2話 欲しいのは一角の黒狼です
思い出せ。
世界は因果律によって支配されている。
原因があれば結果があるんだ。
キュゥ○えが言ってた。
ならあのピンク頭の仕業に違いない。
世界の法則とか意味わからんこと言ってた。
まあ、それは置いといて。
それどころじゃないし。
分かることを思い出せ。
ヒントがあるはずだ。
そもそも、名前はなんだ。
思い出せない。
家族は。
思い出せない。
仕事は。
ダメだ。
記憶喪失。
つまり、そういうことだ。
漫画や小説の中でしか知らない病気。
でも状況はもっとひどい。
記憶どころか、体だって失ってる。
それどころかナニもない。
ナニもね。
うん。
この体は誰のなのか。
僕は右手にはめられた指輪を外した。
幼い手にしてはあまりに高価なその指輪。
銀にも見えるが、月光に照らされると虹色の輝きを見せる謎の金属。
「明らかに、これだけが異質だ」
服は汚れているのもあるが、それ以上に布地の質が悪い。
髪も脂ぎっていて、まともな手入れをしていないようだ。
明らかに異質な指輪を身につけた子供。
それが今の僕だ。
なす術がない。
でもそれじゃあ済まされない。
僕は立ち上がり、ヒントを探して周囲を見渡す。
そこには大きな塊があった。
なんだろう。
森の木によって月光が遮られて、よくわからない。
僕はどうしてか、それが気になって近づいてしまう。
不用意だろうか。
いや、今は情報を集めることが大事だ。
「わおぉぉーーーーーーーーーーーん」
どこかで狼の声がこだましていた。
でもそんなの気にならない。
僕の目の前には死体があったのだから。
映画の撮影でもしているのだろうか。
西洋の甲冑を崩したような、ファンタジーの鎧。
右手には諸刃の剣が握られている。
あまりにあほらしすぎる死体。
映画のセットが捨てられてるだけ。
普通はそう思う。
でもそう思えない。
見開いた青い眼は死人のそれだ。
わずかな月光が死体だと教えてくれえる。
臭いがそれを人の死体だと教えてくれる。
肌を突き刺すような感覚がそれは死体だと教えてくれる。
心臓の鼓動がそれは人の死体だと教えてくれる。
五感を超えた何かがそれが本物だと言っている。
間違いなく、人が死んでいるんだ。
「―――――――――グルルルル」
そして、背後に獣が忍び寄ってることに気付いた。