有効期間1時間
それはある日の午後、一本の電話から始まった。
「おめでとうございます!!」
電話越しなのにも関わらず、耳がキーンとする。
『何のことですか?』
懸賞に応募なんてしてないし、宝くじにかける金があるなら食い物を買う。
だから俺には何のことかさっぱり分からなかった。
「貴方当選したんですよ!!といっても応募したのは未来の貴方ですけどね。」
余計に意味が分からなかった。
未来の自分?何を血迷ったことを言ってるんだ。コイツは。
今日は仕事が休みで自堕落に過ごそうとごろごろしてたんだ。
そういや自己紹介がまだだったか。
俺は梅村彼方どこにでもいる平々凡々な18歳の男だ。
職業は会社員。血液型は…ってどうでもいいか。
『ほんとに何のことだが分からないんだけど。』
「だから、未来の貴方に今から1時間だけ会えるんです!」
今聞いたよ、ソレ。会える?未来の自分と?
会ってどうしろっていうんだ。
「というわけで、いってらしゃいませ♪」
ガチャン
と一方的に電話は切れた。
新手の詐欺か?まぁいいか、どうでも。
受話器を置いてベッドでごろごろしようと思った。
一歩踏み出す。
ーその時だったー
世界が反転する。ぐにゃりと視界が歪む。色がなくなっていく。
俺が次に見たのは。
見覚えのある家だった。それはそうだ。
だって俺3月までここに暮らしてたんだし。
そう俺が今いるのは実家だった。
でもおかしいんだ。
俺は確かに家を出て、一人暮らしをしていた。
それに間違いはない。
「来たか。」
声がした。
「よう!過去の自分。ん?高卒ぐらいの頃か?」
なぜ分かる!てかお前は何歳なんだ!
内心ツッコミをいれる自分に呆れた。とりあえず現状把握をしようか。
『ここはどこで、貴方は誰?元居た場所に帰る方法は?』
「そう怒んなって。ここは空想世界みたいなもんだ。俺は、お前だ。12年後のな。帰るにはとりあえず1時間待て。」
きっちり質問に返答した未来の自分。
ん?待てよ、12年後?ってことは30歳か…。
目の前にいるやっぱりどこにでもいそうな、おっさんだった。
「どうだ?落ち着いたか??ま、突然こんなところに呼んじゃって悪かったな。」
「「問題ないだろ。どうせ休みなんだし。」」
ん?今、もう一人分声が聞こえたような…。
「「気のせいじゃないぞー。現実逃避するなよ。」」
『人の心読むなよ!てか、お前は誰だよ?』
「「俺は5年後だ。」」
{俺は15年後だ。}
声がまた増えた。
『ちょっと待って。一体何人居るんだ!!』
「ん?12年後の俺だろ、あとは3年後、5年後、8年後、15年後、20年後だから、6人のおれがいるな(笑)」
いや、(笑)じゃないから!!
『で?今の俺に何のようなんだよ。』
「後悔するなってことを言いにだな。」
「「ま、言っても無駄だけどなー。」」
{また、お前は!!}
だから何がしたいんだ、お前らは。
「単刀直入いうぞ。」
『早く言えよ。』
{まぁそう焦るな。}
「近いうちに千佳から別れ話がある。別れたくなかった戻ってからメールしとけ。」
『なんで、分かるんだよ!!そんなこと。』
「「なんでって、実際そうだったから?」」
「お前は社会人、千佳は大学生。時間が合わない、しかも俺からは連絡なんて滅多にしない。」
『ソレが何だっていうんだよ!!』
{理由になるんだよ。大学は誘惑が随分多いらしい。}
「「それが嫌ならマメに連絡とれよー!!」」
何なんだ。ソレ。千佳と俺が別れる?
んなわけ…。ないって言い切れないか。
『今頑張れば、未来ってのは変わるのか??』
思わず聞いた。
{さぁな。俺らは後悔した未来のお前だから、分からない。}
『んだよ、ソレ。』
でも、前向きにいけばなんとかなるかな。
「お、1時間たったな。これでお別れだ。後悔しない選択をしろよ。」
『おう。じゃあ。』
「「くじけるなよー。」」
{また、お前はそういうことを言って…。}
また視界が歪んでゆく。
この世界の色がなくなって、俺が居るべき場所の世界に色がついていく。
自分が集まるって変な気分だった。
でもきっと俺はこういう人間になっていくんだろうと素直に思った。
明日からまた頑張ろう。
…………。
ジリリリリン!!
『ん?朝か?』
って今のは夢か?
妙にリアルな夢だったなぁ。
目覚ましを止める。
ん?遠くから電話の受信音がするような。
「ー」
ども。朔架です。
久しぶりに小説を書きました。
学生の頃は、お題ばかり考えていたせいか、
今回、中々書きあがらなかったです。
それでも少しでも面白いと感じていただければ幸いです。
さて、作中にある最後の電話は誰からか?
この1点に関しては、
皆様の想像にお任せいたします。
実際私の中にも3通り存在するので。
感想で教えていただけると舞い上がります(笑)
では、また別の作品でお会いしましょう。