第一章【始まりと旅立ちの島】第40話 リオとラオルとマジュマジュ
この世界にはポーションと言う便利な薬がある。お薬と言っても、体力を回復するものや、ケガを治すもの、毒や麻痺などを中和するのもなどがある。
それらはあくまで予備的な品で、基本的には魔法でそれを回復させる事の方が多い。だから魔力、魔力総量と言うのは非常に重要な事なのだ。
ポーションは初心者の冒険者では必要な場合が多いが、B級A級となるとほとんど必要なくなる。それは、自前の魔力で回復させることが可能なだけの魔力量が備わっているからだ。ポーションは、街の薬局に普通に売られている。街の人が何かあった時の為の物だ。製造するには時間がかかる。スライムと言うぶよぶよした魔獣の体液をガラス瓶に入れて、回復魔法を与える事で作られる。毒も麻痺も同じ方法だ。しかし、材料の確保より魔力の消費が多く、大量に生産する事は難しいのだ。ポーションを作っている人はと言うと、支援系魔導士や、魔法剣士など、冒険者を引退した者が行う場合が多い、なので売られているポーションの数も意外と少ない。
リオとラオルがポーションについて意見を交わしていた。
ラオル:「魔力回復のポーションがあればほぼ無敵だと思わない?」
リオ:「そうだな。もしかすれば龍族だって倒せるかもしれないね。」
ラオル:「作れないのかな~。魔力ポーション」
リオ:「以前読んだ古文書には、それらしいことも書いてあったんだよ」
ラオル:「え、古文書に?」
リオ:「冒険者ギルドのと図書館と教会の図書室、
すべての書籍を読んだんだけど、
3か所にだけそれが書いてあったんだ。」
ラオル:「じゃぁ、あるんだね。魔力ポーション」
リオ:「古代時代にはあったようだけど、今は作れない。
と言うのが常識だそうだ」
ラオル:「そうなんだ、じゃ無理なんだね。」
リオ:「以前に作ろうと試みたんだよ。ほら、
森にあるマジュマジュの木、あの木だけ魔力が多いだろ」
ラオル:「うん」
リオ:「ラオルの杖を作る時、マジュマジュの木の枝を
少しもらったんだ。その時に古文書に書いてあった
樹液が取れないかと試してみたんだけど、無理だった。
2か月かかって豆つぶ3個分程度、それを口にしたんだけど、
人間が食べれるものではなかったんだよ。
それに魔力もほとんど回復しないんだ。それがこれだよ。」
リオはマジックバックからそれを取り出し、ラオルに見せた。
ラオル:「枝だったからかな?木の実ならもう少し樹液が取れるかも」
リオは「はっ」とした。この世界に長くいると、だんだんと考えが単純になってしまうのだろうか。そうだ、樹液が最も集まる場所、木の実、そうかもしれない。
リオとラオルは北の森に入り、マジュマジュの木を探した。季節は6月、マジュマジュの花が咲くのは3月、木の実が採取できる可能性が高い。北の森のマジュマジュの木の実をあるだけ回収して、リオとラオルは自宅の台所で、作業を始めた。
マジュマジュの木の実を割り、果肉を取り出し。石の皿と石の棒でそれを砕き、ペースト状になるまで練る。
ラオル:「これでどうだろう」
ラオルは少し口にした・・・。
ラオル:「これはダメだよ、渋いし臭いし、魔力はほとんど回復しない」
リオは少し考えていた。そういえば・・・・。
佐々木:”前世の営業マン時代に医薬品メーカーの研究者と
打ち合わせした時、アルコール抽出とかなんとか言ってたな。
必要な成分をアルコールに溶かし込んで、不純物を除去、
アルコールを乾燥させれば。必要な成分だけが残る・・と。」
リオ:「ちょっと待っていて。」
リオは貯蔵室からお酒を拝借してきた。これはディオの飲み物である。
ペースト状の少し茶色に変色したマジュマジュの木の実にお酒を少し垂らしてみた。
茶色から少し紫いろに変色。それを少し大きめのガラス瓶に移しお酒を半分のところまで入れてみた。マジュマジュのペーストは水面に浮きあがり、紫色の何かが少しずつ瓶の下へ流れ始めた。リオとラオルは急いで他の木の実もペースト状にし、次々と入れていった。
木の棒でゆっくりをかき回し、少し時間を置いた。
ラオル:「あまり臭くないね」
リオ:「お酒のおかげかも」
1時間ほど経過した。液体は3層に分離した。丁寧に上部を取り出した。
ラオル:「不純物だねこれ。」
瓶の底に沈殿した白い粒粒、これも取り出してみたが、苦みの結晶だった。 薄紫の液体を取り出し、においをかいでみる。これは・・・・お酒だ。
ラオルは少し口にした。
ラオル:「苦み、臭みは無いね。魔力はほとんど回復しないよ。」
リオ:「だめか、失敗だな」
ラオル:「ちょっと待って、この液体に魔力を流してみる。」
変化しなかった。
リオ:「あ、そうだ、防具屋のおじいさんが言っていなかった?
