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20話(マティアス視点)

途中少しだけラクア視点あり

 リイナが目覚めなくなってから数時間後には、クロードとラクアが中心となり、リイナを助けるために動き出していた。

 ベッドの縁に座り、横たわったままのリイナの髪の毛を撫でる。

 撫でていて気持ちのいい、柔らかな髪の毛だ。

 ラクアはこちらの様子をチラリと見たものの、静止することなく話を進めている。


「まずは呪いについてね。リック報告を」

「はい。サウラン国では、150年前に姫と騎士が行方不明になった事件がありました」


 装飾品店の店主の説明に似ているのは、探してみてもそれしか無かったようだ。


「サラサ様に協力を仰ぎ、姫や騎士の当時の状況などを調べてもらった結果、遂になる指輪と思わしき指輪は、騎士が自宅に置いていった旨が騎士団の報告に上がっていたそうです」


 短時間で当時の活動履歴を調べられるのは、サウラン国に嫁いだサラサの尽力があってこそ。


「サラサ様からマティアスに伝言。貴方の心を射止めた人を絶対に助けてねだそうだ」

「……ああ」


 リイナのあどけない寝顔を見ながら声を出すと、思ったよりも掠れていた。

 リイナがこのままいなくなると思うと、怖い。

 ただ、迷わないと決めたのだと、リイナの指先に触れる。


「リックはそのままサラサ様と情報収集ね。クロードは王族しか見れない文献を調べてくれるのよね?」

「うん。それと同時進行で、王宮内で起きている噂話の収拾をするよ。ルイス良いね?」

「はい」


 迷いのない返答だ。ルイスも覚悟を決めているのだろう。

 彼が悪いわけではない。全ては、噂話を放置した自分の脇の甘さのせいだ。


「ルイスは他の魔術師と協力して、呪いを解明をしてほしいの」


 ルイス曰く、リイナが指輪を持った瞬間に魔術が発動したのを確認したらしい。

 ラクアはルイスの話を聞いて、以前小説の題材になった指輪にまつわる話を思い出したそうだ。

 装飾品店の店主は呪いと言っていたが、魔術となれば解呪できるはずだと睨んでいる。

 そのためにも、遂になる指輪を探しに、サウラン国の騎士の生家を調べたい。

 その許可も、先ほどのサラサの手紙で降りている。


 姫と結ばれるはずだった騎士。姫を想い、離れた騎士。

 傍にもいれず、助けられもせずに後悔をした騎士。

 騎士の気持ちが分かる。初めは呪いなんて分からなかっただろう。

 なら呪い──本当は魔術だというのも分かっている自分は、過去の騎士の後悔を教訓とさせてもらう。

 リイナの手を一度握りしめ、立ち上がった。


「指輪の捜索は私に行かせてください」

「分かったわ。1人だと大変だと思うから、体力があるマークを連れて行って」

「了解っす」

「私はリイナの様子を見つつ、全体の補助。それと、念の為図書館に行って、こちらにも文献がないかを確認するわね」


 リイナの先輩であるマリーとアルベルトにも協力を要請しているらしく、ラクアの抜かりのなさに感嘆してしまう。

 クロードもラクアを全面的に信じているようで、自分もいつか、リイナに信じてもらえるように心と言葉を尽くしたい。



 ***



 リックはサラサの元へ。マティアスとマークが生家へ向かっている最中、ラクアは図書館で調べ物を開始した。


「ラクア様。頼まれた資料お持ちしました」

「ありがとうマリー、アルベルト」

「いえ。あの、リイナは大丈夫なんでしょうか?」

「きっとね」


 確証はないが、皆信じるしかない。持ってきてもらった資料をペラペラとめくり、該当のページをじっくりと読んだ。


「やっぱり……」

「その書物は?」

「王太子妃候補の勉強として、様々な歴史を学ぶのよ」


 アルベルトの問いに答えながら、150年前の出来事に思いを馳せる。あの時は、ノイス国にいた人の悲しい歴史だと思っていた。

 でも、その歴史に関係した人の一部は、今も想いだけを現代に残し続け、苦しめられている。


「これは1番最初に人材交換された人の話よ」


 まだ人材派遣が人材交換と名付けられていた頃。

 カンナビアが正式に参加する前の話だけど、人材交換には賛成の立場だったそうだ。

 サウラン国には農業のノウハウを持った男性が行ったものの、王は姫にかかりっきりで、有益な情報が伝えられないまま終了してしまった。


 それを男性の手腕のせいにされたそうで、噂に振り回された結果、2度と人材交換には関わらないと憤慨していたようだった。

