21話 月光の少女は手紙を書く
失敗だった。
泣き疲れたのか、ソファーで眠る少女を見て自分の愚かさを自己嫌悪する。
人より長い年月を生きていながら、私は人と関わりを得ようとしなかった。
リリ族としてそれが当然であり、月光の眷属としての責任さえ果たせばいいと思っていた。
友人と呼べたのはロロだけだ。
だからこその失敗だった。
記憶の病いは当たり前のように知っている。
そして、それができるのは数少ないことも。
記憶の病いについてなら、医者よりも詳しいとも思っていた。
しかし、患者のことを考えたことはなかった。
記憶を失ったあとの、人格。
そんなものに意識を向けたことさえなかった。
もし記憶が戻れば、一時の人格はどうなるのだろうか。
そんなこと考えたことがなかった。
当然、治るならそれでもいいと思っていただけだ。
だから、軽率なことを言った。
砕光石も知らない、お漏らししてしまうような幼な子に。
幼いながらに、必死な少女に。
ああ、そもそも、最初も子供と知っていながら威圧を持って接してしまった。
これも失敗だ。
警戒するにも、他に方法はあったはずだった。
そして、あの紅茶も使ってしまった。
理性を麻痺させる紅茶。
製法は秘匿されているほど強力な紅茶。
子供に使うようなものではなかった。
ただ、それであの子の心を知れた。
自分が、いつか消えるかもしれないと恐る少女。
幼いながらにして、その可能性に気づくのは頭がいいのだろう。
だから悩んでしまう。
他人が自分のことを見ないことも、それがどうしようもないことも。
自分自身が病気そのもののように扱われてることにも気づいてしまう。
リアのことを病気そのものと思う人はいないだろう。
でも、治すということはリアを殺すこと。
そのことにすら誰も気づかないでいる。
誰もあの子のことを見ていないから。
リアのことが見えてないから。
私の言ったことは軽率だった。
必死に自分を訴える少女。
最初は彼女が何を怒ってるのかさえわからなかった。
一度は笑いながら、気にしないでくださいと言った彼女の心を。
誰にも存在を認められず消えてしまう彼女の心を。
ただ、リアと呼べたのは失敗の中の唯一の救いだった。
彼女の人格を認識するための、リアという新たな名前を呼んだ。
名前とは個を表す最たるもの。
安直だったかもしれないが、少なくとも救いだったと思う。
彼女にとっても、私にとっても。
「あれ、あれれ、この子どうしたんですか? 誰ですか? 誘拐に拉致監禁はさすがにまずいですよ。営利目的でしょうか? いやいや、さすがにこの年の子を性て………、イタズラはまずいですよ。犯罪変態の社会問題………」
アホがそんなことを言う。
心の中で睨んでおこう。
「違う」
「えっ、そうなんで…………、も、もちろん信じていましたとも。リリさんが変態ペドやろうの性犯罪者じゃないことは。もちろん、あれですよね。最近流行りの神待ち少女的な、子猫気分で拾ってきちゃったんですよね。はいはい、わかりますわかります」
このひとりで姦しいのはロロだ。
人付き合いが苦手になったのはロロのせいじゃないかと思うほど、よくしゃべる。
「昨日、教会に泊まる予定があったとか」
「えっ、昨日は…………、あっ、ああ、そんな話があったりなかったり。ああなるほど、そういうこと、そういうことですか。この子がその子で、パジャマパーティー的な乙女的な―――、に、睨まないでくださいよ。ちょっと忘れてたというか、報告漏れというか、まあドンマイですよ私」
ため息をつく。
まあ、今回のは報告がなかったとしても私の失敗だ。
それに、ロロを責めてもしょうがない。
「わかったから、それよりリアをお願い」
「えっ、怒ら、怒らないのですか、いえ、いえいえ、起こって欲しいわけではないのでして、はい。もちろん、この不肖ロロ、神明にとしてリアさんの睡眠安眠保守を請負ましょう。今なら点検修理の無料安心サービスですとも」
点検とはいったい何をするのか。
修理とは―――
できるなら治らないで欲しい。
不意にそう思って欲しい。
記憶の病い、不謹慎とは思うが今しばらく治らないで欲しい。
いや、もし本当に記憶の病いならその病いは治らないだろう。
あの病いが治るのは、僅かな人だけ。
本当に不謹慎な考えだ。
が、リアともう一度話したいと思う。
今日、いや昨日のことを謝りたいと思う。
「ちょっと待ってて」
ロロにそう伝える。
眠る前に、リアに手紙を残そう。
昨日のことと、リアのこと。
1章終わりです。
戦闘とかなくてすみません。
2章からはしっかり書いていきます。たぶん、きっと、めいびー
あと再編に付き合っていただいた皆さんありがとうございます。
ps.
2章でもおしっこします。いっぱいします。感謝を込めてどんどんします。
趣味です。性癖ではありません。




