えちごの被弾と甚大な被害
『こちら〈きさらぎ〉。左舷に被弾、戦闘続行不能!』
『第4駆逐隊戦力低下…壊滅状態です!』
『なら第7駆逐隊を前進させろ!陣形に穴を開けるな!』
『第4次攻撃隊発艦開始!攻撃継続!』
『攻撃隊の発艦を確認した。主砲撃ち方止め、ミサイル攻撃に切り替えろ!』
ロイヤル航宙軍艦隊とイサリビ艦隊の間で戦闘の火蓋が切られて早10分、双方共に被害は拡大しているが、2隻のあまぎ型に守られているイサリビ艦隊が数的有利になりつつある。
それでも状況は芳しくないことに変わりはないが…
「司令、当方の損害が15隻を超えました。救援も限界が近いです」
「分かった、損害が20隻を超えたら一度あちらに通信を入れよう」
そうは言ったものの、イサリビはロイヤル艦隊がそう簡単に撤退を受け入れるとは思っていなかった。
確かに大きな損害を与えてはいる、しかし彼我の戦力差はまだそこまで開いておらず、向こうがどれだけ〈天雷〉の奪取に固執しているかにもよるが、そうそう逃しはしないだろうとも。
(なにより、敵Named部隊の2番機と3番機の所在が《《不明》》な今、あまり迂闊なことは…っ!?)
だが、イサリビの思考はそこで途切れる。
艦全体を震わす爆発が、えちごの右舷後方で起こったからだ。
「被害報告!!隔壁閉鎖も急げ!!ダメージコントロールは!?」
即座にえちご艦長の指示が飛び、CICは途端に騒がしくなる。
「右舷後方に被弾!現在被害確認中!応急処理班はすでに向かっています!」
「砲術科より、後部4番砲及びミサイル発射管311番から426番までがオフラインと報告が!」
「主機関室より緊急連絡!第2副機関室に火災発生!推力低下とのこと!!」
大混乱の中、レーダー員の叫び声がさらに最悪な事態を告げる。
「緊急!!敵Named機を艦隊陣形内部に確認!損傷艦多数!被害甚大!!」
「なんだと!?!?」
イサリビがメインディスプレイに目を向けると、立体複横陣を敷いていた艦隊の右上から左下に向かって、各所で瞬く爆発の光が映し出されていた。
「なぜ今まで気づかなかった!!」
「分かりません!!」
敵Namedが艦隊内部に侵入した…迎撃しきれなかったミサイルが陣形内部に飛び込むのとは訳が違う。
最悪、艦隊丸ごと戦闘不能になる事もあり得るのだ。
それが分かっているからこそ軍人達は動揺し、半ばパニックになってしまっている。
だがこんな状況でも動けるのは、彼らの訓練の賜物だろう。
「一回落ち着け、冷静にならないと出来ることも出来なくなるぞ」
彼らの動揺を鎮めるためイサリビが声を上げると、CICは途端に静かになった。
「まずは機関室の消化作業を最優先だ、反応炉に誘爆して旗艦が沈んだらますます勝ちの目は遠くなるぞ」
「はっ」
「次に防空科は敵Namedに対して第1、第2巡洋艦隊が軸となって対処、迎撃機も4部隊程度上げろ、数だけ多くてもNamedは墜とせん」
「了解しました」
「それから、通信士。〈かこ〉に通信を繋げ」
イサリビがそう言うと、メインディスプレイに〈かこ〉のCICが映し出された。
『どうされましたか、イサリビ司令』
「…我々の立場で言えることではないのですが……貴官等の手を借りたい」
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「…それは本当か?」
『あぁ、イサリビ艦隊はNamed2機の襲撃を受けて20隻以上が戦闘不能とのことだ』
「なんてこった…」
敵Namedから辛くも逃れやっとの思いで母艦に帰った俺達は、〈かこ〉の格納庫で再整備を受けている最中、その知らせを聞いた。
『艦隊通信も混乱しているし、組織的な攻撃は不可能だろう。あまぎ型の2隻が頑張ってはいるが、いつまで持つか分からん』
「それでNamed相手に生き延びた俺達の力を借りたいってことか…敵隊長機は白虎殿が抑えてるんだよな?」