 ノイス国に行った騎士は、結婚相手を置いて姫と行方不明。結婚相手の女性は悪い噂話を流され続け、幼馴染とひっそりと引っ越したそうだ。


「ラクア」

「クロード。調べ終わったの?」

「ああ。個人情報で興味深い記述があった」


 ある程度の個人情報は自分達で調べられるが、資産などの深い情報は一部の貴族と王族が管理している。

 今回は事が事だけに、父親に許可をもらい持ってきたようだった。タイトルには、騎士団員一覧と書いてある。


「150年前に、エルター家の子どもの名前が除名され、その代わり、別の人の名が記載された」

「養子ってことかしら……あっ、もしかして!」

「そう。この騎士こそ、サウラン国の騎士だよ」


 騎士が流れ着いたのはカンナビア。何があったのかは知らないが、王に忠誠を誓い、騎士となった。

 廃嫡した男の子どもを養子として引き取り、立派な騎士家系へと築き上げ続けた。

 エルター家にそんな過去があったなんて。

 ただ、騎士家系だということくらいしか知らなかった。

 深く知れば知るほど、どんな人にも歴史があると思い知らされる。


「僕たちは、紡いでくれた歴史を無駄にしないように生きよう」


 そのための一歩がリイナを救うことだ。そうすることで、姫と騎士が報われると信じる。

 クロードとラクアは互いに頷き合って、情報を精査していった。



 ***



 カンナビアから旅立ち、夜通し移動し続けたお陰で、予定より早めにサウラン国についた。

 リックはこのままサラサの元に行くようだ。

 挨拶をするべきかと思ったが、今は騎士の生家に急ぎたかった。

 マークと共に、城からほど近い場所にある家に向かう。

 騎士がいなくなった後も家系は続き、今は騎士とは全く違う職業ばかりらしい。

 通された庭にいた当主と簡単な挨拶を交わし、騎士が持っていた指輪について尋ねてみた。


「我が家にある指輪はこのくらいで……」

「失礼します」


 いきなり訪ねたにも関わらず、快く調べさせてもらっているが、これといった手がかりがない。


「昔は、先祖のことを悪く言う人が多かったそうで、装飾品類はタダ同然で引き取られていったそうです」

「1ヶ月以内に見つかるっすかね……」


 マークの言葉に、嫌な予感ばかりが浮かび押し黙る。もし、間に合わなかったら、自分の命を差し出すだけだ。

 でも、願うなら、リイナと共にいたい。


「そういえば、亡くなった曾祖父が、カンナビアの行商人一家に渡したって言っていたような……」

「それは……」


 あの装飾品店の店主が、リイナ達の前で、カンナビアで唯一、曾祖母の代から続いていると言っていたそうだ。

 リイナが触れた指輪は、店主が存在自体は認知していたのに、今まで視認できていなかったそうだ。

 なのに、導かれるようにリイナの手に渡った瞬間に、存在を認知できた。

 なら、150年経った今も、遂になる指輪もまだ人の手に渡っていない可能性がある。

 生家に無い以上、装飾品店を中心にしらみつぶしに探すしかない。


「マーク。戻るぞ」

「はいっす」

「わざわざ見せていただき、ありがとうございます」


 騎士の挨拶をすると、当主が目に涙を浮かべながら頷いた。


「どうか、先祖の魂を救ってください……」


 姫の呪いが生きている以上、騎士の魂は眠れていない。

 そう、当主も確信しているのだろう。

 当主と別れを告げ、ニックの元に向かおうとしたものの、さっき別れた道には既にニックが立っている。

 しかも何やら興奮した様子だ。


「サラサ様から追加情報!当時の王も気がつかなかったけど、姫様は魔術の才能があったみたいだ!」

「分かった。ニック、資料が風で飛ばされるぞ」

「ニックさんとマティアス様。あっちに休憩所がありましたよ」


 道端で資料を見せてくるニックを落ち着かせ、近くにある休憩所に座る。

 家族連れやカップルがいる中で、男3人でいるのは些か居心地が悪いが、今は言っている場合ではない。


「姫様が亡くなった後に死因を調べた魔術師が、姫様の指輪に魔術がかかっていたことに気がついたらしい」


 資料を読もうとしたものの、他国の、しかも昔の文書を読むのには時間がかかる。

 ニックが分かりやすく解説してくれるのを見て、教職が天職なんだなと考えながら、話に耳を傾けた。


「姫様は誰もが気がつかなかったほど、微弱の魔力を持っていた」


 魔力を持った人は魔術師となるのが一般的だけど、稀に微弱の魔力を持った人がいる。

