4話 欲しいのはドキドキのマントです
冷たい?
何が?
反応が?
死体を前にして冷たいってこと?
いや、確かに自分でもおかしいと思うけどさ。
でもそれどころじゃないんだよ。
記憶がなくて、体も違って、他人の心配なんてしてられないよ。
「手がこんなに冷えてる」
「あ、」
そういうことね。
冷たいってのは手が冷たいってことね。
こんな寒空の下倒れてたんだから、そりゃ体が冷え切ってるよね。
「ちょっと待って、脱ぐから」
「ふぁっ!?」
ちょっと待ってはこっちですよ!?
脱ぐって何を脱ぐんですか!?
あれですか?
雪山の山小屋で肌と肌で温め合うって、あの展開だというのですか?
いやいやいやいや、ここは身を隠すもののない野外。
靴とか手袋とか、なんかだよね!?
露出狂とか、そんなんじゃないよね!?
ライトノベルだとやたらの裸のヒロインがいるけど、なにこのラノベ無理展開!?
「ん」
そう言って、彼女はマントを脱いで。
さすが異世界。
いきなりボーナスステージです。
チャンスゲームに突入します。
ライトノベルです。
エロゲです。
マントの下から現れたのは幼い体。
あの一角の狼と戦っていたとは思えないほど細く幼い体だ。
「セリア」
甘く感じる声。
彼女が膝を折って、僕に近づいてくる。
こ、これはまずい。まずくないけど、まずい。
異世界でいきなり童貞喪失ですか!?
あっ、いえ。童貞じゃないですよ。はい。
記憶ないけど、それだけは覚えてますよ。はい。
あれでしょ、女の子のあれってあれであれなの。
うん、記憶ない。
でも脱童貞なんです。信じてるんです。
いやというか、むしろ今は処―――、乙女です。
ああ、レズなのか、百合なのか。
初体験を前に目をつむってしまう僕。
ごめんなさい。ヘタレなんです。
視覚という情報を失い、ほかの感覚がより強くなったきがする。
肌に感じるのは暖かな感触。
暖かな毛布を纏うような、そんな感覚。
ん、毛布?
僕はゆっくり目を開くと、彼女の顔が目の前にあった。
恥ずかしいな。
美少女の顔が目の前にあるんだもん。
でも、期待していことじゃないらしい。
あっ、いや期待なんかしてないよ?
気づいてたし。
うん。
暖かいのは、マントらしい。
彼女はただ正面で留め具をハメてるだけ。
そ、なんともない。
まあ、聡明な人なら気づいてたよね? 僕だって気づいてたし。うん。
ほんとに気づいてたしね。うん。
がっかりなんかしてないよ?
異世界美少女の裸が見られるとか思ってなかったよ?
うん。
しかし、マントだ。
まあ、マントだ。
うん、マントだ。
マントって、なんか夢があるよね。
厨二とかそういうの。
大人だってちょっと憧れる魔法の魅力。
「どう?」
「あ、暖かいです」
生地はあまりよくない気はするけど、けっこう暖かい。
そりゃ、さっきまで身につけてたものだもんね。
美少女がね。
うん。
匂いとかするかな。
嗅がないけどね。
変態じゃないし。
でも、ちょっとくらい漂ってくるかもしれないね。
仕方ない、よね。うん。
あと、変態じゃないよ。うん。
「行こっか」
「あ、はい」
妄想なんかしてないけど、突然声をかけられてしまったから驚いて答えてしまう。
行くって、どこに?
親、とかかな?
ちょっと不安だ。