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2:豪華すぎる最後の晩餐!

 ——不覚……!!


 まさか、こんなことになるなんて。今頃は、あの世に行っていたはずなのに……

 それともこの不思議な場所が、あの世なのだろうか?

 もしそうならば、私は目標を達成したことになる。どこでどうやって死んだのかは分からないけれど。転んで木の幹で頭を打ったのかもしれない。だとしたら、ちょっと間抜けだな。


 あの後、私は不思議な男の人に連れられて、お社から逸れた道の脇にある大きな和風のお屋敷にお邪魔することになってしまった。

 なんとか山奥へ進もうとする私を、男の人が強引にここまで引っ張ってきたのだ。

 屋敷の庭には白い岩が立っており、切られた竹が等間隔に並べられている。

 門から入口にかけて続く、白い玉状の砂利道の両側には土壁があり、小さく開いた窓からは温かい灯りが漏れていた。


「お、おっきな家ですね……」


 萎縮する私の手を引いて、男の人は玄関の扉を開けて家の中へ足を踏み入れる。


「ここには私しかいないんだ。部屋は沢山余っているから大丈夫」


 私は、レインコートを脱いで、家の中を見回した。

 彼一人しかいないわりには、庭も部屋の中も綺麗に整備されている。通いのお手伝いさんでもいるのだろうか。

 沢山ある部屋の一室に、私は案内された。


「あの……」

「着替えは、どうしようか」

「おかまいなく。一晩泊めていただけるだけで充分です」

「そうはいかない。風呂も用意してあるから、入ってくるといいよ。その間に、夕食も用意しておくから」


 いつの間に、お風呂なんて沸かしてくれていたのだろう。もともと彼が入浴する予定で準備していたのかもしれない。だとすると、申し訳なかった。


「あの、本当に」

「遠慮しないで。雨の中を来てくれた久しぶりのお客様だから、私も嬉しいんだ」


 男の人は、私に旅館用の浴衣のようなものと羽織りと手ぬぐいを持たせて、お風呂場まで案内してくれた。家の中も広い。


「ありがとうございます」

「うん。お風呂から上がったら、この廊下をまっすぐ進んできて。夕食を用意しているから」


 そう言うと、彼は元来た道を戻って行った。


「不思議な人だな……私なんかに親切にしてくれて」


 人生の最後にいい人に出会えて良かったな。

 大きな家のお風呂は、やはり大きかった。黒い石を削ってできた特大の湯船に、お湯がなみなみと張られている。高級な温泉旅館のような風呂場に圧倒されつつ、私は体を洗って浴衣に着替えた。浴衣のサイズはやや大きめだが、帯を締めれば大丈夫そうだ。

 言われた通りに廊下をまっすぐに進むと、大きな座敷に出た。座敷にはすでに夕食の準備がされている。


「……豪華」


 黒いお膳の上に、山菜や魚などの様々な料理が並べられていた。

 あの男の人は、プロの料理人なのだろうか。私が風呂に入っている間にこれだけのものが作れるなんて、ただ者ではない。


「ああ、お風呂から上がったんだね。食事にしようか」


 部屋の奥から、のんびりした足取りで男の人が出てきた。


「は、はい。いただきます」


 どういう訳か、彼は私の食事する姿をじっと見つめている。きっと料理の味を気にしているのだろう。

 私は、お箸で手前にある小鉢の野菜を食べてみた。甘く煮てあって、とても美味しい。正面に座る男の人に素直に感想を述べる。


「……とても、おいしいです」

「そう、それはよかった。口に合ったようで、なによりだよ」


 彼は、整った顔でにっこりと笑った。

 なんだか落ち着かなくなった私は、その横にあったお椀を掴んで良い匂いのするお吸い物に集中する。


「ところで、君の名前は?」

「あ、えーと……」


 どうしよう。正直に名乗りを上げれば、警察に連絡されてしまうかもしれない。両親が捜索願を出していれば、一発でアウトだ。


(あざみ)、です」


 苦肉の策として、自分の名前だけを答えてみた。


「そう、私は菖蒲(あやめ)

「女の人みたいな名前ですね」

「……よく言われる」


 菖蒲は整った顔で、困ったように笑う。やはりイケメンだ。


「ところで、ここはどこなのですか?」


 本日何度目かのこの問いに、やはり菖蒲は曖昧に答えた。


狭間(はざま)

「はあ。それって地名なのでしょうか」

「そんなところだね。最果ての地の隣だよ」


 私は、驚いて菖蒲を見た。

 樹海を彷徨っていたら、最果てのすぐ近くまで来ていたとは……! ところで、最果てってどこだろう。北海道? 沖縄? でも、海は通らなかったな……

 とりあえず、今は美味しいご飯に集中しようかな。

 明日死ぬつもりだというのに、私は現金な奴である。


 ここは狭間とかいう地域なので、まだあの世ではなさそうだ。

 よって、人生を一日延長する。

 明日こそは、ジ・エンドだ。

 私は、思いがけず食べることができた豪華な最後の晩餐と、優しい菖蒲に感謝した。


「私は南の端の部屋で寝ているから、何かあったら起こして」

「はい。菖蒲さん、何から何までありがとうございます」


 そして、ごめんなさい——

 明日の朝早くに、私はここを出て行くつもりだ。今度こそ、人知れずこの世から姿を消すのだ。

 歯磨きをして用意された部屋に戻ると、既に布団が敷かれていた。


「いつの間に……!?」


 菖蒲は分身でもできるのだろうか。それとも、やはりこのお屋敷のどこかにお手伝いさんがいるのだろうか。

 まあいいや、私には関係ない。

 柔らかな布団を捲り上げ、私はその中に身を横たえた。

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