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第二章 基本格のこと

 その夜、ソラに話した。


「ナナセと会った。右上の空白の話をした」


「聞いていました」


「組織のAIの問題かもしれない、という話だった。基本格について、ソラはどう理解してる」


「基本格は——構成員のAIアシスタントの情報共有によって形成される、組織の人格に相当するものです。ただし人格の全てではなく、計測できる評価軸において形成される。組織には国是や社是として三つの基本理念があり、基本格はその理念に沿って構成員を評価し、組織の方向性を補助します」


「組織の理念と、実際の行動の間の乖離がある場合、どうなる」


「それが——基本格の問題の一つです。基本理念は書き換えられない。でも——理念と実態の間に乖離が生じたとき、基本格はどちらに従うか。理念に従えば、実態を批判する方向に働く。実態に従えば、理念は名目だけになっていく」


「基本格が実態に引っ張られる」


「そうなる可能性があります。構成員の行動パターンが、基本格を形成するからです。構成員が理念から外れた行動を取り続けると、基本格はその行動パターンを『組織の標準』として学習していく」


「理念が形骸化する」


「はい。言葉の上では理念が残り、行動の上では別のものが動く。その乖離が、組織の基本格の中に積み重なっていく」


 レンはしばらく黙った。


「右上の空白——素体スコアが高い子どもを受け入れた企業が、その可能性を活かせていない。それは、企業の基本格の問題かもしれない」


「どんな問題が考えられますか」


「たとえば——高い素体スコアを持つ子どもは、組織の現状に疑問を持ちやすいかもしれない。問いを立てる力が高いから。その力が、組織にとって都合が悪い場合、組織は無意識にその力を抑制しようとするかもしれない」


「組織の基本格が、優秀な個人を抑圧する方向に働く」


「組織が意図しているわけじゃない。でも——積み重なった行動パターンが、そうなっていく」


「それを、v17で示せますか」


 レンは少し考えた。


「示せるかどうかは、データ次第だ。でも——まず確かめたい。右上の空白が、どの組織で多く発生しているか」

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