースの追加を頼む。

 注文が終わったところで清正がボソッと呟く。

「……まあ、そもそも祟り神に蓮麻君の妖気を引きずり出されたのが発端なんだけどね」

 隣で揺れる鼻頭に裏拳を叩きこむ。

「うごあッ!なにふんだお!?」

「やっぱお前のせいじゃねえか!!店員さん、オレンジジュースタバスコ割りで!!」

「このはろう……!ほいうか、はばすこってあんだ?」

 ふがふがとしているくそ祟り神を睨みつける。全力で絶縁希望だ。

「……俺、死ぬまでこんなやつに憑りつかれたままなのか?」

「いや。その気なら今すぐにでも切れるよ」

 俺と祟り神は勢いよく乗り出す。

「まじかッ!」「ちょっとッ!」

 興奮する2人を見ながら、清正は淡々と説く。

「蓮麻君の妖気を封じる器を準備する必要はあるけど、単純に断ち切るだけなら蓮麻君が一言『依代を放棄する』と言えばいい。2人の結びつきは言質を取っただけだから、それを切るのも言葉だけで充分なんだよ」

 説明を頭に入れた俺は、そんなものかと胸をなでおろしていた。

 ふと、気になった疑問をぶつける。

「そしたら、こいつはどうなるんだ?」

「もちろん、妖気の供給源がないわけだから消滅するよ。ものの数秒で跡形もなく」

 ぎりりと歯噛みし俯く祟り神を一瞥する。どこか諦めたような横顔に、心の中でざまあみろと嘲笑う。

「どうする?希望なら手配するけど」

「いや、まだ切らない」

 俺の即答に清正の眉がピクリと動き、祟り神は顔を上げる。

「町にはモンスター予備軍の妖魔がいるんだろ?こんなんでも一応神だし、身代わりくらいには使える。歯向かって来たら一言でどっかに消えてくれるなんて最高じゃねえか」

 清正が目を細めてこちらを見てくる。その含み笑いはやめてくれ。

「……分かった。まあ、無理はしないようにね」

「ああ」

 話の中心である祟り神は、きょとんとした顔を浮かべている。

「……どうして?」

「気にすんな。特に理由なんか無えよ」

 すると今度は訝しむようにじろじろと見てきた。

 実際、特に考えていない。

 ただ、父親の言いつけに従ってみただけだ。

 親父の言う女の中には妖気も含まれているらしいから問題ない。

 こうしてみれば親父の伝えたかったことをより深く知ることができると思ったが、残ったのは不安の種と少しの羞恥心だけだった。

「……気味悪いわ」

「おいお前。今すぐ消してやってもいいんだぞ?」

 恩知らずな祟り神の態度に溜息をついていると、頼んでいたオレンジジュースが運ばれてきた。

 俺はグラスの中身を覗き、ふっと微笑んで隣へスライドさせる。

「ほらよ」

「えっと、だからなんで」

「それが俺の気持ちだ。ありがたく受け取って飲め」

 祟り神は俺とジュースを交互に見る。やがて、ゆっくりとグラスを胸の前まで掲げ、小声で

「……ありがと」

 と囁くと、妙に赤みがかったオレンジジュースを一気に飲み干した。

 俺はそれを見届けてから、キッチンに目を向ける。

 まさかここまでオーダーに忠実とは思わなかった。今度、千夏達を誘ってまた来よう。


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