攻撃…始め!
ながと型総合戦略戦艦 6番艦えちごCIC
多数の機器が所狭しと並んでいるえちごCICにて、イサリビは謝罪した時に脱いだ帽子を被り直しつつ司令席に腰を下ろし、副司令からの報告を聞く。
「サカイ大尉が、敵Namedと交戦を開始しました!」
「分かった。味方機に彼の邪魔をするなと伝えろ。足を引っ張りかねん」
「はっ!」
一番の脅威であるNemesis隊の隊長機は、サカイ大尉が抑えている。
別の2機も艦隊に向かってくる様子はないため、今ならヒビヤ艦隊を収容することも可能だろう。
そう考えた結果、イサリビはまずある艦に指示を出す。
「えちごCICより、〈ひうち〉及び〈あさひ〉に達す。ヒビヤ艦隊収容のため、艦隊前方に進出し、《《艦隊防護シールド》》を展開、敵艦隊からの攻撃を防いでくれ」
『『了』』
イサリビの指示を受けた2隻の戦艦…〈あまぎ型防護巡洋戦艦〉の3番艦と8番艦である〈ひうち〉と〈あさひ〉は艦隊の最前列に移動、殆どの武装を廃した代わりに搭載された〈超大出力シールドジェネレーター〉を起動して艦隊前面全てをカバーする巨大なシールドを展開した。
2隻合わせたその総面積は1000k㎡を超え、Nelson級の主砲で貫くことは例え最高出力でも不可能だ。
《2隻のシールド展開を確認》
2隻がシールド展開したことを確認したイサリビは新たな指示を出した。
「よし、〈えちご〉CICより〈はずみ〉、損傷したヒビヤ艦隊の艦船を収容し、直ちに後方に下がれ」
『了!』
あまぎ型2隻に続いてイサリビの指示を受けた、ながと型以上の巨大艦船〈かしの型多目的戦術支援艦、9番艦はずみ〉は直ちに行動を開始、艦隊後方から前方へと進出してきて左舷側の艦船収容プラットフォームハッチを開放、ヒビヤ艦隊の受け入れ体制を整える。
『はずみCICよりヒビヤ艦隊、受け入れ準備が整った。出来るだけ急いでくれ、いつ攻撃が始まるか分からない』
『こちら〈かこ〉、受け入れに感謝する。だが、全ての艦を収容する必要はない。損傷の酷い駆逐艦2隻の収容を頼む、残りの艦は貴艦隊と行動を共にする』
『……了』
通信が終わるとヒビヤ艦隊は損傷の著しい駆逐艦2隻を分離、そのままイサリビ艦隊の陣形内に侵入する。
分離された2隻の〈しらつゆ型哨戒駆逐艦〉は、はずみより発艦した無人曳艇のサポートを受けつつ開放された収容口へと向かう。
《相対速度同調、接触まで18、17、16…》
機械音声が各艦に鳴り響く中、徐々にはずみと2隻の駆逐艦の距離は縮まっていく。
『総員、確保に伴う衝撃に備え』
3艦で殆んど同時に衝撃警告が出され、数秒後はずみが展開した巨大な保持アームが2隻の駆逐艦を確保する。
《保持アームの接続確認、プラットフォーム内部へ収容開始》
確保が確認されると、はずみの保持アームはゆっくりと2隻の駆逐艦を艦内へと引き込んでいく。
最終的に2隻の駆逐艦は、はずみの左舷側以外からでは見えなくなった。
《収容完了、開口部閉鎖します》
駆逐艦を飲み込んだはずみは開放していた巨大なハッチを閉鎖、180°回頭し迅速に艦隊前衛部から離脱を図る。
『はずみCICよりえちご。収容作業完了しました。これより後方へ下がります』
「了解した。副司令、はずみをワープで退避させることは可能か」
「……ダメですね、WDA(|Warp Disruption Area《ワープ妨害領域》)が指向されています。逃す気はないようですね」
「分かった…対抗してこちらも展開しろ、ここで連中を叩き潰す」
「はっ」
指示が出されて数秒後、不可視の力場がロイヤル艦隊に向かって照射され、付近の宙域はワープ行動が完全に不可能になる。
「それにしても、ヒビヤ艦隊を追っている時に使用されなかったのは幸いでしたね」
