41:鴉のその後!(妹視点)
綺麗な夕焼けが周囲を照らす下校時の通学路で、私は一人の男を睨んでいた。
「ちょっとアンタ、なんなのよ! どうして付いてくるのよ!」
転校先の中学校からの帰り道に偶然再会したそいつは、この時間になると毎日のように私の後を尾行してくる。
黒髪に黒い瞳、黒い服のイケメン男子——
「このストーカー! 警察に言うわよ!?」
「それは困るね。春が終わるまで後少しだし、僕にも猶予がない」
「はあ? 意味分かんない」
私は、男を無視して自宅への道を急いだ。一緒に帰ってくれる友人はいない。
この閉鎖的な田舎の雰囲気は、私には合っていなかったのだ。
今までは適当に周囲と上手くやってきたけれど、最近はそうもいかなくなってきたし——
姉の件で、ようやく世間が騒がなくなったと思いきや……ここへ来て、またあの事件が取沙汰されるようになった所為だった。
クラスメイトの男が、姉に対して強姦未遂を行った上、嘘の情報を周囲に散蒔いていたという話で、再びワイドショーや週刊誌は盛り上がりを見せている。
話題の男子生徒のことは、私も知っていた。イケメンで有名な近所の高校生。母の友人の息子だ。
田舎では噂が回るのが早く、それに対する反応も敏感だ。過剰と言ってもいい。
同級生やその親達は私を遠巻きに見るようになり、今現在の私は周囲から孤立していた。
本当は学校へも通いたくない。
しかし、姉の所為で両親が「登校拒否」という言葉に過剰に反応するので、それも出来ずにいる。
姉の所為で、何もかもが狂ってしまった。両親も、おかしくなってしまった。
彼等は、姉が消えた瞬間の出来事を今も受け入れられない。全てが夢だと思い込んでいる。それに……
父と母は、一人残された娘である私に、姉のような優秀さを求めるようになった。
元の出来が違うのだ。今更私が、姉みたいになれる筈がないのに——
もはや、学校にも、家にも私の居場所はない。
今頃、姉は——あの女は何をしているのだろう。
生きているのか死んでいるのかさえ分からない。比喩でなく、彼女は本当に、どこかへ消えてしまったのだ。
「ねえ、菜々子。ちょっとでいいから僕に付き合ってよ。帰りは家まで送るからさぁ」
「嫌よ、気安く名前を呼ばないで。大体、アンタは何者なのよ? 姉のことを目撃して、その居場所を教えてくれたってだけの間柄なのに、私に付き纏わないでよ」
イケメンだからって、私が簡単に靡くと思わないで欲しい。それに……
私は、ちらりと隣に立つ黒髪のイケメンを見上げた。
なんだか、この男は怪しいのだ。
私は、彼から得体の知れない空気を感じ取ってしまう。安易に付いて行ってはいけないと、私の勘が警告を発している。
「……そうだったな。薊と違って、君は結構鋭い」
男の言葉に、私は首を傾げた。
「なによ。アンタ、お姉ちゃんのことなんて知らないくせに」
「うん。そういう設定だったけど、もういいや……面倒だし」
にへらと妖しく笑った男は、私に手を差し出しながら告げた。
「君のお姉さんのこと、知りたくない? どこへ行ったのか、今は何をしているのか……僕に付き合ってくれたら、教えてあげてもいいよ」
「……アンタ、一体」
「僕は、躑躅。ほら、早く行こうよ」
躑躅と名乗る男の言葉を聞いて、ふらふらとまるで何かに吸い寄せられるかのように、私は——
こちらに伸ばされた彼の手を取ってしまった。
指が触れた瞬間、彼の笑みが深く暗くなったことに、私は最後まで気が付かなかったのだ。
旭町女子高生失踪事件に、「当事者の妹の失踪」という新たな情報が追加されたのは、その後すぐのことである。