『あぁ、以前決着は着きそうにないが、こっちに来ることはないと思っていい』
「そうか…分かった、どっちみちイサリビ艦隊がやられたら元も子もないしな。俺は行こう、だが部下達が…『こちらツルギ2、俺達なら…大丈夫です』…ハハッ、だろうな」
『…ふっ、やはりお前達は変わらないな。分かった、俺も出来る限りのサポートをする。お互いに最善を尽くすぞ』
「おう!」
通信を交わすと俺達は再整備を中断、再び発進口へと向かう。
「こちらツルギ1、発艦許可願う」
『発艦を許可する…行ってこい!』
そして発進口から飛び出した俺の視界に最初に映ったのは、辛うじて隊列を維持しつつ敵に攻撃を続けるイサリビ艦隊の姿だった。既に満身創痍な艦も中には含まれていて、俺達が格納庫にいる間、どれほど激しい戦いがあったのかを物語っている。
一つ気になったのは、艦隊陣形を斜めに貫くよう被害が集中している部分があることだ。
(あれがNamedの仕業だな…)
恐らく〈えちご〉に攻撃した後、自分たちの逃走進路に位置する艦を片端から攻撃して行ったのだろう。
(問題はどうやって艦隊内部まで侵入したか…)
戦場で考え込むという俺の悪い癖が出ているところに、俺の次に発艦したツルギ2が通信を繋げてきた。
『隊長、仮設ウイングスラスターの状態はどうですか?』
「良くも悪くもって感じだな。反応速度は遅くないが元からある右側と若干加速に差がある」
『そうですか、無理はしないでくださいね」
「分かってる」
少々心配し過ぎではなかろうか、まぁそれだけ慕われているってことでもあるんだが
『発艦した各機、聞こえるか。こちらソウルキーパー。これより臨時に部隊編成を行う。あくまで仮だが、部隊名は〈オオタチ〉だ、割り当てはこちらで行った。確認し、復唱せよ』
『ツルギ7了解、オオタチ3として配置に着く』
『ツルギ9了解しました、オオタチ4として配置に着きます』
『ハクバ1了解、ソウヤの下に付くのは癪だけど、仕方ないね。今はオオタチ6として戦うよ』
『ツルギ2、了解。オオタチ2として配置に着きます』
「…こちらツルギ1、了解した。オオタチ隊隊長の任を引き受ける」
残る3人も復唱を終えると、俺達は敵機が居ると思われる方向に向かって加速していった…
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『こちらNemesis3、敵Shiden部隊を捕捉。釣り出しに成功した』
「了解、直ぐにそちらに向かう」
そう通信を返しつつ俺、Nemesis2こと〈アラン〉は自身に切り掛かってきた敵機をビームソードで両断すると、スラスターを全開、Nemesis3のいる場所へ移動する。
『機数は8機、高速で接近中。内Shidenは5機の模様。残りはTenzanだ』
「後方支援機を先に落とすか」
『いや、後方支援機3機の火力などたかが知れてる。必要はない。それより、〈草薙剣〉をどう落とすかに重きを置いたほうが良い』
〈草薙剣〉…大和連邦と敵対する国家のほとんどがマークする精鋭Shiden部隊に付けられたコードネームだ。
1機1機の実力はNamedと比べて高くないが、連携を取られた上での集団殲滅力は各国Namedを超えるとすら言われている。
大和連邦はあくまで彼らを通常部隊として扱っているため、〈草薙剣〉は名無しのNamed部隊とも揶揄され、大和連邦の〈白虎〉や〈朱雀〉等に準ずる、或いは匹敵する存在として恐れられているのだ。
だが連中も無敵ではない。現に草薙剣を構成していた機体のほとんどは制圧弾頭の爆発で撃墜され、さらにバートランド隊長にも落とされている。たった5機と言う機数の今なら、俺達が全滅させることも容易だろう。
「どうする?こちらから攻撃するか?」
『いや、まずは向こうの出方を伺おう』
「了解した」
さぁ来い、お前達が本当に俺達に匹敵するかどうか見極めてやる…!