「そうだな、数隻の艦隊に対しWDAが消費するエネルギーのことを考えたら、空間航跡を追尾し続ける方が合理的だと判断したんだろう」
WDAは影響を及ぼす範囲においていかなるワープ行動が不可能になる。これは逃走だけでなく、ワープアウトもまた不可能になるということだ。
もしヒビヤ艦隊に対して使用されていたら、イサリビ艦隊はワープ空間から出ることができず、影響範囲外にてワープアウトすることになり救援は遅れていたことだろう。
だがそんなたらればの話をイサリビは頭の端に追いやり、これから始まる戦闘に備えるため、各部門の司令官に指示を出す。
「船務長、ヒビヤ艦隊航空隊とサカイ大尉の現在位置を確認しろ。もし我が艦隊の《《射線上》》に位置するなら離脱しろと指示を出せ」
「了」
「航空団司令は、攻撃隊の発艦をはじめさせろ。シールドを解除したら突撃艦隊の護衛をさせつつ敵艦隊に接近させるんだ」
「はっ」
「各戦闘群司令は、即応出来るよう体制を整えろ。私の指示で初撃を行った後、艦隊指示以外では状況に応じて動け、では行動開始!」
「「「「「了!」」」」
『攻撃隊、発艦せよ』
『機関第2戦速、艦首下げ20度。同時に面舵40』
『主砲、敵Nelson級5番に標準合わせ、エネルギー充填開始』
『ミサイル発射管1番から200番ASM-4発射準備』
各戦闘群司令の指示により、艦隊各艦は慌ただしく行動を始める。
ある艦はHFを宙に上げ、ある艦は主砲にエネルギーを充填し、ある艦はミサイルの最終安全装置を解除する。
えちごも例に漏れず、自身の持つ火器を順次オンラインにし攻撃体制を整えた。
それらの様子を確認しながらイサリビが手汗の滲む拳を握り締めているところに、船務長と副司令が報告を行う。
「司令、艦隊隷下の航空機及びヒビヤ艦隊航空隊の位置把握完了、射線上に味方機は存在しません」
「全艦の戦闘準備完了、いつでも始められます。また、ひうち及びあさひのシールド解除も即座に…」
「…分かった」
弾は込めた。安全装置も問題無し。あとは引き金を引くだけだ…
「ふぅぅぅ…よし…全艦、攻撃用意」
イサリビの言葉を副司令他、数人が復唱する…そしてイサリビは、その指示を告げた───
「攻撃…始め!」
…彼の指示を受けて最初に動いたのは、あまぎ型の2隻だった。
彼女らはイサリビの指示を受けとった瞬間、シールドジェネレーターをクイックシャットダウンし、自身の背後から溢れ出るエネルギーの奔流を妨げないようにする。
その数瞬後、彼女らの周囲を眩い光が覆った。
総数72隻の航宙艦から放たれた粒子砲、電磁加速砲、ミサイルは、速度や破壊力こそバラバラだが、ただ一つ、敵を破壊するという共通点だけを持って敵艦隊へと猛進する。
「粒子砲弾着まで、8、7、6、5、4、弾着、今!」
刹那、ロイヤル艦隊の姿が閃光に覆い隠される。ロイヤル艦が展開した個艦防衛シールドと粒子が反発しあい莫大な光を放ったためだ。
続いて、光学センサーがエラーを起こすほどの閃光の中に速度が遅い電磁加速砲弾やミサイルが次々と飛び込んでいく。
そして徐々に光が収まっていき…ロイヤル艦隊の姿が顕になる。
「ダメか…中々硬いな」
放った攻撃は確かにロイヤル艦隊を捉えた。しかし、攻撃が着弾する直前にNelson級が前進して多くの攻撃を受け止めたのだ。
結果として、今の一斉射で仕留めた艦船はNelson級戦艦1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦3隻、フリゲート5隻に留まった。
「敵攻撃、来ます!」
「ひうちとあさひは、シールド冷却中です!」
一撃で仕留められなければ、反撃が来る。無論想定済みだが…どれほどの被害が出るか。
「第2、第3戦艦隊は全速前進!僚艦を守れ!」
戦闘はまだ、始まったばかりである─────




