一話
ほぼ処女作ですので期待はしないでください。
幼少期僕は「魔術の天才」と呼ばれていた。
圧倒的な魔力量と、それを完璧に制御できる魔力操作。
大人と比べてもその能力は圧倒的だった。
ハウル王国国王から公爵位を授かりし四家の一つ、シルフィード家の長男として生まれた僕は、その瞬間から家族や周囲の人間に期待されながら生きてきた。
皆、契約の儀式ではどのような素晴らしい結果を出してくれるのかと期待していた。
もちろん彼らは僕が失敗するなど微塵も考えてはいなかっただろう。
そして契約の儀式の日を迎えた。
その日は貴族特有の習慣で、初めての精霊契約を公衆の面前でする日だ。
一人でも契約できれば平凡、二人契約できれば秀才、三人契約できれば天才、四人契約できれば神子、五人契約できれば英雄、そして、六人目の武装精霊と契約したものは神に届くほどの力を手に入れるという言い伝えがある中、僕の結果は酷いものだった。
……契約精霊なし
そう、契約の儀式に失敗したのだ。
普通の人でも一人は契約できるはずの者を、僕はそれを悪い意味で上回った結果を出した。
その瞬間から家族は僕を軽蔑の眼差しで見るようになり、周囲の人間はすでに僕に対しての興味は失われ、誰も僕のことを見ていなかった。
いや違う、皆最初から僕のことなんて見ていなかったのだ。
見ていたのは僕個人ではなく、僕の持つ能力だけだったのだ。
いつしか僕は「無能の魔術師」と呼ばれるようになっていた。
人々は武装精霊と契約している者を精霊使いと呼び、武装精霊と契約していなく、魔法が使える者を魔術師と呼ぶ。
この意味を踏まえるととてつもない皮肉を言われている。
家族から一切相手をされなくなった僕は、ひたすら特訓した。
誰の助けも貰えず、一人で生きていくことが決定づけられていたからだ。
魔力感知や魔法操作を極めんとし、体も毎日鍛えた。
僕は強力な武装精霊を使うことが出来ない、だから他のもので補うしかないのだ。
あの出来事から数年経ったある日、僕は父の書斎に呼ばれた。
そこには家族全員が揃って、いつものように冷めた目で僕を見つめていた。
「お前はもう私の子供ではない。荷物をまとめてこの家から出て行け。二度と家名を名乗るな」
冷たく、無機質に言われたその言葉は僕に真実だけを伝えてくれた。
シルフィード家に捨てられたということを……こうなる事に薄々気づいていた僕は「わかりました。」と答えた。
「そうか、ではやれ」
そう父が言った瞬間いつの間にか後ろにいた人物に殴られ、僕は気絶してしまった。
気が付いたのは馬車の中だった。
手に魔法封じの手錠が付いていて、抵抗ができなくなっていた。
目が覚めてからなにも食わされないまま一週間が経った。
食事は最低限の水だけ渡されそれを毎日少しずつ飲んでしのいだ。
そろそろ死ぬのではないかと思った矢先、馬車が止まり、御者台に座っていた人物が振り返った。
「着いたぞ、お前も一度は名を聞いたことがあるんじゃないか? 」
なんのことだと思い視線を上げてみると、そこには迷宮への入り口があった。
「死の迷宮。誰一人として第一層すら突破できていない世界屈指の化け物迷宮だ。お前の父親は、本気でお前の存在をなかった事にしてーみてーだな」
死の迷宮という言葉にも驚いたが、父が僕をこの場所へ送ったという事に唖然としていた。
しかし、よく考えれば当然なのだ。
期待していた子供が期待はずれだったのだ、家名に傷がつかないように消そうと思ったが、自分で手を下せば足がつく可能性がある。
ならば要らないものは捨てて仕舞えばいいのだ、その後に消えれば何の問題もない。
僕はそのまま一緒にいた人物に引っ張られ迷宮の入り口の前まで来ていた。
「これも仕事なんでな、恨むなら俺を雇ったお前の父親を恨みな。それじゃあさよならだ」
そう言い僕の体を迷宮の中え投げ捨てた。
今も魔法封じの手錠が付いているので何もできないし、空腹で動けそうにもない。
馬車が走り去っていく音が聞こえ、僕の周りには誰もいなくなった。
いったい何時間経っただろうか……空腹でもう死にそうだ。
このままじゃ魔獣に殺されるか、空腹で死ぬかの二択しかない……おれはこんなところで死にたくない。
周囲からの期待に応え、必死に努力してきた結果がこれか……利用できるものは利用し、いらなくなったら捨てられる道具のような人生、そんな人生糞食らえだ! これは僕の人生だ! いくら親だろうがそれを勝手に終わらせることなんて許さない! 絶対ここから生き延びてやる!
そんなことを思う矢先、大きな足音と唸り声が前方から聞こえる。
「グルゥゥ……」
顔を上げてみればそこにはエンペラーウルフがいた。エンペラーウルフとは、国の騎士団を率いてやっと討伐できるくらいの相手だ。
今の戦うことすらままならない僕じゃ勝ち目なんてない相手だ。
そんな僕の状態を知ってかしらずか、エンペラーウルフは走り出し、確実に僕の方へ近づいてくる。
くそ! このままじゃ確実に殺される! 何か助かる手段は……! そう考えていた時真横から強烈な打撃が僕の体を襲った! 迷宮の壁にぶつかり、激しく地面に倒れる。
もう無理だ、全身打撲のような状態のせいで手足の一本も動かない……またエンペラーウルフが走り出し、今度こそ死んだと思った時ある事を思い出した。
昔読んだ英雄譚で英雄が自分の魔力の強さを見せ、敵の魔獣を服従させたという話があった。
僕はこれにかけてみることにした。
天にもすがる気持ちだったのかもしれないが、心の中にはもしかしたら……という思いが確かにあった。
意を決し、二度目の攻撃が来る直前に死ぬ覚悟で魔力を放出させる! 何秒経っても攻撃は来ないので確認してみると、目の前には伏せの状態をしたエンペラーウルフがいた、その姿は僕の命令を待っているように感じた。
まずは安全の確保と食事が必要だ、こいつに頼めば何処かしら連れて行ってくれるかもしれない。
というか、こいつに頼むしか方法がない。
なので僕は、エンペラーウルフに安全と食事が確保できる場所へ連れて行ってくれと言った。
すると僕の体を抱え、背中に乗せたあと、振動が僕に伝わらないように気を配りながら走り始めた。
僕の体力はもう限界を越していて、いつの間にか気絶していた。