響奏都市計画A。
もうすぐ太陽が沈む冬の夕暮れどきに、
少女は街、〝響奏都市〟を一望できる一番高い崖で街を眺めていた。
つまらない毎日に終を告げることができる。
何年も前からの計画が完成するのだ。
小さい手で赤いボタンを握りしめて、ここに来た。
まっすぐに佇んで、あれこれ考えていた。
***
――――このセカイは私にとってずっと脅威でしかなかった。
教室の扉を開ければ生き地獄。
クラスメイト全員が敵。
私は捉えられた道化師だったのだ。
理由のない敵意だけが存在した。
給食には真っ黒い鉛筆の粉、
机中に書きなぐられた〝死ね〟の二文字。
水びたしになって帰る毎日。
――――もう、うんざりだ!!!
そう脳裏で呟き瞼を閉じる。
一息ついてから目を開ける。
眼下に広がる街の景色。
少女を苦しめ続けてきたセカイ。
ボタンを持つ手に汗がにじむ。
口元をニヤリと歪め、少女は叫んだ。
「全世界に告ぐ!
今日は記念すべき地球最後の日。
私を散々苦しめてきたセカイなど必要のないゴミに等しいのだ。
大いに喚け、泣き叫べ!!
私につまらない思いをさせたお前らが悪い!!
全世界に告ぐ…。」
ボタンを押した。
セカイが一瞬凍りつき、張り詰める。
少女は爆弾を投げた。
鳴り響く地響きに続いて燃えていく街。
テレビはこの〝実験〟の状況を放映した後映らなくなった。
ラジオはもう聞こえてこない。
世界はどん底へ落ちていった。
しかし、これが理想だった。
実験は完成し成功した。
少女は恍惚の表情を浮かべて
「素晴らしい。」と呟く。
満面の笑みで燃える街をじっくりと眺めていた。
半年の努力が実った瞬間だった。
***
半年前、少女の計画はセカイを包んで呑み込んでいった。
莫大な資産を投資した起業家でも、携わった科学者でも、
火の海の餌食になり消えていくのだろう。
悲痛な叫び声、足掻く人々。
最高の結果だった。
実験道具の処分はどうしてこんなにもあっけないのか。
少女は微笑み見つめていた...。
街の大部分が燃え尽き、悲鳴も聞こえなくなった。
遠くの方でまだ紅い輝きが見える。
辺りが静寂をまとった。
「……」
虚しさだけが残る崖で、少女は実験の末路を無言で眺めていた。
そのとき、後ろで声が聞こえた。
「先生、実験結果はいかがでしたか?」
「おお、お前か。なかなか良かったぞ。
叫び声はいつ聴いても最高だな。
学校に行ったら散々な目に合ったからな、
人類もだいぶ増えたしそろそろかとは考えていたのだ。
久々に落とした旧Y-S01は思ったより悪くなかった。
130年ぶりか…?ふふ、あの時は必死だったな。
とにかく、いつもどおり至福のひと時を過ごせたよ。」
「そうでしたか、それはよかった。
ふふ。にしても、毎回ひどい有様だなぁ…。
80年前のG-400よりはマシですがね。
自然が泣いていますよ。」
「いや、これでいいのだよ。
貴様、このセカイは私のおもちゃだぞ?
どう扱おうと私の勝手だ。」
「…そうですね。全てはあなたの思うままに。」
「よくわかってるではないか。」
「ふふ、どうも。
ああ、そうそう。
次の実験はどうします?
世界は今崩壊状態ですが…。
さて、いかがいたしましょう?」
「次は…そうだな、
この『狂歌都市崩壊計画』に7年かけたのだから、次はあっさりいこうかな。」
「と、申しますと?」
「ふっ、まだわからなくてよい。
とりあえず休暇をいただくよ。
毎日爆弾と地獄の行き来をしていたのだから、たまにはゆっくりしたいものだ。」
「分かりました。
では、帰りましょうか。ここは冷えますよ。」
「ああ、ありがとう。」
先に行く男を見てから、後ろを振り返る。
少女がボタンを押す前とは打って変わった景色だった。
街には、黒焦げの人影が大勢。
建物はほとんどが崩落し焼けていた。
「ふっ…。」
少女は男を追いかけた。
***
全ての始まりは気まぐれの延長線だった。
約300年前、適当に作った薬を飲んだら死ねない体になった
少女はセカイを呑み込んでやろうと企んだ。
セカイは少女のおもちゃに過ぎなかった。
遊びに遊んで飽きたら捨てる。
処分は自分で好きなときに行う。
少女は不老不死の退屈を紛らわすために
計画を繰り返しては実験していたのだ。
これが少女のためにある実験施設の在り方だった。
もし、この世界がある少女のための実験施設だとしたらと
想像して書きました。
4月8日,悠月香夏子。