 日常生活に不便はないし、気が付かないで一生を過ごす人の方が多い。

 だが、姫にも魔力があることは確かで、騎士の幸せを祈りながらも、負の感情を魔力として指輪に蓄え続けてしまった。

 それが今回、姫とリイナの気持ちが同調した結果、溜め込んでいた魔力を放出し、指輪に触れたリイナが呪われたということだ。


「どんな魔術かはルイスが調べてくれているはずだ。……サラサ様は引き続き、情報を探ってくれるみたいだけど、正直もうここで調べられることはないと思う」

「そうだな。指輪の捜索もしたい。一度戻ろう」

「了解っす」


 マークが荷物をまとめている間、ニックが資料を眺めながらポツリと呟いた。


「リイナは大丈夫だよな?」


 幼馴染で妹のような存在の命が消えかかっている。

 何でもない風に振る舞っていたが、ニックだってリイナを失いたくないに決まっている。


「必ず助ける」

「お前だって……」

「俺はベッティさんに伝えたいことがあるんだ。だから、俺も死なない」


 2人とも助かる保証はないが、悪あがきくらいしたい。

 キッパリと言い放つと、ニックが顔をくしゃっとさせて笑った。


「お前が死んだらリイナが悲しむからな」

「ああ」


 泣かせたくない。泣くなら、抱きしめられるよう、自分の前で。

 リックと拳を合わせていると、準備を終えたマークもやってきて、3人で拳を合わせた。



 ***



 カンナビアに戻って早々、謁見室でクロードの報告を受け、自分が知らなかったエルター家の歴史を知り、目を丸くさせた。


「随分と大胆な王だったのですね」

「あは、王族に語り継がれている話では、晩年も破天荒だったらしいよ」


 人材交換の名称を変え、平民のためにと動くだけでなく、市場が活気付くように尽力し、時には騎士と戦果を競い合う。

 今、王族と皆が気軽に話せているのは、王と騎士の関係があったからだろう。

 そして、エルター家が身分関係なく結婚できるのも、騎士のお陰だ。

 姫と結ばれなかった騎士が、エルター家の人間を思った確かな愛情に、グッと言葉が詰まる。


「ルイスの方はどう?」


 クロードの後ろに控えていたルイスは、神妙な面持ちで資料を配っている。


「指輪にかかっている魔術は……多幸を祈る術が変異して、呪言となっています」


 姫は魔力に気がつかないまま相手の幸せを祈っていたが、徐々に増えていく負の心により、いつしか呪言となり、負を吸い込んだ幸福を願う指輪が呪われていった。

 それにより姫自身が呪われて死んでしまった。


「解呪できるのか?」

「理論的には可能ですが……お姫様の願いを叶えるのが、唯一の解呪方法なんですよ」

「願い?」


 150年前の姫の願いなんて今更分からない。つまり、解呪方法が分からないのと同じだ。

 手詰まり感が否めない中、ノックもせずに扉を思い切り開き、ラクアとマークとリックが飛び込んできた。

 一足先に指輪の捜索に行っていた2人だが、何か成果があったと見て取れた。


「マティアス!朗報よ!」

「マティアス様!指輪!指輪っす!」


 興奮したように話されても要領が得られず、一緒に入ってきたリックを見る。

 今にも泣き出しそうだが、嬉しそうな表情だ。


「店主が思い出したんだけど、騎士が持っていた指輪の宝石、虹色だったって……」


 虹色の宝石がついている指輪。あの店には、1つしかなかった。

 言葉を失いながらも自分の懐から指輪を取り出すと、綺麗な虹色の宝石がついた指輪があった。


「これが……騎士が持っていた、指輪……?」

「恐らく、そうだ」

「装飾品店の店主が、ベッティさんと同じように、今まで存在を認知できていなかったって言ってたっす」


 だからあの時、いつ仕入れたか分からないと言っていたのか。

 この指輪は、いつも姫の傍にあり続けた。姫の指輪がリイナに選ばれた時に、また共にあろうとした。

 騎士の深い愛情に、心臓が痛いほど苦しくなる。

 そんな騎士が指輪を託してくれたのだと、強く握りしめる。

 解呪方法は分からない。だが、指輪が揃っているなら、何か手がかりがあるはずだ。


「ベッティさんのところに行ってくる」


 逸る気持ちを抑えながらも走り出す。どうか、リイナの呪いが解ける方法が分かりますように。そう願いながら、リイナの元へ急いだ。







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