#10「おこなのお母様」
#10「おこなのお母様」
白い馬は疾風のごとく、森を抜け、草原を駆け、隣国国境の砦にたどり着きました。
「ここまでくれば安心です。」
白雪姫は心臓が飛び出そうな感覚がまだ収まりません。
はっと思い出します。ポケットにまだあのお菓子が残っていた筈です。
「姫にお茶…なければ水でも良い」
王子は、小間使に命じました。
白雪姫は水の入った木のカップを受け取ると菓子をかじり、水を口にします。
口の中に僅かに砂が入った違和感がありました。
「少し落ち着きましたか。あなたに私が聞いた本当のことを話さなければなりません。」
「嫌。聞きたくない。」
白雪姫は、王子の言葉が終わるか終わらない内に返事をしました。聞けば大事なものがなくなってしまう。そう思ったのです。
「分かりました。では今あなたが持っているお菓子の話をしましょう。」
王子はお菓子を作った人の話をしました。
王子の母親が亡くなったつぎの誕生日の日に、芦毛の馬を送ってくれた事。
芦毛の馬が先日、白い毛に変わり二人の乗ってきた白馬になったこと。
たまに、そのお菓子を王子にも送ってくれたこと。
王子はこの菓子を作ってくれた人を白雪姫は知っているといいます。
腰紐の老婆、髪結いの女。りんごの菓子を持ってきた女。同じ化粧の粉の香りがしたはずだと。
厳しいレッスンの後、部屋に戻ると決まってこの菓子が置かれていた。白雪姫はこのお菓子が大好きだった。この味が「おこなのお母様」の味だったのだと、今なら分かります。
「あっ」
口にしようとしたりんごの菓子が地面に落ちました。