魔法石に魔力を流すとき、黒水晶をなんとかって。」
ラオル:「いや覚えていない・・・。」
リオは自室に戻り、部屋に飾ってあった黒水晶を持ってきた。長さは15cmくらい、太さは4cmほどあった。ラオルは黒水晶を半分だけ液体に漬け、魔力をゆっくり流し込んだ。
リオ:「色が変わり始めた・・・。水晶の周りに変な泡が・・・。」
薄い紫いろの液体は少しずつ濃くなり、透けて見えないほどになった。
リオ:「ラオル、魔力をどのくらい入れた?」
ラオル:「だいたい半分かな、ちょっと試してみよう」
リオとラオルは少しだけそれを口にした。
ラオル:「お!少しだけ魔力が回復するよ。」
リオ:「苦みも臭みも無いね。お酒だね」
リオ:「この瓶の中にラオルの魔力が半分入っているって事?」
ラオル:「そういう事になるね。」
リオ:「でもこの量を全部飲んで半分か・・・。
ちょっと量が多いな、それに酔っぱらってしまいそうだ」
ラオル:「だね」
リオはその液体をゆっくり温め、風をおくり、アルコールを蒸発させることにした。
液体の体積が約半分になり、ドロッとした状態になった。それを小瓶に分けた。
リオ:「3本だね」
ラオル:「この量なら飲める。でも1本だと全体の
15%程度しか回復しないよ。」
リオ:「それでも十分だよ。完全枯渇を防止できるのと、
いざと言う時にこれがあれば魔法が使える。
もう少し純度を上げていけば、
効果は大きく出来るかもしれない。」
アシス:「リオ、なにしているの?」
そう言いながら、部屋に入ってきた。
アシス:「リオ、何しているの」
リオ:「魔力回復のポーションを試作しているんだ。」
アシス:「魔力回復のポーションは存在しないわ」
リオ:「かあさん、これ飲んでみて」
アシス「いやよ、そんま何かわからないもの」
ラオル「・・・・。」
3本の小瓶を収納バックに入れて保管し、ラオルは帰宅した。
夕刻になり、父ディオが帰宅、晩酌用の酒が無くなっているのに気が付き、肩を落とした。
ディオ:「お前が飲んだのか?まだ早いだろ~」
リオ:「父さん、魔力、どのくらい?」
ディオ:「今日は新人冒険者の訓練で疲れたよ、半分くらいかな?」
リオ:「これ、飲んでみて」
リオは小瓶に入った怪しい液体をディオに渡した。
ディオ:「何だよこれ、酒か?」
リオ:「いいから、僕も一度飲んだから大丈夫」
ディオはいやいやそれを口にした。
ディオ:「え?」
アシス:「ディオ大丈夫?それリオが作った魔力回復の・・」
ディオ:「マジか、少しだが魔力が回復している。
どうやって作ったんだ?」
リオは古文書や文献の事を説明し、マジュマジュの木の実、アルコール抽出、黒水晶、魔力注入などの工程も詳しく話した。
ディオ:「これは・・・。初心者向けのアイテムとして重要だ。
これがあれば、魔獣に殺されるリスクを軽減できる。
が・・・・。
ディオ:「リオ、これを作るのは禁止だ」
リオ:「なぜ?みんな喜ぶと思うんだけど」
ディオ:「この魔力回復薬があれば、
強いモンスターにだって勝てるよな」
リオ:「うん、だから」
ディオ:「だからダメなんだ。ラオルにも絶対に他言しないように
伝えてくれ。もしこの事が知れたら、
お前らだけじゃない、多くの人が狙われる。わかったな」
ディオはいつになく厳しく言い聞かせた。ディオがなぜ禁止だと言ったのかは、その後すぐにその危険性が理解できた。皇歴になる以前の話、4つの大陸はそれぞれの王が支配し覇権を争っていた。ドラニス大陸を統治していたドラニス王がそれを制覇し皇帝となった。その事により、各大陸に血縁である者を王として派遣し皇歴元年とした。それから1829年、概ね平和な時代が続いてはいるが、皇帝の座を狙う者も少なくはなかった。リンデ島の王は皇帝継承順位第5位でとしてリンデ島をまかされている。継承順位第6位に位置する人物が、その座を狙う事もある。その為の皇帝直属魔法騎士団でもある。この魔力回復薬の製造を独占した王もしくはそれに属する者たちが皇帝の座を狙うのはごく当たり前のことだからだ。この製法や製造に加担した人物は命を狙われてもおかしくはない。




