第五章 カイの仕事
夏、カイから連絡が来た。
「仕事の話がある。一緒に動けるか」
「どんな仕事だ」
「丁稚奉公企業の内部構造の分析だ。ただし——依頼主がいる。依頼主は、話してから明かす」
「変わった形だな」
「変わってる。でも、お前が断る内容じゃないと思ってる。会って話す」
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週末、外縁区画の静かな店で会った。カイは先に来ていた。珍しく、少し緊張した顔をしていた。
「依頼主は誰だ」とレンは言った。
「アエクスの制度設計局です。ただし公式の依頼ではない。非公式の、個人としての協力要請という形です。リョウさんからです」
「リョウが、カイに依頼した」
「俺の得点監査の経験を、評価してくれてた。制度の内部構造を分析できる人間が、外部にいる方がいい、という判断だったと思う。そして——お前が関わってきた経緯も知っていたから、一緒に動けるか聞いてきた」
「内容は」
「丁稚奉公企業の成人査定データの分析です。成人査定は非公開が原則だが——開示に同意した個人から、自分の成人査定データを提供してもらって、統計分析をする。どの企業で、どんな評価がつきやすいか。右上の個体が、どう評価されているか」
「成人査定に同意した個人から、データを集める」
「既に何人か、協力者がいる。ツバサさんも、そのうちの一人だ」
レンは少し止まった。
「ツバサが」
「ツバサさんは、施設出身で、成人査定のデータを持っている。自分のデータが何かに使われるなら協力する、と言ってくれた」
「ツバサには、直接確認を取りたい」
「もちろんです」
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翌週、ツバサと三人で会った。
「成人査定のデータを提供してくれると聞いた」とレンは言った。
「します」とツバサは言った。「ただし——一つ確認させてください」
「どうぞ」
「このデータで、何が変わりますか」
レンはツバサの目を見た。以前も同じ質問をされた。答えは同じだ。
「わからない。ただし——右上の空白が、どの組織に集中しているかを示すことはできる。それを読んだ誰かが、何かを考えるかもしれない。それ以上のことは、俺には言えない」
「同じ答えだ」とツバサは言った。
「前回も同じことを言ったから」
「覚えてます。その答えが、信用できると思ってる」ツバサは少し間を置いた。「ただ——今回は、もう少し聞いていいですか」
「どうぞ」
「私の施設での成人査定は、低かった。義肢があることが、直接の減点ではない。でも——義肢がある個体が、どう評価されるかの傾向が、施設の基本格に組み込まれていた気がしてた。数字としての証拠は持っていなかった。今回のデータで、それが見えるようになるかもしれない」
「見えるようになるかもしれない」
「見えることで、傷つく部分もある。でも——見えないままでいることより、見えることを選ぶ」
「なぜ」
「見えないままだと、私だけが傷ついている気がする。見えるようになれば——同じ空白にいる人間が、他にもいることがわかる。一人じゃなくなる」
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その夜、ミコに話した。
「ツバサが、成人査定のデータを提供してくれることになった」
「聞いてた」とミコは言った。「ツバサから連絡が来た。相談に乗ってほしいって」
「ミコに相談したのか」
「したみたい。私とツバサは、研究機関で一緒にいるから。提供することに決めた後で、少し話した」
「何を話したか」
「傷つくかもしれないけど、見えることを選ぶ、という話。私も——そういう経験を、少し話した」
「ミコが?」
「研究グループから孤立しかけたとき。正しい解釈を発表するために、グループの方向と違う動きをしたとき。傷つく可能性があることを知りながら選ぶ、ということを、あのときやった」
「ツバサに、そのことを話したのか」
「話した。見えることを選ぶのが怖い気持ちは、障害があるかどうかに関係ない、と言いたかった」
「ミコ」
「なに」
「ありがとう」
「何に対して」
「ツバサと話してくれたことに。でも——それだけじゃなく、俺が言えなかったことを、言ってくれることに」
ミコは少しの間、黙った。
「それが——生活共同チームということかもしれない」
「そうかもしれない」




